2022/09/30 20:22

こんにちは。台風が通過してから一気に秋が深まった感じがしますね。冬になったら札幌へ戻って修論の執筆に専念し始めるので、和歌山にいるのもあとちょっとになりました。ようやく地域のことが分かってきたばかりなので、名残惜しいことこの上ありません。なお、活動報告については12月末まで月2回更新致します。その後は、論文完成後に最後の投稿をしたいと考えています。引き続きよろしくお願い致します。

さてさて、台風14号が近づいてきた際には、平井も強い風が吹いていました。

その影響で、研究林まで続く道にも倒木が。台風明けは、道路に倒れてきた木を切り刻んでどかす作業から始まります。都市部とは比べ物にならないくらい、沢山の枝葉も落ちてくるので、アスファルトが見えないくらいのところもちらほら。

林内では結構大きな木も倒れていました。こちらは、80年ぐらい前まで苗畑だった場所。その後遷移が進み、今ではアカマツが成長して巨木になっています。しかし、今回の台風でそのアカマツのうち、幹が腐朽していたものが倒れたようです。遷移初期種の最期といったところでしょうか。遷移が進んでいることを実感できる光景は、そう多くはないのでちょっと感動しました。

僕の調査プロット内でも、3m級のユズリハが一本折れていました。調査を開始した2019年以来、間伐作業の他でこの大きさの木が倒れたのは初めてです。3年も調査を続けていると、森が少しずつ、しかし着実に変化していることを実感しますね。

雨も物凄い音を立てながら降っていたので、川の水量もいつもの倍以上ありました。調査をしている尾根まで、ゴーっという音が響いてきます。

山の毎木調査

そんな台風の合間をぬって、いよいよ最後の毎木調査が始まりました。もう日が落ちるのが早くなってきたので、朝一で山に登って調査を進めています。こんな急斜面で約1万個体の毎木調査をやるのも人生で最後でしょう(最後であって欲しい)。

はじめは、この斜面をスイスイ降りていく職員さんを、同じ人間とは思えなかった私ですが、今ではどんな斜面も登り降りできる気がします!!

土壌操作実験 結果

土壌操作実験の結果が一部整ってきたので、速報としてご紹介したいと思います。なお、今回の結果は暫定的なもので、今後の解析方法の変更や修正によって大きく変わる可能性があります。また、他者の目を通っていない状況ですので、誤りを含む可能性もあります。ご了承ください。

実験の概要についてちょっと長めに説明しますので、結果をご覧になりたい方はスクロールしてください!

行っていたのは、「樹木の多様性がどのように維持されているか?」という問いに関する実験です。この問いに関する大きな仮説であるJanzen-Connnell仮説を軸として、研究を展開します。

何度も同じ図を用いてしまって申し訳ないですが、J-C仮説は上の図のように、ある母樹と、その周囲に分布する実生を想定します。実生の密度が高い母樹付近は、その種が大好きな天敵が集まってくるので、同種が育ちにくい環境になります(黒丸)。そこへ他種が入ることで、全体の多様性が維持されていると考えられます。

今回私は、ここでいう「天敵」が土壌菌類であると考えました。国内で行われた実生の枯死因を調査した研究(Seiwa et al. 2008)で、土壌菌類に由来する枯死率が高かったことや、実際に土壌菌類が実生の生存率に及ぼす影響を調べた研究(Packer & Clay 2000, Augspurger & Kelly 1984)で、効果が確かめられていることが根拠です。

この土壌菌類が媒介する母樹と実生の関係性は、植物-土壌フィードバック(PSF)と呼ばれています。このPSFのコンテキストの中で、そのスケールを広げてみようとしたのが、今回僕が行った研究です。これまでのPSFは、ある一つの種の母樹とその実生に注目されていました。

しかし、L.Maronら( 2013)によると、母樹がいない場合でも、ジェネラリストによってPSFがマイナスに働く可能性が示唆されています。L.Maronらの研究は、大陸間における外来種の原生地と移入先でのPSFを見比べたものです。

僕は、この原生地と移入地の関係性を、広葉樹にとっての天然林、人工林へ平行移動して考えてみました。広葉樹にとって母樹が集まる天然林は、原生地のようなもの。種子が散布されて広がった先の人工林は、移入地のようなものです。ここでL. Maronらの指摘するようなジェネラリストによる効果があれば、種レベルでのPSFとは別に、林相スケールでのPSFがあることを指摘できると考えられます。

