はじめに

 初めまして、下総御料牧場シンポジウム実行委員会事務局の山本佳典(やまもと・けいすけ)と申します。千葉県成田市在住のフリーランスで、主に翻訳・執筆業を営んでいます。成田市民ではありますが、生まれは広島県福山市松永町というところですので、成田の「生え抜き」ではありません。2014年8月から成田国際空港の西側に位置する三里塚地区に居を構え、翻訳・執筆業の傍ら、昭和44年まで当地に存在した「下総御料牧場」の歴史、とりわけ牧羊業の歴史について調べてきました。今年3月末には、その成果となる『羊と日本人 波乱に満ちたもう一つの近現代史』(彩流社)を上梓したところです。

 この夏で移住後満9年を迎えるわけですが、そのあいだに、同じように「下総御料牧場」や地元の郷土史を調べたり、関心を持って訪れたりする地域の方々に出会い、親しく交流させていただくうち、「牧場の歴史を次の世代へ繋げていきたい」という思いが互いに共通していることを知りました。そして、そうした思いを抱く方が少なからずいる一方で、活動をともにするための有効なプラットフォームが地域に存在しないことにも気づきました。

 そこで、昨年9月から有志のメンバーで組織(下総御料牧場の歴史を継承する会)を立ち上げ、「下総御料牧場」の歴史を次世代につなげていくための活動を始めました。私自身は、その活動の一端を担うかたちで、このクラウドファンディングの運営に当たっています。以下、説明が少し長くなりますが、どうか最後までお付き合いくださいますよう、宜しくお願い致します。

 なお、私が所属する「下総御料牧場シンポジウム実行委員会」と上記の「下総御料牧場の歴史を継承する会」を除き、以下の文章に含まれる成田市および同市機関・施設、宮内庁および同庁機関・施設、シンポジウム登壇者が所属する自治体・組織・団体、ならびにその他の自治体・組織・団体等は、このプロジェクトとは一切関係ありませんので、予めご了承ください。

このプロジェクトで実現したいこと

 今、私たちが目指していることは、今年7月17日(月・祝)に開催を予定しているシンポジウム「近代牧場の礎『下総御料牧場』を振り返る 〜牧場遺産の継承に向けて今できること」の実現です。今回のクラウドファンディングは、主にはこのシンポジウムの運営費を賄う資金調達の手段として、また副次的にはウェブ上での情報発信ポータルとしての機能を確立するために立ち上げました。

 シンポジウム開催の目標を実現し、さらにシンポジウム後の牧場遺産の保存・活用に向けて、ともに取り組んでくださる新たな仲間とつながり、地道で持続性のある活動を進めていこうと考えています。

私たちの地域のご紹介

成田市とその周辺エリア

 このプロジェクトの拠点となる成田市は、日本の空の玄関で有名な成田国際空港が立地するエリアとして知られています。千葉県の北部中央に位置し、成田山新勝寺を中心とした街並みが有名です。また、市の北側は利根川に臨み、市街地を出ると美しい水田地帯が広がっています。利根川や印旛沼からもたらされた「うなぎ」料理が知られ、「空港」と「うなぎ」の特徴を兼ね備えた「うなりくん」というゆるキャラで親しまれています。

「ジンギスカン」を宣伝中のうなりくん(@成田市さくらの山)

 成田市の特徴の一つである成田国際空港は、昭和53年5月20日に開港しました。現在の面積は、東京ドーム約250個分に相当する1,172ha。これほど広大な広さを確保するため、建設予定地付近の住民との衝突が起こったことは有名ですが、この場所が選ばれた背景には、明治期に創業した大きな官営牧場の存在があり、その広大な土地を空港用地の一部として転用できるという判断がありました。その大きな官営牧場こそが、本プロジェクトのタイトルになっている「下総御料牧場」だったのです。

プロジェクト立ち上げの背景

 さて、この「下総御料牧場」とはどんな牧場だったのか、ご存知でない方も多いと思います。文字通りに解釈すると、千葉県北部「下総」エリアにある「皇室の牧場」と言えるでしょう。

 宮内庁のウェブサイトには、「御料牧場」の役割が記載されています。一部引用すると、「皇室の用に供する家畜の飼養、農畜産物の生産及びこれらに附帯する事業を行う」ことを目的とした宮内庁の施設であり、「外国大使の信任状捧呈の際の馬車列など皇室用の乗馬・輓ばん馬の生産」、「各種家畜・家禽の飼養管理」、「牛乳・肉・卵及び野菜などの生産」のほか、「皇室の方々のご静養の場」・「在日外交団の接遇等国際親善の場」としても活用されている牧場とされています。

