横川高架下の商店街が消滅の危機に瀕しているまさにそのときにスタートし、過去から現在に至るまでに生成されてきた「風景」が「未来」へと接続されるような「タイムライン」を整備していく試みです。写真と文章による成果作品集を作成し、未来につなげます。

プロジェクト本文

■歴史的な街の「風景」を次の時代に繋げる作品集を作る。

 

あなたにとって、思い出深い「街」をひとつ、思い浮かべてみてください。もしそれが、1年後にすべて消えてしまうとしたら、どうでしょうか。きっと、悲しんだり、戸惑ったり、なんとかして残すことはできないだろうかと、考えたりするのではないでしょうか。


今まさに、ある高架下の商店街が、まるごと消えようとしています。今回、4人の写真家と作家が、これから1年間にわたり、その商店街の記録・表現に取り組みます。それを1冊の作品集にまとめて、歴史的な街の「風景」を、次の時代に繋げていきたいと思っています。

 


©Kenichi Asano

 

■120年続く駅、54年続く高架下

 

広島市の中心部、太田川と太田川放水路という2つの川に挟まれるようにして、JR横川駅があります。この駅には120年の歴史がありますが、54年前にその構造が大きく変わりました。人工の川である太田川放水路が完成し、堤防の高さに合わせて高架線が整備され、ホームが空中に持ち上げられたのです。


高架の下には、商店が入るためのスペースが設けられ、新しい店が次々と開店していきました。以来、この横川高架下商店街は、街の人々や、電車を使って横川を訪れる人々の中に、無数の「風景」を残してきました。

 

 

©Kenichi Asano

 

■2019年、横川の高架下が消える?

 

ところが、2016年1月、貸主である広島市は、横川高架下の店舗を廃止することを発表しました。高架橋の耐震補強工事が必要ということですが、47におよぶ全店舗が立ち退かなくてはならず、また工事後にはJR西日本が新たな貸主となり、家賃も上がるため、波紋が広がっています。

 

商店街側はその後、市やJRと何度も交渉を重ねてきましたが、現在のところ、全47店舗のうち、2018年3月末までに西側の20店舗が、2019年5月末までに東側の27店舗が立ち退かなくてはなりません。


耐震補強工事後も、高架下のスペースそのものは存続する予定ですが、家賃は現在の数倍になることが見込まれています。

 

■「辞めんでくれいうて言われるんじゃけど…」

 

今年で創業53年になるという、ある店のご主人は、「辞めんでくれいうて、みんなから言われるんじゃけど、なかなかいい移転先がないんですよ」と漏らします。

 

「でも、続けるんじゃったら、近いとこが、やっぱり、ええですよね。先代のときから、この場所でね、覚えてもろうとるけぇ」

 

この店の名物は、680円の「焼きめし」。今年で57歳になるご主人が、先代の味を受け継いで作り続けてきた逸品です。味の核となっているのは、創業以来継ぎ足されてきた「秘伝のたれ」。この焼きめしは、商店街の成長とともに、「火の出る勢い」で売れ、多くの人の記憶に、その時代の「風景」とともに刻まれてきました。

 


「ときどき、何十年ぶりかいうようなお客さんが来てくれるんですよ」とご主人は嬉しそうに言います。「変わってないのぉ、言うてくれて。これよこれよ、この味よ、いうてね」

 

©Kenichi Asano

 

■街が解体されていく時代

 

今まで「横川高架下商店街」として多くの人が見てきた街は、間もなく消えてしまいます。この事態をどう捉えればいいのでしょうか。もうじきなくなる街について懐かしみ、ノスタルジーに浸るべきでしょうか。あるいは、「なくなるものはしょうがないよ」と割り切って、次にできる新しい街に期待すべきでしょうか。

 

考えてみると、わたしたちは、次々に建物や街が解体される残酷な時代に生きています。およそ半世紀前に整備されたインフラや建築物が、いっせいに更新の時期を迎えているからです。

 

こういった、いわば「解体の時代」には、長きにわたって人々の心の中に刻まれてきた「風景」が、突然に、また大規模に失われることが想定されます。


残酷なのは、街を構成する鉄やコンクリートが朽ちていくのを、誰も止められないことです。物質的には、街はいずれその姿を崩していく。そして多くの場合、古い街が消滅し、新しい街がつくられたあと、以前あった街の記憶は、急激に薄れ、次第に忘れ去られていきます。

 

©Kenichi Asano

 

■なくなってしまう街を写真と文章で残す

 

物質的に街が朽ちていく以上、街を残すための手段はおのずと限られてきます。ひとつは、そこに生きてきた人そのものです。街がなくなったとしても、そこに生きてきた人々は、そのあとも生き続けます。彼/彼女らの記憶の中で、街は生き続ける。

 

もうひとつは、そこで育まれてきた文化や歴史、あるいは「解体」に至るまでの過程を、写真や文章などの手段によって記録・表現し、内外にその成果を伝えることです。

 

もちろん、それは街のほんの「断片」にすぎません。しかし、そこで提出された成果物は、少なくとも街がなくなったあとも、街の「断片」を伝え、次にできる新しい街のあり方を問い続けます。


わたしたちは、鉄やコンクリートでできた街のかわりに、紙に印刷された写真や文章の中に、街を残したいと考えました。

 

■失われていく街を次の時代に繋げるためのプロジェクト、Timelinescape(タイムラインスケープ)

 

そこで、わたしたちは、Timelinescape(タイムラインスケープ)というプロジェクトを立ち上げました。

 

