
こんにちは。京都・南山城村で宇治茶農家を営んでおります、井戸野茶園 四代目の井戸野 修子(いどの しゅうこ)です。
この地では、800年にわたりお茶が作り続けられており、私たちはその豊かな自然の力を活かして、農薬を使わず、自然栽培や有機栽培といった方法でお茶を育てています。
南山城村は、人口2,300人ほど。その約4分の3を山林が占めており、その豊かな自然を活かして、狭い谷間やなだらかな丘には、一面に茶畑が広がっています。
井戸野家は明治時代よりこの地で代々、茶の栽培と製茶に携わり、日本茶の伝統と文化を受け継いできました。そしてその歴史を、私が父から受け継いで10年が経ちます。
斜面に広がり、日光をたっぷり浴びる茶畑
今も父と共にお茶を作り続けていますが、父も82歳となり、茶農家として春を迎える回数も、そう多くはないかもしれない。そう、父の背中を見ながら感じています。
10年前、茶農家を継ぐことを決意し、父と共に歩んできた道。その歴史ある井戸野茶園を、いよいよ私一人で守っていく時が近づいているのを感じています。
今回、明治から続く井戸野茶園を四代目として引き継いでから10年という節目にあたり、私の手で「混じりけのないシングルオリジンのお茶」を守り続けるために、『井戸野家のお茶を伝える茶工場』をつくりたいと思いました。
この村だから味わえるお茶。井戸野茶園だけでなく、この土地で育つお茶を残すためには、大量生産型の機械ではなく、茶農家が育てることができる範囲で茶農家ごとの焙煎ができる「シングルオリジン」のこだわりの味をつくる。
市場に卸すだけでは、個人の茶農家の経営は厳しくなると感じています。
高齢化が進む南山城村の茶農家と、歴史ある豊かな土地で育つお茶を残すには、小ロットで製造できる茶工場が必要です。
その夢をかたちにするために、私は二度目のクラウドファンディングに挑戦いたします。
新芽を刈り取る
お茶刈りの様子
空が近い茶畑
京都で最も春の訪れが遅い村、南山城。
ここで、茶葉がゆっくりと育ちます。
私たち井戸野茶園がお茶づくりをしているのは、京都府で唯一の村、南山城村(みなみやましろむら)。京都府の最南端に位置し、三重県や奈良県と接する山間の地にあります。
この村は平地が少なく、茶畑は谷あいや丘陵地に広がっています。山の香りと風を受けながら、茶葉はゆっくりと育ちます。朝には霧に包まれ、昼夜の寒暖差が茶葉の味わいを一層深めてくれるのです。
村は、北部は標高約500メートル、南部には穏やかな丘陵が続くこの地では、冬の訪れが早く、春の目覚めはゆっくり。他の地域よりも約1か月長く冬が続き、そのぶん茶畑はたっぷりと休息の時間を過ごすことができます。
山に守られたこの場所で、私たちは“この土地でしか育てられないお茶”をつくり続けています。ひとくち飲めば、今まで飲んだことのあるお茶との味わいの違いを感じていただけるはずです。

植物がじっくりと眠ることで、土から吸い上げるミネラルや旨味成分が茶葉にじわじわと蓄えられ、こうして育ったお茶は、喉越しがまろやかで、香りに奥行きがでます。
南山城村のお茶は、「宇治茶の中でも有数の産地」と呼ばれることがありますが、それは単なる地名のブランドではなく、この土地の気候と自然が生み出す“味の深み”があるからです。
代々受け継いできた伝統的な日本茶
それは決して効率的ではないですが、たっぷりと時間をかけて丁寧に。
そんな価値を大切にしながら、私たちはこの地でお茶を育てています。
朝 茶畑が雲海から顔を出す
2025年初夏に撮影した、父の製茶作業風景です。


