▼エル・システマとの出会い
「芸術が、社会に、弱者に、子どもに、病めるもの、弱きものに奉仕し、 正義のために声を挙げる者たちを支えますように」
これは42年前に、スラムなどの貧困にある子どもたちを音楽に触れさせるために、誰でも無料で受けられる音楽教育プログラム「エル・システマ」を創設したマエストロ・ホセ・アントニオ・アブレウ氏の言葉です。
彼の始めた「エル・システマ」は、今は国内に70万人の音楽家をうみ、さらに世界へと広がっています。アブレウ氏によれば、貧困の一番恐ろしいことは「自分が何者でもない」と感じることだといいます。社会において自分の尊厳を失うことは何よりも子どもの心を蝕みます。そこで、音楽が非常に重要な役割を果たします。
「音楽に触れることが、人間のあらゆる側面の発達の源になり、魂が高揚します。そして、子どもの個性が最大限に発達するよう導くことが出来るのです。」アブレウ氏の教育への想いと理念は、イデオロギーや宗教、国境を越えて世界中で共感を集めています。
(2012年、アブレウ氏がピースボートに乗船したときの写真)
私(松村)がエルシステマに出会ったのは11年前、NGOピースボートのベネズエラ寄港の準備で訪問した時のことでした。設備が整っているとは言えない場所で、身なりからスラムの住民と想像できる子どもが、バイオリンを真剣に弾く姿から目が離せませんでした。気づいたことは、彼らがとても規律正しいことでした。エル・システマの特徴の一つが、規律や協調性、そしてプログラムに関わる家族を巻き込み、子どもを通じて社会参加を促すことでもあります。
(ラグアイア州にある音楽練習所。貧困層の多い地区にも関わらず、国際的に活躍する音楽家を選出しています)
エリートでもなく、階級も肌の色も関係なく、音楽を奏でたいすべての人に開かれている社会に、心から驚きました。そんな、エル・システマに惚れ込み、ピースボートとエル・システマの交流プログラムを始めました。さらに、ベネズエラを訪問する際には、出航前から集め船に積み込んだ、たくさんの楽器を届ける支援活動も始めました。
(日本でおなじみのリコーダーや鍵盤ハーモニカ。音階を始めた子どもクラスで使われます)
しかし、現在のベネズエラは非常に危機的な状況です。エル・システマがうんだ世界的指揮者グスターボ・ドゥダメルのメッセージを引用します。
「私の愛するベネズエラは、現在、危機的状況におかれています。人々は、食べるもの、薬、生活に必要なものを探し求め、日々暮らしています。生活必需品に手が届かない時、どうやって音楽や芸術を楽しむお金を手に入れたらいいのでしょうか。
芸術は魂を養います。子どもたちは、未来へつながる橋をデザインするために建築を学び、その基本を計算するために上手に数学を利用します。サイエンスを通して人間性を養い、筋力をつけ、スポーツを通して体の限界について知るでしょう。芸術も同じように命に関わるもの。芸術がなければ、人間性を鈍らせてしまいます。そこを理解すべきなのです」
(山の斜面にびっしりと建てられたカラカスのスラム街。エル・システマはスラムの人々も巻き込みます)
▼このプロジェクトで実現したいこと
「困難にある未来を担う若手音楽家たちに、希望に満ちた体験をさせたい!」
そのために、
・ピースボートで国際交流の船旅体験
・船で訪れる世界の国々での演奏活動
・訪れた国や、船の中でエル・システマの理念を広げる
・日本や世界の異文化を体験、多様性を肌で感じる
・広島・長崎のヒバクシャや戦争体験者とのセッション
・船の中で音楽練習所の立ち上げ、乗船客と音楽の素晴らしさを共有 など
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これらの全てが、彼らが困難な状況で音楽活動を続けていくための糧となり、次の世代へと受け継がれます。
