【ネクストゴール挑戦中!】
おかげさまで、本プロジェクトは当初目標の150万円を達成することができました。本当にありがとうございます。みなさまからのあたたかいご支援と応援のおかげで、書店(など)の実現に大きく近づくことができています。皆様のご支援・ご協力、心より感謝申し上げます。
そして今、いっそうプロジェクトの持続可能性を高めるべく、新たな目標として「ネクストゴール250万円」に挑戦させていただくことにしました。
追加分のご支援は、販売する新刊・古書ラインナップのさらなる拡充や、トークイベントをはじめとするイベントの内容・頻度のさらなる拡充にあてさせていただきます。本を軸とした文化拠点として、より豊かで持続可能な場をつくるため、引き続き応援いただけましたら嬉しいです。
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本プロジェクトを気にかけて、このページを開いてくださり、誠にありがとうございます。
神奈川県横浜市の白楽(はくらく)というエリアで暮らしている、編集者(フリーランス)の小池真幸(こいけ・まさき)と申します。
2025年7月、白楽で書店(など)を新規オープン予定で準備を進めています。その開業資金を集めるために、クラウドファンディングに挑戦することにしました。どうぞよろしくお願いいたします。
書店(など)では、僕がふだん編集者として関わっている「人文」や「生活」にまつわる本を中心に、ジャンルを問わず幅広い新刊・古書を取り揃える予定です。多忙な毎日の中でも、少しふだんとは違った時間軸に入り、世界の見方を変えてくれるような本、そしてそうした時間や体験そのものを提供していきたいと考えています。
ただ、「書店(など)」と書いているように、単に「本を買うための場所」だけではありません。
読書や一休み、作業やおしゃべりをしながらちょっとした飲食物を楽しめる「喫茶・喫酒」の場であり、本に関連するトークイベントや読書会・勉強会が行われる「イベントスペース(知と創造の拠点)」であり、そして本に囲まれて作業や読書、一休みができる「まちの書斎(コワーキングスペース)」としての側面も持ち合わせる──そんな「『本』を軸とした小さな複合文化施設」をつくりたいと考えています。
現時点での店舗の空間イメージ図(以下同様)
まちの中でふだんの生活や仕事とはちょっとだけ違う質感の時間が過ごせて、ときには「本」を起点に世界の見方が変わっていく。いわば、日常の中のちょっとした「アジール(避難所)」のような場所にしたいと思っています。
さらにこのプロジェクトを通して、昨今その減少について議論されている「まちの書店」の持続可能なモデルの事例をつくり、豊かな書店・出版文化をこれからも継いでいくことに(微力ながらも)寄与したいとも考えています。
店舗が入る建物の外観。この2階部分が店舗スペースになります。
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※募集方式について※
本プロジェクトはAll-in方式で実施します。
目標金額に満たない場合も、計画を実行し、リターンをお届けします。
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▼目次
・誰がやるのか:まずは簡潔に自己紹介
・何をやるのか:書店(など)──「本」を軸とした小さな複合文化施設
・①書店(+ちょっと飲食)
・②イベントスペース(知と創造の拠点)
・③コワーキングスペース(まちの書斎)
・①〜③を実現するための心強いプロフェッショナルたち
・全てのきっかけ:行きつけのブックカフェの閉店(移転)
・このプロジェクトで生み出したい価値──「まちの書店」の実験、「横浜」の文化拠点づくり、「アジール」と「庭」
・生み出したい価値その①:「まちの書店」の持続可能なビジネスモデルの実験
・生み出したい価値その②:白楽、そして横浜の文化を盛り上げる
・生み出したい価値その③:まちに「アジール」と「庭」をつくる
・ご支援金の使い道とスケジュール
・最後に:「立ち上げる」から「続ける」へ
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誰がやるのか:まずは簡潔に自己紹介
初めましての方もいらっしゃると思うので、まずは簡単に自己紹介をさせてください(ここは前提情報なので読み飛ばしてもらっても大丈夫です)。

改めまして、小池真幸(こいけ・まさき)と申します。
ふだんはフリーランスの編集者として、さまざまな書籍やウェブメディアの企画・編集、そしてイベントの企画・運営などに携わっています。出版社やウェブメディアで本や記事をつくったり、思想や価値観をじっくり世に問うていきたい企業さんの情報発信やメディアづくりをお手伝いしたり。抽象的に言えば、さまざまな媒体や場を通して、人々がふだんの自分が置かれている状況を相対化し、世界の見方が変わるような体験や時間をつくるという仕事を営んできたと考えています。
※主な仕事履歴はこちらのページにまとめていますが、下記にも最近の代表的なものを記載しておきます※
【編集を担当】
白井智子『脱「学校」論:誰も取り残されない教育をつくる』
(PLANETS、2024)
【編集を担当】
福嶋亮大『世界文学のアーキテクチャ』
(PLANETS、2025)
【編集・取材・執筆を担当】
雑誌『モノノメ #2:[特集]「身体」の現在』
(PLANETS、2022)
【編集を担当】
磯野真穂、柳澤田実、山田陽子、和田夏実、山内マリコ、李琴峰、松田青子『生の実感とリアリティをめぐる四つの探求──「人文・社会科学」と「アート」の交差から立ち現れる景色』