宇治茶の歴史は800年以上。
鎌倉時代に栄西が茶を広め、室町時代には将軍足利義満が宇治に御茶園(ごちゃえん)を置き、江戸時代には幕府への献上茶「御茶壺道中」が毎年行われるなど、国家レベルの格式を持つ茶として重宝されてきました。
つまり、宇治茶は単なる特産品ではなく、日本の「格式」や「美意識」を支えてきた存在です。
私たちの茶園もその一端を担っている誇りがあります。
初期 井戸野家茶園に関わるご先祖様の様子が絵で残されている

宇治茶は、日本茶の技術と歴史の源流。
宇治茶は、日本が世界に誇るお茶文化の中でも、もっとも深い歴史と技術を持つブランドのひとつです。その最大の特徴は、ただ「おいしいお茶」なだけではなく、日本の三大製法である『抹茶』『玉露』『煎茶』、すべての製法のルーツを宇治が持っているという点にあります。
少し宇治茶についてお話しさせてください。
抹茶:世界が認めた「Matcha」の原点
抹茶は、「碾茶(てんちゃ)」と呼ばれる特別な茶葉を石臼で丁寧に挽いて粉末にしたもの。この製法は、室町時代から続く非常に伝統的な技術であり、禅の文化や茶道と深く結びつきながら進化してきました。今や「Matcha」は世界共通語として知られていますが、その原点はまぎれもなく宇治にあります。
玉露とかぶせ茶 :旨味を極める、覆い下栽培の技術
宇治茶のもう一つの象徴が、「覆い下栽培(おおいしたさいばい)」という製法。収穫前に茶畑を覆い、日光を遮ることでカテキンの生成を抑え、甘み・旨味成分(テアニン)を引き出す高度な技術です。この製法を極めたのが「玉露」。さらにその技法を日常茶に応用したものが「かぶせ茶」で、玉露よりも被覆期間が短いのが特徴です。
どちらも、繊細な管理と経験が必要な職人の技術によって支えられています。

煎茶 : 日本の食卓を支える「日常茶」の原点
煎茶は、太陽の光をたっぷり浴びて育った茶葉を、収穫後にすぐ蒸して酸化を止める、日本独自の製法です。日本の家庭やおもてなしの場で最も一般的に飲まれているお茶であり、“日常のお茶”でありながら、奥深い味と香りを楽しめるのが魅力です。この煎茶の製法も、宇治の茶師たちが確立した技術が礎になっており、日本全国へと広まっていきました。
宇治茶:ブランドではなく“文化”である
このように、抹茶・玉露・煎茶という日本茶の三大製法すべてを生み出し、支えてきたのが宇治の職人たちです。宇治茶は、単なる「産地ブランド」ではなく、お茶の製法・文化・精神性のすべてを支えてきた総合的な茶文化の象徴なのです。
現代では、機械化や大量生産が進む中でも、茶農家は手間を惜しまず、一つひとつの工程に真摯に向き合いながら伝統を守り続けています。
京都南山城村では、自然の力を活かした茶づくりの挑戦が続いています。

宇治茶では、「覆い下栽培(おおいしたさいばい)」「手揉み製法」「火入れ技術」など、 非常に手間のかかる繊細な技術が今でも生きています。
「香り」を生かすための絶妙な蒸し加減や乾燥温度の調整を行い、五感すべてを使って、茶葉に合わせた細やかな調整が行われています。
こうした繊細な技術が、宇治茶の味と香りを極めた茶葉へと仕上げています。
受け継がれてきた技術

●昼夜の寒暖差がある
●朝霧が多く、直射日光をやわらげる
●山の傾斜と水はけの良い土壌
これらの自然環境が、旨味・香り・喉越しの良い茶葉を育ててくれます。
南山城村は、宇治茶の主産地の中でも標高が高く、茶葉に含まれるミネラルが豊富なことで知られています。 (※茶葉の成分に関して具体的に述べるものではありません。)
この土地で育った茶は芽吹きがゆっくりで味がしっかりとのり、香り高い宇治茶に仕上がります。

