
【2025.9.30追記】
おかげさまで、550名を超える方からご支援いただき、サードゴール700万円も達成することができました。
全国各地から本当にたくさんの応援をいただき、大きな感謝とともに背筋の伸びる思いをしております。本当にありがとうございます。
クラウドファンディングを通して、政所茶の伝統と文化を次の世代に渡す大きなプロジェクトに、550名を超える方が想いを寄せて、その一員になってくださったことは、産地にとって大きな希望になりました。
クラウドファンディングはあと数時間で終了しますが、1人でも多くの方にこのプロジェクトの一員になっていただき、一緒に産地を未来に繋いでいただければと思っています。最後まで頑張りますので、応援いただければ嬉しいです。
そしてクラウドファンディング終了後がいよいよ茶工場リニューアルの本番です。ご支援いただいた皆さまには、活動報告等を通して“産地の今”を適宜お届けしていきたいと思いますので、ぜひ一緒に見守っていただければと思います。
改めて、皆さまのおかげで政所茶を作り続けることができます。美味しいお茶を作り続けることで皆さまに恩返しができればと思っておりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
【2025.8.31追記】
おかげさまで、250名を超える方からご支援いただき、ネクストゴール350万円も達成することができました。本当にありがとうございます!
皆様から大きな勇気をいただき、感謝とともに私たちは次の目標金額を700万円・支援人数500人以上とさせていただくことになりました。
これにより、これまで一度諦めてしまっていた更新対象外の製茶機械の不備に備えることを目指させていただけることになりました。これもご支援下さった皆様のおかげです。本当に感謝申し上げます。
初期目標150万円から見て、ネクストゴールの設定が高いと感じられたかもしれません。次の目標についてお話しする前に、初期目標を150万円に決めた理由についてお伝えしておこうと思います。
現在の政所茶工場にある機械はどれも老朽化が進んでおり、関係者と協議を始めた5年前、私たちは6種類ある主要機械を全て更新することを目指していました。ところが出てきた見積もり額は、1億円を超えていました。このまま計画を実行するのは厳しく、最悪の場合、更新の協議は全て白紙になることも予想されました。
振興会で何度も議論を重ねました。「今回の茶工場リニューアルは政所茶を未来につなぐため千載一遇のチャンス」「このプロジェクトをゼロにはできない」「全ての機械更新は諦めるしかない」ーーー。
このような議論の末に、なんとかこのまま使えそうな機械を順番に更新対象から外し、予算総額を下げる方向に舵を切る決断をしました。そうして決まったのが現行の更新計画、総工費約7,000万円という大事業です。
これが決まったことだけでも本当にありがたいことです。決して少なくはない地元負担分を、振興会総出で捻出していこうと、たくさんの方にご協力のお願いをさせていただきました。
クラウドファンディングのみに頼るのではなく、まずは茶工場利用者や地元自治会にも、目標を決めて直接寄付をお願いに回る計画を立てました(実際に、現在たくさんの支援をいただいております)。それがあるからこそクラウドファンディングでは少なくとも150万円あればこの約7,000万の更新事業は実施できるという判断で初期目標を設定しました。
でもその裏側で、更新を諦め、一部修繕のみにとどめた機械があるのも事実です。
収穫後の生の茶葉を入れるコンテナ、最終工程で茶葉を乾燥させる乾燥機、お茶を揉む揉捻機(じゅうねんき)に粗揉機(そじゅうき)。
この中で更新対象から外したことを1番心配しているのが、3台中1台だけ更新を諦めた粗揉機でした。
なんとか動いているとはいえ不調が目立ち、今後の稼働状況がとても心配な機械だったからです。煎茶や玉露を揉むのはもちろん、部品を取り外して平番茶の選別作業にも使われていた粗揉機。これが動かなくなったら平番茶加工はできなくなります。
現在の茶工場に3台ある粗揉機。
平番茶加工に利用している右側の1台のみ更新は諦めた。
初期目標150万円を達成したあと、今回の更新対象の機械に関しては金銭的な不安はなくなりました。100名を超える方が公開後いち早く支援してくださり、その後も勢いが止まらなかったこと、心から嬉しく思っております。本当にありがとうございます。
そんな状況から、一度は諦めた残りの機械の更新も、もう一度目標に掲げても良いのではないか、という希望が見えてきました。
特に粗揉機は、茶工場の要となる機械。止まったら加工が立ち行かなくなるのは間違いありません。
もちろん、なんとか動いている間はすぐに新しい機械を購入するわけではありませんが、600万円前後する購入費用のうち、少しでも多く集めておきたいという思いから、ネクストゴール700万円に設定しました。
当初目標150万円は現行の機械更新事業に、残りの550万円は今回対象から外れた設備(特に粗揉機)の更新費用の一部として大切に使わせていただきます。
正直、かなり挑戦的な目標だと思っております。
残り1か月で達成できるのか道筋はまだ見えていません。それでも挑戦する価値のある目標です。
政所茶のお茶づくりが未来に残り続けるように、あなたの力を貸していただけませんか。
どうぞよろしくお願いいたします。
【2025.8.20追記】
当初の目標にしていた150万円は、開始から1日半で無事に達成することができました。
それ以上に100名を超える方が、政所茶の未来へ想いを寄せていただいたことが嬉しくて、生産者一同、励まされています。本当にありがとうございます。
私たち、政所茶生産振興会は、ネクストゴール350万円に挑戦することを決めました。
続きは こちらからご覧ください。

はじめまして、政所茶生産振興会と申します。数あるプロジェクトの中から見つけていただき、ありがとうございます。
私たちは政所茶の生産に携わる人たち、約60軒によって2017年に立ち上げた任意団体です。
毎年開催している新茶まつりでの集合写真
今回、老朽化した茶工場の機械を更新し、政所茶生産の拠点を整えることを通して、政所茶が守り継いできた日本茶の原風景を残すお茶づくりを、次の世代に渡していくことを目的に、クラウドファンディングに挑戦します。
▼政所茶とは
鈴鹿山脈から琵琶湖に注ぐ愛知川の源流域、滋賀県東近江市の最東部、「奥永源寺地域」が政所茶のふるさとです。政所茶は、地域の特産品として室町時代から600年以上の歴史を持ち、全国に名を馳せてきた銘茶です。今もなお、昔ながらの茶畑景観や栽培方法を維持しており、日本茶の原風景を今に残す産地です。
政所茶の茶畑風景
政所茶には、大きく3つの特徴があります。
農薬を使用せず水源を守る
産地は琵琶湖に注ぐ愛知川の源流域
政所茶は産地全体で、栽培期間中(年間を通して)に農薬を使用していません。茶畑は清流に沿うように広がり、周辺には美味しい水が湧き出ています。これらの水はやがて琵琶湖へと注ぎ込みます。源流域として水を汚したくない、安心してお茶を飲んで欲しいという生産者の思いで、長い年月守り継いできました。
