2019/01/24 07:56

こんにちは。井上有紀です。

2014年に新潟市内野町のツルハシブックスを訪れ、翌2015年4月から1年間、「店員サムライ」と呼ばれるスタッフをしていました。もともと東京出身で大学も東京でしたが、それがきっかけとなって新潟県で就職し、現在は、地域と若者のプロジェクトをコーディネートしたりシェアハウスで暮らしたりしています。

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「本が好き」という人はそれなりにいると思う。活字離れやネットの普及で本を読まなくなったとは言われるけれど、紙の本はまだまだ身近なところや生活の中に意外とある。

ただ、本とひとくくりに言っても本当にたくさんのジャンルやタイプがある。小説、詩集、専門書、絵本、漫画…だから、個人の所有する本棚も、本がセレクトされている本屋も、本当に十人十色だ。

ツルハシブックスは、コミュニケーション本屋だった。初来店者から常連さん、小学生からお年寄りまでさまざまな人が来て、雑談やイベント参加や寄付など、本を買うだけでないコミュニケーションをして帰っていく。ここで店員サムライをやるようになって、私はたくさんの人と「おすすめの本」を起点にいろいろな話をするようになった。

皆がおススメしてくる本の中には知っている本もあったけれど、多くが新しく知るものだったり、読んだことがないものだった。読んだことがあっても、おすすめする人やタイミングによって、その本への見方が変わったりまた読んでみようと思ったりした。

好きな人たちがおすすめする本は不思議と、大型書店で様々なジャンルの本を歩いて見ている時よりもずっと、「読んでみよう」と思えたし、「あの本はあの人が好きそうだ」「この本屋の人の選び方は好きだな」などと思うと、一人での本屋めぐりもずっと楽しくなった。

視点が変わっている本や好きな本、その本の話を共有する仲間が増えてくると、「届けたくなる本」が生まれてくるときがある。つい先日も、リトルプレスではあるがある本に感銘を受け、読んでほしい人が何人も頭に浮かんだので思わず問い合わせて数冊仕入れてしまった本があった。読んだ後、結婚するしないに関わらず、女性が年を重ねることが楽しみになるような、そんな本だった。

仕入れたその本は、私のSNSで呼びかけて販売した。近くに売っている店もあるけど、私から買いたい、とメッセージをくれる方もいた。読んでから感想を送ってくれる方もいた。

口から直接言葉で伝えられる以上のことが、本に乗って届いたような気がして、とても嬉しかった。

私は本の専門家でもなんでもない。ツルハシブックスの店員も、半分成りゆきでなったものだった。けれど、私は本を誰かに届けることができたし、届ける楽しさや幸福度を知った。

専門家じゃなくても、「好きな本を薦める人」にはなれるのだと思った。
「かえるライブラリー」はそんな体験を増やしていく仕組みなんじゃないかと思う。

2016年11月に、内野駅前のツルハシブックスは閉店した。

けれども結果的にツルハシブックスから生まれた「本屋」はむしろ増えた。ツルハシブックスで働いていた店員サムライたちが「一人本屋さん」をやりはじめたのである。

「本屋」といっても実店舗はなくイベント販売だったり間借り販売だったりとその数は少量だけれど、本屋同士だからといって競争することもない。選ぶ人や時期が違えば、本棚のラインナップも変わってくる。その個性や色の違いや変化が魅力で、醍醐味で、本に関わり続ける理由だ。

「経営」という意味での本屋のプロはいるかもしれないけれど、「本を選んで届ける」ことは誰しもができ得ることなんじゃないかと思う。それこそ大学生でも、高校生でも。

「場」を小さく作ってみること、その時生まれたコミュニケーションと景色を知ることは、実はそれだけで少し自信になる。そのツールとしても「本」はぴったりだと思う。

「個人」を大切にしながら自分たちの暮らしをつくる、これからの地域での生き方を、「かえるライブラリー」がちょっとだけ支えてくれるかもしれない。

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2年前に引っ越してきて仲間や先輩に支えられながら暮らしてきた長岡でも、小さく「かえるライブラリー」を始めようかなと思っています。 つづく。