2022/04/16 00:26

こんにちは!桜が咲いたと思ったら夏みたいに暑い日が続いて驚きましたね。古座川も朝晩こそ冷えますが、昼は汗ばむ陽気でついついアイスを買って食べてしまいました。

さて今回のトピックは前回の続きの春の花②と、実験計画のうち「仮説を立てるところ」までです!どうぞお読み下さい!

1.クロモジ

まず一つ目はクロモジ。

クロモジは僕の好きな香りの木トップ5に入る木です。最近は、スーパーでクロモジののど飴が売られ始めて知名度も高まってきているようですね。その香りの高さから、高級爪楊枝としても利用されていたので、ご存知の方も多いかもしれません。さらに遡って江戸時代になると、ヤナギと共に歯ブラシに利用される種でもあったようです。ちなみに、名前の由来は木肌にできる黒い斑点が、文字のように見えるので黒文字とのこと。

さて、そんなクロモジの花が上の写真です。香りと似たように品のある可愛らしい花を付けますね。薄っすら緑がかった黄色い小さな花でした。香りは材の方が圧倒的でした。

2.イロハモミジ

続いてモミジの代表格、イロハモミジです。モミジと言えば紅葉を楽しむ種なので、秋のイメージばかり思い描いてしまいますが、しっかり花を咲かせます。赤い小さな花が群がって咲いている様子が上の写真です。葉っぱはまだ展葉しきっていないので、あまりモミジらしさがわかりませんね。

イロハモミジの由来は、葉っぱの切れ込みを「イロハニホヘト」と数えたことだそうです。けど、そんなこと言ったら全部のモミジがイロハモミジになってしまうような…。

それはさておき、「モミジ」の方の由来は何なのでしょうか。少し調べてみた所、草木が赤や黄色に変化していく様子を示す動詞「もみつ」の名詞形という説が多いようです。

イロハモミジの属するカエデ属の「楓」は「カエルの手」に似ているから「カエルノテ」が訛ったという説があるようです。個人的には楓の由来の方がすきですね。

3.ハウチワカエデ

カエデ属つながりということで、お次はハウチワカエデです。こちらも花は似たような感じですね。暗色系の赤といったところでしょうか。

ハウチワカエデはイロハモミジより一回り大きい葉っぱで、なおかつ切れ込みが多いのが特徴です。写真の背景にイロハモミジも写っているので、比較しやすいかと思います。

名前の由来にもなっているように、天狗の持っている羽団扇がこのハウチワカエデの形にそっくりです。因みに、天狗の団扇は天狗なら誰でも持てるわけではなくて、力を持っている強い天狗しか持つことが許されないそうです。材料は天狗の羽で出来ていて、奇数枚になっているとのこと。

そういえば、ウコギ科のヤツデの別名もテングノハウチワです。ヤツデの方がサイズ的にも”それっぽさ”があります。

4.モチノキ

モチノキは知らないという方も多いかもしれませんが、実は日本三大庭木の一つで特に関東以南では欠かせない木の一つです(因みに他の二つはモッコクとモクセイ)。樹皮からトリモチの原料が取れていたことが名前の由来です。

トリモチは漢字で鳥黐と書くので、モチノキを漢字で書くと「餅の木」ではなく「黐の木」になります。見慣れない漢字ですね。現在では狩猟にトリモチを使うことが禁止されているので、庭木が主流な用途になっています。モチモチの木との関連は不明ですが、イラストのサイズ的に恐らく別種です。

また、モチノキ科に多い特徴として、材が白く美しいことが挙げられます。ソヨゴもモチノキ科の一種ですが、木目が薄っすらとしていて澄んだ白をしています。皇族が儀式で使う笏はこのソヨゴで出来ています。

そんなモチノキですが、花は結構可愛らしいです。ただ、クチクラ層の発達した分厚い葉っぱの影に隠れているので、あまり目立ちません。5月ぐらいまではひっそり咲いているそうなので、是非探してやってください!

