平井はいよいよ柚子の収穫が始まりました!今回のトピックは次の通りです。
・林道の進捗
・高性能林業機械の見学
・種子採集の続き
・令和3年度版森林・林業基本計画の解説
林道の進捗
室さん、千井さんのご協力で林道がだいぶ伸びてきました。雨の合間を縫っての作業にも拘らず、立派な道になり始めています!今回の実験だけでなく、今後数十年、数百年?使えるような立派な道になると嬉しいですね!僕の調査地へのアクセスも格段に向上するので、実習等での活躍にも期待です。
高性能林業機械
以前林道の話をした際に、林業機械の効率について下のような図面でご説明しました。ハーベスタ等の高性能林業機械も、システムをしっかり熟考しなければ、かえってコストがかかってしまうことがあるという話でしたね。
この絵に出てきた林業機械の写真を撮ることが出来たので、お見せしたいと思います。
まずは絵にもあったフォワーダです。後ろの荷台に木材を積んで、ある程度のデコボコ道も往来することが可能です。キャタピラが付いているこのようなタイプをクローラ式と呼びます。安定的な走行が可能という長所と引き換えに、あまりスピードが出ないのが欠点だそうです。これに対し、トラックのような大きなタイヤを付けたフォワーダをホイール式と呼びます。走行速度が速く、山梨県で行われた検証実験では950mの路網運搬において70%の輸送時間短縮が可能になったという報告もあります。その結果、1.5倍の生産性と燃費も2/3に抑えられたそうです※1。では、悪路は厳しいのかというと必ずしもそうではないようで、使いようによってはクローラの上位互換としての利用も可能なようです。また、ホイール式の方が設置面積が少ないぶん、路面への圧力が大きくなり路面を痛めやすいという指摘もありますが、これも地質等の条件によるようです。この写真を撮る際に教えていただいた方の話では、クローラ式は大面積をひっくり返しながら進むので道が荒れやすいとのことでした。ようは場所によって使い分けが必要と言うことのようですね。
続いてこちらが、枝払い、玉切り、集積まで可能なプロセッサです。
こちらが立木を切る際のチェーンソーです。左右についている大きな爪で抱きかかえるようにしてしっかりと立木を固定して切ります。
こちらは新しいハーベスタだそうです。安くても お値段数千万円です!先ほどのプロセッサも同じですが、運転席に注目すると鉄格子のようなもので守られていることが分かります。これは造材作業中に運転席に丸太が突入してしまった事故の教訓から設置されたもので、運転手を誤操作による災害から守っている構造になります。
枝払いをするのは、この黄色い部分の刃です。丸太をすごい勢いで送り出す際に、枝がこの刃に当たりそぎ落とされます。
お次はスイングヤーダ―という架線集材用の林業機械です。なかなか街で暮らしてると聞きなれない名前かもしれませんが、急峻な地形の日本ではかなり重要な機械の一つと言えます。操縦室の左についているワイヤーを使って林内から伐倒木を引き出したり、逆に荷物を送ったりする役目を持っています。このスイングヤーダ―とプロセッサ、フォワーダを組み合わせれば、急傾斜地でもそこそこ高い生産性となります。
実際にこれらの機械を組合せて素材生産の一連の流れを見せて頂いたので、次回以降にご紹介できればと思います。
北欧の林業学校で使われるシュミレーター
さて、ハーベスタの見学後、運転シュミレーションの体験もさせて頂きました。この機械は、北欧の林業学校で実際に練習・テスト用に用いられているそうです。お値段なんと400万円!しかし価格相応のリアルさを追求していて、伐倒方向を誤るとかかり木を起こしたり、谷へ木材が転がって言ったりしました。以前紹介したスマホ版のシュミレーションとは大違いですね。
数えきれないぐらいのボタンがあって、操作を覚えるのですら大変です…。それでも、人力で全てやるよりは圧倒的に早いということは十分体験できました。
種子採集の続き
さて研究林では、まだまだ集めたい樹種があったので山のあちこちで拾い集めてきました。下の写真はモミの種子。松ぼっくりならぬモミぼっくりです。前回は虫との戦いでしたが、こちらのモミぼっくりはリスに人気です。リスにかじられて芯だけ残った通称”エビフライ”を見かけることがよくあります。
続いてこちらはヒメシャラ。個人的に材の色が好きな種の一つです。クラウドファンディングのリターンでコースターを選択された方の中には、ヒメシャラの方もいらっしゃると思います。程よい温かみのある色が良いですよね!天然林や二次林ではそこそこ大きい個体をよく見かけますが、ほとんど実生を見たことが無いのでもしかすると天敵が関係しているのかもしれません。
