「僕がパントマイムを続けたい理由」
メンバーからのメッセージ 金子聡
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40歳の時、視力を失いました。
働くこと、移動すること、食べること、良好な人間関係を作ること、etc・・・。
全てにトレーニングが必要でした。
社交的で割り切り上手、さばさばした性格の僕ですら、
穏やかな日常を取り戻すのに、5年以上かかってしまいました。
初めてこころに余裕ができたとき、「楽しい」ことを自分自身で手に入れたい、
そう思い、お稽古事を探すことにしました。
50の手習いというじゃないか、タイミングがいいじゃん!
人生すったもんだしたけど、結果オーライですよね。
しかし、世の中は想像以上に厳しかった、冷たかったんです。
ヒップホップダンス、ボクササイズ、ヒューマンビートボックス、アルゼンチンタンゴ、タップダンス・・・
通学可能な範囲で様々なお稽古事を探し問い合わせたけれども、
「目が見えない人を指導したことがないので、受け入れる環境がない、自信がない」
「怪我をする可能性を考えると、介助者を必ずつけて欲しい」
「グループレッスンは無理なので、マンツーマンレッスンでしか対応できない」
どうしたら目が見える人たちと同じように、楽しくトレーニングできるのか、を考えてくれるようなスタジオは皆無でした。
直接迷惑!とは云われないけれども、面倒だと思われていることがびんびん伝わってきます。
「見えない人たちのためのサークルがあるでしょう?そちらで習う方が良いのじゃないですか?」と、
障害者は障害者同士で、という考えの人も多かった。
確かに障害者が集まって楽しく活動しているグループは多数あるし、
参加したこともある。
しかし僕は健常者の皆さんと一緒に、同じメニューを同じ環境で習うことにこだわりました。
何故か?
「目が見えない」という障害を持っているのは事実だけど、
あらゆる工夫で障害を克服し、「普通の人」として日常を生きている。
仕事も、料理も、あれもこれも、目の見える人と同じようにできる、という自信を持てるようになった。
お稽古事も一緒、単純な論理なのでした。
自分たちがやっていることは、目が見えないとできないこと、と当たり前のように思っている。
そんな無認識、視野の狭さを「なめんなよ」と、ぎゃふんと云わせたかった部分もありました。
しかし世の中、実はそんな人、場所ばかりなんですよね!
お稽古事の内容など気にしていられなかったなあ。
受け入れてくれればそれでいい、それくらい断られまくりました。
あっちにこっちに何十と、散々問い合わせてこころが折れかけた頃、
その出会いは突如、するっとぬるっとやってきました。
「パントマイム?あの壁とか、綱引きとか、チャップリンみたいなやつ?まあいいか」とダイヤル。
今更ながらに恥ずかしい低知識、無節操(苦笑)
電話に出てくれたのが江ノ上先生。
「目が見えないのだけど、稽古事を探していて、やる気だけはある」的なことを伝えると、
「何だかよくわかんないけど、やる気があるなら来れば?」と鷹揚なご回答。
余りにするっと受け入れられたので、思わず腰が砕けましたね。
今までのあの数あるスタジオの、あの迷惑がりな先生たちと何が違うの?
とにかく僕は、健常者の皆さんと同じ環境で、同じメニューにチャレンジする機会を与えられたのでした。
そして、一発で「パントマイム」に魅せられてしまったのです。
するっと受け入れてもらえた理由はいくつかあったと思います。
たとえば、パントマイムは無言劇。
それゆえ元々聴覚言語障害の人たちには親しみやすく、
江ノ上先生も指導経験があり、障害者に対して冷静かつ公正な目を持っていたということ。
それからこれは僕の個人的意見ですが、
先生自身も舞台演劇界の「マイノリティー」として、散々嫌な思いを味わい尽くし、
流行らないことも、儲からないことも承知の上で、
「パントマイムが好き」、このたったひとつの理由を胸に、
反骨精神、意地と根性で30年以上戦い続けてきた人だからこそ、
「面倒くさそうなやつ」でなく、「面白そうなやつ」と感じてくれたのではないでしょうか。
僕がこだわっている「普通」、
先生がこだわっている「理屈なし、パントマイムが好き」
偶然か必然か、
ふたつがめぐり合って結びついて、
気付けば「舞台でパントマイムを沢山の人の前で披露し、
笑ってもらい、泣いてもらい、震えてもらい、
「普通」のパントマイミストとして、舞台に立っている僕であることが「普通」になっていました。
僕は50の手習いとして、普通の「お稽古」を手に入れられたのでした。
見えない僕が何をどう克服して「普通」に演じることができるのか?は、ここでは書きません。
ただ、僕自身が努力しても穴埋めできない部分、克服できない部分は、
江ノ上先生はじめ、SOUKIに関わる全ての人の優しさ、配慮、障害に対する理解によって支えられています。
パントマイムを始めて6年。
「普通」を手に入れた今、これからは「ご恩返し」だと思っています。
「障害者なのに凄い」とか、
「目が見えないのに頑張ってる」
とか言われたくてやってるんじゃないんだ、
素晴らしい作品を作るのに、障害の有無なんて関係ないのだということを証明することが、「普通」を僕にプレゼントしてくれたSOUKIへのご恩返しだと思っています。
今、コロナの影響で様々な舞台演劇が、消滅の危機に陥っています。
SOUKIも様々な収入源を絶たれ、経済的困窮に陥っています。
消滅のカウントダウンが始まっているのです。
このクラウドファウンディングで僕自身がみなさんにお約束できることは、
障害という「色眼鏡」なしに、その辺に普通に居るおっさんが、
ちいさな感動を、こころが震える一瞬をあなたにプレゼントすることです。
どうってことでもないかもしれない、どうでもいいことかもしれない。
もしあなたがこの文章を最後まで読んでくれたなら、共感してもらえたなら、
僕にパントマイムを続けさせてください。
盲導犬とともに、板橋から浅草まで電車に乗って粛々と通い続け、
小さなスタジオで妄想世界を紡ぎ、ひとりでも多くの人のこころの琴線に触れたい。
あなたの目の前で、演じられる日を楽しみにしています。
金子聡