手間暇を惜しまない土づくり
肥料のススキを敷き詰めるために畑の斜面を登る
土づくりに用いるのは、主に菜種油の絞りかすや米ぬか、山草と呼ばれるススキや落ち葉など、自然由来のものばかりです。特に山草はお店に売っているわけではないので、ススキを刈り、落ち葉を掻き集めるところから仕事が始まります。
どれも化学肥料のような即効性は無く長い時間をかけて分解されていくため、実際に効き始めるのは数ヶ月、数年後と言われています。つまり長年の土作りの積み重ねが、政所茶の美味しさに繋がっています。
また今日の一般的な日本茶の栽培方法に比べ施肥量が少ないため、茶の味わいはすっきりとして、茶樹そのものの香りや甘みを感じることができます。
希少な実生在来種が多く残る産地
冬は茶の木の上に雪が乗り、溶けるまでじっと耐える
茶産地には珍しく、多い年にはひと冬で2メートル以上の雪が降ります。冬場は日照時間も短いため雪がなかなか溶けず、茶樹の上には1メートル近い雪が乗り続けます。ここに残る在来種の茶樹は枝に弾力があり、雪に負けて折れることなくしなやかに耐えます。そのため今も在来種の茶樹が重宝され産地の約7割を占めています。
全国的には1950年代より品種改良が一気に進み、多くの産地が在来種から品種茶へ改植を行い、現在全国で98%以上が栽培用品種になる中、政所茶産地では希少な在来種が産地の約7割を占めています。
在来種は挿し木が大部分の品種茶と違い、種から育てられているため、根が地中深くまで伸びることから、土壌のミネラル等をしっかりと吸収しその土地ならではの味わいをより引き立たせます。また、同じ畑の中でも様々な個性を持つ茶葉が存在するため複雑な味わいを生み出しています。同じ煎茶でも畑によって味や香りが全く異なり、そうした生産者一軒ごとのお茶の味を大切に守ることも在来種を主力とするこの産地ならではのこだわりです。
▼生産者組織発足による変化
かつては全国に銘茶として名を馳せた政所茶ですが、戦後の食糧難で茶畑が野菜畑に転換された上に、品種茶が世の中に広まり、全国で機械化が進み大量生産が行われる中、政所茶は次第に市場流通に乗りにくくなりました。その結果、サラリーマンとして外に稼ぎに出ながらお茶づくりをする人が多くなりました。
急斜面の茶畑が多く、また機械化もあまりされていないため、生産者の高齢化が進むにつれ担い手のいない畑も増えていきました。産地全体の生産量は、明治時代の最盛期の30分の1にまで落ち込んでいます。
そんな中、2017年に政所茶生産の維持発展と生産技術の向上を目的に設立された生産者組織が、私たち「政所茶生産振興会」です。
美味しいお茶づくりを目指し研修会を実施
当会では、政所茶の生産ガイドラインを定め、ブランドを守る努力をしてきました。それまでは各家ごとに継承されてきた、栽培期間中(年間を通して)に農薬を使用しないこだわりや手間暇かけた土づくりを、生産者自身が”産地の強み”として認識し、政所茶の生産方法を公式に定義して、生産者が一丸となって守っていこうとする機運が高まり、「地域団体商標」も取得しました。
そしてそのガイドラインのもと、茶栽培の技術向上にも産地全体で取り組んでいます。専門家を招いての技術研修や他県の茶産地への視察研修など、みんなで学びあい、産地全体として、より美味しいお茶を作っていこうという動きも出てきました。
担い手不足を始めとする生産の課題も、会ができたことで一軒一軒が抱え込まず、地域の中で情報が共有され、みんなで政所茶を守る動きが加速しました。
例えば、担い手がいない茶畑が出てきた場合は、地域内の比較的若手である他の生産者が面積を増やせないか、外部の協力者に引き継いでもらえないかなど検討がされるようになりました。
こうした動きにより、生産者数は高齢化により減っているにもかかわらず、生産面積は、ほぼ横ばいを維持することができています。
また政所茶の良さを多くの人に知っていただくPR活動にも力を入れるようになりました。他産地に赴くなどして改めて政所茶の強みについて再確認したり、生産者自らの言葉で政所茶をPRする機会も増えてきました。なかでも毎年、道の駅奥永源寺渓流の里で開催している「新茶まつり」には多くの方が新茶を楽しみに訪れてくださるようになりました。
新茶まつりでは生産者みずから生産のこだわり等を伝える
振興会立ち上げに中心となって関わった生産者に、想いを聞きました。
白木佳代子(しらき かよこ)
政所茶生産振興会副会長。政所で生まれ育ち、白木駒治の長女。幼い頃から祖父や両親の政所茶に対する姿勢や想いを身近で感じていた。高校からは地元を離れ学生生活を送り、現在は奥永源寺地域に戻り働きながら姉妹家族の協力を得てお茶栽培を担い、政所茶のシンボルともいわれている樹齢300年の古樹を守っている。
Q.振興会の発足をどう振り返っていますか
A .同世代の後継者が、皆、同様の悩みを抱えていたので、振興会が発足したことでお互い助け合いながら一緒に取り組めていることは心強いと感じています。今一番の課題は、この茶工場がなくなることで政所茶が作れなくなることです。まだまだ力不足ですが、政所茶の茶工場を守るため振興会もがんばりたいと思います。
Q.このお茶づくりに産地一丸となって取り組んできたのは、どんな想いからですか
A. 600年以上という歴史ある政所茶を守り続けたい思いからですね。
先祖代々受け継がれている政所茶を大切に無農薬栽培で守り続けてくださった地元茶農家の諸先輩方に感謝しています。政所茶は自然に恵まれその自然の恵みをふんだんに使わせていただいています。実生のお茶本来の味を生み出すためには、その(お茶本来の)力と自然の力、相乗効果で美味しいお茶ができます。その分、労力は大変です。でも、お茶は手をかければかけるほど本当に応えてくれて美味しいお茶ができます。本当に不思議です。だから労力を惜しまず皆さんがんばっておられるんだと思います。
Q.手間暇を惜しまない昔ながらの作り方にこだわる理由は
A.何でそこまでしてお茶をつくるんだって言われることもあるんですけど、それ以上のものがあるんですよね。収穫のときに今年も美味しく仕上がったっていう喜びと、政所茶ファンの方に召し上がっていただける喜び。それで続けられてるのかなと思っています。
(動画で見たい方はこちらから)
▼新たな広がり、つながり
政所茶は、ここ10年ほどで大きな変化が生まれています。
これまで政所茶が大切にしてきたものーーー。
日本茶の原風景を残す在来種の茶樹を中心とした美しい茶畑景観、一軒一軒の味を守るこだわり、手間暇を惜しまない土づくり、水源地として誰かを思いやる栽培方法。長年守られてきた政所茶ならではのお茶づくりが、今改めて注目を集めつつあります。
そのきっかけの一つに、2012年に滋賀県立大学の学生たち十数名が、授業の一環で産地を訪れたことがあります。「過疎高齢化地域の課題解決のため、学生目線でアイディアを出してほしい」と、東近江市から打診があったのがきっかけで、学生たちがフィールドワークを実施しました。