世界がその価値に気づき、評価し始めている今。
本来、もっとも身近にあるはずの私たち日本人こそ、宇治茶の本当の魅力に気づき、味わい、守り伝えていく番だと思っています。
この香りと文化を、これからの世代へ。
今、私たち自身が“宇治茶の価値”に追いつく時が来ています。
しかし、茶農家として日々感じているのは、「このままでは、日本茶が本当に消えてしまうかもしれない」そんな強い危機感を感じています。
かつては家族総出で賑わっていた茶畑も、いまや高齢化の波に押され、後継者不足が深刻化しています。重労働を担う人手も減り、畑を維持するだけでも精一杯という声が、各地から聞こえてきます。私たちのような平坦ではない勾配がある土地で茶葉を育てることは、大量生産には向かず、個性豊かなお茶の生産が年々減少しているのが現実です。

さらに追い打ちをかけるように、市場では「効率」や「コスト重視」が優先され、流通する茶葉の多くは、大量生産・大量消費を前提としたブレンド商品となって出荷されています。たとえ「宇治茶」や「〇〇茶」といった名のあるブランドであっても、その中に私たち生産者一人ひとりの顔や、畑ごとの風土、味わいの違いが感じられることは、ほとんどなくなってしまいました。
その結果、茶葉の価格は驚くほど低く抑えられ、本来の価値や魅力が見えづらくなっています。市場に卸すときは、個性的な味わいよりも、市場流通を安定的に出荷できることが評価の一つ。丹精込めて育てたお茶も、その時の個性は求められない。特に、まだ茶農家10年目の私のお茶は、父のような価値で評価されず、茶農家としての誇りや、やりがいまでもが、削られていく。
この仕組みでは、お茶畑を若者が引き継いだとしても市場での卸価格が安定するまでには長い年月がかかり、新しく参入するのが難しい現状があります。
茶工場での父の背中
収穫したばかりの茶葉
生産者として、日々茶畑を守り育てていくことには、大きなやりがいがある一方で、時に苦しさも感じます。自然相手の作業は思い通りにいかないことも多く、気候の変動や後継者不足など、課題は尽きません。
そして、丁寧に育てたお茶も「お茶を飲む文化」そのものが薄れている現実がある中、四代目として茶農家を引継ぎ、お茶を作り続けるという現実です。
急須で丁寧に淹れたお茶の香りや、口の中に広がるまろやかさを知らないという若い世代が、年々増えているように感じます。手軽さやスピードが求められる現代の生活の中で、お茶を「味わう」時間が少しずつ失われているのです。
一方で、コーヒー文化は大きく変化していると感じます。全国各地に、店主のこだわりが詰まった小さなロースタリーが生まれ、シングルオリジンの豆が注目されるようになりました。産地や品種、焙煎の違いによる個性が評価され、味わいを楽しむファンが広がっています。その姿を見るたびに、「お茶も本来、同じような魅力があるはずなのに」と、強く思うのです。

