初夏、“チャグチャグ”と鳴り響く鈴の音とともに、南部盛岡の街なかを馬コが練り歩きます。
「チャグチャグ馬コ」は、華やかな装束を着飾った農用馬が、滝沢市の鬼越蒼前神社から盛岡市の盛岡八幡宮までの約14kmの道のりを行進する岩手県の伝統行事です。
昭和53年には文化庁の「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選定、平成8年には環境庁(当時)の「残したい日本の音風景100選」に選出されています。
馬産地として有名であった岩手県で、ともに農作業を行う農用馬の無病息災を祈るために旧暦の端午の節句に鬼越蒼前神社へ参詣した農民達の文化がルーツとなっています。
岩手県の伝統文化として、古くから地域に親しまれているチャグチャグ馬コ。
2023年の行進行事には、過去最高となる223,000人の方にお越しいただきました。
しかし、装束馬の出馬頭数は年々減少しています。1990年には102頭の装束馬が参加していましたが、30年間で約40頭減少。2023年には55頭にまで落ち込みました。
地域の伝統文化が途絶えてしまわないように、私たちチャグチャグ馬コ保存会や、行進行事に参加する方々で構成される南部盛岡チャグチャグ馬コ同好会が、伝統継承に向け活動を進めています。
その背景には、「飼育にかかる負担」と「技術継承の課題」があります。
地域から農用馬が減っている
南部盛岡は馬産地として有名で、古くから馬と親しんできた地域です。古くには、人の住む母屋と馬屋が繋がった「南部曲り家」で、家族の一員として農用馬が育てられました。
しかし、現在では農用馬が用いられることは少なく、飼育し続けるためにかかる時間や費用、馬主の高齢化により大きな負担がかかります。
農用馬の飼育には、エサ代や治療・削蹄などの健康管理、馬を牧野やイベント会場等へ運ぶ運搬費、飼育場所や設備の費用、繁殖のための費用などがかかります。
馬を扱う技術
馬を飼う人が減るにつれ、馬を扱う技術を持つ人も減っています。
農用馬が健康に育ち、頭数を維持していくためには、毎日の健康管理や繁殖の技術が必要です。
そして、チャグチャグ馬コを開催するためには、引き手の技術が求められます。
温和な性格が特徴の農用馬ですが、馬車や材木を運ぶほどの力持ちで、体重は1トン近くにもなります。
大切な馬を、そして人を傷つけないようにするために、馬を扱う技術を持った引き手が必要です。
装束製作の技術
そして、チャグチャグ馬コの特徴である装束も、技術の継承が難しくなっています。
自慢の愛馬を着飾る装束は、その家で代々受け継がれ、家族や地域で製作・修繕が行われてきました。
環境が変わる中で、そういった継承の機会が失われつつあります。
南部盛岡チャグチャグ馬コ同好会では、技術を守り続けるために講習会を開催しています。参加する皆さんが「自分の作った装束でチャグチャグ馬コに馬を出したい」という想いで、装束を作り続けています。
これからもチャグチャグ馬コを開催していくためには、馬を飼う方への支援や、技術を繋ぐ活動を続けていく必要があります。
チャグチャグ馬コ保存会は、戦後、チャグチャグ馬コの行事を復活・振興を図るために結成した団体です。会長が盛岡市長、副会長が滝沢市長、矢巾町長、理事が各市町の関係者で構成され、事務局を盛岡市役所観光課に置いています。
行進行事の開催に向け、行進順路の決定や各関係機関との調整、鬼越蒼前神社や盛岡八幡宮など、各ポイントの会場設営を行っています。
また、出馬手当の支給や、新たな農用馬所有の支援、引き手技術向上の講習会など、チャグチャグ馬コをこれからも開催し続けるために、活動を行っています。
主な活動内容
○チャグチャグ馬コ行進行事への参加馬の確保と奨励援助
○行進順路及び通過予定時刻の設定
○会場の設営、行進行事の運営
今回のプロジェクトは、チャグチャグ馬コを未来に残していくために、馬主の方々への支援や、同好会による技術継承・農用馬の活用の支援が目的です。
ご支援いただいた皆様には、チャグチャグ馬コを身近に感じられるアイテムや、チャグチャグ馬コの文化を体験できるリターンをご用意しています。
支援金の使い道
○チャグチャグ馬コ行進行事に参加する馬主への奨励金
○新たに農用馬を飼う方への資金援助 など
