2022/12/26 02:49
リターン出荷時期延期のお詫び

ニキシー管の完成とリターンの到着を楽しみにしていたすべての支援者に、当初予定していたスケジュールよりも出荷が遅れることをお知らせいたします。現在のところ、実用的に十分な性能を達成するためには、さらなる時間が必要となっております。今後も技術的な問題を解決し、十分な性能を達成するよう努める所存です。何卒、ご理解の程よろしくお願い申し上げます。

 出荷予定は現時点で6ヶ月遅れを見込んでおります。


現在判明している3つの課題について

・部分的に放電不良が発生する問題

ニキシー管の文字が欠けてしまう問題です。電極の一部分で放電不良が発生しますが、ある程度まで症状が進行するとそれ以上悪化することなく安定します。様々な原因が考えられますが、試作の結果から貴ガスの封入圧力が一定値以下であれば症状が発生しないことがわかっています。新たに未知の問題が発生しなければ適正な圧力を追求することで解消する見込みです。ガスの圧力は輝度と文字の見え方に大きな影響があり、圧力を下げるほど放電しやすくなる反面、輝度は下がり文字は太く輪郭がぼやけます。日本製ニキシー管が極めてシャープな発光で、旧ソ連製ニキシー管がそうでない理由は封入されたガスの圧力の差によるものです。特性と見え方のバランスを両立するため、さらなる試作が必要です。

症状は連続点灯させて1ヶ月程度から出るため、改良の効果を確かめるのに時間が必要になります。

部分的に放電不良が発生する問題


・ピンチステムからのリーク問題

ニキシー管の外と内とをタングステン線でつなぐピンチステムから外気が侵入(リーク)することで点灯不良が発生する問題です。ニキシー管を作る上で最も難しい加工になりますが、この部品さえ問題がなければ非常に長い寿命が見込めます。材料の前処理や加工装置を繰り返し改良していくことで解決の目処は立っています。

製造後1週間程度から症状が出るため、改良の効果を確かめるのに時間を必要とします。

ピンチステム製造装置最新版

ピンチステム改良の歴史(品質の安定化)
左から2020年頃、2022年8月時点、現時点最新版

・数字電極の「1」が変形する問題

数字を構成する「1」の文字が製造時に変形する問題です。製造工程で真空引きをしつつ加熱するのですが、加熱により「1」の文字が長さ方向に膨張することで反って戻らなくなります。これは電極に使用している材料由来の問題で、材質を変更することで解決します。すでに新材料を使用したエッチングパーツの製造が済んでおり、これから試作を行い問題の解消を確認します。

変形した「1」の数字

新材料のエッチングパーツ


ニキシー管点灯装置について

ニキシー管点灯装置は基板とケースを試作製造中です。1灯ですが時計として実用的に使えるようになります。電源供給と通信は背面のmicroUSBケーブルから行います。昨今の半導体不足と円安&物価高騰の影響で極めて厳しい状況ですが、電子部品類は全て入荷済みですので試作が終わり次第量産に入ります。

ニキシー管点灯装置(正面)

ニキシー管点灯装置(背面)

ニキシー管点灯装置(基板)


ニキシー管製造装置について

ニキシー管を製造するにあたり、真空引きと貴ガスの導入を行う装置はほぼ完成しました。現時点で製造に必要な全ての機能の開発を終え、量産に使用可能です。さらにバルブ開閉の自動化など行う予定でいますが、必要不可欠ではないため将来の目標としています。プロジェクトのほとんどの資金はこの装置につぎ込まれています。従来の真空装置よりも非常に高い真空度を達成できたこと、極めてクリーンで精密な圧力の貴ガスを制御できるようになったこと、6本同時に加熱処理できるようになったことなど、ご支援があったからこそ実現できたことばかりです。

ニキシー管真空ガス導入装置全景

ニキシー管真空ガス導入装置

特注の真空チャンバー
ガラス加工装置の開発

主にガラス旋盤の大型化改修と、ピンチステムを製造するための治具の開発を行いました。

ガラス旋盤は今まで40mmのガラス管がギリギリ掴めるサイズでしたが、大型化することで70mmまで余裕をもって加工できるようになりました。

ガラス旋盤大型化改修作業


ピンチステムの製造はニキシー管を構成する部品の中で最も難しいガラス加工です。品質を高めるため、半自動化した加工装置の開発と改良に多くの時間を費やしています。2020年頃の試作では1日かけて10個程度しか作ることができませんでしたが、加工装置ができてからは数分で1個作れるまでに生産性が向上しました。

ピンチステム加工装置1段目


ピンチステム加工装置2段目


電極の改良について

ニキシー管背面の電極の厚みを0.1mmから0.2mmに変更して強度が各段に上がっています。またメッシュ電極の構造でセラミック棒を保持するようにしたことで接着剤が不要となり、加工性と見た目が良くなりました。

2021年12月に出荷したリターンのエッチングパーツ

組み立て中の電極

今後の展望について

現在判明している課題は技術的には十分解消可能であると判断しています。大型装置の開発は一段落したところで、今後は細かな治具の作成や作業工程の改善を進めつつ、120本のニキシー管を組み上げる作業を行います。ガラス加工自体の技能がまだまだ未熟なところがあるため、数をこなして精度を高めてゆきます。