はじめまして。
編集者の長畑宏明と申します。

この度、私が2014年末に創刊したインディペンデントファッションマガジンSTUDY3号目のリリースに際し、CAMPFIREから新しく立ち上がったCLOSSでクラウドファンディングを行うことになりました。

早速ですが、これまで自分のやってきたことやこれからやろうと思っていることを、できるだけ順序立てて書いていこうと思います。


※STUDY3号目のカバー。前2号からリニューアルをはたしました。

▼STUDY創刊の経緯

私はとにかく音楽が好きな少年でした。そして、2000年に中学に入ってロッキングオンやスヌーザーを読み始めた頃には、すでに編集者という仕事を身近なものとして感じていました。その頃はSNSがなかったので、「次は何に注目すべきか」「何を知っているべきか」というのはすべて雑誌が教えてくれました。あとはラジオ。毎日、自分の中で新しい世界が開けていくような気がしていました。

ポップミュージックからズブズブに影響を受けていた私は、大学に入るとファッションにのめり込んでいきます。当時は2000年代中盤、ドロップのようなスナップサイトが流行り始めた頃で、個性の強い小さなお店がユースカルチャーを牽引していました。そこには原宿と渋谷を中心としたアヴァンギャルドなシーンがあり、私も夢中になってお店をまわりました。

ただ、同時に私は由緒正しきアメリカンカジュアルにも興味があったし、バシッとスーツで決めた紳士のスタイルにも興味がありました。けっして“何でもあり”ではなく、既存のカテゴリを意識的に飛びこえて自分の視点で選びとっていくことに、強い興味を持っていたのです。

そんな自分の雑食性を反映させたメディアを作ろうと思い、大学3年生の時にスナップサイト「howtodancewithyou」を立ち上げます(皆さんにもぜひ見ていただきたいのですが、サイトは2年くらい前に衝動的に消してしまいました)。暇を見つけては街へ繰りだし、老若男女問わず写真を撮っていました。熱心にサイトを更新していくうちにだんだんと読者も増えてきて、メンズクラブやオーシャンズのような媒体がスナップの仕事をまわしてくれるようにもなりました。


大学卒業後はウェブ会社でアプリの運営や営業をしながら過ごしていたのですが、入社してちょうど3年が経った頃に、突如「自分の雑誌を作ろう」と思いたちました。ページをパラパラめくっているうちにあっちの世界やこっちの世界へ軽やかに移動できる雑誌の感覚が昔から好きだったし、ネットでは何だかんだ好きなものしか見ないというのが、自分の経験からもわかったからです。

それに、今の私たちにはかつてないほど多様化した表現を能動的に楽しむ自由があるのにもかかわらず、大手の編集者がすでに評価の定まったものだけを誌面に並べていたことに、大きな不満を持っていました。つまり、まったくリアルじゃなかった。さらに、テキストにはかんじんの主語がなく、あるのは毒にも薬にもならないようなユルいレコメンドだけ。いわば安心の押し売り。僕はこう想定しました。

「自分と同じように感じている人間が1000人か2000人くらいはいるだろう。それなら、オルタナティブなメディアを立ち上げる意味があるんじゃないか」と。

そうして、まずは学生時代から顔なじみだったスタイリストの小山田孝司さんに声をかけるところから、雑誌づくりをスタートさせました。

STUDY創刊号リリース

STUDY2号目が代官山 蔦屋書店の選ぶ2015年度ベストマガジン(インディペンデント誌部門)に

STUDYの別冊「THE RESIDENCE」発売に伴い、初の展示を開催

STUDYにまつわる作家が一堂に介したSTUDY展がテレビ朝日の番組「トーキョー・コーリング」にて紹介

 

2014年12月に創刊されたSTUDYは、最初に取り扱ってくれた代官山 蔦屋書店、B&B、百年、スタンダードブックストア(大阪)を起点に話題を集め、最終的に2000部を売り上げました。2号目は本体価格が1.5倍になったのにも関わらず、同じく2000部を売り上げ、代官山 蔦屋書店が「2015年度ベストマガジン(インディペンデント誌部門)」に選んでくれたりもしました。本当に有り難いことです。

 STUDYは読者を洗脳するためのメディアではありません。僕にそれほどのカリスマ性がないというのもありますが、読者に限定された強いメッセージを打ち出すのではなく、“疑問を持ち、考えるきっかけ”を与えたいと思っています。だから、メディアとしては「色んな価値観がある中で、それがアリかナシかは自分で決めればいい」という態度をとっています。

また、この本には広告が入っていません。だから、作家へのギャランティー、印刷費、そして私の生活費約2ヶ月分が雑誌の価格に跳ね返っています。3号目は合計126ページで2500円。大衆誌と比べればべらぼうに高い。2500円もあれば、贅沢なごはんが食べられるし、洋楽の日本盤が買えるし、たいていの展示に入ることができます。

また、制作費を実売で回収するという仕組みは、ものすごく原始的です。広告だって何かクールなやり方があるのかもしれません。しかし、現時点の私にとって、これが真っ当なアプローチなのです。陶芸家が自分で作った壺を自分で売るのと同じです。

もちろん、メディアとしてお金を稼ぐことを本気で考えるべきだと思いますが、立ち上がってまだ3年足らずのこの本に広告をバンバン入れてしまうと、それが目的にすり替わってしまうような気がするのです。これは、あくまでタイミングの話です。

※最近はじめたSTUDYの公式インスタグラム(@magazinestudy)ではアザーカットや制作風景をアップしています。

 

もちろん本の中身には自信があります。「創刊号と2号目は準備号でした」と言いきってもいいくらい。ただ、アルバムをリリースしたばかりのミュージシャンがインタビューで「新作が最高傑作だ!」と威勢よく話すように、僕がそれをここで書いても説得力に欠けます。

