ゲルニカの旗 1 高尾五郎 1 私はまた時計をみた。パリ行のエール・フランスに搭乗するまであと一時間あまりある。読むのでもなく、ただ開いているだけの文庫本を、膝の上に置いて、広いロビーを行き来する人の波を見回した。秀雄はやっ...
決闘 1 高尾五郎 その日の朝、教室に入ると、コンタがこれが黙ってられるかといわんばかりに、「昨日さ、南小のやつらが城南公園で遊んでやがったからさ、やつらにけりいれてやったんだ」 ぼくは「うそ、けりかよ、まじに」と応じた...
日本の川下り 高尾五郎 その川下りが父と母の離婚ツーリングだなんて、そのときは知るよしもなかった。私の一家はちょっとかわっていた。というのもときどき学校を休んで一家そろって川下りにでかけるのだ。ゴールデンウィークとか夏休みとかは問題...
二十年前に去っていった須賀敦子が投じた宿題だった あるとき、須賀敦子さんと対話しているときに、この「谷根千」の活動が話題になった。須賀さんと森まゆみさんとは深い交流があるらしく、森さんが新刊を出すたびにその本が送られてくる、彼女の本が...
大雪の日のゼームス坂 高尾五郎 R・シュトラウスに「四つの最後の歌」という作品がある。オーケストラをしたがえて、この歌を歌うのは、ソプラノ歌手にとってかぎりない憧れだった。しかしこの曲は、どんなに力量があっても若くては歌えない。二...