こんにちは。一般社団法人日本サステナブルシルク協会代表の芦澤洋平です。
私たちは【おウチで蚕感日(さんかんび)】のプロジェクトを通じて、養蚕農家のような本格的な養蚕が体験できる飼育ケースと専用アプリを組み合わせ、子どもたちが日本の養蚕文化や絹文化の意味や価値を体験的に学べる環境をつくっています。このプロジェクトを立ち上げた背景には、私自身の養蚕農家としての経験があります。私は、父から150年続く家業である養蚕農家を継ぎ、現在は日本最大級の規模で蚕を育てています。
アシザワ養蚕 6代目・私(芦澤洋平:左)と父、先代(右)
しかし今、日本の養蚕を取り巻く環境は、大きな危機に直面しています。
日本の絹産業は、明治以降、皇室の養蚕をはじめ、文化財修復や着物などの和装文化を支えるものとして、高い価値を持ち続けてきました。一方で、1920年代のピーク時には全国に約220万戸以上あったと言われる養蚕農家は、2025年時点でわずか113戸にまで減少。流通する生糸のうち、国産の割合はわずか0.15%です。蚕糸業や絹織物製造に携わる人々も年々少なくなり、昨年には「このままでは5年後には日本から蚕糸業がなくなる」とまで言われました。150年続く養蚕農家の出身だからこそ、私はこの現実に強い危機感として受け止めています。


しかし、私たちが残したいのは、産業としての養蚕だけではありません。
養蚕は単なる農業ではなく、日本の文化と経済を象徴する存在でもありました。近代資本主義の父と呼ばれ、文化と経済を融合させた渋沢栄一もまた、養蚕農家の出身でした。しかし、蚕との関係はそれだけではありません。人々は蚕を「お蚕さま」と呼び、敬い、大切に扱ってきました。現在も天皇が御養蚕所で蚕を育てられているように、その関係はかたちを変えながら受け継がれています。そして蚕は、虫でありながら「頭」の単位で数えられ、家畜として扱われる、人の手がなければ生きることができない存在です。ペットでもなく、食用の家畜でもない、そのあいだにある独自の関係が、日本の中で育まれてきました。産業として、祈りの対象として、そして暮らしの一部として。蚕は、日本人と多層的な関係を築いてきた存在です。これから、私たちが蚕とどのように付き合っていくべきかー。
私たちは、その関係性の「意味」に着目しました。

私たちは、この養蚕が持つ意味を、もっと多くの人に体験してもらいたいと考えました。そこで企画したのが、あるツアーです。それは蚕を五感で楽しむ日ー「蚕感日」。日本人にとって馴染みのある「参観日」から生まれた造語です。私の生産現場を活用し、お蚕さまとともに過ごす一日を、五感でめぐる体験です。多くのご家族にも参加いただきました。ただ楽しむだけではなく、蚕にまつわる歴史や知識、人との関わりについても学んでいきます。その中で、参加者一人ひとりの中で、蚕との関係が少しずつ変わっていく様子がありました。その姿を目にしたとき、私たちはこう感じました。
「この養蚕の魅力と楽しさを、もっと多くの人に体験してもらいたい。」
この経験が、次のアイデアへとつながっていきます。
「蚕感日」ツアー当日の様子

蚕糸業を未来に残すために、これまでにも多くの挑戦が行われてきました。医療や新技術への活用は、その可能性を感じさせる取り組みです。しかし、経済的に厳しい養蚕農家を増やすことは容易ではなく、他国との競争も避けては通れません。そこで私たちは、別のアプローチを考えました。生産量を増やすだけではなく、「意味」を起点に関係人口を増やしていくという考え方です。それは、日本人と蚕がこれまで築いてきた関係性の中にある意味に目を向けることでした。その転換のきっかけとなった「蚕感日」での体験を、全国どこにいても、自宅で楽しめたとしたらー。そんな思いから生まれたのが、「おウチで蚕感日」です。


