『冬のアトリエ』。7年前の今頃、東京の板橋区立美術館でスロヴァキアの絵本作家ドゥシャン・カーライさんによるワークショップ「冬のアトリエ」が2日間連続で行われました。ワークショップのテーマは「板橋区立美術館開館30周年にちなんで」というもので、カーライさんの奥さまでイラストレーターのカミラ・シュタンツロヴァーさんもいらっしゃって、とても充実した2日間でした。
今日でプロジェクトも終了です。長いことお付き合いいただいて、本当にありがとうございました。
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荒波が砕け散り、波の花が舞い散るところに‟灯台ポスト”は建っていました。ここに投函するには、何かしらの工夫が必要でした。何故なら、‟灯台ポスト”は、冷たい北風が吹きすさぶ崖っぷちの、さらにそのまた向こうの離れ岩の上に建っていたからです。
灯台としては、当たり前の場所に建っていたのですが、ポストとしては不向きでした。とてもじゃないけれど、歩いたり自転車にまたがったりして、手紙や荷物を出しに行くようなところではありません。かといって、船に乗って行くわけにもいきません。船を漕ぎ出したとたん、岩に叩きつけられて木っ端みじん。海の藻屑となってしまうにちがいないからです。
そこへ、一輪車にまたがった男が‟灯台ポスト”に荷物を出しに来ました。一輪車を一こぎ、二こぎ、三こぎ・・・。でも、崖っぷちまで来たところで行き止まり。‟灯台ポスト”は、目と鼻の先にあるのにどうにもなりません。男は、長いこと海を眺め、‟灯台ポスト”を眺め、考え込んでしまいました。
男は、首にはしごのマフラーをまいていることを思い出しました。かじかんだ手でどうにかこうにかマフラーを首から外すと、ひらりと北風にのせたのです。マフラーはスルスルのびて、‟灯台ポスト”のポッカリ開いた窓にひっかかりました。男は嬉々として一輪車をはしごのマフラーに乗せ、一こぎ、二こぎ、三こぎあっという間に‟灯台ポスト”に登りつめました。無事に荷物を出すことが出来たのです。
その出来事が、ひょんなことから一枚の切手になりました。切手は語ります。「灯台ポストに投函された一冊の絵本」。どうやら板橋区立美術館の30周年記念に届けられた絵本のようです。