2012年9月フィールドワークで
地元の方に集落を案内してもらう学生たち
初めて産地を訪れる学生たちに、地域の方が集会所で丁寧に美味しいお茶を入れ、その後集落を歩きながら、この地域のこと、そして政所茶のことを語って聞かせました。
かつて基幹産業だった林業も茶業も厳しい時代になり、働き手はどんどん地域を離れていること。手間と体力の要るここでのお茶づくりを、地域が高齢化する中でいつまで続けられるのか不安なこと。そして先祖から受け継いできた茶畑をなんとか守りたいという熱い思い。
「先祖から守ってきたものを守りたい。『政所』の名前だけが残って、茶が残らないのは忍びない」
今日初めて会った若い学生たちに真剣に語られた、政所茶への熱い想いと誇りが込められた言葉に、学生たちは「茶畑の管理を通して、お茶づくりの大変さや、地域の人たちのお茶に対する思いをもっと学びたい」と、地域の方へ「学生に畑を貸していただけませんか」と相談したのです。
学生の無鉄砲なお願いに、先祖から預かった大事な茶畑の一部を学生に貸し出すという決断をしたのは、フィールドワークでも案内役だった白木駒治さんでした。当時、産地にとっては前例のないこと。地域の中には当然心配する声も聞かれるなか、駒治さんは学生の思いに応えてやりたいと、家族会議を開き、茶畑を貸す決断をされたそうです。
そして、滋賀県立大学の学生団体「政所茶レン茶゛ー(まんどころチャレンジャー)」が2012年に発足しました。
お茶づくりどころか農業すらしたことのない学生たちは、大学から授業の合間を縫って、車で片道1時間の距離を畑作業のために定期的に通い続け、駒治さんは草むしり一つまともにできない学生たちに丁寧に指導を続けました。また畑仕事だけでなく、地元の方にお茶の美味しい入れ方や地域の文化を教えてもらったりと交流を深め、茶摘みの時期には茶摘みの参加者を外部に向けて広く募集したり、パッケージを新たに作って、自分たちの作ったお茶をイベントで販売したりと、和気あいあいと活動し続けました。
お茶づくりは全て地域の生産者から指導を受け学ぶ
「お茶の仕事はお金にならないし、体力もいる。若い人は興味がないだろう」と思っていた地元の生産者にとっても、自分たちの子どもや孫世代の若者たちが、楽しんで政所茶の栽培に関わっている姿は新鮮だったのではと感じます。
その後も政所茶レン茶゛ーは、授業とは関係ない自主的な活動として毎年新入生を募集し、大学の「近江楽座」というプログラムに申請して活動資金を調達しながら13年経った今も活動を続けています。
今年の代表に、お話を聞きました。
京田千穂(きょうだ ちほ)
滋賀県立大学政所茶レン茶゛ー2025年度代表。大学3年生。入学当初から団体に加入。現在は20名前後の学生をまとめ、大学のある彦根市から産地へ、定期的に通いながら茶畑の管理を行う。
Q.実際にお茶の生産に関わってみて感じることは
A.大変なことも多いんですけれども、地域の方々がすごい支えてくださっているので、私達もすごくがんばれるんだと思います。私達は販売活動もしているので、実際に消費者の方と会ってみたり、試飲をしたときに美味しいって言ってくれたりとか、こういう入れ方の方がいいんじゃないのとか、いろいろ教えてくださるので、もっと美味しいお茶を作ろうって、日々の畑作業ももっと頑張ろうって思います。
Q.団体で大切にしたい理念とか、モットーはありますか
A.発足当時からずっと掲げているのは、「この景色を守りたい」というものです。やっぱり緑広がる政所の風景っていうのはすごい大事なものなので、これを学生の力でも守っていけたらなっていう思いを引き継いでいます。
Q.活動の中で一番心に残っていることは
A.今年の茶摘みは特に雨が続いて、学生数もやっぱり限られてるので、どうしても毎年摘みきれないっていう問題が発生するんですけど、そんな中で茶工場の方とかその他の生産者の方が応援に来てくださって、一緒に茶摘みに協力してくださるっていうときがすごい嬉しくて。それが一番印象に残ってます。
(動画で見たいかたはこちらから)
一番茶の茶摘みの様子
この動きに驚いたのは行政も同じでした。東近江市は、過疎高齢化の課題ある地域に若者が喜んで通っている様子をみたこともあり、奥永源寺地域へ地域おこし協力隊の導入を決め、その後も折に触れて様々な面から産地の支援をしてくれています。
滋賀県立大学政所茶レン茶”ー出身の社会人女性チーム「 政所茶縁の会 」、東近江市内の農業高校「 八日市南高校 」も、地域の担い手がいなくなった畑を引き継いで茶栽培を行なっています。
新たに担い手として地域に入った彼らがSNS等で産地の様子を発信し、各作業ごとに地域外から助っ人を募集しているうちに、何度も産地へ足を運び、この地域に惚れ込む人が出てきました。そうした人たちが、地域内で担い手がなくなった畑を継承する事例が徐々に増えていきました。
最近では茶摘みの時期になると、地域外から入った生産者たちを中心にSNSなどで摘み手を募集することで、今年は茶摘みの時期の3週間ほどの間に合計500人くらいの人が産地を訪れました。移住してお茶づくりに関わる人も数名いますが、移住だけではなく通いながら政所茶を応援したいと産地に関わる関係人口は、ここ10年でぐっと増えた印象です。

このような動きを地元として見守り続けた、政所茶生産振興会会長の左近晋作さんは、このように語ります。
「初めは私たち地元の活動にどう繋がるかとか、あまり意識してませんでしたが、(産地が)高齢化して若い人が少ない中で、学生さんが動いてくれる。地域に来てくれる。これだけで非常にもう活気のある地域になります。子どもの声が非常に少ないので、若い人も学生さんも高校生の方も来ていただいて本当に喜んでます。それに、政所茶が注目していただく度合いもどんどん高まって、いろんな方に目を向けてもらえるようになったなと思っています。」
(動画で見たい方はこちらから)
長い間守り継がれてきた政所茶ならではのお茶づくりに、改めて光があたり始めたこと、それはオーガニックや持続可能な農業を重視する時代背景も重なって、少しずつ大きな流れとなっていきました。その原点には大学生をはじめとする地域外の若者たちに大切な畑を預けるという、地元生産者の勇気ある決断がありました。
こうした流れのなかで、地元生産者のお茶づくりにも変化が生まれました。
象徴的だったのは、市内の農業高校である「八日市南高校」の玉露復活プロジェクトです。
昔から政所茶の玉露は人気があり、以前は産地内にはたくさんの玉露畑がありました。玉露は煎茶と同じ茶の木から生産できますが、収穫前3週間ほど茶畑全体に覆いをかけて日光を遮断するなど、煎茶以上に手間暇かかります。こうしたことから、高齢化とともに年々生産者が減り続け、2015年当時政所茶の玉露を作る生産者は残り1軒にまで減少していました。
そのような状況の中、八日市南高校の生徒たちは耕作放棄された畑を借り受けて世話をはじめ、2年かけて玉露が収穫できる畑に復活させました。その間、地元生産者の指導と協力を得ながら茶栽培を学び、玉露畑には欠かせない餅米の藁を使った簾状の被覆材を作る「コモ編み」も習得しました。