(De-Silo Label Books、2024)
【企画・モデレーター・運営を担当】
いま私たちが生きている時代を読み解いていくレクチャーシリーズ「Academic Insights」
(一般社団法人デサイロ、2024〜)
【企画・リサーチ・執筆・編集を担当】
『DE-SILO RESEARCH REPORT──人文・社会科学の未来を拓く30の論点:研究エコシステムの「脱サイロ化」に向けて』
(一般社団法人デサイロ、2024)
【編集部にて活動】
デザインの可能性を探究するメディア『designing』
【編集を担当】
2024年度グッドデザイン賞『FOCUSED ISSUES 2024:はじめの一歩から ひろがるデザイン』
(公益財団法人日本デザイン振興会、2025)
【編集部にて活動】
「嗜好」を探求するメディア『DIG THE TEA』
特定の専門分野はないのですが、あえてジャンル名を挙げるなら、哲学や人類学、社会学といったアカデミックな「人文」領域をベースに、「生活」や「デザイン」、「ビジネス」や「テクノロジー」といったジャンルまで行き来しながら活動しています。研究者やクリエイターの方々に書いていただいたり、インタビューしたりする機会が多いです。
短期的なバズを狙うコンテンツづくりではなく、じっくりとディスカッションやインタビュー、原稿のやり取りを重ねたうえで、長く読みつがれることを目的にコンテンツをつくるタイプの仕事をすることがほとんどです。すぐに役立つ知識や、エナジードリンク的に短期的なモチベーションを得るためのコンテンツではなく、読んだ人の世界の見方が変わり、その人の視点や生き方に中長期的に影響を及ぼしてくれるような本や記事を世に送り出せるよう、日々試行錯誤しています。
今回チャレンジする書店(など)は、いわばこうして編集者として培ってきた経験や知見を、「空間」という別のメディアに注ぎ込んでいく取り組みともいえます。
そしてパーソナルなバックグラウンドも少しお話すると、川崎北部/小田急沿線で生まれ育ち、中高は鎌倉・湘南エリアまで通学、ここ6年ほどは横浜の白楽というエリアで暮らしており、人生のほとんどの時期を神奈川県を拠点に過ごしてきました。そんな神奈川生まれ神奈川育ちとして、ここ数年は「地元になにか貢献できないか」という思いも抱いており、今回の挑戦はそうした自分の半生に対する一つの恩返しでもあります。
(略歴)
1993年、神奈川県生まれ。2017年、東京大学教育学部卒。哲学者ハンナ・アーレントを中心とする政治思想・教育思想や、1970〜80年代の障害者当事者運動などについて勉強していました。新卒で、大学在籍時よりアルバイトしていたデジタルマーケティング系のスタートアップ企業にそのまま入社。アルバイト時代からあわせて約3年間ほど在籍し、主にBtoBマーケティングやオウンドメディア運営、新規事業の立ち上げなどを担当。2018年より編集者・ライターの長谷川リョーに「弟子入り」し、同氏が立ち上げた株式会社モメンタム・ホースにて編集者・ライターとしての経験を積み重ね、2020年に独立。以降、フリーランスの編集者として活動してきました(参考:主な仕事履歴)。
何をやるのか:書店(など)──「本」を軸とした小さな複合文化施設
改めてご説明すると、横浜の白楽で、書店“など”──「本」を軸とした小さな複合文化施設をつくります。
生活の中で気軽に立ち寄れて、仕事や家事、育児や介護とはちょっと違った質感の時間が過ごせて、ときにはその先に広がっている広大な知や物語の世界にアクセスできる可能性を秘めた文化拠点──別の言い方をすれば、日常のそばにあるアジール(避難所)のような場所にしていきたいです。
具体的には、大きくは以下の3つの価値を提供する場所にしていきます。
①書店(+ちょっと飲食)
これが最もコアとなる提供価値です。編集の仕事を続けながらになるので、当面は週に3回(平日の夕方〜夜×2回、休日の昼間〜夕方×1回)の営業となる予定です(ここは実際にやってみながら、増やせそうなら増やしたいと思っています)。
僕の編集者としての知見や関心をベースとしながら、「人文」(哲学、批評、社会学、人類学、民俗学、歴史など)や「生活」(飲食、料理、働き方、子育て、介護、都市論、まちづくり、デザイン、工芸・民藝、趣味、運動など)にまつわる本を中心に、政治・経済・音楽・文学・サブカルチャー・フェミニズム・ノンフィクション・小説・詩・ビジネス・テクノロジー・サイエンスまで、ジャンルを問わず幅広い新刊・古書を取り揃える予定です。
あえて選書の軸があるとすれば、エナジードリンクのように短期的な処方箋やモチベーションを注入してくれる本ではなく、漢方薬のようにじわじわと効いてくる、「世界の見方が変わる」「仕事や生活の捉え方が(少しでも)変わる」ような本を揃えたいと思っています。
書店のメインエリアは入口の扉を開けてすぐ。ここには新刊を中心に2000冊くらい並ぶ予定。右手に見えるベンチのように、腰掛けて本を眺められるスペースも。
そして、毎月「特集棚」を設ける予定です。取り扱い書籍の中から、僕が編集者として「いま考えたいテーマ」を設定し、そのテーマを考えるうえでヒントになるような書籍を20〜30点ほどピックアップします。
特集内容はいま練っているところですが、たとえば下記のようなテーマを構想しています。身近なトピックから、抽象的な概念まで行き来して考えられるような、そんな特集を組めたらと思っています。
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(特集テーマイメージ。あくまでも仮イメージです)