 この宮内庁に属する「皇室の牧場」が、明治期以来、「下総」エリアにあったわけです。その歴史をここで詳らかに記すことはしませんが、端的に述べるなら、西洋の農法を取り入れながら日本に適した牧場のあり方を追究し、全国の農家や畜産家に技術を伝え、家畜や飼料を分譲することで、日本の農牧業の発展を支える重要な役割を担った牧場でした。皇室のための家畜・食糧の生産はもちろんのこと、関東屈指の桜の名所としても親しまれました。その牧歌的風景の広がりは、地域の人々にとって愛すべき日常の一部でした。

下総御料牧場の昭和戦前期の様子を写す絵葉書(所蔵=山本佳典)

 しかし、そんな牧場も昭和44年の夏、新東京国際空港(現在の成田国際空港)の建設が始まることから惜しまれつつ閉場し、新たな牧場が開かれた栃木県高根沢地区へと移転していったのです。

 閉場から半世紀以上が経過しましたが、牧場近隣の地域で生まれ育った方々は、今でも牧場在りし日のことを覚えており、お伺いすれば喜んで思い出を話してくださいます。そうした声に耳を傾けていくと、現在では住宅街となっている一帯も、昔は牧野が広がっていたことや、ご先祖が牧場員、あるいは牧場に関係する仕事に就いていたため、この地に家族で暮らし始めたという人が少なからずいることが分かってきます。つまり、この地域の形成・発展には「下総御料牧場」の存在が大きく関係していたということです。

三里塚地区の壁面に描かれた地図。地図の隣には牧場在りし日の絵が並ぶ もっとも、先に述べたとおり、牧場はすでに半世紀前に閉場し、今では日本の空の玄関である成田国際空港がその地域の中心となっています。空港関係の仕事に就く人が増える一方、牧場のことを知る人はどんどん少なくなっています。私が移住してからお話をお伺いした方もここ数年で鬼籍に入られ、直接の経験・記憶として牧場を知っている世代がいなくなるのはもう時間の問題です。現状のままでその時を迎えれば、牧場の存在は過去に忘れられ、やがて語られなくなるでしょう。

 それでいいのでしょうか?……いや、ちょっと待って。

 というのが私たちの考えです。先人の遺してくれたものを大切に引き継いでいきたいという思いから、それぞれが出来ることをそれぞれの立場で始めていきました。

これまでの活動

 今回のシンポジウム以前に成田市内で行われた「下総御料牧場」の歴史に関する近年の行事を振り返ると、2017年6月に企画展「下総御料牧場の記憶」がJR成田駅前の成田市文化芸術センター内「スカイタウンギャラリー」で開催されました。これは、戦中から戦後の長期間にわたって下総御料牧場長を務めた故・田中二郎氏の次女である山本順子さんが、家族で保存してきた貴重な写真類を一般公開したイベントで、成田市教育委員会が主催したものでした。たくさんの方が来場し、牧場在りし日を語り合う素晴らしい機会となりました。

 私自身もこの展示で山本順子さんと知り合い、それ以来、現在まで活動をともにしています。山本順子さんは、これまで下総御料牧場に関する2冊の書籍(『宮内庁下総御料牧場の記憶 : 成田空港に消えた日本で唯一の皇室牧場』『変遷「宮内庁下総御料牧場と千葉県営鉄道<軽便>多古・八街線」:昭和に消えた二つの歴史』=ともに千葉日報社)を発表しており、どちらも貴重な写真を掲載した重要な資料として評価されています。山本順子さんは、私たちのシンポジウムの実行委員長でもあります(私自身との血縁はありません)。

 この頃から少しずつ始まった私たちの取り組みですが、実際に組織を立ち上げたのは2022年9月のことでした。組織としての最初の企画は、今年4月下旬からGWにかけて成田市三里塚コミュニティセンターで開催された「下総御料牧場の歴史展」(主催=三里塚コミュニティセンター)でした。こちらは、2017年に公開された山本順子さん所蔵の写真の展示だけでなく、牧場当時のことを伝える資料類の展示解説も行い、さらに同時開催された「幻の軽便鉄道展 vol.2」(企画=軽便鉄道を考える会)との合同座談会も行いました。

 このイベントでも地域内外から大勢の方々にご来場いただき、期待以上の反応を得ることができました。また、この時の出会いからシンポジウムの実行委員会に加わってくださる方もあり、たくさんの得難い仲間や協力者に出会えた重要なイベントとなりました。

