首都圏の緊急事態宣言が解除された3月末、「わしのねり」プロジェクトにトロロアオイの種を分けてくださった小川町のトロロアオイ農家 黒沢 岩吉さんにお話を伺いました。小川町でのトロロアオイ生産のあゆみ和紙のふるさととして1300年の歴史がある小川町では、手漉き和紙に欠かせない「ねり」の原料として、古くからトロロアオイの生産が行われてきました。戦後は一時途絶えていたトロロアオイの試験栽培が始まったのは平成13年のこと。黒沢さんが代表を務める小川町トロロアオイ生産組合は、小川町の和紙職人さんにトロロアオイを使ってもらおうと平成14年に30軒の農家さんによって設立されました。現在は少しずつ会員数が減り、収穫量も1/3ほどに減少してしまいました。その原因は、「若手」でも60代という担い手の高齢化や後継者不足、病気に弱いため毎年の収穫量が不安定であること、トロロアオイの価格下落など、さまざまな要因が関係しています。「トロロアオイだけじゃなく、農業離れして興味を持たれなくなっている。有機で育てる小川町は移住者も増えているけど農地が大きくないし、有機ではたくさんは採れない。若い人が興味を持ってやってくれると嬉しいね」なぜ難しい?トロロアオイの大量生産トロロアオイは一般的な野菜などと異なり、病気等に対応する登録農薬がないため、病気や害虫の被害を受けやすくなってしまうそうです。無農薬で育てる小川町では、トロロアオイが蕎麦のつなぎや漢方薬などにも使われていました。葉がまだ小さいうちは周りの草に負けてしまうこともあるそう。除草剤を使用できないため、雑草の管理にも手がかかるといいます。トロロアオイを大きな畑で育てるには水はけが良いことが求められます。以前、トロロアオイ農家の生産中止がニュースになった頃、福井県の紙漉きさんが地元で育てようと試したそうですが、湿地のためうまくいかなかったとのこと。トロロアオイの最大産地である茨城県は、水はけの良い肥沃な土壌と広大で平坦な大地が広がり、栽培に適した地域だと黒澤さんは言います。家庭で鉢やプランターで育てるには、清潔な土を用意してもらうこと、日当たりと水はけを良くする工夫をしてもらうことが大切です。そして最も重要なのは、十分な深さの鉢やプランターを用意すること。黒沢さんも「以前プランターで育てた人がいたけど、深さが足りなくて根がとぐろを巻いてしまったみたい。それでもねりは採れるけど、作業に時間がかかるらしい。しっかり深さのあるものを用意した方がいいね」と笑って教えてくれました。茨城県と比べ、小川町は農地が狭いことも病気がでやすい理由のひとつだといいます。トロロアオイは同じ畑で同じ作物を繰り返し栽培する連作に弱いため、本来は3年ほど畑を休ませたいそうですが、狭い農地では十分に休ませることができない場合もあります。これが大量生産に対応できない要因のひとつにもなっています。種まきの時季を待つトロロアオイの畑トロロアオイの種まきは6月半ばの梅雨明け頃。次の種まきを待つ畑にはもみ殻が撒かれていました。「土がふかふかになるようにもみ殻を混ぜて土づくりをしている。昨年は雨が続いたり、日照りが続いたりした極端な天候の影響で、全国の産地から求められている量の1/3ほどしか収穫できなかった」手漉き和紙づくりに欠かせない「ねり」はトロロアオイの根から抽出されます。根を大きく育てるためには、新しく出てきた芽や葉を取り除く「わき芽かき」や「葉かき」の作業が重要です。この作業は夏のいちばん暑い時期に繰り返し行われます。「昔は芽かきもあまりしなかった。今は根を太らせるためにしっかりやる。草取りや芽かきは大変だけど、困っている和紙産地の期待に応えたい」毎朝8時には畑に出ているという黒沢さん。今年のトロロアオイづくりの準備はすでに始まっています。