お茶も、実は茶畑ごとに育つ環境が異なり、土や気温、霧の出方、日照時間のわずかな違いによって、葉の香りや味わいに微妙な個性が生まれます。さらに、収穫後の加工や焙煎(火入れ)の技術によって、その表情はまったく異なるものになります。つまり、お茶にも「シングルオリジン」という考え方が、十分に成り立つのです。
私は今、茶農家ごと、あるいは畑ごとに異なる個性を大切にした、まさに“顔の見える”お茶づくりを目指しています。量ではなく質を、画一化ではなく多様性を。その土地でしか出せない味、その人だからこそ出せる香りそうした一杯を、小さな単位で丁寧にお届けしたい。そして、そうしたお茶を通じて、「お茶を楽しむ文化」をもう一度、暮らしの中に根付かせたいと思っています。
集まりの場では、自然と湯のみが並び、茶を通じて会話が生まれる。家族が揃った食卓や、大切な人を迎えるときには、心を込めてお茶を淹れる。その一つひとつが、慌ただしい日常に「間」を生み出します。
お茶は、ただの飲み物ではなく、人と人の心を結び直す、橋渡し役でもあるのです。
茶工場の香りが生活の一部だった、幼少期
そのお茶の文化、南山城村のお茶を残していきたいと強く思っています。
そのためには、茶葉をもちより大きな茶工場で焙煎するのではなく、茶農家ごとの土地で育った茶葉を、それぞれの焙煎方法で焙煎しシングルオリジンのお茶をつくる小ロットの焙煎が可能な「小さな茶工場」が、茶農家が残っていくことに必要だと感じています。
今回、私が二度目のクラウドファンディングに挑戦する理由は、製茶機械一式を購入・修理し、小さなロットでもお茶が作れる「小さな茶工場」をつくるためです。
これまで、お茶づくりに必要な工程は、どうしても大きな製茶工場に頼らざるを得ず、少量の茶葉や、個性のある焙煎方法を試すことが難しい現実がありました。
しかし、私が目指すのは、南山城村の風土や茶畑ごとの個性がそのまま感じられるお茶。そのためには、農家自身が自由に製茶できる環境がどうしても必要です。
今回の挑戦では、古い製茶機械を購入、それを修理・整備して、一農家でも少量からお茶を加工・焙煎できるような、小規模ながらも本格的な茶工場の立ち上げを目指しています。
この茶工場が完成すれば、南山城村に住む他の茶農家さんたちとも連携しながら、それぞれの想いや技術が詰まったシングルオリジンのお茶を、多くの人に届けることができると信じています。


なぜ、父がもっている茶工場があるのに、小さな茶工場が必要なのか?
それは、父がもっている茶工場は、大型の機械のため、小ロットの焙煎ができないのです。日本人がまだお茶を飲む文化があった頃は、茶葉の収穫期は寝ずに茶葉を刈り、茶葉を焙煎し市場に出荷していましたが、この方法だけを続けていくことは、難しいと考えています。
覆い下栽培の茶畑の収穫
この製茶機械は、現在ではすでに製造が終了しており、市場にはほとんど出回らない非常に貴重なものです。
小さな製茶機械を活かすためには確かな技術を持つ修理職人さんの存在が欠かせません。ですが、そうした技術者の方々も高齢化が進み、今を逃せば、二度とこの機械を蘇らせることはできなくなるかもしれません。
だからこそ、私は今、このタイミングで思い切って行動することに決めました。「今、動かなければ、もう間に合わない」という強い危機感と、「この機械を未来へつなぎたい」という想いが、今回の挑戦の原動力です。
何より、父の技術を村で継承していくには、82歳の父から教わる時間が限られています。あと、何度の春を一緒に迎えるのか。あと、何度一緒に焙煎ができるのか。
機械の操作方法ではなく、技術の継承。それには、残された時間は短すぎると感じています。
この小さな茶工場が実現すれば、私自身のためだけでなく、南山城村をはじめとした地域の小さな茶農家さんたちも、自らの手で丁寧に育てた茶葉を持ちこみ、それぞれの畑の個性、そして農家ごとの思いを込めたお茶づくりが可能になります。
たとえ収穫量が少なくても、個性豊かでおいしいお茶を、丁寧に製茶し、焙煎し、それぞれのストーリーとともに届けることができる。それは、消えつつある「日本の茶文化の多様性」を守る大きな一歩になると信じています。