次はタカノツメです。こちらは逆に人工林内で実生をよく見かけますが、大径木は今のところ一回しか見たことがありませんでした。スパイシーな独特な香りがする木で、三出複葉という特徴的な葉っぱを持っています。
その三出複葉がこちらです。以前カラスザンショウの葉っぱを紹介したときに複葉についてお話したと思いますが、カラスザンショウと一緒でタカノツメもこれで一枚の葉っぱになっています。モミジの切れ込みがどんどん深くなっていったようなイメージです。
その証拠ではありませんが、分裂過程がイメージできるような葉っぱも付いていました。下の写真は同じ個体から取った葉っぱで、それぞれ全体で1枚の葉っぱを形成しています。真ん中の葉っぱの右下らへんを見て頂くと、なんとなく膨らみが大きくなって、分裂しそうに見えませんか?こんな感じで分かれてしまった成れの果てが一番右の形です。(※あくまでイメージです)
森林・林業基本計画
さて話は変わって今年6月に新森林・林業基本計画が閣議決定されました。そのうち紹介しようと思って忘れていたので、忘れないうちにご紹介したいと思います。
森林・林業基本計画とは日本の森林と林業の施策の基本的方針を定めるもので、5年ごとに変更が行われています。この変更は森林法に則って、国の森林整備と保全の方向性を定める全国森林計画に反映されます。全国森林計画は5年おきに15年計画で立てられ、国有林の地域別森林計画や、都道府県の森林施策の方向性を定める地域森林計画へ反映され、最終的に市町村の森林整備計画や森林所有者の経営計画まで反映されることになります。言わば、日本の森林の方向性を指し示す親分的な存在です。
今回の変更は令和3年開始の基本計画です。前回(平成28年度)の基本計画では伐期を迎えた人工林をどのように利用していくかに焦点が当てられ、林業と木材産業の成長産業化の推進がテーマとなっていました。そのため、原木の安定供給体制や木材産業の競争力確保、木材需要の創出が施策の主軸となっています。
一方で今回の計画では、林業や木材産業の成長発展に加え持続性にも焦点を当てているのが見て取れます。また、脱炭素社会に向けた森林の位置づけも意識した内容となっていると言えるでしょう。
まず前回計画からの課題として次のような点が挙がっています。
・皆伐地の再造林
・気候変動による災害の激甚化
・林業従事者不足⇒省力化の必要性の増加
・木材品質管理の徹底
・住宅需要の不透明性⇒人口減少とコロナ
・脱炭素社会実現へ向けた社会の変化
以上の課題を解決するため、要約では大きく次の3つの施策が示されていました。
①森林の有する多面的な機能に関する施策
②林業の持続的かつ健全な発展に関する施策
③林産物の供給および利用の確保に関する施策
(※補助的・横断的項目として国有林野活用による地域振興や、林業DXの推進、東日本大震災からの復興・創成なども挙げられている。)
一つずつ詳しく見ていきましょう。
①森林の有する多面的な機能に関する施策
多面的機能の発揮のための施策です。恐らくこの項目において今回のポイントとなっているのは、脱炭素化におけるエリートツリーの活用や、木材利用による炭素貯留などが加えられている点でしょう。エリートツリーの活用は、そのまま林業の収益性アップにもつながりますし、依然紹介したようにゲノム編集技術開発も加速しているため、樹木生理分野での林業改革に期待したいポイントですね。
また、気候変動対策としては土砂災害時の流木の問題に関連し流木補足式治山ダムの文言が書かれていたのが印象的です。樹木の表土保全機能が注目され、その機能に目が行きがちですが、深層崩壊などにより流れ出した樹木は、橋などの河川周辺の構造物を破壊する要因にもなります。そのため、流木対策は気候変動において重要な課題となっているようです。
また、山村価値の創出においては、森林サービス産業による所得確保の機会創出という文言がありました。コロナ禍でテレワークが加速した今、ワーケーションの需要などが増加すると見込まれるため、森林の潜在的な経済的価値が発掘されるかもしれませんね。和歌山では白浜町や田辺市が積極的な姿勢を見せているようで、活力のある地方都市になるか期待が高まります。
