音楽評論家/ベース・マガジン編集
秋摩竜太郎さんよりインタビュー‼︎
今回のクラウドファンディングのプロジェクトを立ち上げた理由とミカ&リョウコ&スジャクの想い。
『先延ばしにしたら、人の気持ちも状況もどうなってるかわからない。』
●現在、アメリカからプロデューサーのLee Popa(リ-・ポッパ)氏を招き、海外を視野に入れた音源制作とその後の活動のため、クラウドファンディングに挑戦中です。締切が近づいてきましたが、まずは今の心境から訊かせてください。
吉村美香(Guitar, Vocal/以下ミカ) 300万円の目標金額って……、正直最初に想像していた金額よりもかなり上なんですね。でも実際に経費を計算してみたら、それどころじゃない額になってしまって。
中野良子(Drums/以下リョウコ) そもそもクラウドファンディングをしてみようっていうイメージさえ何ヶ月も湧かないぐらい、300万円のハードルは高いなと思ってました。こういう試みは多くても100万円くらいなのかなって。でもどう考えても、スタジオ代、プロデュース代、滞在費、マスタリング代、アーティストフォト代……諸々考えたらそれ以上かかってしまうなあと。で、みなさんへの負担が大きすぎてためらってたんですけど、何ヶ月も考えて、やっぱりそれが最低ラインだよねっていう。もっと少額のプロジェクトで様子を見ようかって話にもなったんですけど、もう、潔く、今回の挑戦をやってみようって決めました。
ミカ 今回、「世界基準」ってことを打ち出してる以上、それに値するだけのものを作りたい。だから経費がすごくても、踏み切らないとって思ったので、なんとかね……。あとは、All-or-Nothing方式(目標金額を達成した場合のみファンディングされる)にしたんですね。そうじゃない方法も選べたんですけど、もう0か100かでいかないと誠意がないと思ったから、そこはLeeにも伝えてるんです。目標に届かなかったら今回の話はなし。そういう覚悟を決めたんですけど、まあ状況は厳しいですよね(笑)。ただやっていくなかでいろんなことが見えてきて。例えば私たちはSNSでの発信が弱いなあと気づかされたり……そんな眠れない日々を過ごしてますけど、何をどうしても後戻りはできないから。達成するのは奇跡に近いと思うんですけど、最後までやれることは全部やりたいと思ってます。
●朱雀さんとしてはどう感じていますか?
朱雀祐輝(Support Bass/以下スジャク) 僕はBO-PEEPをサポートし始めて6年目なんですね。基本的にふたりともユルい人なんですけど(笑)、音楽に対してはすごいな!ってことしかなくて。最初の頃はついていくことさえ必死でした。ライブやるたびに立てなくなるくらい……運動量もすごけりゃ、ミュージシャンとしての腕、演奏の迫力もとんでもない。で、そういうエナジーがあるからここまでやってきてるわけだよなあと。
ミカ でも18年間やってきて、こういうチャンスが降って来てること自体がほんとにありがたくて。
スジャク いや、チャンスって勝手に降ってくるものじゃないと思うんですよ。ちゃんと実力があって、音楽をいいと思ってくれる人がいてこそじゃないですか。で、BO-PEEPはそういう存在だと思うんです。やっぱりお金を出していただくっていうのはものすごいことだと思うんですけど──。
リョウコ うん! それだけのお金を集めるなら自分たちも本気の熱を持ってないと失礼だし。今、実際に支援してくれた人がCAMPFIRE では70人以上いますけど、この時点でもほんとにうれしくて。
スジャク 俺ね、ほかの人がクラウドファンディングしてるのってあんまり好きじゃないんです(笑)。いいとは思いますけど、ちょっとずるい感じもするじゃないですか(笑)。でもBO-PEEPはやってもいい気がして。だって今までがんばってきた土壌があるから。そろそろ人に頼ってもいいんじゃないかって、今こそみんなに力を借りるときなんじゃないかなって思うんですよね。
ミカ それいい言葉ですねえ(泣)。
スジャク そりゃ自分で稼げよとか思うこともありますけど、今回やろうとしてることはそれで足りるような規模じゃないわけですから。
●Leeさんとはすでにプリプロと言いますか、レコード会社へプレゼンするための仮音源を2月に録音してますよね。そのときの手応えというのは?
ミカ まあ〜仕事が早い(笑)。あと、リョウコちゃんに至って涙を流しちゃって(笑)。
リョウコ 聴いてて心に直接来るっていうか。素直に受け止められる音にしてくれるし、受け止めちゃったら涙が溢れました(笑)。
スジャク ほんとそれくらいめちゃくちゃ良かったですよね!
