2019/08/12 20:01

「出雲大社の参道にある旅館の娘さんがメジャーデビューした」

という話を聞いたのは、中学の時のラジオの深夜放送だった。

地元ラジオBSSのディスクジョッキーが、音楽番組で話していた。

へえ、隣町の出雲から芸能人が出たのかと、うれしいのだけど、ちょっぴり不思議な感情だった。

不思議というのは、こんな田舎から芸能人が出るなんて、ホントに!?とまあ、そんな気分だった。

しかし、その後に流れてきた歌声は明るく初々しく、自然と近所の年上のお姉さんを応援するような心持ちで、ラジオに耳を傾けた。

 

出雲大社に、県外の誰かと来る時は、決まって、入口の鳥居の前に立ち、

「あの参道の竹野屋という旅館が、竹内まりやの実家だよ」

と説明して冒頭の中学の頃の自分のラジオのエピソードをよく話す。

「山下達郎も来たのかな?」

「そりゃそうだろう」

とそんな会話がありながら、出雲大社への道を歩いていくのだが、

その人が出雲大社のお社を遠くに見つける瞬間を決して邪魔しないようにと、

話に夢中になりすぎず気を付けて歩く。

 

「まるで古代!」

自分が大人になって改めて来た時、そんな感想を持った。

そびえる山の手前の、緑で茂る木の上にちょこんと現れたお社のバッテンになっている千木を見た時、それは一般の神社の感覚より、だいぶ高い所に見えていて、それだけで、ゾワゾワした感じが心の中に芽生え始め、なんだか古事記の世界へいざなわれるような、タイムスリップ的感覚に陥った。

自分が案内した人が、そんな風に感じてくれるかどうかはわからないが、とりあえず有名な出雲大社に参れたことに、みな満足そうに手を合わせる。

それを見ながら、案内して良かったなと思う、

が、その反面、

人差し指をワイパーみたいに左右に振って、舌で音を鳴らしたくなる自分がいる。

チョッチョッチョッチョッ、

やっぱり八重垣さんだろう!となっちゃうのだ。

 

八重垣神社、通称、八重垣さん。

どうも自分は出雲大社より八重垣さんをひいきにしてしまう。


自分の中学と高校の通学途中の田んぼの向こうの向こうに、

この神社は鎮座していた。

「今日、B男がA子に八重垣さんで告白するらしいゾ!」とか、

剣道着姿でドカドカこの神社までマラソンさせられたりとか、

まさしく自分の青春の風景の中に、

この神社はあった。


出雲王になったオオクニヌシノミコトが祭られている出雲大社に対し、

八重垣さんで祭られているのはヤマタノオロチを倒したスサノオノミコトであり、

神話でもっともスペクタクルな話の現場が、すぐ近くにあることも誇らしかった。


しかし、もし自分が出雲大社の近くで育ったら、思いは逆だったろうし、

ひょっとしたらこういう環境も人の性格を作る上で何らかの関係をしている

のかなと思ったりする。


 