実験方法

実験方法も簡単におさらいします。下の図のように、天然林、人工林、その境にある孤立したサクラ母樹の3カ所で、土壌を採取します。

これらの3種類の土壌の各半分を電子レンジでチンして殺菌します。ここまでで6種類の処理ができましたね。次に、これらの土壌にヤマザクラとアカガシの実生を植えていきます。なお、アカガシの役割は、ヤマザクラで示された応答が、種特異的な物なのか広葉樹に広く言えるものなのかを見ることです。


植え終わったら、さらに6種類の処理の半分で、葉っぱに穴を開けていきます。この処理には二つ役割があります。一つは土壌菌類が実生の分布に及ぼす相対的な影響力を見ること。もう一つは、昆虫の食害によるPSFの変化を見ることです。

一つ目の理由について詳しく説明します。実生の分布を規定する要因は、今回注目している土壌菌類の影響のほかにも、沢山考えられます。例えば、鹿の食害や土壌栄養分、日照条件や斜面方位、標高などです。その中でも、密度依存性が高く土壌菌類と同じようにJ-C仮説の天敵の候補となっているのが、昆虫です。この昆虫の食害と土壌菌類、どちらの方が影響力が大きいのか調べることが、1つ目の理由です。

二つ目の理由は、地上部の食害が地下部の植物と土壌菌類の関係に影響を及ぼすことがあるためです。Heinezeら(2000)によると、食害があるときと無いときで、異なるPSFの方向性を示す植物種があることが指摘されています。このような事象があった際に観察できるようにしておくため、食害を模した穴を葉っぱにあけました。

以上のような処理を終え、温室で10週間栽培しました。そして9月上旬に、それらの収穫をし、成長量を測定しました。その解析と結果が今回になります。

成長量とフィードバックの計算方法

成長量(G)=実験後の計測値/実験前の計測値
フィードバック(
FB)=ln(未殺菌土壌でのG/殺菌土壌でのG)

※ランダムに並べた実生を処理ごとに背の順(実験前計測値)で番号(
1~20)をつけ、同じ番号の実生をペアとして1つのFB値を算出した。それを20ペアで行い、各処理20個ずつのFBデータセットを算出した。FBの方向(正負)については、殺菌済土壌と未殺菌土壌における成長量の差を、実験開始前の樹高をランダム要因として分散分析を行った。成長量には現時点で葉面積と樹高を用いている。今後、バイオマスを入れる予定。

この計算によって、土壌菌類の効果が樹木にとって正の効果(成長や生存を促進する)を示す場合、つまり未殺菌土壌の方が成長量が殺菌土壌より大きい場合、フィードバックは正の値を示すことになります。一方、土壌菌類の効果が負の場合、すなわち未殺菌土壌の成長量が、殺菌土壌より小さい場合、logの( )内が1より小さくなるので、マイナスの値をとることになります。なお、この算出方法はHeinze et al. 2000を参考にしています。

※葉面積については、ヤマザクラ・アカガシを各100枚ずつ用いて、葉っぱの軸の長さと葉面積の関係式を求め、その式を用いて算出した値を解析に利用している。葉面積はImageJを用いて求めた。模擬食害の部分は穴が埋まっているものとして面積を算出した。

予想

ここで僕の仮説、つまり種よりも広い林相スケールのJ-C効果がない場合と、ある場合で、どのような結果になるか予想を立てておきます(簡単にするため食害はいったん無視します)。まず、林相スケールのJ-C効果が無い場合は、母樹から離れるにしたがって、どの方向にも等しく効果が波及するはずです。そのため、①母樹で最もPSFが負の方向へ強く働き、②人工林と天然林では母樹付近よりも負の効果が緩和され、かつ同程度の効果が生じていると考えられます。それを示したのが、下の図の左側のグラフです。

一方で、林相スケールのJ-C効果がある場合、人工林と天然林の間にもフィードバックの強さに差が生じることが予想されます。ヤマザクラやアカガシは天然林を母集団とする種なので、僕の仮説が正しければ、天然林は人工林よりもフィードバックが負の方向に働いていることが予想されます。従来の研究で天然林内でも母樹の負の効果が確認できているため、母樹と林相の効果の強さは、 母樹の方が強いと予想できます。そのため、林相スケールのJ-C効果がある場合は、母樹付近で最もフィードバックが負に働き、続いて天然林、さらに人工林と言う順で、負の効果が緩和されると予想できます。それが、右のグラフです。

ここから結果!

