神奈川工科大学 教授 西口磯春
著書に「ピアノの音響学」など
中島久恵さんとの出会いは,2006年11月20日に遡ります。今は閉店してしまいましたが、この日、紀伊國屋書店新宿南店で「モダン・ジャズ・ピアノ・レッスン」という2冊組みの本を購入しました。この本の印象は強烈でした。これまでに読んだ、どのジャズの理論書や教則本よりも分かりやすく、かつ実践的でした。それと同時に、この本を書いたジャズピアニストがどんな演奏をするのか、是非、一度聴いてみたいと思いました。
それが実現したのが、2007年4月14日です。当時、久恵さんは国立駅の近くのマンションでGLUONというジャズライブハウスをやっていました。電話で予約して、初めてお店に行きました。エレベータで上がって扉を開けると、入口の右手にカウンターとキッチンがあり、部屋の中央にはベーゼンドルファーmodel225が置いてありました。その時のメンバーは、ウッドベースが、今は亡き是安則克さん(没 2011年9月23日)、ドラムは、つの犬さんでした。演奏は素晴らしかったです。久恵さんが強烈なエネルギーと個性をお持ちだということも実感しました。
この時は話す機会もありませんでしたが、同じ年の5月4日、老舗のライブハウス横浜エアジンで久恵さんと初めてお話しすることができました。この日はさがゆきさんとのデュオでしたが、歌とピアノのオリジナリティ溢れる「会話」の後、店主のうめもと實さんに紹介してもらい、色々とお話ししたことを覚えています。
久恵さんとの付き合いはこの日以来です。その後、久恵さんのビジネスパートナーでもある石田浩貴さんとも知り合い,お二人との付き合いはずっと続いています。
2009年1月のGLUONの閉店、同4月のジャズピアノスクールJazzylandの設立、2018年3月の、経営的にも順調だったJazzylandの休校に至る経緯についても、私なりに理解しています。
これまでのお二人の軌跡を見ると、常に新しいことに挑戦し続けてきた生き方そのものが、独創性に満ちていることがわかります。一貫しているのは、久恵さんのジャズに対する情熱と真摯な姿勢、そして、その理解者としての石田さんの綿密な思考と強靱な精神力・実践力だと思います。
そしてこのたび、久恵さんがクラウドファンディングでジャズ漫画の制作を目指すとのこと、ジャズピアニストと漫画家が結びつかない方も多いかと思いますが、最初に書いたジャズピアノの本でもイラストは久恵さん自らが描いており、その表情豊かなイラストは、分かりやすさを支える重要な構成要素になっていました。もちろん、イラストと漫画は別物ですが、既に公開されているプロローグを見ると、主人公である田ノ浦健二の今後についての興味が湧いてきます。
ジャズ漫画と言っても色々な切り口があり、例えば、漫画を通してジャズの知識が得られる、といったタイプもあると思います。しかしながら、久恵さんに聞いたところ、そうではなく、田ノ浦健二の壮大なサクセスストーリーが根幹をなすようです。ジャズミュージシャン自らが構想した、ドラマティックでわくわくするような展開が既に準備されていることを考えると、プロジェクト実現への期待が高まります。
現時点では分かりませんが、クラウドファンディングで150万円を集めるというのは、決して容易ではないと思います。しかし、目標額に達しなかったとしても、より多くの支援者が集まることが、この先のお二人の力になります。時間は限られていますが、一人でも多くの方が、このプロジェクトを知り、金額の多い少ないにかかわらず、支援の輪に加わっていただけることを期待しています。
西口磯春