2019/12/02 19:22

<第2回>クラウドファンディング(その2)

 最初に審査出願した会社の反応は、悪くは無かった。サンプルの写真を始めとする関係資料を送付し、書類の審査は無事通過した。次は電話での聞き取りという事だった。しかしこの電話審査で、思いもよらない質問を受け、私は困惑した。

 先方は、「この商品の金型はもう、ありますか?」と尋ねて来たのだ。…え、当然ながらまだありませんよ、その資金を集める為のプロジェクト申請ですからね。…単なる進捗状況の確認ぐらいに軽く考え、こちらとしては当たり前に「いえ、まだです」と回答を返したつもりが、それに対する先方の応答は想定外のものだった。「もうすでに金型があれば、決裁は通ると思うんですけどね…この募集金額だと高額なので…(まず達成しないですからねぇ…)、どうでしょう、もしくは(金型の有無は問わないとして)支援者数の目標を20~30人に設定すれば、決裁は通ると思うんですけど。」… 
 え?、私は金型を要するプロダクトの、原価構造や損益分岐点の講義を始めたい衝動にかられたが、かろうじて踏みとどまった。どうやら、先方もそんな事は百も承知と思われる。

 つまり先方は、プロジェクトの達成率をこそ、自社の最優先指標としているようなのだ。その為、プロジェクトの目標値も人数で言えば20~30人、金額で言えば10~20万円程度で設定出来るプロジェクトを求めているようなのだ。
 これはつまり、この会社のクラウドファンディングは、商品を開発する為にここでお金を集めたいという案件を支援するというよりも、既に開発済み(金型投資済み)商品に、先行販売プロモーションの場を提供し、余裕のある目標設定で「プロジェクト達成!」という惹句を提案者に供する事を支援とし、ひいては自社の価値とするスタイルであったのだ。

 この有りようをみて、私は90年代前半の任天堂スーパーファミコンとプレイステーションの関係性をふと思い出した。スーファミでゲームを販売する事は、ROMカセットの製造費が高価であった為、参入障壁が高かった。そこへ現れたのがCD-ROMを媒体とする(厳密にはCD-ROMとイコールではないけど)プレイステーションであった。CD-ROMは原盤作成費やプレス代などが数十万円単位で行えることから多くのサードパーティーも参加する事が出来、クソゲーもそれなりに多かったけれども、スーファミ時代には世に出られなかった斬新なタイトルも輩出した。ゲームビジネスの敷居を低くし、間口を拡げたのだ。私はクラウドファンディングに、かつてのプレイステーションのような「チャレンジの場」を夢見ていた。でもそうじゃないクラウドファンディングもあったのだ。<続く>