中島坊童事務所
中島 坊童
▷メッセージ
2023年8月17日の午後。東京都内の病院の精神科。閉鎖病棟の談話室。私は30代の男性と話していた。彼は自宅の自室で10年以上ひきこもっていたが、長年抱えている精神的な疾患が急激に悪化し、1か月前から入院生活を送っている。私は彼の支援者のひとりだ。
その日、彼の精神状態は安定しており、自身の気持ちを語り続けた。彼は東京の都心部で生まれ育ったが、「都会には様々な情報があふれている。不必要な情報が多すぎる」と言う。「都会では土に触れる機会が少なすぎる」とも言った。「自分の心が病んでいるのはそれが原因のひとつだと思う」というのが彼の自己分析の結果だ。
10代の頃からインターネットやSNSの情報に振り回され、自然とは無縁の環境で生きてきたことが、自分が10年以上もひきこもってしまった一因ではないだろうか、と彼は語った。その面会が終わり、談話室を出ると、看護師が病棟の出入口の鍵を開けてくれた。
その後、私は西新宿に行って仕事をひとつ片付け、その日の業務を終えた。高層ビル群の谷間を歩く。近くには都庁も立っている。18時になったので、ラジオの生放送を聞くためにスマホ用のイヤホンを耳に付けた。東京都東久留米市のコミュニティFM放送局の番組『鈴木実穂の今を生きる』を歩きながら聞く。この日のゲスト出演者は、NPO法人まきばフリースクールの武田和浩さんだ。
武田さんとまきばフリースクールについては、これを読んでいる皆様のほうが詳しいと思う。武田さんとはオンラインで何度かお話させていただき、仙台での講演に参加させていただいたこともあるが、まきばを訪れたことはまだ一度もない。そんな私であるけれど、この日も、イヤホンから聞こえる武田さんの言葉のひとつひとつが心の奥底にまで響く。
ふと数時間前の、精神科病棟での会話を思い出した。その内容がまきばフリースクールのイメージと結びついた。人を振り回す情報過多社会から解放してくれる場所、土や動植物に触れる機会を与えてくれる自由な場所──まきばはまさにそのような場所ではないか。
そのことに気づいた瞬間、西新宿を歩く私の眼前に現れたのは「LOVE」という文字の赤いオブジェだ。画像はそのときに撮ったものである。タイミング良く登場してくれた「LOVE」。イヤホンから聞こえる武田さんの珠玉の言葉たちが、私の心の中でパズルのように「LOVE」を形作り、それが目の前で実体化したような、そんな気分だ。
ラジオ番組の終了後、私はすぐに武田さんに感想のメッセージを送った。終了直後であるにもかかわらず、武田さんからはすぐに返信が届いた。そのやりとりの中では言えなかったが、実はそのときに伝えたかったのは次の言葉である。
「武田さん、私に『LOVE』の作り方を教えてください!」
とはいえ、お忙しい武田さんの手を煩わせることはしたくない。武田さんの人生や言葉から学ぶことのできる教科書や参考書のようなものがないだろうか。そう思い続ける中、今回の自叙伝出版のクラウドファンディング情報が届いた。とても嬉しい。
武田さんはたくさんの夢を実現してきたし、これからも新たな夢を実現し続ける。さて、次は私の番だ。そして「次は私の番」と決意している人々が武田さんのまわりには大勢いる。だからこの自叙伝は私たちが欲しい本ではない。私たちに必要な本である。
さらに言いたい。誤解を恐れずに言えば、この自叙伝は武田さんが書きたい本ではない。書きたい言葉ではなく、武田さんが書かざるを得ない言葉やメッセージが全ページに満ちている。そこに不必要な情報はひとつもないはずだ。私は「応援せざるを得ない」。
中島坊童事務所
中島坊童
https://boudouoffice.amebaownd.com/