実際に蚕を飼育することで教科書では決して得られない学びがあります。「おウチで蚕感日」は、私たちが監修をしたオリジナル飼育ケースに加え、専用の「蚕感日アプリ」が飼育の伴走をしてくれます。
お蚕が食べる桑の葉は養蚕農家から定期配送でご自宅に届くので、お蚕が桑の葉を食べる音をぜひ聞いてみてください。初めての方でも飼育の仕方や、生態観察のポイント、環境とのつながりやシルクの歴史など好奇心と知識が一緒に学ぶことができます。多感なお子さんは飼育をしていくと、「なんで?どうして?」といった疑問がたまっていくと思います。アプリを通して養蚕農家や専門家と直接つながることができるので、質問を直接解決したり、関連動画から自分で調べる探求心をうながせます。飼育の後半ではお蚕が糸を吐き始めると、まぶしの一つひとつのマスにお蚕が入っていき、繭を作りはじめます。養蚕農家を同じように飼育をすることでお蚕のお世話をすることが、他者や小さい命に対しての気遣いの心を育みます。お蚕やシルクに関するイベントが届くことで、育てる体験は、その先の関わりへとつながっていきます。記録した飼育日記は最後に一覧で見返すことができるように、PDFとしてダウンロードすることも可能です。




毎日蚕を観察し、飼育日誌をつけ、アプリで養蚕農家とやりとりをする。そうした日々の関わりの中で、子どもたちは蚕の生命の営みを感じ、シルクの重要性と可能性を自然に理解していきます。これが【おウチで蚕感日】の本質です。
夏休みの間に前に飼育することができます。毎日お世話が必要と思われがちですが、お蚕は4回ほど寝るのでお世話がお休みの日もあります。基本的には朝と夜に20分ほどのお世話と観察の時間があれば大丈夫です。ご家族にお世話をお願いすることも、場合によっては一緒にお出かけすることも可能な場合があります。そのような判断をするのもお世話するうえで大切な責任感につながります。卵から繭になるまでの45日間は、お蚕の成長とともに、子どもの心もゆっくりと育っていく時間になります。


これまでも「お蚕を育てる」飼育キットは存在していました。しかし多くの場合、キット一式を届けて終わりとなり、蚕の生態に関する知識は、保護者や先生がマニュアルや説明書を通じて伝えるしかありませんでした。そこで私たちは、飼育ケースに加えて専用アプリを開発することで、飼育のサポートや生態に関する情報だけでなく、日本人と蚕が築いてきた独特の歴史や文化、楽しみ方を、お蚕の成長にあわせて少しずつ学べる体験を提供したいと考えています。これまで培ってきた知識や経験、知恵を総動員しながら、養蚕農家である私だけでなく、さまざまな専門家とともに開発を進めています。これは、日本初の試みです。
お蚕との関係を「育てる」だけで終わらせるのではなく、「関わる」へと広げていくために。人とお蚕の新しい関係性を育むプラットフォームの開発に、皆さまからのご支援を活用させていただきたいと考えています。どうかご支援のほど、よろしくお願いいたします。



私たちは【養蚕キット1万人プロジェクト】に取り組んでいます。1万人の子どもたちが蚕に関わることで、日本の養蚕と絹文化に新たな価値観をもたらしたいと考えています。それは産業としての生産量ではなく、意味や価値観に目を向けた教育の実践です。子どもたちの発見や好奇心、そこから生まれる成長を受け止めることができるのが、蚕という存在なのです。私は1シーズンで約10万頭の蚕を飼育します。「おウチで蚕感日」の飼育キットでは、一つあたり10頭の蚕を育てることができるため、もし1万人の子どもたちが関われば、私と同じ規模の蚕を育てることになります。それは、これまで私ひとりが感じてきたお蚕の魅力や価値を、より多くの子どもたちと分かち合うことができる、ひとつのかたちです。
日本の絹がもつ価値を社会に伝え、蚕に関わる人を増やす。そして、養蚕を未来へ残すために、体験・学び・生産が循環する新しい経済圏をつくり、次の世代へ養蚕とものづくりの可能性を受け継ぐこと。それが私たちの想いです。このプロジェクトを通じて、蚕と人の新しい関係性がつくられていくと信じています。
日本最大級の養蚕農家と同じ頭数でも、関わる数は10,000人になり、養蚕農家をはじめ蚕糸業界全体を巻き込む新たな経済圏ができる






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