予想を立てたところで、いよいよ結果です。

まずヤマザクラの葉面積で成長量を求めたときの結果です。縦軸が葉面積の成長量で求めた、植物土壌フィードバック(FB)の数値です。その場所の土壌菌類が、実生の成長を助けているのであれば、0より上に、成長を阻害しているならば0より下に、箱ひげ図がくるようになっています。

林相スケールのJ-C効果については、支持するような結果となりました。それは、母樹から等しい距離だけ離れているのにも拘らず、人工林側の方が負の効果が抑制されていることから分かります。

次に、模擬食害の効果ですが、今回の実験では食害の有無により変化は見られませんでした。つまり、地上部のストレスは地下部における土壌菌類と植物との影響に、それほど大きな影響を与えていないことを示唆しています。また、地上部の食害よりも、土壌菌類の効果の方が強いことも示唆しています。

また、興味深いのは、母樹の効果と天然林の効果が同程度であることです。従来の研究では、天然林でも母樹から離れるほど、負の効果が抑制されることが示されていました。しかし、今回の結果からは、ヤマザクラの母樹の効果が見受けられません。解釈に困るところではありますが、もしかすると、地域によっては母樹よりも林相の効果が強い場所があるのではないかと、今は考えています。

続いて、樹高を使って求めたFB値を、縦軸にとった場合の結果です。多くの結果は、葉面積を縦軸にした場合と同じ結果となりました。

続いて、アカガシです。まずは葉っぱの面積を用いた場合の結果です。なお、ここで示されている「母樹下」はヤマザクラの母樹下のことで、人工林と天然林の境界を指しています。ヤマザクラで生じた結果が、アカガシでも観察できれば、ヤマザクラ以外の広葉樹も天然林の負の影響を受けている可能性を指摘できます。

しかし、アカガシでは人工林・母樹下・天然林のフィードバックの強さの間に、有意差は見られませんでした。それどころか、FBの方向性が有意か否か見てみると、人工林や境界では有意に負の効果が生じているのに対し、天然林では土壌菌類の効果が中立的になっていました。

さらに、樹高を元に算出した成長量を用いると、今度は明らかにヤマザクラと真逆の応答を示していることが分かりました。つまり、人工林の土壌菌類の方が、天然林の土壌菌類よりも、実生の成長に対して負の影響を及ぼしていることが読み取れます。

次回へのまとめ

ヤマザクラの結果から、林相スケールで植物-土壌フィードバックが生じていることは示唆されました。しかし、アカガシの結果を踏まえると、その効果は植物種によって異なる可能性があります。この違いがなぜ生じたのか、次回考察していきたいと思います。

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森林経営管理制度の速報

さてさて、間伐実験の方にも関係がある森林経営管理制度の取組状況 令和3年度速報が、林野庁から出たので見てみたいと思います。

個人的に気になるのは、①所有者への意向調査のうち、どれくらいの人が委託を望んでいるのか、という点と、②所有者不明の森林の取り扱い事例。です。この2点について注目してみていくことにしましょう。

①山林所有者への意向調査

令和元年度に制度が始まって以降、所有者への意向調査が済んだのは、面積ベースで5割とのことです。もっと時間がかかるのかなぁと思っていたので、意外に進んでいて驚きました。回答のうち、市町村への委託を望むとする回答は、面積ベースで4割ほどとのことです。逆に所有者自らが管理を希望する、と回答したのは3割ほどとなっていました(残りの3割はその他)。

個人的には、市町村への委託を希望する人がもっと多いものかと思っていました。というのも、山村を歩く中で出会う山林所有者は、口をそろえて「お荷物状態だ」と仰るのを聞いていたからです。結局のところ、データを取っていたわけではないので、しっかりと所有者の意向を確認すれば、このような結果になるのかもしれません。