「コモ編み」は雪で畑作業のできない冬の大切な手仕事でした。現在、全国の産地で生産される玉露の多くは、寒冷紗と呼ばれる人工的な遮光シートを用いて茶畑を覆い玉露を生産していますが、生徒たちは白木駒治さんから指導を受け時間をかけてコモを編み、伝統的な政所茶の玉露づくりを実践しました。
白木駒治さんの指導のもと玉露のコモ編みを習う
八日市南高校の生徒たち(2015年)
この取り組みは、農林水産省及び内閣府が「強い農林水産業」、「美しく活力ある農山漁村」の実現に向けて実施している「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」(第10回選定)にも応募されました。全国選考からは漏れたものの、近畿独自の特徴ある優れた取組として、近畿農政局「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」(第7回)【コミュニティ・地産地消部門】に選定され、メディアでも取り上げられたことで注目を集めました。
こうした取組みの影響もあり、地元でも玉露生産を数軒の生産者が再び取り組むようになりました。
さらに販路拡大のためイベント出店やオンラインショップの開設、産地見学ツアーや産地視察の受け入れを積極的に行う生産者が出てきたのです。永源寺などの地域資源と絡めてPRをしたり、これまであえて表立って発信をせず、ひっそりと紡いできた政所茶の魅力を、地元生産者自らが地域外へ発信するような動きが出始めています。
積極的に販路開拓や新しい取組にチャレンジしている地元の生産者に話を聞きました。
福井肇(ふくい はじむ)・福井玲子(ふくい れいこ)
肇は、政所茶生産振興会の事務を担当。奥永源寺地域で生まれ育ち、米や政所茶の栽培をしている。政所茶製茶工場にも勤務し、日本茶インストラクターの資格も取得。夫婦で、伝統的な栽培に取り組む一方で商品や販路の開拓や政所茶の魅力発信にも力を入れている。
Q.最近、福井さんの畑はいろんなお客様が地域外から来られていますね
A.(肇)はい、県内外、海外からも茶摘みに来られています。4年連続で来られているフランス人の方もおられます。日本茶インストラクター試験で親しくなった方が初めて来られ、政所茶の畑を見て大変驚かれていました。
(玲子)在来種で丁寧に栽培されているので、茶の木が元気で、茶の葉も力があることをとても感動されていましたね。原風景のような場所で、昔からのパワーのある木の良さを、すごく感じていただきました。
(肇)その方の紹介で先日、お薦めの万古焼の急須屋さんに行ってきました。その方が、僕たちの持っていった茶の葉を万古焼の急須で淹れてくださるなど、大変良い経験をさせてもらいました。今まで、お茶を栽培したり、製茶工場で働いたりするだけだったのですが、発信することによって、輪が広がる楽しい経験をさせてもらっています。
(玲子)政所茶のおかげで、人のつながりが、どんどん広がっていくのはとても楽しいことですよね。
(肇)僕たち2人だけでなく、摘み手には僕の母親もいますし、一番年上の方は97歳の方です。そのおばあさん達の摘み方を見て、来られた方が感心されて話がはずみます。茶摘みに来られた方と地域の方との交流も生まれています。また、そこから発展して、体験ツアー企画も生まれました。僕たちの発信をきっかけに、新たな政所茶の魅力が伝わっていくのは、大変嬉しいことだと思っています。
Q.煎茶道の黄檗売茶流さんとの出会いも大きなきっかけだったんでしょうか
*煎茶道の流派の一つ、黄檗売茶(おうばくばいさ)流は、政所茶の前身である越渓茶(えっけいちゃ)と関わりの深い流派です。煎茶道の中興の祖で、煎茶の普及と文化の発展に大きな影響を与えた方です。その売茶翁が「越渓茶」という漢詩の中で政所茶を高く評価しています。
A.(肇)そうなんです。新聞に日吉大社の献茶祭の記事が載ってたので興味を持ち、問い合わせたら、黄檗売茶流の先生が来られるから、一度会ってみませんかということで、僕は茶葉を持って、先生は特製の急須を持って来られ、初めて出会ってその場で政所茶を淹れてくださいました。(煎茶は普通70度前後の低い温度で淹れるのが一般的ですが)100度の沸騰したところに茶葉をいれて飲んでみるということをされていました。
(玲子)この淹れ方をすると、まず香りがパンッてきますね。そしてとても美味しいお茶になります。高温でいれても耐えうる政所茶ということですね。越渓茶と言われた昔からの伝統的なお茶であり、深い歴史的な背景もあって、こうして煎茶道の先生たちにつながれたのも、奥深いことだと思います。
Q.畑作業にも関心を持たれているそうですが
A.(肇)そうですね。地元の生産者で茶園を継続できない方が出たので、関心を持ってくださっていた方達が、みんなでその畑を守っていこうということになり管理をしています。今年初めて一番茶と夏番茶を10キロほど収穫されました。今後は、お茶会等で使われる予定です。
(動画で見たい方はこちらから)
また政所茶を取り巻く動きやSNSなどでの情報発信は、海外からも注目を集めています。近年特にヨーロッパ圏からの問い合わせが増え、実際に産地を訪れる人も多くなってきました。ベルギー、フランス、イギリス、ドイツ、ポーランドなどの日本茶ファンの方々にも愛されている政所茶です。少量ですが、海外でも政所茶が販売されるようになってきています。
茶摘みの時期には世界各国から摘み手が訪れる
▼政所茶が守り継いできたもの
政所茶が、なぜここまで多くの人を惹きつけるのでしょうか。
それは、このお茶にまつわる地域や生産者が持つ、文化的価値によるものではないかと思います。
在来種が産地の7割も残るこの地域では、一本一本の茶樹が独立して生えています。
在来種が中心で、一本一本が独立した茶の木
挿木で増えるのではなく、実から芽が出て育つ実生在来種は、1つとして同じDNAの木が存在しません。人間と同じように、一本一本の性格が違うので、葉の形状や色、そして味わいも様々。茶畑というと整然とした畝になっている畑を想像されるかもしれませんが、それは日本全国で品種改良が盛んになり始めた頃、栽培用品種に植え替える際に、機械化や効率化を考えて均等に植えたことが始まりです。
それ以前は、日本の他の有名茶産地でも、主力はその土地ならではの在来種。このようなポコポコと独立した茶の木が集まる茶畑が見られたといいます。他の茶産地の古老が政所茶の畑を見て「懐かしい」とおっしゃることもしばしばありました。そういう意味で、ここは日本茶の原風景が残る、稀有な産地だと言えるでしょう。
茶樹一本一本の性格が違う、ということは、畑全体としても個性豊か。同じ政所茶の煎茶一つとっても、畑によって味が全く違います。地元の生産者は「自分の家の茶が一番美味しい」と口を揃えて言います。