5.イスノキ

モチノキが出たので次はイスノキ。こちらも椅子の木かと思いきや、柞の木と書くらしく、この柞を九州の方言で「ユス」と呼んでいたのが訛ったという説があるそうです。面白いのは「ヒョンノキ」という別名をもっていることです。

このヒュンというのは何なのかというと、イスノキによくできる虫こぶを使った遊びが由来だそうです。イスノキは枝に写真のような虫こぶがよく出来ます。この構造物は、ダニがこの中で生活するために樹木の形を変えたことで出来るものです。大きくなると片手では持てないぐらいのものも出てきます。この虫こぶは、中が空洞になっているので、適当に穴を開けて息を吹き込むと笛のように音がなります。それが「ヒョン」と聞こえるそうです。

このイスノキは日本で最も硬い木の一つです。武田製材さん曰く、ウバメガシ、イスノキ、モクマオウが製材した中では一番堅かったとか。確かに、持ったときの重量感は他の樹種とは比べ物になりませんでした。その強度から、武術の木刀に利用されることもあります。

6.メギ

メギは目薬にしていたことから「目木」となったドストレートな由来です。ややこしいのは、メグスリノキという別の種類の木があること。メグスリノキはムクロジ科カエデ属でメギはメギ科メギ属です。メグスリノキも本当に目薬として利用されていた木なので、困りものです。この理論でいくと、パルプ材に利用されている広葉樹は全部カミノキになりますね。

ただし、メギにしかない特徴もちゃんとあります。メギは木材界屈指の黄色を誇る種です。武田製材さんお墨付きなので、間違いなく黄色い種と言えると思います。

また、メギは別名「コトリトマラズ」と言い、枝に棘が多いことでも知られています。結構尖ったやつなんですね。その割に、花は大人しく咲かせていました。



実験計画①仮説まで

さてさて、今年度取り組む実験の大筋が決まってきたので、今日は仮説のところまでご紹介したいと思います。

取り組んでいる実験が明らかにしようとしている大きなテーマは、「なんで森に沢山の木が共存出来ているのか?」です。そんなの当たり前と思われるかもしれませんが、考えてみたら結構不思議な現象が起きています。

まず、ある樹木が荒野に1本だけ立っていることを想定します。その状態で母樹からタネが散布されれば、その周りは同種の子ども達がすくすく育っていきます。結果、単一種によって構成される森が広がると予想できますね。

では近くに別の種がいた場合はどうでしょうか。ここで重要になるのが、生存能力の差です。ある一定の環境下で、生存能力に差のある樹木がいた場合を想定します。初めのうちは、それぞれの種が、種子を散布して徐々に子ども達を遠くへ遠くへ拡散させていくと予想できます。しかし、長い時間が経過すると、段々と分布範囲に重なりが生じて競争が起こるようになります。


競争が起こってしまうと、種間で生存能力に差があれば、競争に優位な種だけが生き残り、最終的には最も強い種だけが優占するはずです。しかし、実際の天然林の多くは、実に多様な種があふれています。なぜなのでしょう?

そこで、単一種が優占する過程を抑制する謎の因子Xを想定します。生態学では、このXが何かということが議論になってきました。そんな折、JanzenさんとConnellさんが、ほぼ同時期(それぞれ1970, 1971)に、この因子Xは"特異的な天敵”の存在なのでは?と提唱しました。一体どういうことでしょうか?

ある樹種Aの母樹の周りでは、確かに種子がよく散布されA種が勢力を広めていきます。しかし、そのA種を大好きな天敵がいたとしたら、どうなるでしょうか?

A種がいっぱい生えているところには、天敵Aも集まってきますよね。もしくは、ご飯が一杯あるところでA種が増殖するかもしれません。そうなると、母樹の周りでA種が沢山生えている環境というのは、A種にとって生きにくい環境になってしまいます。


図にすると上のようになります。母樹から離れるに連れて散布される種子の数(赤線)は減少します。しかし、母樹の周りには天敵が集まるので、生存率(青線)は母樹から離れるほど高くなります。この二つの要素をまとめて考えると、実生の定着率は母樹からやや離れたところで最大になり、母樹の周りには”空白地帯”が生まれます。