もしくは、早い段階で回答するような山林所有者は、森林に対する意識が高かったり、大面積を所有していたりする人が多く、その結果、所有者自らが管理を希望する、と回答した割合が多いのかもしれません。その場合は、残り半分の意向調査で、市町村への委託を希望する割合が高くなることも考えられます。

ちなみに、市町村へ管理を委託された森林のうち、林業経営に適さない森林の一部で、広葉樹を誘導した混交林化が計画されています。

②所有者不明森林への対応

所有権の保護が厳しい日本において、所有者不明の土地といえども、行政が手を出すことは難しい状況が続いていました。森林経営管理制度では、そのような森林に対し、所有者の探索や公告などの一定の手続きを経れば、市町村に経営管理権を設定できる特例措置が認められています。

速報によりますと、特例措置の前段階である、所有者の探索に乗り出したのが50市町村。特例措置を実行したのが、鳥取県若桜町の1つのみだそうです。まだ、制度が始まって3年しかたっておらす、手続きの時間を考えると早いのか遅いのか判断しかねますが、1つでも特例措置の実行例があると、後が続きやすいかもしれませんね。鳥取県若桜町の事例は、山地災害リスクの高い場所だったようで、行政も速やかな対応を目指したのかもしれません。

森林環境譲与税の未消化

お次は、森林環境譲与税についてです。ご存知の通り、パリ協定の温室効果ガス削減目標達成、災害防止や森林の多面的機能のための森林整備に必要な地方財源の確保を目的として創設された税です。確保された財源は、森林面積と人口を考慮して全自治体に配分されることになっています。この配分について、問題視する記事が新聞に載っていました。

森林財源を持て余す都市部 国が一律基準で配分、全額未消化も 脱炭素へ有効活用課題 日本経済新聞9月6日

配分を計算する際、人口が配分比率の30%を占めており、金額を大きく左右する形になっています。そのため、整備費を必要としているような地方の自治体に十分にお金が回らない一方で、都市部の自治体では未消化で貯金されているケースがあるそうです。

例えば、東京都の檜原村は人工林が村の面積の5割を占めていますが、2021年度の譲与税は2541万円でした。一方で人工林の無い23区の平均は3444万円でバランスがよくありません。林野庁と総務省が2021年22月にまとめた調査結果では、2019~2020年度に自治体に配分された500億円のうち、54%が未執行のまま積み立てられたとされています。当初の予定では、都市部でも木製品の需要喚起などへの利用が見込まれていましたが、上手く使われていないようです。

そんななか、有効に利用しようとする動きもあります。千葉県浦安市では、2021年度に1361万円の譲与税がありました。しかし、市内に整備の必要な森林はありません。そのため、森林整備を必要とする山武市の整備費を500万円肩代わりすることにしました。カーボンオフセットなどにも活用する予定だそうです。

2024年からは、東日本大震災の復興に充てている財源を付け替え、住民税に上乗せされる1000円分が、森林環境税となります。国民が直接負担する形になるため、これまで以上に利用先を見極めていく必要があると記事は指摘します。人口要因を5%まで落とした方が妥当だとする意見もある一方で、都市部の住民の理解を得るためには、人口比を下げすぎないことも重要です。脱炭素という大きな目的のために有効な財源の配分が求められています。

個人的には、現状のままの配分方法で良いように思います。都市部が持てあますのは環境に関する知識がある人材の不足が原因であり、人材さえ揃えれば、むしろ同じ金額で2回分の森林・木材産業貢献が可能になると考えます。どういうことかというと、まず、都市部の市町村にお金が回り、それが環境教育や木材利用促進という形で使われると、そのお金は地方へ動きます。地方へ行ったお金は、地方の木材関連産業の収入を増やし、森林整備費も増えることが期待できます。それだけではなく、環境教育での訪問や木材調達における定期的な関係性が出来れば、森林環境税以外の部分でお金が回り始める可能性もあります。最初から地方ばかりに財源を配分していると、このような関係性は希薄になるかもしれません。お金だけでなく、人も都市部に集中する社会においては、人の動きも考慮したお金の使い方が望ましいと僕は思いました。是非、皆さまの意見もお聞かせ下さい!

それではまた次回、お会いしましょう!