先日松江に帰ったある夜の事だ。

昼間の猛暑から打って変わって、涼しげな月が出ていたので、深夜に散歩した。

実家から下駄の音をカランと小さく鳴らして歩くと、シーンと虫の音に導かれるように坂道を下り、小さなトンネルを抜け、この辺りを流れる用水路まで歩いた。

用水路には、水路に沿ってガマの穂が生えている。

因幡の白ウサギが皮をむしり取られて痛がって泣いているときに、

通りかかったオオクニヌシノミコトが真水で洗ってガマの穂で寝るといい

と言ったそのガマの穂だ。

昼間は魚が飛び跳ねたり、亀が親子で口を出していたり、蛇が飛び込んだりと、

生命の源を感じさせるその水路だが、夜は、虫の音と共にポチャンと静かだ。

群生するガマの穂を通してのぞき込むと水路に月が静かに揺れていた。

するといきなり、その月の横に人の顔が出た。


「何!?」横を振り向く。


そこには何とオオクニヌシノミコトがいた。

伝説の通り白い大きな袋を持ち、あの古代装束、そしてやけにいい男、

あの国宝級イケメンと呼ばれるあの兄ちゃんにそっくりだ。


「あんた、オオクニヌシノミコト?」

「いかにもそうだよ。」

ニカっと笑い白い歯が月にキラリ、不覚にもクラッときた。

「君は今、シマネジェットフェスという祭事で、日本中、世界中の人を

集めようとしていると聞くが本当かい?」

「ああ、そうだ!」

「では君に頼みがある。」

「エッ!」古代の出雲王からの頼みに、一瞬たじろいだ。

満面の笑みをたたえ、アイドルにも似たその顔が力強く言い放つ。

「古代出雲王朝を復活させてくれないか?」

「古代出雲王朝!?」

「そうだ、かつてこの国に君臨したスーパー王朝、古代出雲王朝だ。

復活させて独立するんだ。」

「いや、自分は、自分の王朝を持つとか、そこまで考えてはいない。」

「はは、君が僕の義父のスサノオにばかり肩入れしている事は知っている。

だから、肝っ玉が小さい。彼は豪傑だったが、結局はこの国を統一できなかった。」

「肝っ玉が小さいかどうかは知らないが、統一、復活云々にオレは興味ない!」

不覚にも声が荒がってしまった。

そこを狙っていたのか、自分のしゃべりが終わるかどうかで彼はこう出た

「じゃあ勝負しよう!」

「あほらしい!」ときびすを返し戻ろうとすると、

彼はすかさず自分の正面に回りこみ、通せんぼをするので、

構わず右を抜けようとすると、彼も右、左に抜けようとすると彼も左、

だんだんラグビーの様になってきて、

「そう言えば、もうすぐ日本ではラグビーのワールドカップだな」

なんて全然関係ないことが頭によぎらせながら、

「いい加減にしてくれ!」

と彼を押しのけて通ろうとした瞬間、

オオクニヌシは、フワッと体をかわし、オレは水路にボチャ~ン!と落ちた。

すると頭の上に、夜の空気に澄んだでっかい笑い声が鳴り響いた、

瞬間ムカー!オレは水路から飛び上がるかのように、オオクニヌシに飛びかかった。

すると彼は、長い棒を持っていてオレの腹に突き立てる、

そしてオレの腹をかき回して、再びオレを水路に落とした。

「うぎゃあ!」と悲鳴を立てる自分、

長い棒からしぶきが飛び、それが空中に飛び、小さな島が空中に浮かぶ。

「どうだい、君のお腹をかきまわして作ったしぶきの島だ」

オオクニヌシはその棒をこちらに掲げながら、

「これはイザナギイザナミが、世界を作る時、地上をドロドロにしてかき回し、

はねたしぶきで日本列島を作ったあの棒だよ!」

「なんと!?」

何を言っているかさっぱりわからんが、とりあえず空中に浮かぶオレの腹の島に

念波を送ってみた。

案の定、思った通りその島は空中を飛びオレの側までやってきたので、

オレはその島に飛び乗った。

ビュ~ン空高く一気に登ると、遠く中海まで見えた。

「ちくしょう、オオクニヌシはどこだ?」

「はは、畜生なんて言葉を使っちゃいけないね」

「何!」見上げると、ちょっと高いところでオオクニヌシも

あの白い大袋を背中にしょいながら小さな島に乗っていて、

相変わらずオレに微笑みをたたえながら睥睨してやがる。

「古代出雲王朝の復活の話に乗ってくれるかい?」

「そんなのオレは興味がない!」とすかさず下駄を手にして

オオクニヌシに剛速球で投げつけた

「カ~ン」鬼太郎の下駄ばりに彼の額に直撃したので、

逆にびっくりして彼を見守ると、オオクニヌシはそのまま真っ逆さまに

宍道湖に落ちていった。

助けた方が良いかと、今度は急降下で、彼を追うと間に合わず

「バッシャ~ン」

大きな水しぶきをあげ、それが空浮く雲まで飛んだ。

白いしぶきのもやができ、それが晴れてきた時、なんとそこには、

巨大化したオオクニヌシが宍道湖のど真ん中で、

ゴジラ、いや、大魔神の様に立っていた。

オレはあっけにとられたその瞬間、オオクニヌシの手が振り回され

オレに直撃して、オレも真っ逆さまで「バッシャ~ン」立ち上がると

自分も宍道湖の上で巨大化していた。

 

宍道湖に浮かぶ嫁ヶ島をはさみ対峙する巨大生物のオレとオオクニヌシ。     

彼の額はパックリ割れ、大粒の血がしたたり落ちていた。

そんなに落ちるとシジミが大丈夫かいなと思いながら、彼の目からは

先ほどまでの余裕の表情は消え、何としてもオレに一発浴びせないと

気が済まないような表情になっていた。

遠く出雲の方から宍道湖の波がキラッと月明かりと共に揺れた瞬間、

二つの巨大生物は湖を走り、ジャンプ一閃でお互いにキックを浴びせようとするが、空振りですれ違い、振り向き様にチョップを浴びせようとすると、

オオクニヌシは、白い大袋をこちらに向けるやいなや、その中から何かを発射する。「うわあ!」と発射された物がオレの身体にまとわりつき、囓る囓る、

何だと見ると何匹もの因幡の白ウサギであった。

やはり白ウサギはオオクニヌシの味方かと思いながら、なんとかせにゃと頭を巡らせていると、オオクニヌシは今度は剣を持ち、オレに斬りかかる。

「これは君の好きなスサノオ義父から奪った、生大刀だ!くらえ!」

これはやばいとオレは背後にひっくり返り、頭の上の宍道湖大橋をもぎ取って

頭で受けた。

「バキ~ン」

火花が水郷祭の花火の様にあがる、すかさず立ち上がるオレに向かい、

再び彼が大上段から振り下ろしてきたので、オレは、宍道湖大橋を水平に持ち替え、チョウっとオオクニヌシの脇を打った。

「それまで!」

天のどこからか聞こえてきた。

気がつくと、オオクニヌシの大刀も自分の脳天をとらえていて、

頭の一部から血が滴っていた。ああ、オレの血まで滴って、シジミ大丈夫かなと思いながら、二人は剣を納めたというか、自分は、宍道湖大橋を元の場所にくっつけた。

やれやれとびしょ濡れになった身体を見ると、いつの間にかウサギは消え、オオクニヌシもいなかった。ハッと宍道湖の空の上遠くに光が遠ざかっていくところで、

もしやあれがっと思って見ていると。

「セイジ!古代出雲王朝の復活をヨロシクな!」

という声が聞こえてきた。

自分の身体もいつの間にか元にもどっていて、用水路に戻ると、

傷口に因幡の白ウサギのまねをして、ガマの穂をあてながら、家に戻って寝た。

 

朝起きると、あてていたはずのガマの穂はなく、用水路に行ってみると、

またもの凄い猛暑で、昨夜の静けさは全くなかった。

「よし!今日はジェットフェスのミーティングだ」と思う反面、

「オオクニヌシノミコトは、結構良い奴だったな」と思った。


 

オオクニヌシノミコトに頼まれた、古代出雲王朝の復活、

そう言われても、どうすればいいか?

でもこういう事ではないかと。


シマネジェットフェスに世界の耳目を集め、みんなが楽しくなれる場所を作れば、

現代の古代出雲王朝の復活になるのかと思い、日々 活動をしています。

 

活動報告byセイジ