最後に複層林において環境贈与税の利用という文言が加えられていたことも特筆すべき点です。2024年の森林環境税に先立ち2019年から開始された森林環境譲与税を受けての改変になります。今後5年では、多様性の高い森林における経済性価値の創出はまだ起きにくかもしれないので、公費によって森づくりの方向性を決定することは重要でしょう。ですが、あと10年か20年ぐらいすると、多様性クレジットのシステムが本格化すると考えられます。そうなったとき、「経済的価値のある森林の形」が大きく変わるんじゃないかな?と僕は思っているので、環境譲与税による複層林施業において、多様性クレジットを意識した森づくりのノウハウを蓄積しておく必要があると思いました。
②林業の持続的かつ健全な発展に関する施策
林業の持続性についての項目です。ポイントとして2つが挙げられていました。一つは林業の労働環境における持続可能性の整備。もう一つは、伐採と再造林による資源面での持続性を可能とする経営体の育成です。
まず後者を達成するための課題として、生産コスト低減による収益性のアップに焦点が当てられていました。造林経費においてはドローンによる苗木運搬、自動林業機械による省力化。立木販売においては、ICTを活用した生産流通管理の効率化などが施策として挙げられています。また以前と同様に、集約化や効率的な作業システムの導入も継続的な課題となっています。
安定的な経営と言う面では、長期施業委託や経営管理権の設定などが挙げられていました。森林経営管理法によって意欲のある事業体への管理委託が始まりましたが、その先の施策ともいえるかもしれません。また、事業体連携や民間事業体の法人化・協業化の促進も、作業の集約化による安定的な経営という意味では欠かせません。
さらに、安定的な経営に欠かせないのが人材育成と、その労働環境の整備です。林業では慢性的な人材不足に陥っているため、コストをかけてでも人材育成・確保へコストを行う必要があります。また、就業したとしても、労働環境が劣悪では元も子もありません。
丁度今月、和歌山で1週間に3人も林業関係で死者が出るということがありました。劣悪な労働環境が露わになった問題といえるでしょう。今回の基本計画では10年後の死傷年千人率を半減という目標と、労働安全対策の強化と書かれていましたが、しわ寄せが現場で災害として浮彫になる実態を把握し、収益性と安全性のトレードオフを見つめ直した施策が必要のように思います。効率の重視される木材生産のみが収益源として拡大してしまえば、問題は悪化するかもしれません。砂防や文化的サービスなど多様な経済的価値づけをすることで、同じ仕事量でも生産性が高く評価されるシステムを作るなどの変革が必要なのではないでしょうか。
賃金においては、通年雇用による他産業並みの所得確保が課題となっています。生命の危険と隣合わせなうえに所得も低い産業では魅力が下がってしまうのも致し方ありません。慢性的な従事者不足の改善、そのための労働環境の整備こそが今最優先に解決すべき課題といえるでしょう。
③林産物の供給および利用の確保に関する施策
木材利用にかかる分野の項目です。大きく次の3つに分類されています。
1. 原木の安定供給
2. 木材産業の競争力強化
3. 新たな木材需要の獲得
原木の安定供給では依然として最適な生産流通モデルの構築が課題のようです。森林経営管理制度による林地の集約化も、まだ始まったばかりなのでこれからが本番と言ったところでしょうか。木材産業の競争力という点では、JAS・KD材※、集成材の低コスト安定供給体制を整備し、輸出拡大を見込んだ低コスト安定供給体制の構築を掲げています。海外販路の拡大は新たな木材需要の創出という点でも重要です。ロシアの丸太の輸出規制が厳しさを増す中、ロシアに依存していた中国が日本の丸太輸出に注目していますが、ここで付加価値を付けずに丸太を売ってしまうのかどうかよく考えておく必要があるかもしれません。
また広葉樹家具など多様なニーズに応えることができる中小地場工場を活用して、多品目製品の供給体制も並立するという話題もありました。前回の基本計画策定以降、木材加工工場は大規模化が進み、中小地場工場が減少しています。しかし、各々が異なる役割を持つことで、共存を可能にし、しかも全体として広い需要をカバーするというアイデアということでしょう。
※
・AD材(air dried lumber):自然乾燥された木材。手間と時間がかかる。木の収縮が起こりやすいが、乾燥過程で脂を損なわないため粘りが維持され長期的(50年以上)な耐久性に優れているらしい。詳しいことはまた今度調べてみます。
・KD材(kiln dried lumber):人工的に熱を用いて乾燥させた材。割れや反りは起きにくいが、乾燥過程で脂を損なうため粘りが失われるらしい。以下同文
※1平成26年度岩手県事業 地域けん引型作業システム改善実証調査事業 先進的な作業システム改善の取り組み