今回、来日するオーケストラグループは「カラカス市民管弦楽団」の若手音楽家20名です。ベネズエラの首都・カラカスを拠点に、市内のコンサート・ホールに加え、教育機関や社会福祉施設、広場や病院などで演奏活動を行っています。団員の9割は「エル・システマ」出身で、現在はプレイヤーであり次の世代を育てる教育者でもあります。
(正装したメンバーたち、カラカス市内とアビラ山をバックに)
彼らは、ピースボート地球一周の船旅でベネズエラまで乗船し、各地で演奏活動を行います。
<寄港地>2017年4月出航
シンガポール、タイ、スリランカ、ギリシャ、イタリア、スペイン、フランス、デンマーク、ラトビア、ロシア、フィンランド、エストニア、スウェーデン、ノルウェー、アイルランド、ハミルトン(バーミューダ諸島)など
ベネズエラは国として非核宣言をし、核兵器廃絶へも積極的に関わっています。寄港地では、世界各国で広島・長崎のヒバクシャと継承者が核兵器廃絶を訴える「おりづるプロジェクト」と一緒に、証言会で演奏も行います。
▼これまでの活動
ピースボートはこれまで、ベネズエラのエル・システマの若手音楽家たちを、色々な形で船へ招待してきました。船では、初めて触れる日本文化、日本語はもちろん、和食や茶道、書道などを通じて、異文化体験を行いました。また、洋上の音楽練習所を立ち上げ、オーケストラ初心者の日本人乗客に楽器を教え演奏会を催しました。2016年夏には、ベネズエラから横浜までの船旅を実現させました。以下のビデオでは船内の様子が見られます。
▼資金の使い道
・各寄港地での演奏会費用
・楽器の修理代(メンバーの楽器の他、団員の修理費にも当てられます)
・楽器アクセサリー(弦、リードなど、輸入品で高額でなかなか手にはいりません)
※プロジェクトは目標金額達成にかかわらず実行されます。資金は、今後の持続可能な活動のためにも必要です。音楽家たちに世界を見てもらう活動を続けたいと考えています。
▼最後に
現在、経済的に厳しい状況下で、楽器や弦、リードなどが手に入りにくくなったベネズエラでは、弦を結んでつないだり、リードを削って使い回したり、工夫を凝らしながら、若者たちは音楽活動を続けています。
彼らの来日と船旅への参加は、ベネズエラの多くの子ども演奏家を勇気づけます。困難な状況にいるからこそ、音楽が生かされる例を生み出したいと考えます。ベ ネズエラ音楽教育システムの理念は「Inclusion Social(社会全体で取り組むこと)」です。多くの皆さんのご協力をお願いいたします。
(地方の練習所にて。子どもたちはどこに住んでいても、情熱を持った先生たちの指導を受けることができます)
最新の活動報告
もっと見るオーケストラのメンバーが到着しています!
2017/04/01 09:253月30日、第一陣(弦楽器)が到着しました! 50時間4回乗り換えの長いフライトで真夜中に到着しましたが、みんな元気でやる気まんまんです。日本では、大使館主催のリサイタルに加え、大阪、神戸、横浜、東京でコンサートを行います! もっと見る
けやきの森のリサイタルの詳細決まりました!
2017/03/17 17:124月11日は、練馬区にあるけやきの森に静かにたたずむ築150年あまりの古民家で木管カルテット(四重奏)のリサイタルを開催します。東京で、エル・システマの公演を聞けるチャンスです。明るく、そしてどこか懐かしいベネズエラ音楽をお楽しみください。 <演奏者>マリア・ニュネス/MARÍA NUÑEZ (フルート)ヘスス・ガブリエル/ JESÚS ANTÓN (クラリネット)カロリーナ・プラド/CAROLINA PRADO (オーボエ)オリベル・ロペス/OLIVER LOPEZ (ファゴット) 日時:4月11日(火)18:00開演(17:30開場)場所:けやきの森の季楽堂参加費:2,000円(要予約・先着30名)イベント詳細・予約はこちらから → http://peaceboat.org/18708.html もっと見る
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