Timelinescape(タイムラインスケープ)は、失われていく街の「風景」を記録・表現し、次の時代に接続するためのプロジェクトです。また、そういった「風景」をどのように残すことができるか、その方法自体を探るプロジェクトでもあります。

 

今回は、プロジェクト代表で建築家の木原一郎の呼びかけにより、4名の写真家・作家が集まり、横川高架下商店街の記録・表現に取り組みます。

 

浅野堅一/写真家

1979年広島生まれ。 DELTA PHOTOGRAPHY 代表

ポートレート、都市のランドスケープ、人の生きる場所・空間に着目した作品を中心に制作。企画展専門ギャラリー、Gallery Node共同運営。2014年より写真家 所幸則氏に師事。横川のアートイベントへの参加、個展、グループ展の開催多数。

 

 

木原一郎/建築家/クリエイティブディレクター


1979年宮崎生まれ、1998年より広島在住

Timelinescapeプロジェクト代表

 

坂本淳/写真家

広島市在住

1979年、東広島市に生まれる

2003年、大阪芸術大学写真学科を卒業

2012年、映像制作会社勤務を経て坂本淳写真事務所を設立

2014年、ギャラリーG(広島)で個展を開催

2015年、友人達とGALLERY NODE(広島)の運営を開始

2016年、ギャラリーG企画「広島写真」に参加

2017年、東広島市立美術館「現代の造形-Life & Art-光 身近に潜む科学とアート」に参加

 

佐々木俊輔/作家

1983年広島県生まれ。都市制作室・主宰。2011年、小説「ゆめのみらい」で第27回太宰治賞最終候補。2016年、ルポ「失われた広島と五月二七日の基町アパート」(『現代思想』2016年8月号・青土社)を発表。

 

福岡奈織/作家

1992年生。広島大学総合科学部卒業。広島・高知などにおいて、土地に根差す記憶を現代に伝えるための表現活動に取り組む。「土は覚えている」(『No Nukesヒロシマナガサキフクシマ』/講談社)など。

 

 

■失われていく横川高架下の時間を記録・表現する

 

何かがある時点を境に失われることがわかったとき、それまでは意識しなかった時の流れが、はっきりと、痛みのようなものを伴いながら見えてくることがあります。

 

2名の写真家と2名の作家は、横川高架下商店街の失われていく時間の流れを、現場で観察し、それぞれが独自の方法で記録・表現していきます。

 

2017年5月から2018年5月までの間、その成果はCreative lab node Hiroshima(光町)とCreative lab node Yokogawa(横川)で月替わりの展覧会として随時、公開されていきます。


そこで公開された成果を、最後に、1冊の作品集としてまとめ、形あるものとして残したいと思っています。それは、横川高架下商店街をただ記録したものではなく、街の不可逆的な変化を、4つの視点、4つの手法によって刻印したものになるはずです。

 

©Kenichi Asano

 

 

■「未来」に向けて、ご拡散・ご支援をお願いします

 

このプロジェクトは、横川高架下商店街が消滅の危機に瀕している、まさにそのときにスタートしました。


これから1年間にわたって、過去から現在に至るまでに生成されてきた「風景」が、街の「未来」へと接続されるような「タイムライン」を整備していきたいと思っています。

 

©Kenichi Asano

 

しかし、記録と表現の蓄積が作品集という形になるまでには、ある程度の時間がかかります。作品集がつくられるころには、既に商店街の立ち退きが進行することが予想され、現実の街の「風景」が失われていくことが想像できます。

 

つまり、作品集が完成したとき、横川高架下商店街を見ることはできなくなっているかもしれません。作品集で初めてこの街を知るという方は、「今ここにある街」ではなく、「かつてそこにあった街」として横川高架下商店街を見ることになるかもしれない。

 

クラウドファンディングによって作品集の制作を前もって予告しておけば、みなさんに、横川高架下商店街を「今ここにある街」として見ていただける。この文章を読んでいただいている間も、街は現実のタイムラインの中で呼吸をし続けています。その延長線上に、わたしたちが制作したいと考えている作品集や、その先の「未来」があります。

 

そうして、みなさんとわたしたち、そして街のタイムラインを同期させたうえで、どれくらいの方にTimelinescape(タイムラインスケープ)に共感していただき、わたしたちのタイムラインに「参加」していただけるのか。このプロジェクトにとって、大きな挑戦になります。

 

ぜひ、みなさまのご支援をお願いいたします。

  • 2018/09/03 10:39

    ご支援いただきましたみなさま   こんにちは。代表をしております木原です。   この度ようやく Timelinescape-横川高架下編-を記録した作品集が完成しました。   多くの方のご協力によりここまでたどり着けました。   あとはこの作品集を多くの方に見て頂けるように、こ...

  • 2018/07/29 20:05

    この度、西日本を中心とした豪雨災害により亡くなられた方々へのご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様におかれましては心よりお見舞い申し上げます。被災された地域の1日でも早い復旧・復興を心からお祈り申し上げます。また今回の台風で被害が拡大しないことを願うばかりです。 編集が遅れておりました記...

  • 2017/08/21 21:54

    みなさま、こんばんは。先日8月17日に広島の中国新聞に取材していただいた記事が掲載されました。 普通に読むと写真に写っている人物が木原のように読めますが、写真に写っている人は写真家の浅野氏です。お間違えの無いようにお願いいたします。笑。   7月に発送を予定していました横川商店街紹介冊子...