一方この空白地帯では、天敵を異にする別種であれば定着することが可能です。つまり母樹の周りで、天敵により定着できない空間が生まれ、そこに別種が入りこんでくることで、結果として多様な樹種が共存できているという説です。

この仮説は提唱者のJanzenさんとConnellさんの名前から、Janzen-Connell仮説と呼ばれています。以降、この仮説をJ-C仮説。また、天敵によって母樹の周りに及ぼされる負の効果をJ-C効果と呼ぶことにします。

仮説①天敵の複合的影響

さて、このJ-C仮説について、これまで様々な研究者が検証を行ってきました。そこで議論になることの一つが、「”特異的な天敵”とは何なのか?」という点。例えば、昆虫を食べる鳥、カエルを食べるヘビのように、ある種にはそれが大好きな天敵がいます。では、J-C効果を引き起こす天敵は一体全体何なのだろう…というのが一つ目の問いです。

この点についても、下記のようにこれまで様々な研究が行われてきました。この中でも土壌菌類は、J-C効果を引き起こしている可能性を支持する結果が多く出ています。しかし、時として全く逆の効果が出たり、影響がニュートラルだったりと、一貫した結果が出ないことも事実です。

 

そこで、一つの天敵だけでなく複数の天敵の影響を総合的に評価してみることを考えます。草本植物で行われた先行研究では、地上部の昆虫による食害の有無が、地下部での土壌菌類と植物との関係に影響を及ぼしていることが示されていました。具体的には、食害がある場合は地下部の関係が互いに負の影響。食害が無い場合は互いに正の関係を示すことがあるといいます(Heizen et al. 2020)。

このことから、天敵の複合的な影響を考慮することで、J-C効果が初めて認められる場合があると考えられます。そこで私は一つ目の仮説として、「天敵の複合的影響がJ-C効果を生み出している」を設定しました。


仮説②J-C効果のスケール

続いて仮説の2つ目です(ただし、こちらの仮説は詰めきれていないので、変更になる可能性があります)。

注目するのは、J-C効果のスケールです。ここまで見てきたJ-C仮説を検証してきた実験は、すべて「実生と近傍の親木が同種か否か」という点について種レベルで注目していました。

しかし、近年の研究(下図参照)で、同種でなくとも生態的特性が似ていれば、J-C効果が生じることが明らかになってきました。生態的特性とは、天敵に対する防衛策や1年間の成長スケジュール(展葉など)のことです。特に地上部の昆虫食害への対抗策の類似性は、天敵の共有度に関係するためJ-C効果と関わりが深いようです(Forrister et al. 2019)。

ここで、次のようなことを考えてみます。まず、ある広葉樹Aの母樹が照葉樹天然林と針葉樹人工林の丁度中間に立っていると想定します。地形的な偏りが無ければ、この母樹の種子はどの方向にも、等しい確率で散布されるはずです。では、これらの種子に働くJ-C効果は、天然林でも人工林でも同じ強さになるでしょうか?

天然林内に広葉樹Aと同じ樹種が多く分布する場合、天然林内は天敵がうようよいるため、J-C効果における負の領域ばかりになっているとも考えられます。その場合、異種で構成される人工林側の方が天敵が少なく生き残りやすい環境であることは想像しやすいと思います。

 

では、天然林内に広葉樹Aがほとんどいない場合ではどうでしょうか?先行研究をもとにして考えれば、例え異種であっても、生態的に似ている広葉樹が多く分布する天然林の方が、天敵が集まりやすいと考えられます。その結果、広葉樹Aの実生は天然林側で成長や生存の成績が悪化することが予想されます。そして、その効果は個体レベルのJ-C効果だけでは説明がいきません。つまり、広葉樹Aの実生に働いているJ-C効果には、ある1個体に働いているJ-C効果と、林相スケールで働いているJ-C効果の二つがあると考えられます。

そこで、私の研究では、この林相スケールのJ-C効果が生じていることを検証していきたいと考えています。そのためには下のようなグラフが必要になるので、次回からは、その内容についてご紹介していきます。どうぞお楽しみに!