・「自炊」や「家事」といった生活の中の身近な事柄について、「哲学」や「人類学」といった人文的な視座から問い直していく特集
・「政治」や「資本主義」といった大きな概念を、「多忙」や「スケジュール」といった身近な感覚や事象から解きほぐしていく特集
・「小商い」や「二足のわらじ」、「趣味」といった、“仕事外”の活動のあり方について考えていく特集
・「人文学」と、「ビジネス」や「デザイン」、「テクノロジー」といった他領域をかけ合わせて考える特集
・「ひとり飲み」や「リノベーション」など、暮らしをちょっと豊かにしてくれる実践について“達人”の知見を学んでいく特集
・「白楽」や「横浜」、「神奈川」といった地域の可能性について考えていく特集
・特定の作家や著者をフィーチャーする特集
・地元・白楽のお店や住民の方々に選書していただく特集
・外部の作家や研究者、クリエイターの方々に選書していただく特集
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後述する月1回のトークイベントも、この「特集テーマ」に関連するゲストをお招きする予定です。月刊誌の特集のようなイメージで、近所の人でなくとも毎月1回は覗きたくなってしまうようなお店を目指します。
書店のメインエリアを逆側から見たイメージ図。右手の壁沿いのスペースが前掲の「特集棚」
また本だけでなく、ちょっとした珈琲やお茶、お酒やノンアルコールドリンクも飲める場所にします。僕自身、ここ数年は編集者として飲食にかかわるプロジェクトに携わる中で、魅力的でユニークな飲み物や食べ物をつくっている方に取材する機会も増えているので、そうした経験も活かし、飲食メニューも「編集」できたらと考えています。
②イベントスペース(知と創造の拠点)
上記のようにセレクトされた「本」を起点に、さまざまなイベントが開催される場所、言い換えれば知と創造の拠点にしていきたいと考えていします。
まず月に1回、前述の「特集テーマ」に関連したゲストをお招きして、公式のトークイベントを開催します。特集を通じて生じた問いを、さまざまな有識者や実践者の方と一緒に、より一層深めていく。「ハレ」(非日常)と「ケ」(日常)の区分に則ると、どちらかといえば「ハレ」(非日常)の場の時間にできたらと思っています。基本的にはオンラインでも視聴可能な、ハイブリッド開催とする予定です。
ただ一方で、「ケ」(日常)の時間としてのイベントもたくさん開催していきたいと思っています。
読書会や勉強会はもちろん、仕事の傍らでお店に挑戦してみたい人のための間貸し営業なども積極的に行い、みなさんの日常を少しずらしたり、広げていったりするきっかけとなる場にしていきます。僕から色々と企画したりお声がけしていったりすることもあると思いますが、基本的にはお客さんからの持ち込み企画を歓迎したいです(ありがたいことに、すでに開店後に読書会をやりたいといった相談をいただいております)。
書店のメインエリアの奥には、開店時は主にカフェスペース、その他イベントスペースやコワーキングスペースとしても利用される多目的エリア
③コワーキングスペース(まちの書斎)
書店やイベントの時間以外は、いわば「オフの書店」の中で作業や読書、一休みができる、「まちの書斎(コワーキングスペース)」として貸し出します。
平日の日中や土日の片方1日は共同書斎になるので、実はこの形としての時間が一番長くなる予定です。
もちろん仕事をしてもいいし(オンラインMTG用の仕切られたエリアもあります)、仕事や育児の合間に、1-2時間だけ一息ついて読書や一休みをするだけでもいい。
綺麗で設備の整ったコワーキングスペースはたくさんありますが、ここは「オフの書店」を「まちの書斎」として開放することで、ふだんの仕事や生活とは少し違った時間軸を過ごせるような、疲れたら本棚を眺めたり、窓からの絶景を眺めてリラックスしたりできるような、そんな「まちのアジール(避難所)」のような場所にできたらと思っています。
なお、この「まちの書斎」を利用していただいた方には、書店内にひと棚、シェア型本棚もお貸しします。そこで書籍や雑貨を販売いただくのも大歓迎。つまり、本棚つきのコワーキングスペースとしてご利用いただく、ということ。各所にコワーキングスペースはたくさんありますが、この「まちの書斎」はあくまでも「本」を起点に、本が好きな人が集まるコワーキングスペースとして運営していきます。(ちなみに僕自身もいちユーザーとして利用するので、自分の編集事務所も兼ねています)
書店の傍らで作業や勉強、休憩ができる「まちの書斎」エリア。駅近とは思えない街の眺めで、思い思いにゆったりと過ごしてもらえる空間にします
◆①〜③を実現するための心強いプロフェッショナルたち
ここまで説明してきた①〜③は、コアは共通しているとはいえ、それぞれかなり違うタイプの提供価値になります。
こうした要素を一つの場所で実現するというのは、決して簡単なことではなく、いち編集者である僕だけの力では到底不可能です。
しかしありがたいことに、下記のようにこの「書店(など)」づくりのプロセスをリアルタイムに発信していく中で、そんな力不足の僕の心意気や思いに共感し、本当に多くのみなさんに応援していただいております。

そうした中で、この場所の実現に必要だけれど、僕には決定的に欠けている要素を補ってくれる、心強いパートナーさんと仲間になることができました。もちろん他にもたくさんの方々のお力添えあって成立している挑戦ではあるのですが、ここでは実際の「書店(など)制作」で中心的に力を貸してくれている、二人の心強いプロフェッショナルを紹介させてください。
