2018/08/03 14:30

東京演劇アンサンブルとブレヒトの芝居小屋に縁のある方々にお願いして、メールインタビューを行っています。順々にお届けしていきますが、まずはトップバターとして、劇団フライングステージの関根信一さんにお伺いしました。

 

ブレヒトの芝居小屋の思い出

ブレヒトの芝居小屋との出会いで印象深いのは、演出を担当した『はらっぱのおはなし』作:松居スーザン 脚本:篠原久美子)です。篠原久美子さん作の『空の村号』の稽古で2012年から何度もうかがっていたのですが、ブレヒトの芝居小屋で稽古をして初演も芝居小屋でというのはそのときが初めて。ワークショップオーディションをしようということになり、2013年4月に劇団員のみなさんに集まってもらいました。そのとき、芝居小屋には、研究生公演『いのちを弄ぶ男ふたり』(作:岸田國士)の舞台装置として大きな白い土手ができあがっていました。「そのままでいいですか?」「問題ないです」ということになり、しっかりした舞台装置のあるオーディションになりました。テキストとして使ったのはシェイクスピアの『夏の夜の夢』の二幕一場、ヘレナとディミートリアスが森の中で話す場面。劇団員のみなさんはきつい傾斜のある舞台を走り回りながら、恋人たちの場面を演じてくれました。実におもしろい、いい場面がたくさん生まれ、劇団員のみなさんのユニークな個性もさまざま拝見することができました。僕と東京演劇アンサンブルの距離がぐんと近くなった一日でした。

劇団内オーディションの様子

 

もう一つ、東京演劇アンサンブルという劇団を深く印象づけてくれたのは、自己紹介の時間。いくつかの基本的なことの他に、「この『ブレヒトの芝居小屋』のいいところを僕に教えてください」とお願いをしました。その時に聞いたみなさんのコメントが、「ブレヒトの芝居小屋」への愛に溢れていたことに感動しました。できあいの空間ではなく、劇団員のみなさんが手塩にかけてつくりあげた空間だということが伝わってきたのです(文字通り「手作り」でできあがった空間だということも後に知りました)。ブレヒトの芝居小屋について、熱く誇らしげに語ってくれたみなさんの表情と瞳の輝きは、僕にとって忘れられない大切な思い出で、東京演劇アンサンブルのみなさんとのおつきあいが、そうして始められたことが、僕にはとてもうれしく思えています。そうして生まれた『はらっぱのおはなし』は、みなさんに教えてもらった芝居小屋の良さ、この空間ならではのおもしろさが生み出したものになったと思っています。

 『はらっぱのおはなし』稽古ワークショップの様子

 ブレヒトの芝居小屋がなくなるという話を聞いて、あの時、熱く語ってくれた芝居小屋のエピソードがみんな過去のものになってしまうことがとてもさびしく感じられます。ですが、東京演劇アンサンブルのみなさんは、また新しい場所で、自信と誇りを持って劇場への愛にあふれた思いを語れる空間を作り出すことでしょう。いつどんな場所になるかわからない今から、僕はそのことを確信しています。

 『音楽劇 はらっぱのおはなし』(作=松居スーザン 脚本=篠原久美子 演出=関根信一 音楽=菊池大成 2013年7月25日~28日)

 

関根信一さんには、ブレヒトの芝居小屋最後の本公演となる2019年3月公演『クラカチット』(作=カレル・チャペック 訳=田才益夫)の脚色をお願いしています。

劇団フライングステージ次回公演

「お茶と同情 Tea and Sympathy」

2018年8月8日(水)−12日(日)

下北沢 OFFOFFシアター