「下総御料牧場の歴史展」と「幻の軽便鉄道展 vol.2」が同時開催された

 そのほか、私自身は冒頭で述べたとおり、三里塚移住以来の取材調査の成果となる書籍『羊と日本人 波乱に満ちたもう一つの近現代史』(彩流社)を今年3月末に上梓しました。内容としては、明治時代以降の日本の牧羊史ですが、下総御料牧場の前身である「下総牧羊場」から始まり、その閉場に終わるものでもあるため、下総御料牧場の歴史もある程度は窺い知れる読み物となっています。また、出版に先立つ3月11日には、成田市観光プロモーション課の企画「わたしたちのまち成田フェア」の元、成田市さくらの山「さくら館」にて、下総御料牧場とジンギスカンの歴史について講演させていただきました(「私たちの地域のご紹介」セクションのうなりくんの写真はその時のもの)。

シンポジウムについて

 さて、ようやく今回のクラウドファンディングの目的であるシンポジウムの中身について説明していきます。まずは以下の開催概要をご覧ください。

▶︎行事名=シンポジウム「近代牧場の礎『下総御料牧場』を振り返る 〜牧場遺産の継承に向けて今できること」
▶︎日時=2023年7月17日(月・祝) 開場・受付 12:30/開始 13:00/終了 16:00
▶︎会場=「なごみの米屋 スカイタウンホール」(千葉県成田市花崎町 828-11)
▶︎料金=入場無料(事前登録不要、会場にて受付)
▶︎後援=成田市、成田市教育委員会、富里市、富里市教育委員会、公益社団法人千葉県畜産協会
▶︎プログラム内容
1)基調講演 
「佐倉牧から下総牧羊場・種畜場、下総御料牧場へ」 富里市立図書館長 吉林昌寿氏 
「第九代下総御料牧場長・田中二郎の時代」下総御料牧場の歴史を継承する会会長 山本順子氏
「閉場後の風景と牧場遺産の経緯について」下総御料牧場シンポジウム実行委員会事務局
<休憩>リコーダー演奏 小森厚一氏(農学部卒、翻訳家、リコーダー愛好家)
2)パネルディスカッション 「今、『牧場遺産』を継承する 〜近代農牧遺産を守り活かす意義」 
<パネリスト>
小岩井農牧(株)小岩井農場資料館長 野沢裕美氏
那須資料ネット代表 金井忠夫氏(元・那須野が原博物館長)
ジンギスカン鍋アートミュージアム館長 溝口雅明氏
富里市商工観光課長 林田利之氏
成田国際空港(株)上席執行役員 平山儀幸氏

 ところで、ここまで「牧場遺産」という言葉が何度か使われていることに気づかれたかもしれません。「牧場は空港に変わって、遺産なんて何も残っていないのでは?」と思われる方もいるでしょう。

 たしかに、牧場の大半は空港建設とともに姿を消しました。しかし、三里塚地区の真ん中には、明治期から植樹されたトチノキなどの緑溢れる「三里塚記念公園」と、牧場事務所を模した展示施設「三里塚御料牧場記念館」、そして皇室ゆかりの「貴賓館」と「防空壕」が先人の手によって守られ、現在まで遺されてきました。このサイトの冒頭に掲載した写真が「三里塚記念公園」を写したものになります。

 その他にも、戦中の金属供出で一時は姿を消しながらも再建された新山荘輔場長の銅像や、サラブレッド種牡馬と獣医学創始を称えた記念碑が同公園内に残るほか、三里塚第一公園内にある「馬見場」(明治天皇が一哩馬場での競馬をご覧になったとされる土堤)、芝山町の観音教寺に移設された「えい駿塚」と「吾妻号の碑」、栄町の龍角寺に移設された校倉造りの「穀物倉庫」といった、往時を偲ぶ牧場遺産が各地に遺されています。そうしたものを含めて、現存する下総御料牧場関連遺産を大切に守っていくべく、まずは多くの方々に牧場の歴史を知っていただこうというのが、今回のシンポジウムの目的です。

三里塚第一公園の桜。右奥のこんもりしたところが「馬見場」

 上記のとおり、このシンポジウムは入場無料で開催します。その理由は、できるだけ多くの方にシンポジウムの中身を「覗き込んでほしい」からです。通りがかりに少し顔を出してみるだけでもいいので、どんなことが話されているのか、どんな人が壇上で発表し、会場に来て聞いているのか。まずは興味を持っていただきたいと思い、入場無料での開催としました。

 クラウドファンディングを利用する理由は、資金調達のためだけでなく、これが現代の関係構築の手段の1つであるからです。クラウドファンディングを通じて支援を行うことを日常とする世代と、ITには馴染めないけれど「下総御料牧場」を愛しんできた世代の間で、なんらかの化学反応が起きて欲しいという細やかな期待も抱いています。

資金の使途と実施スケジュール

 支援金の具体的な使途としては、シンポジウムの会場費、講師招聘費、資料・表示物作成費、消耗品費を含む最低限の運営費(合計約20万円)と、下記の返礼品の制作費(約12.5万円)を想定しています。それにクラウドファンディングの手数料を加えた合計40万円を目標額とします。

