2020/01/30 09:50

THE NORTH FACEアスリートの中嶋徹と申します。


 国土の約70%を山岳地帯が占める日本は、登山、フリークライミング、そしてスポーツクライミングの先進国として世界に認められた存在にあります。日本人登山家達が初登頂、初登したピーク、岩壁は数しれず、フリークライマー達は世界各地の最難クラスの岩に成功し、名を残してきました。今年の東京オリンピックの正式種目として採用されたスポーツクライミングでの日本人アスリートの活躍は連日メディアで報じられているとおりです。日本はクライミングのあらゆる分野で世界の第一線を走り続けてきました。

 しかし、そんな日本にも海外に引けをとっていたものがあります。それは世界に誇るプレイグラウンドの不在。世界クラスのクライミングエリアの不在です。クライマーの間では「美しい景色の中で、スケールのある岩を登りたければ海外へ」が常識でした。私はこれまで世界各地に遠征を行ってきましたが、各地でそのスケールとロケーションに圧倒され「こんな岩が日本にもあれば・・・」と切望してきました。


 岸良周辺の岩場を最初に訪れたのが3年前の2017年2月。そのスケールとポテンシャルは噂に聞いていましたが、実際に目にした光景は想像の遥か上を行くものでした。入り組んだ白い海岸線沿いに散らばる岩壁とボルダーは正に無限の可能性を秘めているように感じられ、「世界に誇れるクライミングエリアになる」と直感しました。それは自分の足で海岸を歩き回り、岩を見て回り、そして新しいラインを開いてゆく過程で確信に変わりました。

「直線の波」

 岸良周辺の岩の素晴らしさは筆舌に尽くし難く、是非直接見て触れて体感していただきたいのですが、少しだけ私の思う魅力を書かせていただきます。

 まずはそのロケーション。青く美しい海を背景に白い花崗岩が折り重なる様子は日本では中々目にすることができません。課題の質の高さは言うまでもありませんが、美しい自然の中で素晴らしい課題を堪能するということは、クライマーである我々にとって至上の喜びと言えます。ここではそれを存分に味わうことがきます。

「Drink the sea」

 次にそのポテンシャル。岸良周辺の岩場を含め、大隅半島の東海岸には約40kmに渡って花崗岩の岩場が分布しています。今回公開されるのはそのうちほんの200m程度の範囲に過ぎません。それ以外の場所では今も開拓途中か、全く認知されていない岩が眠っています。私はこの地が持つ底しれぬ可能性に魅せられてきました。そして、この地に自分が理想とするラインが眠っていると信じて足を運び続けています。

「Drink the sea」

 そして何より、この地を愛し、地道に開拓活動を続けてきた現地の方々の存在があります。色々なレベルであったり、スタイルを持ったクライマーが長年この地でクライミングを実践することで、多種多様な個性を持った魅力的なラインが生み出されてきました。そのローカルの方々によって地元との交渉やガイドブックの作成、イベントに向けての準備活動が今も精力的に続けられています。そして、この果てしない岩の全てを登り尽くす日が来るまで、その営みが続いてゆくのだという頼もしさを感じます。地元の岩場を愛するクライマーたちの熱意こそが、この地を魅力的にさせているのだと私は思います。



 やぶさめとロケットの町である肝付町には、日本が世界に誇るクライミングエリアが眠っています。今回のイベントが岸良を世界に発信する第一歩となるよう、多くのクライマーがこの地を訪れ、その素晴らしさを肌で感じてくれることを心から願っています。


中嶋 徹