『宍道湖の花火大会”水郷祭”の時は、「松江にこぎゃん人がおるかや!?」と驚愕するほど湖の東側をぶっとく人が囲む。
夜の湖から、ヒュ~っと笛をならしたような音があがり、来るソ来るゾと夜空のどこかを見上げると、ドッカ~ンと破裂音!
いきなり瞼の隅々まで光が映り、わあっと気持ちまで明るく照らされると、ぱらぱらとあられを巻いたような音にゾクゾクっとする。
次第に花火は圧巻となり、夜空が真っ白くなる程の花火の連続に、なんだかボーっと頭をゆだねると、次第に昔の記憶がにじんで来て、だんだんそれが花火に重なり、ああ、やっぱり宍道湖の花火って最高だなとしばし、恍惚のような気持ちになる。
なんだかセンチで恥ずかしいが、こんな気持ちで花火を見られるようになったのは、大人になった今だからと思っている。
ガキの頃は、花火を見ながら、花火を見てなかった。
花火大会は、たいがい7月の終わりか8月の頭にあるので、子供たちにとって夏休み真っ最中だ。
夏休みと言っても、普段の日は、午前のプールから帰ったら、友達と約束して、近所の天神さんで遊んだり、涼しい商店街をうろついたりだったが、何にもない日も多く、時間を持て余す日が多かった。何かないかなとうっかり外へ出ると、そこは太陽がジリジリする全く人影もない白昼の道路で、虚しさと同時に白昼のお化けにでも会いそうで、少し怖くなり家にもどったりした。
だが、花火の日は昼間から屋台が並びだし、町がにわかに活気づきだす。
子供たちは、勢いをつけて、とりあえず町に繰り出した。
自分の小学校は、3階の窓から花火の場所が見える宍道湖湖岸に建っていたので、昼間から出ている子供は、大抵顔見知りが多かった。
なので、みんなキョロキョロして、なんだか上の空だ。
夜になっても同じで、花火を見ることは見るが、興味は屋台だったり、時たますれ違う友達や、高学年になってやたらと意識しだした女の子達だった。
それは中高になると、ますますひどくなり、まともに花火を見ていない。
一度、中学生の時、女の子と見たこともある。
会話もなく、それでいてあがる花火には「あー!」とか「おー!」とか反応していたが、実は花火より、腰かけた道のコンクリートの縁に体を支えるようにして置かれた女の子の白い手が気になっていた。
東京に出るまで、毎年何かしら繰り出していた宍道湖の花火であったが、
そこにいた自分は、いつも悶々とした物体で、湖岸に植えられた松の木の間を歩きながら、横顔に花火の真っ白い光を浴びて、足元のシャドウを歩いていた。
しかし一度だけはっきり、「あれを見た!」と目の焦点が合った日がある。
松江は北側と南側に分かれていて、その真ん中を大橋川が流れている。
流れ出たところに宍道湖があり、その際にアーチ形の宍道湖大橋という自分が小学校の頃に架けられた橋がある。
当時宍道湖大橋の南側のたもとには料金所があり、その横にでっかい緑地があった。
小学生の頃は、放課後そこでよく野球をやっていた。
高校生になった花火大会の日、その日は午前中は授業があり、その後、仲間と繰り出した。
すると、その緑地にでっかいステージが北側に向かって設けられている。
自分たちは、南側からやって来たので、そのステージの背中が見えるが、やたらとガチャガチャでっかい音が鳴っている。
「なんだなんだ!?」とそのステージにピタッと目を付けたまま宍道湖大橋の途中まで歩いて回り込むと、ステージには、楽器を持った3人組の男がいた。
楽器に向かって叩きつけるように手を動かしている。
「この爆音は、本当にあの手元のギターから出ているのだろうか?」
生まれて初めて見たロックバンドだった。
激しいエネルギーを発しながら、ロックをかき鳴らしている。
この松江にこんなカルチャーがあったのか!?
衝撃だった。
キョロキョロしていた気分もぶっ飛び、眼孔が網膜まで空き、そして自問する。
「自分にこれができるか!」
目の前のバンドは、何度も飛び跳ね激しくシャウトする。
「絶対にできない!」
全く自信がなかった。その代わり悔しさみたいなものが沸々と体の中に湧き出るような気がして、その時、自分の中に、何かが生まれていた。
自分は今、ギターウルフというロックバンドをやっているが、直接ロックバンドをやりだした理由は、この後の東京に出てからであって、この時彼らを見たからではないように感じる。もちろん少しは関係はしているだろうが、それよりもこの時、彼らからもらったのは、衝撃だ。自分の未来を激しくする為に欲していた衝撃をこの時もらった気がする。
人それぞれ、自分の心に染みる花火があると思う。
自分にとってはそれが、宍道湖の花火です。
それは、この場所で過ごしてきたいろんな想いが夜空の花火に重なって、はかなく消えていくからだと思う。
宍道湖の花火は最高です。』
自分が経験した花火大会の、東京に出る前の出来事です。
それは衝撃を受けて、自分の心がジェットになった瞬間!
あの頃の自分のように、心の中の何かがポンっと破裂するような出来事を誰かにプレゼントしたいと思ってシマネジェットフェスの活動を日々やっております。
ギターウルフセイジ 活動報告