●守屋輝一(もりや・きいち)|デザイナー・起業家/発明家、株式会社きいちのメモ代表

このプロジェクトではクリエイティブ・ディレクター/デザイナーとして関わってもらっています。かねてより懇意にさせていただいており、友人としてもプロフェッショナルとしてもとても信頼・尊敬しているデザイナーさんです。もともとお店のロゴのデザインをお願いするつもりで相談したところ、自身でも複数の事業を立ち上げてきたデザイナーとして、全体的なクリエイティブ・ディレクションを担当してくれることになりました(このあたりの詳しい経緯は、こちらの記事にも書かれています)。
(プロフィール)
1995年埼玉県生まれ。法政大学大学院デザイン工学研究科システムデザイン専攻修了。プロダクトデザインを軸に美学・工学・経営学を横断した総合デザインを学ぶ。都内デザイン会社を経て、理念に「人の弱さと折り合う仕組みづくり」を掲げる株式会社きいちのメモを設立。安全システム、遊具、ロボット、海洋テックなどジャンルを問わず、ある時は既存プロジェクトや組織にデザイナーとして参画、またある時は自ら製品/事業を生み出し市場導入を行う起業家・発明家としても活動する。JAMES DYSON AWARD日本最優秀賞・国際TOP20、 SIGGRAPH Awardなど。
●神永侑子(かみなが・ゆうこ)|建築家 、AKINAI GARDEN STUDIO 共同主宰

このプロジェクトでは、主に空間デザイン・空間設計を担ってもらっています。同じ横浜の中心部から少しだけ離れた「弘明寺(ぐみょうじ)」というエリアで、ご夫婦で建築設計事務所「AKINAI GARDEN STUDIO」を営まれており、「小商い暮らし」というコンセプトのもと、将来自分のお店を持ちたい人や、新しいチャレンジをしたい人のための「小商い実験室」を約5年運営されていました。
お店をさまざまな人に関わってもらい文化がボトムアップに生まれていく場所にしていきたい僕にとって、これ以上なく心強い建築家さんです。ただ、同じ横浜で活動されているのですが、実はこれまで面識はありませんでした。しかし、先述の「制作記」の中で「空間デザインに困っている」という内容を書いたところ(参考)、ありがたいことに知人がつないでくれて、話をしてみると今回のプロジェクトにピッタリの方だとわかり、仲間に加わっていただけることになりました(神永さんにお願いした理由やその経緯については、こちらの記事にも詳しく書いています)。
(プロフィール)
1990 茨城県生まれ
2012-2020 オンデザインパートナーズ
2019-2024 シェア店舗アキナイガーデン運営
2019- アキナイガーデンスタジオ創業
2021-2023- YADOKARI株式会社
2023- 関東学院大学 非常勤講師
2024- 株式会社アキナイガーデンスタジオ設立
共同編著書:「小商い建築、まちを動かす」(2022年)
全てのきっかけ:行きつけだった「ブックカフェはるや」の閉店(移転)
しかし、なぜいち編集者である僕が、「書店(など)」を立ち上げることになったのでしょうか?
僕は職業柄本はたくさん読みますし、仕事関係なく本を読む時間は自分にとってとても大切で、いわゆる「活字中毒」と言われるようなタイプの人間に近いかもしれません。そして読むだけではなく、編集者として本をつくってもいます。それゆえ、そうした本が売られている「書店」は僕にとって大切な場所で、のちに詳しく説明する「独立系書店」(主に個人経営で、店主のこだわりやキュレーションが効いた選書がなされる、新しいタイプのまちの書店)にも折りに触れて足を運びます。
ただ、とはいえ書店員として働いたことも、アルバイトをしたこともありません。「いつか自分のお店のような場所が持てたらいいな」というぼんやりとした妄想はありましたが、具体的にいつ何のお店を始めるのかという構想も、ほんの半年ほど前までにはありませんでした。
では、なぜ唐突に書店(など)を開業することに至ったのか。
実はそこには、僕にとってはとても必然的な背景がありました──実はこの書店(など)の場所は、2024年12月まで、もともと僕が一人のお客さんとしてめちゃくちゃ通わせていただいていた「ブックカフェはるや」というお店があったところなのです。
「日常的に本屋に行かない、97%の人のために」。“ふまじめ”な本屋〈はるや〉 | ブルータス| BRUTUS.jp
(開店から半年後ほどに、たまたま縁あって書かせていただいた「はるや」への取材記事)
「はるや」時代の風景(写真提供:妙蓮寺・菊名・白楽の地域メディア『ケの日のこのまち』)
「はるや」時代の風景(写真提供:妙蓮寺・菊名・白楽の地域メディア『ケの日のこのまち』)
2022年、白楽のまちに開店した「はるや」。白楽、もっといえば横浜という場所を選ばれたのは、完全なる「たまたま」でした。
店を切り盛りされている草野史さん・小檜山想さんは、もともと80〜00年代のマガジンハウスで編集者やライターをしていた大先輩で、2010年代は武蔵小山で、数席だけの、近所の方々にこよなく愛される酒場「はるや」を営んでいました。しかし、「たまたま」建物の老朽化により、お店を畳むことに。そこで「次はブックカフェをやろう」と物件を探していた中で、「たまたま」条件が折り合ってお店を開くことにした場所が白楽でした。
結果、「たまたま」近くに暮らしていた僕は、本に囲まれる楽しさに加え、大きな窓からの眺めの素晴らしさ、そして何よりお二人のあたたかいけれどウェットすぎない人柄に惹かれ、もはや書斎かのように「はるや」に通わせていただいていました。間違いなくお二人にはにはどんな仕事仲間よりも顔を合わせていましたし、ここ数年の僕の制作物の多くはこの「はるや」での作業によって生み出されました。このお店で巡り合った大切な人々との出会いもあり、「一箱本棚」の棚主として人生で初めて本を売る機会や、場所をお借りして勉強会などを開かせていただく機会にも恵まれました。
