2023/12/14 12:13

12月3日の東京都写真美術館ホールからスタートした、大阪ー広島ー沖縄の上映&各地域舞台挨拶のツアーは無事に終了しました。昨日、両監督は安全にウィーンに到着しました。各地でクラウドファアンディングの支援者の皆様と交流することができました。

最終地の沖縄のレポートはまだまとまっていませんが、先に6日の大阪と10日の広島のレポートを更新します。


【大阪編】

12月6日(水)に、大阪の第七藝術劇場で、『メンゲレと私』がプレミア上映されました。本編の上映前に、ダニエル・ハノッホさんのお孫さんであるアンナさんとゲイルさんがオンラインで参加し、アンナさんが大阪上映に寄せたメッセージを読みあげてくださいました。また、映画の上映後は、クリスティアン・クレーネス監督とフロリアン・ヴァイゲンザマー監督、元大阪大学教授で現代ドイツ政治の専門家である木戸衛一先生がファシリテーターとして登壇し、トークイベントを行いました。

監督たちと木戸先生とのセッションでは、ダニエルが証言したカニバリズムの問題や、戦後イスラエルに移住したホロコースト生存者たちの状況について、また、ダニエルのように子供時代に、ユダヤ人であることを隠しドイツ人として生き抜いたソロモン  についてどう思うかといった質疑応答が行われました。(注:ソロモンの物語は、ポーランドのアグニェシカ・ホランド監督が「ヨーロッパ・ヨーロッパ」という劇映画を製作している)

監督たちによると、カニバリズムは、これまでホロコーストの歴史上ではあまり取り上げられてこなかったテーマが、ダニエルが実際に目撃したように、人間が人間を虐待する状況のもとで何が生じるのか?の極限の出来事であり、少しずつではあるが、現在は研究が始まっていること。第二次世界大戦後に、オーストリア、ドイツ、ポーランドなど、もともとの故郷に戻れなかったホロコースト生存者たちの多くが、「約束の地」であるパレスチナに不法移民として渡ったが、そこで彼らは、前から入植していたユダヤ人たちからは歓迎されなかったこと。ただ、ダニエルは幸い、ある家庭に受け入れられたことで人生をやり直すことができたことなどが明らかになりました。

その後、会場の観客からも、監督たちに対して、ダニエルとどのように知り合ったのか、障害者が最初にナチ・ドイツによって集められ実験の対象になった優勢思想についてどう思うか、映画の製作時にはおそらく予想していなかったイスラエルとガザの状況が映画にどのような影響を与えたか、人間の残虐性の原因は自己防衛だけでは説明出来ない別の理由があるのではないか、といった質問が投げかけられ、オンライン参加アンナさんたちにも、ダニエルの現在の病状や、ガザの現状についてどう思うか、といった質問がなされました。


【広島編】

12月8日(金)に、広島の横川シネマで、『メンゲレと私』の12月30日からの一般公開に先駆けた先行上映がされました。映画の上映後は、クリスティアン・クレーネス監督とフロリアン・ヴァイゲンザマー監督、そして、ダニエルさんのお孫さんのアンナさんとガイルさんがテルアビブからオンラインで参加してトークイベントを行いました。

冒頭、客席からはアンナさんへの質問が集中し、ガザで行われている戦争についての私見や、イスラエルにおける歴史教育について、そして、被曝の歴史を持つ広島でどのように映画を受け止めてもらいたいか尋ねられ、質疑応答が行われました。

アンナさんは、現在、ガザで行われている戦争について、一般市民の立場での発言である事を前置きにしながら、現在の紛争は歴史的に複雑な紛争で、解決方法を見つけることは非常に困難ではありますが、ガザでは多くの一般市民が命を落としていている現実について考えなくてはならないと語りました。イスラエルにおける歴史教育については、イスラエルの学校では、自らの祖父がそうしていたように、ホロコースト生存者や専門家が学校に来て体験談を話すプログラムが多くあるため、ほとんどの人がホロコーストについての知識を持っていると語りました。祖父の物語が広島で紹介されたことはとても喜ばしいことで、想像を絶する暗い歴史を背負った広島の人たちがどのようにこの映画を受け止めたかとても興味深いと語りました。その後もアンナさんへは多くの質問が投げかけられていましたが、イスラエルにおける歴史の継承について話している途中、突如、空襲警報が鳴ったため、アンナとガイルは緊急でトークから退席する事態となりました。

監督たちは、歴史継承の問題について、戦争の目撃者は世界中で社会からいなくなっていて、ここ広島でも同じことが言えると言い、彼らの証言を記録して、歴史の過ちを繰り返さないために次世代に継ぐことは自分たち映画監督の義務であると補足しました。また、この映画はモノクロで、写真や映像が挿入されるだけの構成で、まるで一冊の本のような映画だったという感想については、自分たちはこの映画で時間を演出したかったと語りました。その時間とは、ダニエルの話をしっかりと聞いて受け止めるための時間であり、また、ダニエルの表情の変化を注意して見るための時間でもあると自らの映画制作についても語りました。
最後に、上映前に4年前にリニューアルした広島平和記念資料館を訪れた方から、資料館には多くの訪問者がいて、歴史を学ぼうとする人が多くいることは希望だが、同時にそれでも戦争や核の問題が世界からなくならない事を考えると、今この映画を見た自分もこの気持ちを一時の感傷にしてしまうのではないかという不安があるという切な思いに対して、残念ながら映画や資料館は世界から戦争をなくすことは出来ないと前置きしながらも、それでも、映画や資料館が過去について考えるきっかけとなり、その次の議論を産むための第一歩であることは間違いなく、最も大切な議論を続けられるのは私たち人である事を改めて再認識したいと答えました。