はじめまして。兵庫県丹波篠山市でミツバチ農家をしております、ささやまビーファームの松村まなと申します。 私たち夫婦は大阪府池田市に住んでいたのですが、田舎暮らしにあこがれて15年ほど前に丹波篠山市に移り住みました。 丹波篠山の生活に慣れてきた、8年ほど前のある日 「養蜂をしてみたい」 と夫が切り出しました。移住して1年半で東大阪の夫の職場は不景気で倒産。介護の道を歩み、介護福祉士の資格も得た矢先のことでした。 当時私は兵庫県三田市で経理の仕事をしていました。 もちろん、この時には「仕事をしながら趣味で養蜂をする」と言っていましたが、当初から独立して養蜂をしたかったのでしょう。 最初、ミツバチさんの巣は2群。大切に育てて、初めて採れた蜂蜜のおいしさはいまでも忘れません。 黄金色に輝く、100%非加熱天然のハチミツは、ほかの何物にも代えがたい奥深い甘さでした。口いっぱいに花粉の香りが広がり、甘味が突き抜けます。 パンやヨーグルトにかけて食べるともう至福。砂糖をスーパーで買わなくても、こんなに甘いものが自然から手に入れることができるのか。初めて、自分でとったハチミツを舐めた時の感動は今も忘れることができません。 ほどなくして夫は、養蜂群を続々と増やしていき、2年後には介護の仕事もやめて独立しました。 翌年の春のことです。 「あんたとこの養蜂箱が大変なことになっとるで!」 近所の軽トラのおじさんからの通報を受け養蜂場に駆け付けると、養蜂箱は無残な姿になっていました。 猿のしわざです。 自然を相手にしていると、こういったトラブルはつきものです。熊に養蜂群を食べられたこともありました。そのたびに、せっかく積み上げてきたものが台無しになり、無力感に打ちのめされます。 ただ、2年前の被害はひどくて、しかも人為的にやられてしまったことでとても心が折れてしまいました。だれかが殺虫剤をまいたのだと思うのですが、生きている動物にそんな仕打ちを与えるなんて、本当に悲しくて仕方なかったです。 それでも、なんとかがんばって養蜂していたのですが、あの時の被害は予想以上に大きくて、なかなか元に戻らないままでいます。 また、天候や気温で採蜜の量も変わってきますし、天敵のオオスズメバチやダニが異常発生する年もあります。少し世話をサボると分蜂(蜂群が二つに分かれてしまうこと)して、半分どこかに飛んでいってしまいます。 ハチミツの収穫量はいざ採れるまで予想がつきません。だからこそ、大手が参入しにくいところがあるのでしょうし、やりがいがあります。 里山での仕事は、自然との戦いでもあり同時に協調でもあります。世話をかければかけるだけ、それに応えてくれる。一度した失敗は経験となり、次への財産となっていきます。 そして何より、ハチミツが収穫できた喜びは他に変えられません。 里山に自生する花の蜜は最初は糖度が非常に低く、それをミツバチが集めて羽根で乾燥させて糖度を上げていきます。糖度が十分上がるとフタをしてハチミツが完成します。一匹のミツバチが一生の間に採るハチミツの量は、わずかティースプーンに1/3ほどです。 もちろん、そのハチミツはミツバチのもの。 私たちはミツバチが採りすぎた分だけいただくことにしています。ミツバチが自分で採ったハチミツで子孫を繁栄できるように。そして大自然を相手に仕事ができることに喜びと誇りをもって。
支援者になっているプロジェクトはまだありません。