「はるや」時代の風景(写真提供:妙蓮寺・菊名・白楽の地域メディア『ケの日のこのまち』)
「はるや」時代の風景(写真提供:妙蓮寺・菊名・白楽の地域メディア『ケの日のこのまち』)
しかし、そんな「はるや」も2024年末、長崎への移転のために閉店することに。その旨を知ったときから、「はるやがなくなってしまうなら、自分で近所にちょっとした書店をつくれないか」という考えがなんとなく芽生えてきました。また「小さな複合文化施設」というビジネスモデルに思い至り、そして何より大好きだった「はるや」の場所が自分と何の関係もない場所でなくなってしまうことがどうしても耐えられず、最後は勢いにまかせてその跡地での開業に踏み切った、という経緯です(このあたりに経緯は、先程も触れたこの記事に詳しく書いているので、興味のある方はぜひお読みください)。
「はるや」なしにまさか自分が書店を開くなんて展開にはなりませんでしたし、跡地を引き継ぐと決まってからも、お二人は精力的に開店準備をサポートしてくださり、本当に感謝してもしきれない存在です。
ちなみに「はるや」もこの春から長崎・三川町にて改めて開店されるので、ぜひ立ち寄ってみてほしいです(もちろん僕自身も、その開店を心待ちにしているはるやファンの一人です)。「はるや」ファンのみなさん向けに、「はるや応援プラン」というプランも用意させていただきました。
この端っこの席がお気に入りで、毎日のように座っていました
このプロジェクトで生み出したい価値──「まちの書店」の実験、「横浜」の文化拠点づくり、「アジール」と「庭」
さて、そんな個人的な出会いと思いによって開業することになったこの「書店(など)」ですが、それだけでなく、いまの書店・出版文化にとっても意味のある挑戦となるのではないかと、手前味噌ながらに考えています。
ここでは今回のチャレンジで生み出したい価値について、以下の3つの観点からご説明します。
・生み出したい価値その①:「まちの書店」の持続可能なビジネスモデルの実験
・生み出したい価値その②:白楽、そして横浜の文化を盛り上げる
・生み出したい価値その③:まちに「アジール」と「庭」をつくる
生み出したい価値その①:「まちの書店」の持続可能なビジネスモデルの実験
昨今よくその衰退について問題視される「まちの書店」。このプロジェクトによって、その持続可能なビジネスモデルの一つの実験を行い、モデルケースをつくることができるのではないかと考えています。
まず大きな前提背景として、「まちの書店」が置かれている厳しい社会的な状況があります。
書店というのは、そもそも利益率が高くない小売業の中でも、きわめて利益率の低いビジネスモデルで営まれている業態です。ざっくり言うと、仕入れ値が約7〜8割かかり、利益率は20〜30%(つまり1000円の本を売っても書店の利益は200-300円ほど)。それでもかつては、雑誌や新刊漫画など「仕入れればある程度は売れる」出版物のおかげでビジネスが成り立っていた「薄利多売」のビジネスとも言えるでしょう。しかし、ピーク時の1990年代半ば以降、そもそも紙の出版物の市場規模が右肩下がりであるいま、かつての薄利多売モデルを維持するのは難しくなっており、書店が苦境に立たされているというのが現状なのです(あくまでもアウトサイダーである僕の理解です)。
とはいえ、出版社や著者・デザイナー、そして「取次」と呼ばれる出版社の本を書店に配分する中間卸売業者の取り分を考えると、仮に書店の取り分を増やすと他のステークホルダーに負担がかかってしまい、これ以上利益率を高めることはなかなか難しい。
結果として、「書店」というビジネスモデルは、もはやそれ単体での存続が、かつてより一層難しくなっています。
こうした状況を受けて、昨今は「書店振興」が重要な社会課題として認識されるようになりつつあり、行政や大手メディア企業による議論や提言が少しずつなされるようになってきています。
(参考)全国で減少 書店が抱える経営課題をまとめ 支援検討へ 経産省 | NHK
(参考)書店振興 官民で、「自治体内に0」増加…[読売新聞社・講談社提言] : 読売新聞
一方で、近年は「独立系書店」とも呼ばれる新しいムーヴメントも出てきています。主に個人経営で、店主のこだわりやキュレーションが効いた選書がなされる、新しいタイプのまちの本屋が興隆しているのです。
(参考)本屋さんは必要?大型書店が消える一方で増える独立系書店・・・ 書店のこれからについて王林さん・ブックアドバイザーの菊池壮一さんと考えます。 | NHK
ちなみに昨今の書店業界の現状やこれからの展望については、下北沢の「本屋B&B」などを手がけたことでも知られるブック・コーディネーターの内沼晋太郎さんのご著書や発信などに詳しくまとめられているので、ご関心がある方はぜひチェックしてみてください。
(参考)内沼晋太郎『これからの本屋読本』(NHK出版、2018)
(参考)内沼晋太郎『本の惑星』
そして独立系書店の多くは、イベントや飲食など、書店よりも利益率の良いビジネスモデルを組み合わせています。つまり、「本だけで稼がない」状態を作り出すべく、新たなビジネスモデルを模索しているというわけです。
今回のチャレンジも、基本的にはこうした独立系書店の流れを踏襲しています。つまり、「本で稼がない」ビジネスモデルを実現するために、あえて「書店(など)」という形態を取っているのです。
