2021/05/17 16:37

山陰両県沖の日本海で、遊漁船を出している大原章さん(60)=鳥取県境港市高松町=が、遠隔操作できる無人の小型潜水艇「水中ドローン」を使った水中調査で、海の環境を守る事業を始めた。客が釣り上げた魚の胃袋から海洋プラスチックごみが見つかるようになり、次の世代にきれいな姿で引き継ぐ思いを強くしたのがきっかけという。

 大原さんによると、山陰沖は中国地方最高峰・大山などからミネラル分の多い雪解け水が注ぎ込むことなどで、魚種が豊富でおいしい。島根県の隠岐諸島周辺は「釣りの聖地」とも言われ、食生活を豊かにしている。

 昨年から観光クルージングも展開。海の魅力を伝えることで親しみ、大切に思ってもらう活動も続ける。

 しかし最近、釣り上げた魚の中から、魚類などの生態系に悪影響を及ぼし、深刻な問題となっているポリ袋の破片などの海洋プラスチックごみが出てくるのが目についてきた。使い捨てプラスチックの利用を減らす動きも見られるが、海のごみは消えないのではと不安が募る。

 新事業はそうした中で、今年3月に立ち上げた。従来の水中調査ではダイバーが実際に潜る必要があったが、大原さんは近年開発が進む「水中ドローン」に注目。ケーブルは長さ200メートルあり、バッテリーは1回で5時間持つため、人よりも長時間の潜水ができ、ライトも点灯して水深150メートルまで見ることができる。

 所有するクルーザーはGPS(全地球測位システム)や音波で目的物を探すソナー、魚群探知機を備えることから、併用すれば、より広範囲の確認が可能になる。海岸からでも汚染の状況などが把握でき、操作は専門業者が養成も兼ねて務めるという。

 活動は山陰沖に加えて美保湾、境水道、中海が対象だ。汚染場所を特定して海岸と海中、海底を清掃するのに生かすほか、子どもたちが海のごみの現状や原因に理解を深める催しも計画している。水難事故時の協力や養殖業者との連携なども検討中で、美保関沖に沈没した旧海軍の駆逐艦など「歴史遺産」の捜索にも取り組む予定という。

 海洋ごみの実態や魚類の環境の変化などの調査や分析には、国立米子工業高等専門学校(鳥取県米子市)の教員や学生も参加する。

 実験計画を練っている青木薫・物質工学科教授(55)によると、これまで山陰両県では中海の水質や浄化など範囲を絞った個別テーマの調査はあるが、広範囲だと費用面で高額になり、実現が難しかったという。「何がどこに、どんな状態であるかなどを把握することから始める。得られたデータを、必要な判断や研究に役立てたい」と話す。

 大原さんは「魚たちのお陰で生活できている海を、きれいな状態で次世代に引き継ぎたい。そのためのお手伝いをしていく」と意気込みを見せる。

 活動資金の一部(目標50万円)は31日まで、インターネットによるクラウドファンディングで募っている。詳細は事業主体の「ジョイマリン」(https://joy-marine.jp/別ウインドウで開きます 電話090・2218・3373)で。支援額に応じてベニズワイガニや鮮魚などを返礼する。(杉山匡史)