私は、宇都宮 紀雄(うつのみや のりお)と申します。主に公立の中学校・高等学校、私立の中高一貫校や短大で国語を教えていました。今は、高専で日本語教育に携わっています。言葉の深さや面白さに触れることのできる、しかも飽きの来ない、そんな授業を日々めざしています。よろしくお願いします。
さて、このプロジェクトの題名は、「何か、一つ遺したい!!」としました。教え子たちと飲んでいる(至福の時です)中で、「先生のやってきたことを遺そう。」という話になりました。最初は半信半疑でしたが、面白い企画だと感じました。これが、そもそもの始まりです。出版により私が儲けよう、というものではありません。私自身の足跡(あしあと)を遺し、それを生きている間に読んでもらいたい、あるいは、読んでみたいと考えました。以下に挙げた文章が、その一例です。
女子にとって、バレンタインデーと言えば、超一大イベント。ましてや、スマホもラインもない平成初期のアナログ時代の田舎の女子中学生にとっては、好きな男の子に思いを伝えられる、絶対に、はずせない日。
バレンタインデー当日、放課後に告白する気満々の多くの女子たちは、大切なチョコを学生鞄の奥に隠して登校。しかし! 朝の会で、教壇に立った宇都宮先生が、「おーい、みんなー、鞄を机の上に出せー」と、まさかの一言!聞けば、職員会議で2月14日は全クラスを対象に持ち物検査をすることになったとのこと。ざわつきながらも、皆しぶしぶ自分の鞄を机に出して、半ば諦め状態で、先生が机を回って持ち物チェックするのをドキドキして待っていると、先生は教壇から降りることも、私たちの鞄に触れることもなく、「よーし!持ち物チェック終了!鞄、おろせー」と指示。そして、ポカーンとする私たちを残して先生は、「おれは、持ち物チェックしたからなー」と、フフッと笑いながら教室を出て行ってしまった。ピシャッと扉が閉まった瞬間「先生、やるじゃん!」「先生、最高!」と、クラス中に湧き上がる歓声!宇都宮先生のお陰で、私も含めて、青春真っ只中の女子たちは、その日の放課後、無事にチョコを渡せたのであった。
校則や決まりを守ることの大切さを、子供たちに教えるのも先生や大人の役割である一方、宇都宮先生のように、子供の大切な思いをきちんと汲み取り、臨機応変に対応できる大人の器の大きさを感じた、中学3年のバレンタインデーだった。
私も大人と呼べる年になって久しいが、自分の子供も含め子供たちにとって、私も宇都宮先生のような器の大きい大人でありたい、と思っている。 (1991年度卒 Y子)
コメント
もっと見る