飲食やイベントスペースをかけ合わせるというのは多くの独立系書店の方法論を踏襲しつつ、コワーキングスペース(まちの書斎)を組み合わせるというのは、今回のプロジェクトのユニークな点の一つだと思います。
自分のように別で本業を営む人の場合、書店としてオープンできる時間はどうしても限られてしまうので、その他の時間がただ家賃が出ていくだけになってしまいます。そこでその他の時間も、管理人がいなくても成り立つようにスマートキーなどでセキュリティを整備したうえでコワーキングスペース(まちの書斎)として貸し出すことで、マネタイズの効率をさらに高めようという意図です。
言い換えれば、書店という「場所」のもつ価値を最大限に模索するモデル、とも言えるでしょう。
また昨今は、専業ではないかたちで本屋を営む人を支援する動きも出てきています。花屋さんは花の本、イタリアンレストランは料理やイタリア文化の本を売る。さまざまな専門性を持った人が、それぞれの得意分野で本を売ることで、よりまちに文化的多様性が生まれるはずで、これは素晴らしいことだと考えています。
(参考)小型書店の開業をサポート 日本中の「本屋をやりたい人」へ 書店開業パッケージ『HONYAL』(ホンヤル)10月17日よりサービス開始
こうした「二足のわらじ」的な書店のあり方として、「飲食やイベントを組み合わせつつ、空いた時間は自分や近所の人の書斎にする」というモデルを実験してみたい。これがうまくいけば、いろんなまちで、空いたスペースで似たようなことができるはず──そんな思いから、このプロジェクトに挑戦することにしました。

生み出したい価値その②:白楽、そして横浜の文化を盛り上げる
そして、もう一つまた別の観点で、今回のプロジェクトで微力ながらも寄与できたらと考えているのが、「白楽」、ひいては「横浜」というエリアの文化を盛り上げることです。
自己紹介のところにも少し書きましたが、僕は川崎で生まれ育ち、ここ7年ほど横浜・白楽で暮らしてきていて、人生のほとんどの期間を神奈川を拠点にしてきました。
そんな中で、ここ数年は仕事でまちづくり関連の企画などにも携わる中で、「足元の白楽(横浜)をもっと面白くするために何かできないか」という思いを漠然と抱くようになってきました。


もちろん、既に白楽(横浜)で独自の文化を築いてきている先達の方々はたくさんいらっしゃいます。
横浜では近年、アートを中心とした文化振興に力を入れており、3年に一度、横浜で開催する現代アートの国際展「横浜トリエンナーレ」なども有名です。また、神奈川大学や横浜国立大学などの建築学科の勢いもあり、建築家さんもたくさんいらっしゃいます。
そして書店や出版においても、個々の地域でまちに根付いた独立系書店や小規模な出版社も少なくなく、昨今では「本は港」という神奈川県内のユニークな書店と出版社が集まるブックマーケットも毎年開催。僕もほぼ毎回遊びに行かせていただいており、今回のチャレンジも諸先輩方のあたたかい応援やご支援をいただき嬉しい限りです。
白楽というエリアに限っても、神奈川大学のお膝元の学生街ということもあり古書店が多く、ここ数年は「ブックカフェはるや」をはじめ新しい独立系書店も生まれはじめています。

ただ一方で、ここからはあくまでも感覚論になってしまいますが、自分がふだん関わっている「人文」や「デザイン」といった分野に限って言えば、横浜においてまとまったムーヴメントがまだあまり見られないような印象も受けます(あくまでも自分の目線からは)。
そして、ふだん編集者として東京やさまざまな地方の取り組みに関わったり、取材させていただいたりする中で、「横浜」というエリアはそのポテンシャルに比して、比較的注目が集まっていないような感覚もあります。
メディア業界ではなんだかんだ未だに東京中心の価値観や力学が残っているのと、そうした価値観への問い直しとして近年は「地方」への注目も高まる一方で、その中間のエリアである「横浜」にあえて目を向ける人はあまり多くないような気がするのです。
しかし、歴史を振り返ると、この横浜という地域は、明治の開港以来、(欧米への窓口としての機能を期待された地域だったこともあり)ジャズや映画にはじまり、バーカルチャーやロックといった欧米文化を真っ先に輸入し、(良い意味で)日本人に合ったかたちで取り入れてきた、熱い文化生成のスポットでもありました。
そうした文化生成の熱を、この21世紀に合ったかたちで、取り戻すことはできないか──やや大げさに言えば、そんな野望が今回の取り組みの背景にはあります。もちろん僕一人にできることなんて限られていますが、少なくともその一端を担うべく何かできることはないだろうかと思っています。
またその舞台として、この「白楽」というエリアも高いポテンシャルを秘めているのではないかと思っています。
白楽は神奈川大学のお膝元である学生街でもあり、中でも戦後の闇市の雰囲気を残す六角橋商店街は今でも健在の活気ある商店街。毎年4月から10月(8月はお休み)の第三土曜日には、街中でライブパフォーマンスや大道芸が行われる「ドッキリヤミ市」が開催され、さまざまな飲食店が一緒にイベントを盛り上げています。普段はオフィス街や繁華街ではなく、落ち着いて暮らせる「住む街」でありながら、こうした熱気ある側面も持ち合わせているのが、白楽の面白さです。
この(良い意味で)ボトムアップで熱気ある白楽というエリアから、自分のコミットしてきた「人文」や「メディア」、「デザイン」といった領域でも、何か新しいムーヴメントを、小さくてもいいから起こしたい──そんな思いを秘めているプロジェクトでもあるのです。



生み出したい価値その③:まちに「アジール」と「庭」をつくる
しかし、そこまでして「まちの書店」を残す意味とは何でしょう?