大型の茶工場では決して実現できない、「ひと茶畑、ひと味」の製茶。それは、大きな機械ではなく、小さな製茶機械だからこそ可能になる、特別なお茶づくりのかたちです。
大量生産や効率化とは真逆の道かもしれません。しかし私は、この“非効率”の中にこそ、つくり手が心から納得するお茶づくりの本質があると信じています。
お茶は、ただ生産されるだけでは本当の意味で「残る」ことはありません。どれほど味や香りが素晴らしくても、そこに込められた思いや背景が共有されなければ、文化として根づくことはないのです。
だからこそ私は、茶葉を育て、収穫し、焙煎し、仕上げていく。
その一連の流れすべてを、「茶農家だけの仕事」にとどめるのではなく、地域の文化として、南山城村の暮らしの中に根づかせていきたいと考えています。
この小さな茶工場は、そうした想いを形にする場所です。単にお茶を製造する場所ではなく、人が訪れ、五感を通してお茶を感じ、焙煎を体験し、お茶文化を楽しむための場所です。
つまり、小さな製茶機械を手に入れるということは、ただ農家がオリジナルなお茶をつくるための手段ではありません。それは、お茶づくりを「見せる」「伝える」「体験してもらう」ことで、お茶の文化そのものを未来に繋げる場所なのです。
子どもから大人までが、自分の手で焙煎した茶葉の香りに驚き、その味わいの深さに感動する。そんな体験の積み重ねが、この村に新しい記憶とつながりを育ててくれると信じています。
緑茶を楽しめるドリップパック
また、今手に入れようとしている古い製茶機械は、すでに製造が終了し、現存する数もごくわずか。修理には高い技術が必要ですが、まだその職人さんたちが現役で活躍されている今が、最後のチャンスかもしれません。
この古い機械を修理し、未来へと残すことは、単なる道具を守るということではなく、茶の技と心、そして文化を次の時代に渡していくことそのものだと思っています。
このクラウドファンディングは、その大きな夢の第一歩となる挑戦です。南山城村でしかできないお茶づくりをお茶を通じて、人と人がつながる文化を未来へと一緒に育てていく力になっていただけたら幸いです。
私がこの仕事を始めたばかりの頃、祖父がふとこう言ったのを今でもはっきりと覚えています。
「四代目になるんやで」
その時すぐに「茶農家として継ぐんだ」と思ったわけではありません。それよりもまず感じたのは、この風景を残したい、この味を途絶えさせたくない。そんな気持ちでした。
棚田の茶畑に朝日が差し込み、霧が静かに立ちのぼる。若芽が太陽に向かって伸びていく。季節が巡るごとに、茶の香りが風と共に村を運ばれる。それは、目に見える風景だけでなく、時間とともに積み重ねられた記憶や暮らしそのものです。
山の斜面に広がる茶畑
秋の茶畑
かつては「守る」ということだと思っていた“受け継ぐ”という行為。しかし今は、ただそのままを維持することではなく、自分自身と向き合いながら、未来へ向けて更新していくことなのだと、思うようになりました。
祖父や父が守ってきたものの中には、もちろん揺るがせない大切なものがあります。けれど、時代も価値観も、そして茶を取り巻く環境も大きく変わる中で、自分自身の感性で、新しい形で残していく勇気もまた「継承」の一部だと感じています。

