活動報告をご覧いただきありがとうございます!
以前Xにて、『monoclone』の裏側について質問をいくつかいただきました。
脚本・演出・システム構成の草野冴月から回答をもらったので、今回の活動報告はそちらをインタビュー形式で公開しようと思います!
作品について、演出について、脚本について。
色々な視点からの話をぜひお楽しみください。
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ー今作『monoclone』の舞台である幻想九龍の世界観は、どうやって生まれたんですか?
草野 『monoclone』はLIVE ROXY SHIZUOKAでイマーシブシアターをやる事が前提でした。ということは、まず隔離された空間(世界)にしようと思いました。その隔離された世界に外の世界から人間がやってくるという構図と、チケットを取って、会場に来るというお客さんの行動がリンクするようにしたいと思いました。観劇に来る、という行動が、そのまま「世界観の体験」として物語に入ってもらうという公演の構造にしました。
草野 チケットを申し込んだ瞬間から、物語の一員になるように公演企画自体をデザインしたっていう感じです。だから稽古中も、執拗なほどに「世界観を守る」と言い続けました。
ー注意事項すらもセリフになっていましたね。
草野 そう!声を出しちゃだめ、触っちゃだめといった制作面でのルールを、喋ったり写真を撮ったら危険な目にあうから、という理由付けにすると。イコール、混合種は野生型に有効的じゃないっていう設定が生まれるんです。もし友好的だったら交流しなきゃいけなくなるから、注意事項やルールを設定しにくくなる。
草野 もちろん、制作的な安全面という意味もあります。初めてのイマーシブシアターだったから、いきなり交流ありきの作品は難しいなって。キャスト、スタッフ、お客さんが安全に過ごせるようにしたかった。
ー冒頭の世界観説明のシーンはそのためだった?
草野 そうですね。ただ私自身、説明セリフがあんまり好きじゃなくて。だからいっそ「世界観を説明するシーンにしちゃおう」と。お客さんの設定がツアー参加者という設定だったので、注意事項と世界観設定を喋る理由もありましたし。
ー途中で朱蘭が入ってきたことにも理由が?
草野 朱蘭は「何も知らない野生型」。つまりお客さんと一緒の立場にあります。何も知らないということは、開幕演舞の後に挿入される派閥の説明を喋る理由になりますよね。同じ種族だったら説明する意味が無いじゃないですか。だから、主人公は混合種じゃないんです。「野生型が混合種の世界に入ってきて姉を探す」という役割が、お客さんの状況と微妙にリンクする。
ー朱蘭が姉を探すために各派閥を回ると、お客さんも会場を回ることにもなりますもんね。
草野 ただお客さんとの決定的な違いは、野生型の朱蘭は混合種の翠藍に戻って幻想九龍に戻るけど、お客さんは混合種になれないから現実世界に帰らなきゃいけない。会場を出る、という部分すらも体験にしました。
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ー作品内での、ハイブリッド(混合種)とワイルド(野生型)という種族分けについてはどういう意図がありましたか?
草野 「違うものは怖い」という、生き物なら誰でも持っている感覚が物語の根底にあります。セリフの中に人種差別的表現があったけど、それも「あなたは私と違う」みたいな感覚が産んでいるもので、その感覚はきっと誰もが持っている。「種族」というカテゴリ分けをすると、その感覚がはっきりと見えやすくなる。
草野 怖いと思った相手やものを傷つけなくても、うまく棲み分けが出来ていれば問題がない、といった私の”生物屋”としての目線も入っています。実際、ホモ・サピエンスは棲み分けできてないしね。
ーその中で、ある種「中立」の立場であった翠藍がもつメッセージとは?
草野 「外に出ても戻って来れた人」にしたかった。混合種の翠藍がいざ外、つまり野生型の世界に出てみたけど、そこは自分の居場所ではなかったと気付くんです。だから幻想九龍に帰る、というのを赦したかったというか…私が赦されたかったのかもしれない。
草野 だからこの脚本は結末からつくりました。ただ最初からそういったテーマ性をもって書いていたわけじゃなくて。いざ書き上がってみるとそうなったから、「(翠藍を)海に帰してあげたかったんだな」と思いました。
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ー脚本はどういった感じで出来上がっていったんですか?
草野 メインルート(朱蘭ルート)だけだと体験要素が少ないから、同時多発にはしようと。あと観終わった時に色んな人とシェアして欲しかった。私が初めてイマーシブシアターを観に行った時、終演後の感想戦が楽しかったから。だから、メインルートに加えて、物語の基点になるキャラクターを置いたんです。宇春が人魚姫を外に出していた、雨瓏が翠藍に薬を飲ませた、みたいな。キャラクターごとの役割とバックボーンありきで作っていました。
草野 ただ、そのバックボーン全てを物語に入れ込むのは草野のスタイルではないので。余白がある…というよりも、氷山の一角みたいにしたかったんです。つまり、ツアー参加者が見れる範囲を見せる。翠藍を中心にして、色んな人間関係を、相関図的に伸ばしていく物語の作り方をしていたと思います。
ー各キャラクターもそれぞれ独立した印象でした。
草野 「こんなんみんな好きやろ」といった設定をつけました。それぞれ、一言で説明できるようなキャラクター性を持たせたかった。「狐のギャル」とか「イマジナリーフレンド」「相棒キャラ」とか。なんでかというと、「あのキャラクターってなんだっけ?」を起こしたくなかったから。
ー情報が盛りだくさんですもんね。
草野 うん。あとはキャラクターの名前が難しいから(笑)。強烈な印象を一人一人が持っているから、何かしら覚えて帰ってくれるかな、と。ストーリーについていけなくなった時でも楽しめる要素があるように。だからある種、テーマパーク的な楽しみ方ができるようにキャラクターをデザインしました。
ー脚本には描かれていない部分も気になりました。
草野 ストレートプレイだったら削ぎ落とす設定や裏話を、今回は全部書きました。そうすると同時多発ストーリーになるから。でもその設定や裏話は、翠藍失踪に関わるもののみに絞りました。
ーそれはどうしてですか?
草野 メインストーリーが若い世代の話だったんですよね。主に翠藍、雨瓏、火焔。だから後ろで見ているボス達は、バックボーンをあえて描きませんでした。さっき言った氷山の一角を少し覗かせるだけ。その氷山の下にある部分をお客さんに考察してもらったり、それこそ感想戦をして欲しかった。終わっても楽しめる部分を残したかったんですよね。
草野 でも氷山の隠れている部分というのは、実は演者が全てつくってるんです。私がその部分をつくっちゃうと、あまり解釈が広がらなくなっちゃうんですよね。だから私の仕事は、演者がつくってきたものが、お話やキャラクターの役割から外れた時に戻すこと。今作は「役者が好きなように深掘りできる台本であれ」と思って書きました。
ーありがとうございます。演出の裏側を垣間見ることができました。
草野 私の演出では、その作品を「どんな話にしたいのか」「お客さんにどういう印象を持って帰って欲しいのか」が軸。あとは「シーンごとに誰をピックアップするのか」「そもそもなんの話なのか」という部分と、視覚イメージや聴覚イメージなどの、五感に与えるイメージを決めるのが大きな仕事ですね。
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皆様に見ていただいた『monoclone』の、氷山の一角。
その隠された部分は、設定資料集で知れたりするかもしれません。
普段は見えない、裏側の部分。いかがだったでしょうか。
まだまだ今作には秘められたものがありそうです。
ぜひ引き続き、『monoclone』の色んな視点を探してみてもらえると嬉しいです。