 クラウドファンディング実施期間は、シンポジウム開催日を含む2ヶ月間を予定しています。シンポジウムにご参加いただいた上で、内容を評価してご支援くださる方が一人でも増えてくれたらと願っています。また、期待を上回るご支援をいただけた場合は、クラウドファンディング実施期間の終了後に活用方法をご報告いたします。

<実施スケジュール>
7月17日(月・祝) シンポジウム開催
8月31日(木) クラウドファンディング終了
8月末 返礼品準備完了
9月上旬 返礼品発送

返礼品のご紹介

 現在予定している返礼品は、「シンポジウム開催記念オリジナル絵葉書」による御礼のお手紙と、復刊冊子『三里塚とジンギスカン鍋』の2つです。

 前者の絵葉書は、通常サイズの絵葉書(100×148mm、素材=光沢紙、片面カラー4色擦り)で、実行委員会メンバーが撮影した牧場遺産に関する写真から作成します。

 後者の冊子は、下総御料牧場が地域にもたらした遺産であり、ご当地グルメとして現在まで地域で愛されている羊肉料理「ジンギスカン鍋」の地域史を綴った、とても希少な冊子の復刊頒布になります。元々の発行部数が少ない上、発行者である「遠山緬羊協会」は既に解散しているため再版の途もなく、関係者のご家族の手元に残る既存の冊子も劣化しています。私が関係者のご家族から頂いたものも、ページが一部欠損した状態で、ホッチキス綴じも完全に錆びていました。下の写真は、綴じを解体してスキャンした表紙と目次・奥付ページです。

 こうした状況を危惧した私たちは、今回のシンポジウムの取り組みの一部として、関係者から許可を得てこの冊子を正式に復刊しようと考えました。そして、クラウドファンディング公開に先立ち、著作権・版権の継承者に該当する方から復刊の承諾を無事に得ることができました。貴重な文献をぜひ多くの方に読んでいただき、牧場遺産の語り手になっていただきたいと思います。

 このほかにも、実施期間中に新たな返礼品を追加できるように考えています。たとえば、地域で開催するジンギスカン・パーティー(ジンパ)や牧場遺産巡り、全国の農牧関連遺産を訪れるツアーへの参加機会のご提供などを検討中です。シンポジウム開催日までに決定し、追加して参りますので、どうぞご期待ください!

おわりに

 最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。

 明治、大正、昭和の時代にまたがって大きな足跡を残した「下総御料牧場」の歴史を次の世代に伝えていくことには、きっと様々な意味があると思います。地域の住民にとってはアイデンティティの一部になるでしょうし、自治体や学術機関にとっては観光・研究の資源にもなるでしょう。なにより、様々な社会環境の変化が予想されるこれからの時代を生き抜こうとする人々にとって、明治時代以降の日本で、農牧業が「皇室の牧場」を通じてどのように発展していったのかを知ることは、ますます重要になるのではないかと思います。

 「下総御料牧場」の歴史を伝え、現存する遺産を保存・活用していくこと、そのために今回のシンポジウムを通じて「今できること」を一般市民から議論し、それに向けて動き始めることには大きな意味があると思います。

 もしもご興味を持ってくださり、ご都合が許すようでしたら、7/17のシンポジウム会場にどうぞお越しください。そして、お気持ちの分だけ、クラウドファンディングを通じてご協力頂けましたら幸いです。何卒宜しくお願い申し上げます。


<募集方式について>

本プロジェクトはAll-in方式で実施します。目標金額に満たない場合も、計画を実行し、リターンをお届けします。

  • 2023/09/19 12:00

    こんにちは!下総御料牧場シンポジウム実行委員会事務局/プロジェクト運営者の山本佳典です。今月10日に返礼品発送の遅延と新たな発送日程をご案内致しましたが、新しい日程のとおり、本日午前中に三里塚御料郵便局より全ての返礼品を発送致しました。順調に輸送された場合、遅くとも今週金曜日(9月22日)まで...

  • 2023/09/10 14:34

    こんにちは。下総御料牧場シンポジウム実行委員会事務局/クラファン運営者の山本佳典です。当プロジェクトをご支援くださった皆様、ご関心を寄せてくださった皆様には、改めて心より感謝致します。さて、9月上旬発送の予定をお伝えしておりました当プロジェクトの返礼品ですが、復刊冊子『三里塚とジンギスカン鍋』...

  • 2023/09/01 04:05

    こんにちは!下総御料牧場シンポジウム実行委員会事務局/プロジェクト運営者の山本佳典です。この度は、私たちのプロジェクトに関心を寄せてくださり、本当にありがとうございました。おかげさまで、目標として掲げた金額を達成することができました。達成の喜びとともに、多くの方々に支えていただいたことへの感謝...

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