もちろん、お目当ての本を買うだけなら、AmazonをはじめとしたECサイトでワンクリックするのが一番“効率が良い”のは紛うことなき事実で、僕自身、日々たくさんの本をAmazonでポチっています。
しかし、それでも僕は、まちには小さな書店・本屋さんが(できるだけたくさん)あるべきだと考えています。そう考える理由として、最後は少し抽象的な話をさせてください。
なぜなら書店・本屋さんというのは、単に「本を買う」ための場所ではなく、暮らしの中で気軽に立ち寄れて、その先に広がっている広大な知や物語の世界にアクセスできる可能性を秘めた文化拠点──別の言い方をすれば、日常生活の中にある「異界」への窓であり、仕事や家事、育児や介護とは別の時間軸にアクセスできる「アジール」(避難所)のような場所だと考えているからです。
近隣を一望できる、店舗からの2階ならではの素晴らしい眺め。すり鉢状の地形に家々が建っている様子を、小説家・児玉雨子さんは「フジツボの街」という巧妙な表現であらわされていた(「本という扉と、フジツボの街」 ――白楽・ブックカフェ「はるや」で書評エッセイ集を読む | 児玉雨子のKANAGAWA探訪#12)
仕事や家事、育児や介護に多忙で、目の前の「やるべきこと」に追われるだけで過ぎ去っていく日々。そんな中で目まぐるしい進化を遂げる最新テクノロジー、それに伴い爆発的に増えていく情報。現代人はタスクと情報の洪水の中で生きている、と言えるでしょう。
だからこそ、タスクと情報の海から一時的・強制的にでも離れられるリアル空間が──しかもふだんとはちょっと別の時間軸や、別の世界にアクセスできる場所が、忙しい毎日の中でも、気軽に立ち寄れるかたちであるべきであり、その一つの形が「書店」だと考えているのです。
とはいえ、繰り返しになるが、「書店だけ」では稼げない。だから「書店など」であり「小さな複合文化施設」なのです。
ちなみにこうした「アジール」的な場所の重要性については、古代地中海史を専門とする在野研究者であり人文系私設図書館「ルチャ・リブロ」も運営されている青木真兵さんの著書『手づくりのアジール:「土着の知」が生まれるところ』や、近代から古代まで遡り、駆込寺や楽市といった多様な領域から「人間の本源的自由」の息づくアジールについて論じられた古典である網野善彦『無縁・公界・楽:日本中世の自由と平和』といった本からおおいにインスピレーションを受けました。
(参考)青木真兵『手づくりのアジール――「土着の知」が生まれるところ』(晶文社、2021)
(参考)網野善彦『無縁・公界・楽:日本中世の自由と平和』(平凡社ライブラリー、1996)
店舗入口部分からの眺め
そして、僕がこの場所を通じて実現したい空間がもう一つあります──それが「庭」です。
ここでいう「庭」はもちろん比喩で、実際にお店の中に土を入れて植物を植えて池を掘って……というわけではありません(そういうスペースがあればやってみたい気持ちはものすごくありますが……笑)。
ここで言う「庭」というのは、評論家/「PLANETS」編集長の宇野常寛さんが近刊『庭の話』で提示している概念です。
宇野常寛『庭の話』(講談社、2024)
個人的に編集者としてめちゃくちゃお世話になり、この人には絶対に足を向けて寝れないという人が何人かいるのですが、宇野さんもその一人です。そして、実は僕のこの書店(など)制作は、僕なりの『庭の話』への応答というか、そこで提示された問いに対する回答を試みる実践でもあります。
この『庭の話』本を僕なりに一言で説明すると、いまのプラットフォーム資本主義社会下の問題の解決につながり得る「場所」(空間)の条件について論じた本といえます。もちろんそんな一言で言い表せるような本ではなく、情報社会論から建築・都市論、哲学や文化人類学、社会学やサブカルチャー批評、民藝やケア、ビジネスまで縦横無尽に行き来しながら、全体が一つのドラマチックな物語のように書かれたスリリングな本なので、ぜひ実際に本を読んでもらえたらと思うのですが、宇野さんの自著解題のテキストの説明が端的にまとまっているので、ここではそれを引用するにとどめておきます。
(……)タイトルは「庭の話」ですが、園芸や環境保護の本ではなく、分野としては情報社会論の本ということになると思います。
具体的にはプラットフォーム資本主義の強すぎる力とどう付き合っていくか、という「大きな話」をケアとか民藝とかパターン・ランゲージとか、銭湯とか、ゴミ捨てとか、働き方とか、そういった身近な話を手がかりに考えています。
これはたぶん、かなり変わったアプローチだと思います。いまプラットフォーム資本主義の副作用が、特に民主主義との食い合わせが悪いために世界中で噴出している……という理解は左右を問わず、ほぼ誰もが認めるところだと思います。
そしてこの問題に対しての「解」はだいたい2パターンに分かれています。それはプラットフォームのアーキテクチャがより「スマート」に進化すればいい、という経済、技術畑の人たちが支持しがちな「解」と、プラットフォームによって分断された個人を包摂する新しい「共同体」が必要だと考える政治、文化畑の人たちに好まれる「解」です。そして、困ったことにどちらの「解」の支持者も相手のことをバカだと思っている傾向があります。で、結論から言えば僕はこのどちらの「解」もあまりしっくり来ていません。それが、僕がこの本を書こうと思った動機のようなものです。
そこで、ここはちょっと搦め手的に方法を変えてみよう、と僕は考えました。前者(経済的、技術的なアプローチ)でも、後者(政治的、文学的なアプローチ)でもない第三の道……みたいなものはないか、と考えたのがこの『庭の話』です(宇野常寛「『庭の話』が100倍面白くなる自己解説テキスト」より引用)
そして、本書で実際の作庭師の理論をはじめ多分野の知見を渉猟しながら提示されている「『庭』の条件」が、下記の3つです。
①「庭」とは人間が人間外の事物とのコミュニケーションを取る場
②「庭」はその人間外の事物同士がコミュニケーションを取り、外部に開かれた生態系を構築している場所
③人間がその生態系に関与できること/しかし、完全に支配することはできない場所
こうした3つの条件を兼ね備えた「庭」空間こそが、現代のプラットフォーム資本主義が直面する隘路の突破口となり得る、というわけです。そして僕もこの宇野さんの提言はとても重要だと思っていて、自分の「書店(など)」でもこうした「庭」づくりにトライしたいと考えています。
「本」や「飲食」といった「人間外の事物」とコミュニケーションを取る場であり、イベントを通じて「外部に開かれた生態系」を構築し、また間貸し営業やシェア型書店などを通じてお客さんが「その生態系に関与できること/しかし、完全に支配することはできない」場所──そんな「庭」的な場所として、この「書店(など)」を「作庭」していけたらと思っています。