ミカ で、一番良かったのは、Leeがめちゃめちゃ楽しんでやってくれたことなんです。ミックスした曲を聴きながら踊りまくってたり、うちらの音楽をみんなに聴かせたいんだよ!っていうノリなんですよ(笑)。BO-PEEPを見つけてくれて、何かを感じて声をかけてくれて、一緒にレコーディングしてあんなに楽しんでくれて。うちらもそれを見てめちゃめちゃ奮い立ったし、ここに何か可能性があるんじゃないかって思ったんですね。このクラウドファンディングをクリアできたら、もうひとつ先の景色が見えるんじゃないかっていう気持ちになって。
リョウコ 18年もやってきてるけど、変わらない景色しか見てないですからね。ひたすらライブを入れて、このまんまやるんだったら趣味でいいんじゃないかみたいな感じもある。やっぱりやってきたからには、もっと新しい世界に行きたい。もっとお客さんがいっぱいいるところでライブしたいなって思いますもん。
ミカ 昔はね、年末にその年の総評をふたりで言い合ってたんですよ。今年はこれだけできたね、去年よりこうなったねって。で、どこかで辞めるっていう選択肢を選んでもいいんだろうけど、そうするタイミングさえわからなかった(笑)。何かがあるんじゃない?ってず〜っと思いながらやってきました。そのなかで今回の話っていうのは、あ、やっぱり何かあるんじゃん!って思えるくらいうれしいことだし、もともと持ってたものが膨らんでいく大きな機会だなって思ってるんです。
リョウコ それにね、今の世の中、何が起こるかわからないじゃないですか。こうやって健康なメンバーがいて、健康なプロデューサーがいて、みんながやれる!っていう状況は実はすごいことで。誰かひとり欠けたら活動できないし、特にバンドってそういうものですよね。だからやろう!って思えることがあったら、しがみついてでもやらないと。先延ばしにしたら、人の気持ちも状況もどうなってるかわからない、って最近すごい思うんです。その辺は昔よりもルーズになりたくないなって。年齢で言うともう44だし。
ミカ 年齢で言うと(笑)。
リョウコ だって20代だったら「今じゃなくてもいいよ」って言えたかもしれないことが、もう言えなくなってきてるっていうか。こうやってちゃんと健康な──。
ミカ 死期が近いの?(笑)
リョウコ そういうわけじゃないんだけど(笑)。
ミカ でもそれは思うよね。自分じゃなくても、親とかね。
リョウコ そうそう、誰か倒れたら支えないといけないし、そうなったらバンドはできないから。全部当たり前じゃないんですよね。だからそれができる状態のときは、ほんとに大事にやっていきたいんです。
『うちらのハッピーなところとか、やるぞ!って魂に賛同してくれる人がもっと多くなればいいな。』
●BO-PEEPのようなバンドが活動を続けてるというのは、ほんとにバンドカルチャーやライブハウスシーンを支えてると思うんです。当然もっと先輩の方もたくさんいますし、下の世代で大活躍してる人たちもいますけど、この世代が歩みを止めないことはとっても大きいはずで。どうしてここまでやってこれたんでしょうか。
ミカ 逆に教えてもらいたいくらいですけど(笑)、けっこう折れやすいんですよ。リョウコちゃんは、結婚して、出産も経験してるけど、それでも絶対バンドやる!って情熱をずっと持ってるけど、ミカは辞めたいサイクルが多くて。で、そういう相談をリョウコちゃんにすると、「ミカがやらないなら私もやらない!」って言うから、そう言われると辞められなくて(笑)。
リョウコ あとは次々にクリアすべきお題が来てたかもね。たとえば私がライブできないってなったらサポート・ドラムを入れてでもやろうとか。
ミカ うんうん。それに自分的には、ギター・ボーカルってバンドにとって大きな存在だと思ってて。ミカが辞めるってことはバンドがなくなるってことだなと思うから、そこは背負ってるものがあるんです、一応。バンドってひとりでやるものじゃないから。そういう長女的責任感?(笑) と、リョウコちゃんの曲がらない性格、あとスジャクが6年も続けてくれてるっていうありがたさだったり、もちろんこれまでの有江(嘉典/b)さんのプロデュースとかも、いろんなことが重なってBO-PEEPが続いてるんだなって思いますね。
●そういったマインドも含め、BO-PEEPの音楽は、ジャンルとしては全然違うけどロックンロールの「&ロール」の部分を持ってる気がするんですよね。いわゆるグランジとかってもっと刹那的なイメージもあるじゃないですか。
ミカ ああ、破滅的なジャンルですからね(笑)。ただ詞を書くときは、さっき言ったバンドの精神面とか、もっとみんなでハッピーになろうよとか、そういう内容になることが多くって。暗いんだけどがんばるぜ!みたいな。人間的にも破滅的な人たちじゃないしね、3人ともいい人だから。
リョウコ 自分で言う?(笑)