「テロワール」という言葉をご存じでしょうか。フランス語で、土地を意味する「terre」から派生した言葉で、農産物が育つ場所の自然環境、具体的には土壌、気候、地形などを指します。ワインの世界では、テロワールはブドウの生育に影響を与え、結果としてワインの味や香りに違いをもたらします。同じブドウ品種でも、テロワールが異なれば、全く異なる風味のワインになることがあります。
近年はワインだけではなく日本酒やコーヒー、その他の農産物においても、この概念が注目され、テロワールを尊重した持続可能な生産活動は、環境保護や地域文化の保護にもつながると考えられています。政所茶もお茶の世界で、テロワールを大切にしています。
また、産地全体で行う栽培期間中の(年間通して)農薬不使用。これを実現するために、手間暇を惜しまない努力で何年も先のことを思って日々の土づくりをしています。お茶を飲む人のことを思い、かつ源流域に住む者として川下の人のことを思い、厳しい条件の元であっても、良いものを作るためなら努力は惜しまない、職人気質とも言えるその精神。それがたくさんの人の心に響き、応援したい、政所茶づくりに関わりたい、そう思う人が増えています。
政所茶が守ってきたものは、在来種を主力とした日本茶の原風景を残す美しい茶畑景観、誰かを想い手をかけて作る時間、手間暇かかっても徹底して良いものを作りたいという志。今、政所茶に関わる私たちの責任として、この文化的価値を次の世代にも渡していきたい、ここで途絶えさせてはいけない、そんな使命感を感じています。

▼機械の故障トラブル
しかし、数年前から政所茶の生産体制に、大きな陰を落としているものがあります。それが、産地内で唯一となった茶工場の相次ぐ機械の故障です。
現在の政所製茶工場(グリーン近江農協所有)は、昭和52年に建設され、今年で48年が経過。機械の老朽化により数年前から故障トラブルが目立つようになりました。生産者が、丹精込めて栽培し収穫した茶葉が、機械の故障によって加工中に傷んで破棄せざるを得ないという、生産者として本当に辛い事態も起きていました。それでも産地内の茶工場はここ1軒しかありません。老朽化した機械を修繕しながらなんとか使っている状態で、政所茶生産振興会としては、この茶工場の存続を非常に危惧していました。
煎茶加工の様子
▼茶産地における茶工場の重要性
お茶は生の茶葉のままでは製品とならず、加工をしてこそ商品になる、いわゆる農産加工品です。しかも茶葉は鮮度が命であるため、できるだけ畑に近い場所に加工場があることが重要です。そのため茶産地にとって茶工場は絶対に必要なものになります。
昔、製茶機械が普及する以前は、それぞれの生産者が自宅にて手作業で加工をしていました。そのうち製茶が機械化されるようになり、産地内には個人や数軒の生産者が共同で営む製茶工場が10ヶ所ほどありました。しかし、耕作面積の減少・担い手不足・製茶工場の維持コストがかかるなどにより、一ヶ所また一ヶ所と閉鎖され、「このままでは産地がなくなる」と危惧した当時の地元生産者の働きかけにより、政所農協(現:グリーン近江農協)が昭和52年に建設したのが、現在の政所茶工場です。
現在の製茶工場の外観
その後も、個人経営や共同経営の茶工場は減り続け、10年ほど前からは、産地内に農協の茶工場が1ヶ所あるのみ、政所茶づくりの最後の砦となってしまいました。
建物自体は農協が所有、管理していますが、製茶作業には私たち生産振興会の会員も従事しています。茶工場の中にはそれぞれ役割の違う6種類の機械があり、茶葉の状態に合わせて、適切な温度や時間を調整をしながら加工する必要があります。その機械を操作するには熟練の技術がいるため、生産者が収穫の合間に交代で勤務して機械を操縦し、産地全体のお茶を加工しています。
▼生産者ごとの味を守る哲学
政所製茶工場の大きな特徴としては、他の産地に比べて少量の茶葉で加工できることです。大規模な茶産地ですと、大型の機械で刈り取り1日の収穫量が1トン以上になることも珍しくないため、茶工場もそれに合わせて大型の機械を採用し、生の茶葉120キロごとや、少ない場合でも60キロごとに加工を行われています。
仮に持ち込まれた茶葉の量が60キロに満たなければ、他の生産者の収穫した茶葉と合わせて、60キロにして加工に出し、仕上がった煎茶の全体量から割戻して、持ち込んだ茶葉の量相当の煎茶を受け取ることになります。
それに対し政所製茶工場は、製茶機械の中でも最小の35キロ機械を採用しています。1回あたり35キロ前後の茶葉があれば、他の生産者と合わせることなく、単独で加工できます。
なぜ、小さな機械を採用しているのか。その理由は在来種が多い政所茶の性格にあります。一本一本種から育ち、葉の大きさや分厚さが様々。育った土壌、日照時間、地形などによって、畑ごとに全く味の違うお茶になるのが政所茶です。持ち込まれた茶葉の状態に合わせて機械の温度設定や蒸し時間の長さ、揉み具合を微調整するという非常に精緻な加工を行いたい、というのが政所茶のこだわりであり、生産者ごとに製茶をし各生産者ごとの茶の味を守ることは、譲れない思いなのです。
もう一つ、手摘みの文化が残っていることも、重要な要素です。
政所茶生産振興会に加入している60軒の生産者のうち、20軒ほどが、ハサミや機械を使用せず、人の手で茶摘みを行っています。一人当たりの収穫量は熟練の摘み手さんでも1日10キロほど。茶葉の鮮度を守るために摘んだ日ごとに加工に出す必要があり、手摘みの場合、1日の収穫量は日の出から日没まで摘んでも50キロに満たないことがほとんどです。1回の加工に必要な最低収量が60キロや120キロという大型機械では、どうしても他の生産者と合算して加工に出す必要があり、単独での加工は不可能です。手摘みで収穫されたお茶を、その生産者単独で加工するには、35キロ以下の小さな機械であることが必須条件だったのです。
手摘みで収穫する家も60軒中20軒ほど。
なお、この茶工場で加工されている政所茶の種類は、煎茶、玉露、平番茶(ひらばんちゃ)。主力商品である煎茶・玉露はもちろんのこと、低カフェインでどの年齢層にも飲みやすいと人気の「政所平番茶」も、この茶工場で加工されています。木桶にぎゅうぎゅうに詰め込んだ茶葉を30分蒸して乾燥させるという独特の製法で、木桶に詰める時に上から押されて茶葉が平らな形になることからその名がついた平番茶。煎茶を揉むための35キロ用機械の部品を一部取り外して、選別や乾燥をしています。
政所平番茶
最近の製茶機械は、一度設定すれば、全てはコンピューター制御で一律に稼働するため、他の産地では、大きな製茶工場を1人の技術者が管理しているところもあります。
しかし政所製茶工場では6種類の機械にほとんどがセンサーがついておらず、各設定は熟練の技術者が五感で感じとり、蒸気の圧力や蒸し時間を手動で調整している状況です。常に人が張り付いて、お茶の状態が最適なるように常時5人体制で手間暇かけて製茶を行っています。
どのような加工をしたかは一軒ごとに記録簿に残しています。一律の設定で全てのお茶が加工されるのではなく、一生産者ごとに設定を変え、最終は技術者が五感で微調整をすること。その家の味を守る茶工場としては、コストはかかるけれども大切にしたいところなのです。