今後のスケジュール
2024年2月29日 クラウドファンディング終了
2024年3月上旬 リターン発送
2024年4月〜5月 行列参加リターンの方と乗馬練習
2024年6月8日 チャグチャグ馬コ行進行事開催
チャグチャグ馬コ同好会の会長菊地和夫さんと、息子の真也さんにお話を伺いました。
Qチャグチャグ馬コに参加したきっかけを教えてください
(和夫)自分が学校に上がる前ぐらいまでは、家に馬が居て、親と一緒に田畑に馬車で行った記憶があります。機械化により家では農用馬を飼わなくなりましたが、20代の頃に自分の馬が欲しくなり、そこからまた飼い始めました。乗って歩いたり遊んだりするために飼い始めたところ、チャグチャグ馬コを手伝ってくれないかと声をかけられたのがきっかけです。最初は、装束が無いため馬を貸していましたが、そのうちに近所から装束を借りて、今度は自分の家として出始めました。農用馬の繁殖もしながら、50年近く農用馬の飼育を続けています。
(真也)自分は、実家を出ていて飼育は任せっきりだが、馬を山から降ろしたり引いたり、装束を磨いたりチャグチャグ馬コに向け準備して、当日は馬を引いています。自分は生まれた時から馬がいる環境で、当たり前の生活、日常の一部に馬がいる感じですね。自分の子どももそうだと思います。
(和夫)孫は生まれたときから馬を見てるし、行列にも乗って出ました。一番最初に覚えた言葉は“ウマ”だとか笑
Q真也さんはどのように技術を教わりましたか
(真也)直接はあんまり教えてくれないです笑 見て覚えるとか、ちっちゃい頃から馬に踏まれながら覚えました。今は、同好会で行う講習会や研修に参加しています。チャグチャグ馬コに出すためにも、馬を引っ張って歩いたり、背中に鞍を付けたり、馬を慣らすための技術が必要になります。外に仕事を持っているとなかなか厳しいが、段々と覚えていきたいです。
Q馬を飼い続けることは大変?
(和夫)えさを食べるし、病気もします。本業がある中で、自分で毎日、馬の健康管理をやらなきゃならない。そういう意味での大変さはあります。
大変でも、やっぱりチャグチャグ馬コというのが地元にあって、それを衰退させたくない。無くしたくないという思いで続けています。チャグチャグ馬コはここにしかない馬事文化。馬をいたわる祭り。それは無くしちゃダメだと。絶対残さなきゃならない。そう思っています。
Qチャグチャグ馬コを未来に残すため、今後の活動について
(真也)馬を扱える人、後継者がどんどん減っている中、今は馬に携わったことがない人も同好会に入ってきてくれています。「チャグチャグ馬コに出てみたい」「馬を飼ってみたい」そんな人たちを増やしたいです。
あとは、馬コの日以外にも農用馬を活用できるように、イベントを企画したいと思っています。去年は、馬でスノーチューブを引っ張って子供達を乗せるイベントをしました。
チャグチャグ馬コの日だけじゃない、馬と触れ合える環境をもっと作っていきたいです。
(和夫)飼う場所があれば飼いたいっていう人も居て、うちでも馬房(馬の部屋)を貸しています。その人は仕事があるから毎日来れませんが、朝に来て餌をやっています。俺の馬にもやってくれるから、俺は朝寝ていられる笑。装束作りも、馬や装束を持っていない人が、チャグチャグ馬コに出したいという思いで製作しています。そんな人たちが増えて繋がると、より出馬頭数も増やせると思います。
(真也)個人としては、外に仕事を持っていて日常の飼育をほとんどやってないので、この環境を維持できるのかというか。自分でもできるようにやっていく、いけるのかなっていうのはありますね。この環境を維持できるように、家族と協力しながらやっていきます。
南部盛岡チャグチャグ馬コ同好会 会長 菊地和夫さんよりメッセージ
チャグチャグ馬コは農用馬をいたわり無病息災を願うお祭りです。この地域ならではの馬事文化を無くしたくないという思いで取り組んでいます。農用馬に触れていただける機会を増やすため、イベントへの参加や企画を行いながら、農用馬がより活躍できるように活動を続けています。
チャグチャグ馬コを未来に残していくため、皆様のご支援をどうぞよろしくお願いします。
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