ミカ ふふ、だからできるだけみんなと仲良く、一緒にお酒を飲んでたいみたいなところがあって。いろんな人を巻き込んで楽しいことをやりたい。みんなで手挙げて、酒飲んで、わ〜って騒ぎたい。そういう単純なところでしかないから。うちらのハッピーなところとか、やるぞ!って魂に賛同してくれる人がもっと多くなればいいなって思いますね。
スジャク そういうエナジーに反応してくれるのは海外の人のほうが多いのかもね。
ミカ そうかも! 日本はまわりの空気や雰囲気が良くないとそうならないけど、向こうはお客さんが3〜4人だったとしても、爆発的に踊ってくれたりして(笑)。
リョウコ マンチェスターの「In The City」ってフェスに出たとき、サッカーの試合と被っててお客さんは多くなかったけど、終わったらみんなが物販に来てくれて。人はすごい少ないのにCDがめちゃくちゃ売れたっていうこともあったよね(笑)。
ミカ あったあった。向こうでは、「楽しいことをやってる」っていう気持ちとかスタイルみたいなものが、すぐにパツンって通じ合える気がするんです。日本だと、ステージとフロアの間に薄い壁があって、まずはそこを突き破らなきゃいけない感じがするんですけど。もちろんそれがバンドのパワーだし、突き抜けたら気持ちいいんですけどね。でもそういう意味で、向こうだったら音が悪くたって何だって全然やれるっていう気持ちがあるんですよ。
スジャク この間もね、4月にブルックリンでライブしたんですけど、楽器も持っていけなかったし、パフォーマンスとしては日本でやるより全然できなかったんですね。今さらこんなにできないのかってぐらいの(笑)。
ミカ ほんとにヘコんだね(笑)。
スジャク けど、なりふり構わずなんとか巻き込もうって気持ちでやったら、ものすごい反応してくれたんですよ。
ミカ 物販も全部売れましたからね。カッコいいって何だろうっていつも思うんです。うちらは上手いとかじゃないし、見た目が綺麗とかでもない。むしろできれば汚くありたい(笑)。爆発的に何かを楽しむ、みんなを巻き込むっていう、ほんと単純なことしかやってないバンドだけど、反応してくれる人がいるならそこに向かいたい。だから日本ももちろんですけど、やっぱりもっと海外に向けて発信していきたいし、そのためには音源が必要だなって思うんです。
スジャク しかも今回はほんとに世界基準のアルバムを作れるチャンスだからね。
ミカ そう、向こうでの流通も考えてますしね。準備は万端なんです。あとはペイできるかどうか!
スジャク ただ変な話ですけど、逆にお金があればできることって、なくてもできると思うんですよ。お金があってもできないことっていっぱいあるじゃないですか。で、今のBO-PEEPはそれくらい貴重なことをやれるところにいると思うんですね。だから勝負をかけてるわけです。
●わかりました。では最後にひとりずつ、みなさんへ向けてメッセージをお願いします。
リョウコ 結局バンドをやってくなかで、人に観てもらったり、人に楽しんでもらったり、人とつながったり、そういうことを自分たちは必要としてるんだなってすごい思います。うちのバンドを知らない人もいっぱいいると思うけど、ウェブサイトを覗いてみてくれたり、気になるなって思ってくれるだけでも、それはつながりのひとつで、とってもうれしいことなんです。だからBO-PEEPのこれからを見てみたいなって人がいたら、つながりの手段としてクラウドファンディングに参加してもらって、仲間を増やしていきたい。そしてもっと広い世界に出て、みんなに感謝しながらやっていきたい。今回の挑戦が成功したら、そうなれるんじゃないかって思ってます。
スジャク 自分がお金を出すって考えたら、それはすごいことだし、簡単なことじゃないなと思うんです。けど、僕は5〜6年一緒にやらせてもらって、次にいく資格はあるんじゃないかってほんとに思うバンドなんです。あとはみなさんの応援だけですけど、支援をお願いしたいというよりは、一緒に楽しんでもらえたらなって思います。今まで話してきたことなり、音楽なり、ライブなり、ちょっとでも引っかかりを感じてくれることがあったら、一緒にやっていけたらうれしいです。そして、そういうみなさんの想いを背負うんだ!っていう覚悟を胸に、もっと先の景色を見せることができればと思ってますね。
ミカ うちはいつでもチャレンジャーで、またひとつ大きなチャレンジがやって来たかという感じですけど、もはや悩めてることすらありがたいし、バンドが楽しいっていうことだけなんですよね。メンバーもLeeもお客さんも、みんなともっとつながりを深めたいし、この輪を広げていきたい。18年間関わってきてくれた人たちの気持ちが、今回もう一度、全部乗っかってきてくれてる感じがするので、ほんとに世界基準の新しい形でお返しできたら最高だなって。ここまでやったんだよっていう証を形として残したいな。とにかく諦めず、体が動かなくなるまで暴れたいなって思います。というわけで、よろしくお願いします! 切実!(笑)
文:音楽評論家/ベース・マガジン編集
秋摩竜太郎