▼近隣の小規模農家も支える茶工場
この小さな機械だからこそできるお茶づくりは、最近になって良さが見直されています。
政所茶産地以外にも、近隣には小規模ながら茶の生産をされている茶農家もまだまだありますし、さらに滋賀県は販売用ではなく、自家消費用のお茶を作る文化が残っている地域です(自家用茶と呼ばれます)。家で作ったオンリーワンのお茶、というのが代え難い価値になっているのだと思います。
他の茶工場の機械が大型化していくと、自分の家単独での加工を叶える場所が少なくなり、そのため政所茶工場まで茶葉を運び、加工依頼をされる産地外の農家も毎年少なからずおられます。他の大規模茶工場なら、他の人のお茶と合わせて1回分として加工されるけれど、政所茶工場なら単独で加工が可能なので、わざわざ車で茶葉を運んで来られるのです。
茶工場で働く私たちは、お茶の生産者でもあります。「自分の畑のお茶が飲みたい」と、小さな機械で、一生産者ごとにその茶葉に合った微細な調整をしながら加工している身であり、こうした方々の気持ちもよくわかります。小さな機械だからこそ救えるお茶もあり、小規模でもお茶を作り続けている農家や、自家用茶の文化を応援する茶工場でありたいと思っています。効率的ではないけれど、”生産者に優しい茶工場”とも言えるのではないでしょうか。
▼産地内茶工場は政所茶づくりの生命線
政所茶の味を守るには、産地の中に茶工場があることに意味があります。
もし政所に茶工場がなくなっても、どこかに小さな機械がある茶工場を探して加工を外注すれば良いのではないか、そう思われる方もおられるかもしれません。確かに加工はできるかもしれませんが、そうなると政所茶らしい味と香りを守ることは難しくなります。
というのも、政所茶の特徴として香りがよく残り、押しがきく(1回だけではなく、2回目、3回目とお湯を入れてもお茶がのめる)ということがあげられます。このためには生の茶葉が茶工場に届き、初めに行われる茶葉を蒸す工程で、極力蒸し具合を浅くすることが重要です。蒸しすぎてしまうと蒸気と共に香りが飛び、また茶葉の組織がどんどん破壊されるので、茶葉の香りが落ち、1回目にお湯を入れた時に一気に成分がお湯の中に溶け出してしまい、2回目以降は味がでなくなるのです。
政所茶はとても個性豊か。生産者ごとに全く違う茶葉の状態で茶工場に持ち込まれます。届いた葉の状態を見極めて、蒸しすぎないよう慎重に蒸気の香りを嗅ぎながら、葉の状態に合わせて蒸気の圧力や蒸し時間を秒単位で調節することにとても神経を使っています。そうやって、「香りのいい押しのきく政所茶」というものを茶工場としても守ろうと努力しています。
目で見て、音を聞いて、
五感を使って機械の微調整をする熟練の技術者
それ故に、仮に産地内に茶工場がなくなって、他の茶工場に茶葉を運び、加工を外注することになったとしたら、このような微細な調整はおそらく難しいと思われます。産地の中に茶工場があり、長年政所茶の製茶に携わってきた生産者が、技術を継承しながら繋いでいくことは、在来種の政所茶の味を守る上でとても重要なことです。
一般的に茶業界では「茶工場がなくなると茶産地はなくなる」という言葉があります。これには大きく2つの意味が含まれています。
一つ目は、茶葉を運搬するというリスクで、物理的にお茶生産の難易度が上がること。産地内で加工ができず、外部に運搬することは、移動中に茶葉を鮮度の良い状態で保つことができないリスクがあるからです。
二つ目が、その土地ならではの製茶における表現ができなくなることです。産地の外に委託してしまうと、製茶の主導権が取れなくなってしまいます。
長年政所茶工場に勤務されていた方が、こう話してくれました。
「茶工場に持ち込まれた生の茶葉が100点だとしたら、茶工場はその葉を200点にすることはできない。でも、50点や30点にすることはできてしまう。」
まさに畑で土を作り栽培をする生産者と、加工を担う茶工場が両輪揃ってこその政所茶なのです。手間暇かけて育てられた茶葉のポテンシャルを、そのまま生かす加工をするのが、政所茶工場の重要な役割です。
ほとんどが在来種、手間暇かけた土づくりという独特の特性を持つ茶葉をそのまま生かせる加工が、他の産地の茶工場でもできるのかというと、難しいと言わざるをえません。政所茶らしさを表現するためには、産地の中に茶工場が必要です。そこを外注してしまうと、いくら茶葉の原産地が政所茶産地であっても、それはもはや政所茶ではないものになってしまいます。そうなると消費者も徐々に離れていき、その結果産地がなくなることにもなりかねません。
新しい機械になってこれまでの政所茶の味が守れるのかは、たしかに心配もあります。
これまでも、手揉みから機械で揉む方法に変わったり、個人経営の茶工場から農協の茶工場に機械が変わったり、その度に政所茶の味と香りを継承することができるのか心配される時期がありました。製茶体制が切り替わった当初はうまくいかないこともあるかもしれません。
でも産地内に茶工場があり、政所茶の製茶技術を持った人が加工していれば、彼らが五感で記憶している香りや味のイメージがあり、もしもそこから離れそうになったら修正をかけられる、そうやって手綱を引くことができるから、これまでも政所茶の味は、例え製茶の道具が変わっても守り継がれてきたのだと思います。それを外注してしまうと、基準がなくなるため、一旦離れた味と香りを取り戻すことはとても難しくなるでしょう。
産地内茶工場は、政所茶づくりにおける生命線なのです。

「茶工場の機械が故障し、直らなくなったら・・」そんな不安を抱えながら、政所茶生産振興会は5年ほど前から機械の更新を見据えて、所有者である農協や県や市と交渉を始めました。
機械を新しいものに変えても、導入する機械は以前と同じ最小の35キロ機械というこだわり。これは今の時代では特注になります。大きな機械にすればコストは抑えられるものの、生産者ごとの味を守りたいという、政所茶産地らしい選択でした。
とりあえずの急場をしのぐため、中古の機械の購入という選択肢もあるなか、振興会がこだわったのは、新しい機械を入れることでした。
現在の茶工場が昭和52年から48年稼働したことを考えると、向こう50年は政所茶の味と香りを守りながら作り続けるという強い決意でもあります。交渉にあたった振興会役員は、ほぼ60代半ば。10数年も経てばほとんどが栽培の第一線を退いているかもしれない年齢です。
「これだけ産地に関わってくれる若い世代が増えているのだから、未来に渡って政所茶らしさが残り続け、次の世代の生産者たちに引き継がれていってほしい」そんな思いで政所茶の次の50年に希望を託し、生産者ごとの味を守れる新しい機械を導入することを目指して、関係者を説得し、根気強く協議を続けてきました。
そうして、5年間に及ぶ協議の末、ついに茶工場所有者であるグリーン近江農協のご理解と、東近江市の多大なる支援により、農協が事業主体となり国や市から補助金をいただく形で総工費約7000万(概算見積額)という大規模な茶工場のリニューアルが決定したのです。産地内茶工場の存続という生産者の願いは、実現を目前に迎えています。