なので、これを読んでいる皆さんが少しでも3号目に期待を持てるように、今回はじめてティザームービーを制作しました。これは、スタイリストの梶雄太さんが衣装と写真を手がけたファッションストーリーの裏側を記録したものです。ちなみに、音楽はトクマルシューゴさんが「DODY」という曲を提供してくださいました。ぜひご覧ください。

 

▼『STUDY』3号の内容について

こちらは箇条書きで紹介します。

巻頭ファッションストーリー「Instrumental」

2013年に国際写真賞「Prix Pictet」にノミネートされ、過去にはニューヨーク、ロス、ロンドン、そして東京で展覧会が開催されるなど、主に作家自身の身のまわりの事柄を主題とし、日常と非日常を行き来する作風で高い評価を受ける題府基之が、カラオケで熱唱する女優・成海璃子を激写。スタイリングは小山田孝司。

人物取材「Personal Fashion」

個人のスタイルを、ポートレート/文脈マップ/取材記事という構成で紹介。今回のラインナップは、古いイッセイミヤケを着る若手俳優、ファッションの“細部”に情熱をそそぐ美大助手、キッチン南海を愛してやまない古着店スタッフ、若きリーバイスマニア、サーフィンにどっぷりの「ユナイテッドアローズ 原宿本店 メンズ館」スタッフの5名。

フォトストーリー「Dedicated To…」

ロンドンに滞在しながら写真を撮りため、今年の夏に自宅で展示を開催していた写真家のYuhei Taichiによる旅の記録。それは、物悲しいダンスビートのようなポートレート。

フォトストーリー「The Way Of Life」

ニューヨーク在住の日本人アーティストE-WAXがドローイング活動の合間にニューヨークの路上で撮ったストリートスナップ。紙媒体では初出の写真のみを掲載。

ミュージシャンインタビュー

トクマルシューゴ(JPN)、エンジェル・オルセン(US)、ゴールド・パンダ(UK)のロングインタビュー。ゴールド・パンダには、2016年にリリースされ何かしらの形で話題を呼んだ10曲をズバズバと斬ってもらいました。

ファッションストーリー「Hallelujah」

写真家・髙橋恭司が男女5人の“最後の青春”を横浜で撮る。近未来の色をしたアンビエント。スタイリングにはヴィンテージとユーズドのみを使用。

巻末ファッションストーリー「Love Story」

雑誌から広告、テレビ、映画まで、幅ひろく活動するスタイリストの梶雄太がスタイリングのみならず写真も手がけた、バカバカしくも爽やかで、なにげに斬新なファッション写真たち。キーワードは「ダウンジャケット」「能登半島」「DJ」。

その他、草野庸子の写真とくらちなつきのイラストをかけ合わせたKEISUKEYOSHIDAのオリジナルビジュアル、処女作「闇雲」を自主で出版した若手小説家の内田俊太郎による新作「飾らない飾り」などを掲載します。合計126ページ。判型はB5変形(横が1センチ長い)です。

 

※「Love Story」の撮影風景

 

▼リターンについて

リターンの内容はいたってシンプルです。①〜⑤は投資よりも先行販売という言い方のほうがしっくりくるかもしれません。ここで3号目を注文していただければ、消費税と送料が無料になります。また、公式発売日の12月17日よりもはやく手にとっていただけます(発送は12月12日を予定)。

さらに、もうすこしお金を出してくれた方には、ここでしか手に入らないSTUDY3号目のブックインブック(24Pくらいを予定)を差し上げます。内容は、シャムキャッツの新曲「すてねこ」のMV制作の舞台裏を写真とテキストで記録したもの。シャムキャッツが主催するEASYというイベントに私がSTUDYとして参加したことがきっかけで実現したこのMV撮影は、私がふだんから一緒にものを作っているメンバーで手がけました。

映像は先述のティザームービーの監督も務めた映像作家/映画監督の芳賀陽平、スチールはSTUDYでいつもお願いしている写真家の岩本良介、本のデザインはSTUDY3号目を手がけている一ノ瀬雄太、そして全テキストを私が担当しています。ファッション媒体が音楽のことをメインに取りあつかった本を作るというアイデアは、今よりもカルチャーがボーダーレスだった90年代を彷彿とさせて、個人的にすごく気に入っています。 

※「すてねこ」の撮影風景

 

また、雑誌のリリース直後には、レイモンド・マンゴーの名著「就職せずに生きるには」へのオマージュをこめて、CAMPFIRE代表の家入一真さん、ファッションブランドKEISUKEYOSHIDAの吉田さんと「それでもインディペンデントに生きていきたい」というタイトルの対談を行うことが決まりました。日時は12月11日(日)の13時〜14時30分です。

今回のリターンにはそのイベントへの招待枠も含まれています。大組織に依存せず、自分たちで新しい文化や経済を作っていくには、具体的にどのような方法があるのか。日ごろインディペンデントな人たちがご飯を食べていくための仕組みづくりに奔走しておられる家入さんと、何とかインディペンデントで食べていこうとしている私と吉田さんとで、しんどい現状と明るい未来の話をしたいと思います。

 

▼クラウドファンディング実施の目的

まずは、今回のクラウドファンディング実施をきっかけにSTUDYのことをより多くの人に知ってほしいと思っています。また、ここで予めまとまったお金を集めることができれば、安心して雑誌を出版することができます。とっても個人的な事情なのですが、これを読んで「長畑がやっていることは何だか面白そうだ」と思っていただけたのであれば、力を貸してください。よろしくお願いいたします。

※ちなみに、いつもはWi-Fiが有線なみの速度をほこる『MOJA in the HOUSE』という渋谷のカフェ(何時間も居座って申し訳ない……)か、笹塚の自宅で作業しています。

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