2018/08/17 02:15

本当は高度順応トレなどをもっと積みたいのですが、家族との生活もあり、自分勝手なことばかりできるわけではありません。

夏休みの昨日も、「午前中だけトレーニングさせて!」と子供たちに頼み、実際には前日深夜からガッツリ10時間走ってきました。

コースは数年前に企画して達成できていなかった「ルーツ走60km」。山形県大江町にある実家から、幼少期に育った家や通った学校、自転車で探検した道などを辿り、朝日連峰の玄関口のひとつである古寺鉱泉を目指します。帰路は朝日町に入って、小さい頃に親に連れて行ってもらったスキー場の近所を通って、生まれてすぐの頃に過ごした家や父親の実家付近を通過し、スタート地点に戻る周回コース。

結果的には、60km10時間走った時点で、まだ10km以上残っていることがわかり、家族との約束を守るために、タクシーで帰宅しました。来月2週間ほど家を空けるので、今は無理をするところではありません。大人の選択風ですが、暑さもあってか、午後の家族サービスに影響が出ないギリギリでした。

 

(写真は古寺鉱泉への道が舗装される以前の2歳くらいの俺)

古寺鉱泉は、両親の出会いの場であり、僕が生まれた後もそこでアルバイトをしていた母親に連れられて多くの時間を過ごした場所。築80年を超える建物は、来年以降に閉鎖され場所を変えるとのことで、今の姿を目に焼き付けるために、是非とも訪れたい場所でした。

(暗い山道を走るのが怖かったので)午前2時半ごろスタートし、予定通り、民家が点在する柳川温泉の手前で夜が明けました。その後はショートカットを回避して、あえて細く急で長い大頭森山(だいずもりやま)の旧道を選択。途中、クマやアブの襲来に怯えつつ、ブナ林の中を淡々と登り、降り切って古寺川の上流にある古寺鉱泉「朝陽館」にはスタートから5時間後の7時半ごろ到着しました。建物に至る数百メートルは、木を燃やしたような匂いを嗅いだだけで、子供の頃の記憶がよみがえりました。今の僕の息子たちのように、親に手を引かれながら、ああだこうだとだまされだまされ歩かされ、ようやく建物が見えてきたときの安心したときの記憶です。この時点ですでに大幅に遅れていたので、気も緩み、臨時休業だった扉を開けてもらって広間に腰を下ろして、すぐにビールを飲み始めてしまいました。トビタケの煮物に箸を伸ばしながら、じいちゃんと呼んでいた当時の主がごくたまにこっそり食べさせてくれたニジマスやイワナの卵、僕らの寝床だった布団部屋の匂い、なぜか僕の髪の毛を舐めまわした猫、風呂場に描かれた山の絵、古い山の写真、米を炊くのに使った釜、怖かった便所など、忘れたと思っていた記憶までしっかり味わいました。当時からばあちゃんと呼んでいた女将さんは今も健在で、僕の突然の来訪を手を握って喜んでくれました。

すっかりくつろぎ、朝食までご馳走になりかけましたが、まだ30km以上進まなければならないことを思い出し、ばあちゃんに再訪を約束して、古寺鉱泉を後にします。ここから朝日町宮宿までの道は、記憶にない道なのでとても不安でした。舗装路に復帰してすぐに、古寺で飲んだビールが効き始めたか、眠気に襲われ、悪態の限りを尽くしながら、朝の光の中を進みます。何という、ルーツ走なのでしょう、心の弱さまで明らかにしてくれます。

目印にしていた木川ダムが近づいてきたことを知らせる川のせせらぎが聞こえたときは少し安心しましたが、ここからがまた長かった。キノコ採りを終えたおじさんが、車に乗らないかと声をかけてくれましたが、意地で固辞。直後に後悔しましたが、その後は声をかけてくれる人は現れず、釣りや川遊びをする人の姿が見え始めた頃、ようやく自然観スキー場の入り口に到着。集落はもうすぐだとはわかっていましたが、水も切れ、この辺で、昼までに帰宅できなかった時の奥さんの顔がちらつき始め集中力も切れ、自力での完踏を断念しました。

電話が繋がるようになった五百川でタクシーを呼び、さらに数キロ進んだところでタクシーと合流、自力で進んだのは59kmほどでした。

この後は、見覚えのある朝日町の風景をタクシーの窓から眺め、タクシーの値段交渉して、無事帰宅しました。なぜか総距離は70キロに及び、「ルーツ走は60km」と思い込んでいた自分の甘さを悔やみましたが、ギリギリ家族に迷惑をかけずに帰ったことをひとまず(独りで)喜びました。

 

 

今回このルーツ走の挑戦を出走前に父親に話したところ、結婚前の母親も、古寺鉱泉から柳川を通って朝日町の父の実家に至る逆ルートを歩いて帰ってきたということを初めて知らされました。ルーツ走がルーツ走である由縁のようなものを感じ、うれしくなりました。この話を聞いていなければ、キノコ採りおじさんの車に甘えていたと思います。「車に乗れと言っても、絶対に聞かなかった」という母親の姿を想像したら、まあ乗れませんよね(タクシーには乗ったけど)。

 

トルデジアン前の最後の強刺激が終わりました。走ることだけでなく、自分と向き合う良い時間でした。60kmで筋肉痛になる奴は330kmも走れる(歩ける)のかという不安は気にしないことにしました。スタートまであと3週間。心と体を仕上げていきます。