もちろん総工費の全てを補助金で賄えるわけではありません。農協および地元で負担する費用があります。地元で負担する部分については、当会が中心となり、茶工場を利用する生産者や地元自治会等に寄付のお願いを行っている最中ではありますが、そのうちの一部を今回クラウドファンディングでご支援をいただきたいと思っています。

老朽化した製茶機械を新しくして、お茶をつくり続けるというだけでは、ここまで関係者が本気で動かなかったと思います。政所茶工場は、今のところ残念ながら、そこまで収益化が出来ている施設ではありません。ただ今回は、政所茶を取り巻く地域文化の継承や地域の活性化に対して、農協や行政などが評価をしてくださったことが、この大きなプロジェクトが動くきっかけになったものと思っています。
専業の大規模な茶農家さんは、産地の生き残りをかけて、産業としての茶生産を成り立たせるため、様々な努力をされていて、私たちも頭が下がる思いです。
ただ、政所茶のように、生産者全員が兼業で、お茶だけで十分に生計を立てられる人はいないけれども、このお茶づくりに関っていることが誇りであり、生産者の幸福度が高い、こんな産地の生き残り方もあっていいのではないか、とも思います。
政所茶が守り継いできたもの。生産者ごとの茶の味を守る製茶方法、手間暇を惜しまない土づくり、誰かを思いやってお茶をつくる心。効率化の真逆をいくけれども、政所茶の生産者はそんなお茶づくりに誇りをもち、楽しんでいる人も多いのです。
それは、純粋に自分の作りたいお茶を作ることができ、そして茶工場が生産者ごとの味を大切にしてくれるから、そう思えるのではないでしょうか。”作り手が幸せなお茶づくり”とも言えるでしょう。
楽しいところに人が集まるように、作り手が幸せなお茶づくりは、長期的な広がりを見せてくれています。
地域外から移住して政所茶づくりに関わる生産者に話を聞きました。
山形蓮(やまがた れん)
2012年に滋賀県立大学政所茶レン茶゛ーの立ち上げメンバーとして、白木駒治さんの畑を借り受けたのをきっかけに政所茶の栽培に携わり、その後地域おこし協力隊として政所茶の振興をテーマに3年間活動。任期終了後も地域に定住し、現在も地域外から作業ボランティアを集めながら政所茶の栽培に携わる。二児の母。
Q.地域外に政所茶の魅力を発信する活動を続けてきて、一番嬉しかったことはなんですか
A.SNSで地域の外から茶摘みの摘み手を募集し始めたのが約11年前。折りに触れて、茶摘みや茶畑でのイベントでお母さんに連れられて産地を訪れていた小学生の女の子が、成長して今年大学生になり、滋賀県立大学に入学、政所茶づくりを最初に始めた学生団体「政所茶レン茶゛ー」の一員となったことです。
お母さんからその一報を聞いたとき、「政所茶が大切に守り継いできたものが、若い世代の心にも届いている」そう感じた本当に嬉しい瞬間でした。
Q.今回の茶工場再生で、政所茶は次の50年へ向かおうとしています。次の世代の担い手へ期待することや、描いている未来はどんなものですか
A.私もこの10年ほどの間に、2人の子どもの親となりました。親世代だからこそ子どもたちに政所茶の魅力を知ってほしいと、親子向けの茶摘みイベントなどを毎年開催するようにしています。
いつか、産地を訪れ、美しい景色をみてお茶を飲み、生産者の志に触れた子どもたちが、政所茶の未来をともに創っていく仲間になってくれたら、そして幸せなお茶づくりをつないでくれたら、こんなに嬉しいことはありません。
10年以上継続している
親子でお茶摘み&紅茶づくりのワークショップ
この茶工場再生プロジェクトは、生産者、地元自治会、農協、行政などの関係者が動いて、実現を目前に迎えつつあります。でも、もう一人、一緒にやりたい人がいます。それは、今この文章を読んでくださっているあなたです。産地唯一の茶工場を未来につなぐ、政所茶産地が始まって以来の大プロジェクト。これは直接の関係者だけでやらないことに意味があると私たちは思っています。
それはなぜかーーー。茶工場を守ることはあくまでも手段であり、私たちの目的は、政所茶の文化を守り、次の世代に渡していくことだからです。
政所茶を取り巻く文化、それは、日本茶の原風景とも言える美しい景観を残す在来種が中心の畑、自分の利益だけではなくて、誰かを思いやって作る安心安全なお茶、生産者ごとの味を守る哲学、だからこそ、生産者の幸福度が高く誇りを持ってお茶づくりができる環境。そして、その根底に流れる、徹底して良いものを作りたいという職人気質な志。
今の時代、効率重視で時間や手間がかかることは蔑ろにされ切り捨てられていくけれども、その真逆を走りながら600年間このお茶が守り継がれていること、一周回って循環型農業の最たるものとなっていること。生産者で意識している人は少ないけれど、それを当然のごとくやってきた政所茶産地。栽培する畑だけでなく、製茶加工の段階まで、その志が貫かれている政所茶。その要となるのは、産地内の生産者自らが運営する茶工場です。

文化を作るのは、いつも人です。この産地が持つ志に共感いただいた方が、同じ『チーム政所茶』の一員として、一緒に守ることでこそ、政所茶が大切にしてきたものを、次の世代に託していくことができるのです。だからこそ、私たちは直接の関係者だけではなく、あなたと一緒にこのプロジェクトを成功させたいと思っています。
一緒に、効率化重視の社会に一石を投じ、みんなで持続可能な農業を目指す、こんな産地の生き残り方もあるんだと、後世に伝えていきませんか。遠い未来で今を振り返ったとき、「あの危機に立ち上がった大人たちが、こんなに大勢いたんだ」ということが、政所茶を作り続ける、次の世代への希望になるはずです。
どうか、私たちの仲間になってください。

▼今後のスケジュール
2025年8月〜9月 機械更新の入札開始、業者決定
2025年8月18日 クラウドファンディングスタート
2025年9月30日 クラウドファンディング終了
2025年11月 第一期リターン品発送
2026年1月 農事組合法人 政所茶(仮)設立
2026年3月 新しい製茶機械で稼働開始(予定)
2026年7月 第二期リターン品発送
茶工場と茶畑見学ツアー開催
▼必要な資金
総工費は、約7,000万円(概算見積額)。
建物所有者であるグリーン近江農協が事業主体となり、東近江市からの補助をいただき、残りの資金をグリーン近江農協と地元が負担する予定です。
地元の負担分を、生産者・地元自治会およびクラウドファンディング等の支援で準備する予定です。
▼ご支援いただいた資金の使い道
いただいた支援金は、製茶工場の機械の更新および、今回の事業では予算の兼ね合いで更新出来なかった機械の今後の修繕に大切に使わせていただきます。
▼リターン品の概要

ご支援への感謝の気持ちを込めて、お礼の品をご用意しています。
おすすめは、「茶工場サポータープラン」。茶工場の入り口にあなたのお名前をネームプレートにして掲示します。檜の木の板に毛筆で、お一人ずつ丁寧に手書きさせていただきます。