こう考えるようになった背景には、宇野さん自身が「2020年以降の『遅いインターネット』以降の情報社会論的な仕事や、都市開発についての研究会の主催(庭プロジェクト)や、『モノノメ』などの編集者としての仕事で得たものが、この本には集約」されていると言っているように、この本は評論家としての宇野さんの数年に一度の代表作であると同時に、編集者としての宇野さんのここ数年の活動が集約されたものでもあるという点があります。
そしてありがたいことに、僕はここ数年、PLANETS編集部のスタッフとして、その多くの現場で宇野さんのそばで同席させていただいていました。いわば、この『庭の話』の原液とでも言うべきシーンに多数立ち会う中で、否応なく僕自身もそのエキスを吸い取るかたちになってしまい、自分でも「庭」──プラットフォーム資本主義下において、人間と人間以外の存在とのコミュニケーションを取り戻す場所──をつくってみたいという気持ちになった、というわけです。
少し抽象的な話が続いてしまいましたが、今回の取り組みで生み出したい場所としては、観念的に言えばこうした「アジール」であり「庭」である場所、ということになります。ちなみにお店の空間デザインは、先に紹介した建築家の神永さんが、このコンセプトを深く汲み取ったうえで十二分に注入していただいたものになっています。めちゃくちゃ素晴らしい提案で、プレゼンいただいた際には思わず唸りました。


ご支援金の使い道とスケジュール
最後に、ご支援金の使途やスケジュールに関してもご説明します。このプロジェクトは、もちろん「持続可能なモデル」をつくることをゴールに掲げているので、「こうすればなんとか黒字化できる」という目算はあるのですが、とはいえ基本的に初期は赤字前提で、既存の編集業での利益を投資していくかたちで推進していくものになります。
ですから、正直に言えばお金はあればあるだけありがたい……というのが現状です。とりわけ立ち上げ時には、内装をはじめどうしてもまとまったお金が必要なので、借り入れなどもあわせて行ってはいるのですが、ぜひみなさんのご支援をお願いできますと助かります。
(また、この場所を活用して、企業さんと一緒に何かできないかとも考えており、法人向けのリターンプランも用意させていただきました)
資金の使い道
・内装費
・工事費
・仕入れ費用
・当座の運転資金
スケジュール
2025年4-5月:クラウドファンディング
2025年6月:内装工事、仕入れ、設備整備
2025年7月:正式オープン
最後に:「立ち上げる」から「続ける」へ
すっかり長くなってしまいました。ここまで読んでいただいたみなさま、本当にありがとうございます。
最近このプロジェクトのことを知った知人に驚かれることも多いのですが、いまこのようなかたちで「書店(など)」の立ち上げに向けたクラウドファンディングを行っていることに、いちばん驚いているのは、他でもない僕自身かもしれません。本当に、半年前には想像もできなかったことです。
しかし、改めて振り返ると、これまでの編集者としてのキャリア、「はるや」との出会い、さらには人生の中でのさまざまな方々との出会いや経験を、全て還流させていくプロジェクトだなとも感じています。
そして何より重要なのは、立ち上げることよりも「続ける」ことです。自分は今年32歳になりますが、30代の多くをこのプロジェクトに捧げ、まちの書店の持続可能なモデルを探っていけたらと思っています。おそらくオープン後も試行錯誤の連続になるとは思いますが、つねにベストを探るべく「実験」を続けていきます。
その際、もちろん僕自身が良い場をつくるべく鋭意努力するのは大前提として、それ以上に重要なのは、いかに多くのみなさんに一緒に「実験」してもらえるか、だと思っています。
このクラウドファンディングを起点に、この場所でみなさんと一緒に楽しいことや面白いことをどんどん仕掛けていけたらと思っておりますので、ぜひ仲間に加わっていただけると嬉しいです。
最新の活動報告
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店名・ロゴ・SNSアカウントを公開しました!
2025/06/01 13:50ご支援いただいた皆様にはメッセージでもお伝えいたしましたが、去る5/26いっぱいで、1ヶ月半のクラウドファンディングが終了。131人の方に、総額2,598,055円のご支援をいただきました。当初目標の150万円、そしてネクストゴールの250万円も達成することができ、本当にありがたい限りです。ご支援いただいた方、気にかけていただいた方、本当にありがとうございました。ご期待に添える、いや上回るような場所をつくるべく、一層気を引き締めてまいります。そして開業も7月に迫ってきた本日、ついにて書店(など)の店名・ロゴ・SNSアカウントを公開しました。■「bookpond」Twitterアカウント■「bookpond」Instagramアカウント今後は上記のSNSアカウントで、お店についての詳細な情報を発信してまいりますので、ぜひフォローいただけますと幸いです。店名に込めた思いなどについては、こちらの「制作記」noteにて頭出ししておりますので、気になる方はぜひご参照ください。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。 もっと見る
目標達成のご報告と、ネクストゴールへの挑戦
2025/04/22 18:00本プロジェクトを気にかけてくださったみなさま、広めることにご協力いただいたみなさま、そしてご支援いただいたみなさま、誠にありがとうございました。おかげさまで、本プロジェクトはプロジェクトスタートより約3日間にて、当初目標の150万円を達成することができました。あまりの予想外のスピードに、僕自身が最も驚いておりますが、本当にみなさまには感謝してもしきれません。みなさまからのあたたかいご支援と応援のおかげで、書店(など)の実現に大きく近づくことができています。皆様のご支援・ご協力、心より感謝申し上げます。そして今、いっそうプロジェクトの持続可能性を高めるべく、新たな目標として「ネクストゴール250万円」に挑戦させていただくことにしました。追加分のご支援は、販売する新刊・古書ラインナップのさらなる拡充や、トークイベントをはじめとするイベントの内容・頻度のさらなる拡充にあてさせていただきます。開業に向けての準備に関しても、着々と進めております。ちょうど今朝も、細かい内装工事の要件を検討するため、建築家さんと大工さんとお店のスペースで現地調査を行いました。より一層、開店した風景がイメージできてきて、とてもワクワクしています。制作のプロセスに関しては、下記の「書店(など)制作記」のほうでも毎週近況を更新しておりますので、ぜひチェックいただけますと幸いです。書店(など)制作記──横浜・白楽にて本を軸とした文化拠点として、より豊かで持続可能な場をつくるため、引き続き応援いただけましたら嬉しいです。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。 もっと見る





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