「キミ、何かにとり憑かれているでしょ?」
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何?何?何も言って無いのに何でそんな事わかるの?この人何者!?
「この人は霊能力者なんだよ」宿のご主人が言う。
「キミ、数珠か何かパーツをひろったでしょ?ソレに何かとり憑いてたみたいだよ」
霊能力者さんが言う。
数珠の事まで!!凄いなこの人!!!!
「あ、あの、私、八十八箇所のお寺の門で石の数珠を拾って。ソレから体調が急激に
おかしくなっちゃって」私が言う。
「線香はあるかい?」霊能力者さんが宿のご主人に言う。
急いで線香を用意するご主人。灰皿で紙ともぐさを燃やす霊能力者さん。
「火の祭事」だ。
「掲諦 掲諦 波羅掲諦 波羅僧掲諦 菩提薩婆訶 般若心経」
霊能力者さんが般若心経を唱える。
すると、ふいに、空気が、ぴんと張った雰囲気に、変わった。
霊能力者さんが空に向かって話し出す。
「大丈夫。大丈夫だよ。奥さんとお子さんは大丈夫だよ。心残りなのはわかるけど、
あなたはもう死んでしまったのだから。もう実態が無いんだから。
何も出来ないんだから。
そんな事言わないで。奥さんとお子さんは本当に本当に大丈夫だから。
空の上から二人を見守ってあげて。
そう。天国から二人の幸せを祈ってあげて。ソレがあなたに出来る最善の事。
大丈夫。大丈夫だから。」
穏やかで優しい説得。
すると、ゆっくりと「何か」が空に昇ってゆく気配。
私の体のダルさも急激に無くなった。あ、このとり憑いてた人は、成仏したんだって、思った。
除霊が終わると、灰皿の火も同時に、消えた。
あとには宙に昇る線香の煙。高く高く、細く細く昇ってゆく。
ああコレは『鎮魂』だ。そう思った。
霊能力者さんが話す。
「この数珠には、愛する妻と子供を残して交通事故で死んでしまったお父さんの霊が念になって残っていたんだ。ソレがあなたにとり憑いたんだね。でももう大丈夫。
話して、落ち着かせて、成仏させたから。