また、同じ煎茶でも畑ごとに味が違う政所茶。いろんな生産者のお茶を味わってみたい方におすすめなのが、「政所茶テロワールセット」。48年間休まず働いた旧茶工場で製茶された最後の政所茶を、生産者ごとに少しずつ個包装にしていますので、ぜひ飲み比べてみてください。
生産者として、一番嬉しいかも嬉しいかもしれないのが、「政所茶アンバサダーセット」。政所茶オリジナルステッカー、パンフレットに加え、友人・知人にお渡しいただける政所茶をお届けします。これが届いたあなたはチーム政所茶の広報担当者です。私たちと一緒に政所茶の持つ文化を日本全国・全世界に広げてください。
そのほかにも多彩にご用意しています。ぜひあなたのお気に入りのリターン品を見つけてください。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
私たちと一緒に、政所茶の次の50年を支えてください。
どうぞよろしくお願いします。
最新の活動報告
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返礼品の第一弾を発送いたしました。
2025/11/25 20:53茶畑の側の紅葉は見頃を迎えていますが、朝は早くもフロントガラスが凍ることもあり冬の気配を感じている政所です。皆さまはいかがお過ごしでしょうか。さて、昨日、政所茶生産振興会の役員と有志で11月に発送予定とさせていただいていた方々への返礼品の発送準備をし、本日政所郵便局より発送させていただきました!116名の方のお宛名を書き、改めてたくさんの方に応援をいただいていることを実感しながら、みんなでわいわいと封筒に詰めていきました。また、みなさんからいただいた応援メッセージも全て印刷して読ませていただきました。思いのこもった言葉の数々、本当にありがとうございました。産地のみなさんにも改めて読んでいただける機会を作りたいと思います。返礼品の発送についてですが「政所茶アンバサダーセット」と「テロワールセット(煎茶セット)」「テロワールセット(平番茶セット)」は【定形外郵便】にて、「テロワールセット(全種セット)」のみ【レターパックプラス】にてお送りいたします。定形外郵便はポスト投函でのお届け、レターパックについては対面受け取りとなりますので、ご不在の場合は不在配達通知書がポストに投函され荷物は持ち帰りとなります。今週中にはお手元に届くかと思いますので、お受け取りと中身のご確認をよろしくお願いいたします。万が一今週中にお手元に届かなかった場合はお手数ですがお知らせくださいませ。今回お送りしたお茶は、どれも48年間頑張ってくれた茶工場で作ったお茶になります。みなさんのことを思い浮かべながらお茶をセレクトいたしましたので、政所茶らしさをお楽しみいただければ幸いです。返礼品のネームプレートもこれから制作に入りますのでまたこちらもご報告させていただきますね。風邪が流行る季節、温かいお茶を飲んで健やかにお過ごしください。 もっと見る
【ご報告】無事、茶工場のリニューアル工事を担う事業者が決まりました!
2025/11/21 21:00ご無沙汰がをしております。グッと冷えて秋らしくなってまいりましたが皆様お元気でいらっしゃいますでしょうか。政所茶の産地である奥永源寺地域は木々が色づいてきて、本格的な紅葉シーズンを迎えました。また、茶畑では茶樹が椿に似た小さな白いかわいい花を咲かせてくれています。 さて、皆様から大きなご支援を賜ったクラウドファンディングから1ヶ月半が経ちました。改めて貴重なご支援を本当にありがとうございました。金額はもちろんのこと、全国各地のこれだけ多くの方が思いを寄せてくださり応援いただけているということが、産地にとって大きな大きな励みとなっております。この1ヶ月、振興会では茶工場リニューアル後の運営体制についての議論を行ったり、事業が円滑に進むよう関係各所への要望などを行なって参りました。そして11月10日、無事、茶工場の機械を製造設置してくださる業者が入札にて決定いたしました!実は物価高騰などの原因により1回目の入札は不調に終わり、今回改めて農協によって入札が実施され、国内大手製茶業関連の機械・機器メーカーのカワサキ機工株式会社が受注されたとのことです。おかげさまでこれでいよいよ、茶工場のリニューアルに向けて具体的に動き始めることができます。しかし、昨今の抹茶ブームにより抹茶製造用の機械の注文が殺到しており、国内の数少ない製茶機械メーカーはどこも製造が追い付いていないとのことで、予定しておりました来年3月の納品が間に合わない可能性があるとの情報も入ってきております。また状況が分かり次第、皆様にはこちらの活動報告等を通じてご報告させていただきたいと思います。 返礼品の発送についてですが「政所茶アンバサダーセット」「政所茶テロワールセット」にご支援くださった皆さまへは、11月末の発送に向けて準備を進めておりますので今しばらくお待ちくださいませ。その他のプランの方については来年7月の発送を予定しております。 みなさんとのご縁がクラウドファンディングが終わっても末長く続いていくことを願っております。これから寒さが厳しくなって参りますが、風邪など召されませんようどうぞご自愛くださいませ。最後になりましたが、政所茶のルーツでもあり、綺麗な紅葉で有名な大本山永源寺も今年は特に美しく色づいておりますので、よろしければこの機会に当地とともにぜひお越しください。永源寺の紅葉 もっと見る
【動画あり】製茶機械ってどんなもの?茶工場の中をご案内します!
2025/09/28 21:30クラウドファンディングも残り2日となりました。昨夜にはご支援いただいた方の合計が500名を超えました。全国各地から本当に多くの方に応援をいただいていることに、感謝の思いと、これからも良いお茶をお届けできるようにという思いをあらたにしております。本当にありがとうございます。茶工場を動画でご案内いたしますさて今日は、改めて今回のご支援を活用させていただき改修する、茶工場の中をご紹介したく動画を作成しましたのでご紹介いたします。「政所製茶工場」は集落の中にひっそりと佇んでおり、稼働時期以外は中を覗いていただくことはできず、稼働時期も衛生面や安全面の問題から見学してもらうことは難しい施設です。茶工場というちょっと馴染みのない施設の改修に対しご支援いただいた皆さまに、この動画をご覧いただくことで少しでも内部の雰囲気を感じていただければ幸いです。15分程度の動画になりますので、お時間ある時にぜひご覧ください。( 撮影 株式会社つむぎや )今回は古い機械の並ぶ茶工場ですが、新しい機械に更新できた折りにはまた何かの形で皆さまに中の様子をお届けできるようにと思っておりますので、楽しみしていただければ幸いです。クラウドファンディングも皆さまの応援を力に最後まで頑張ってまいりますので引き続き応援いただければ幸いです。 もっと見る






皆さんのお気持ちの繋がり、 日々とても感じていて これからも応援したいです。