
※今回の文章には、出産・育児・産後うつに関する内容が含まれます。読むのがつらい方は、どうか無理せず、ここで読むのをやめてくださいね。
2023年2月。
この作品のために、じわじわと取材を始めました。
一番最初にお話をうかがったのは、産婦人科に勤めていた看護師さんでした。
文献や参考書籍はそれよりずっと前から読み始めていましたが、実際に人に取材するのは、これが初めてのことでした。
まずは箇条書きで質問を送り、そのあとにZoomで口頭のインタビューを行いました。
その中から、ひとつだけ質問と回答をご紹介します。
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【質問】
出産って、どれくらいの肉体的・精神的な負担があるんでしょうか?
【回答】
出産の身体的ダメージは、よく「全治2か月の交通事故にあうのと同じ」と表現されることがあります。
一見元気そうに見えても、骨格や筋力、出血など見えない部分のダメージはとても大きくて、そんな中で、すぐに24時間フル稼働の育児が始まります。
精神的な負担も、とても大きいです。
「産後うつ」という言葉、聞いたことがあるかもしれませんね。
日本の妊産婦死亡率の統計には「産後うつ」という死因は含まれていませんが、産後の自殺を含めると、自殺によって亡くなる方の割合が日本は1位になる、というデータもあります(たしか、国立成育医療研究センターの研究結果だったと思います)。
産後うつは昔からあったのだと思いますが、核家族化が進んだことや、晩婚化・晩産化も影響しています。
本来であれば、祖母など家族の支援を受けながら育児するのが一般的だったのに、いまでは祖母も高齢になっていて、育児と介護が同時にのしかかる「ダブルパンチ」状態のご家庭も多いそうです。
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もちろん、文献ではそういった話を読んだことはありました。
でも、現場でたくさんのケースを見てきた看護師さんが、実感を込めて語る言葉は、私の胸にグサグサと刺さりました。
「妊娠・出産・育児」それが物語の中でも現実の中でも、とても高くて厳しいハードルに感じられて、なんだかすごく怖くなってしまったんです。
もう取材も終盤。
このままでは、不安なことや大変な話ばかり聞いてしまうと思い
「すっごく大変なことはよくわかったんですが…。なにか、良いことってないんでしょうか?」
と聞いてしまいました。
今思えば、自分で取材しておいて、めっちゃ失礼な質問ですよね。笑
でも、看護師さんはふわっと笑って
「そうですね、こどもがいますよ。」
と、やさしく、なんでもないような声で言ったんです。
その瞬間、それまで高くそびえていたハードルの壁に、ドカンと大きな穴が空いたような感覚がありました。あの一言の衝撃は、きっと一生忘れないと思います。
取材を終えて、脚本家の正子さんと電話で「どうしようか、どんな作品にしようか」と話し合う日々が始まりました。
頭を抱えてぐるぐる、そんな日々のスタートがこの取材でした。