それは、単に技術や畑を次に渡すだけではなく、次の世代に「こうしてもいい」「こんな未来があるかもしれない」という可能性や希望までを渡すこと。その責任と覚悟が、“四代目として生きる”ということだと、今は思えるようになりました。
この茶工場をつくるという挑戦も、まさにその延長線上にあります。過去から受け取ったバトンを、そのまま握りしめるのではなく、自分の色で塗りなおし、より遠くへと手渡していくための第一歩なのです。
井戸野茶園が抱える課題
今、私たち井戸野茶園が直面している課題は、同時に多くの茶産地にも共通する、深い悩みでもあります。
● 生産者の高齢化と後継者不足
私のように茶づくりの現場に立つ者が年々減ってきているのが現実です。茶畑を守り続けてきた方々が高齢になり、体力的な限界を感じながらも、「次を託せる人がいない」と言います。若い世代の多くは都市部に出ていき、農業に戻ってくる選択肢を持ちにくい。これまで当たり前に営まれてきたお茶の暮らしが、途絶えようとしています。
● 畑から消費者の手元に届くまでの流通が複雑
私たち生産者が大切に育てた茶葉が、どのようなルートを通り、どのように売られているのか。その全体像を把握するのは難しいほど、現在の流通経路は複雑です。多くの中間業者を経由することで、価格決定権は生産者の手を離れ、どんな思いでつくられたお茶なのかも伝わりにくくなっています。この構造が、お茶を「もの」としてしか見られなくしている要因の一つです。
● 量を優先した生産で、お茶本来の価値が伝わりにくい
かつては一つひとつの畑が持つ個性や風味が重視されていたお茶づくりも、今では「いかに多く作れるか」「標準的な味に整えるか」が評価される傾向にあります。その結果、土地や作り手の違いが見えづらくなり、お茶そのものの奥深さや文化的価値が、伝えられにくくなってしまいました。これは、飲み手にとっても、作り手にとっても、大きな損失だと感じています。
● 消費者には生産者や土地の顔が見えない
日々の暮らしの中で、お茶を手に取るとき、そのお茶がどこで、誰の手で育まれたものか。それを知る機会は、今の流通の中ではほとんどありません。けれど、本来お茶は「風土」と「人」がつくるもの。作り手の顔が見えないお茶では、その魅力をすくい取ることはできません。

作り手の見えるお茶は愛着も増す
私がこの「小さな茶工場」をつくろうと決意した背景には、単にお茶を製造するための場所を確保するというだけでなく、この場所を通して人と文化をつなぎ、未来へ向かって開かれた空間にしたいという強い想いがあります。
一つめの目的:
小さな茶工場でお茶づくりの体験を提供します。製茶機械を修理・整備し、実際に稼働させることで、昔ながらのお茶の作り方を「見て」「触れて」「体験できる」場所をつくります。
ここでは、ただお茶を飲むだけでなく、茶葉がどのように焙煎され、味わいを深めていくのか。その過程すべてに触れられる。そうした体験を通して、子どもから大人まで、お茶の面白さと奥深さを感じてもらいたいのです。

二つ目めの目的:
たとえ大量に作れなくても、小さなロットでもお茶をつくり続けられる環境を整えることで、自分の茶畑を未来に残していける場所をつくることです。
現在の茶業界では、市場にお茶を卸すためにはある程度の量をまとめて生産する必要があるため、少量しか生産できない農家や兼業農家にとっては非常にハードルが高い状況です。特に、専業ではなく他の仕事をしながら茶畑を守っている方々にとって、「茶畑を続けるためには、ある程度の規模でやらなければならない」というプレッシャーが重くのしかかっています。
その結果、「量がつくれないなら、やめるしかない」「後継ぎもいないし、この畑もそろそろ…」という声が、実際に聞かれるようになりました。こうして、手間をかけて守られてきた茶畑が、次々と姿を消していってしまっているのです。
でももし、小さなロットでも自分のペースで製茶できる環境があれば、専業でなくても、また大量に収穫できなくても、「この畑を続けていこう」と思える人が増えるはずです。
この小さな茶工場が実現すれば、そんな人たちが自分の茶畑で育てた茶葉を持ち込み、自分だけの味、自分だけのお茶をつくることができます。小規模な農家が希望をもって畑を守っていける新しい選択肢になると信じています。

三つめの目的:
お茶の伝統の価値を世界へ届けること。今、海外でも日本茶への関心は高まりつつありますが、まだまだその背景や文化までは十分に伝わっていません。この茶工場では、製茶体験やお茶の学びを通して、「味」だけでなく「作り方」や「土地との関わり」、そして「人の想い」までも伝えることで、お茶に対する理解と共感を深めてもらいたいと考えています。
この小さな茶工場を通して、地域の歴史と未来を結び、人と世界をつなぐ架け橋のような場所にしていきたいと願っています。
茶狩りの風景 小さな機械で行う
フランスから茶園に 海外からの来訪者も増えた
井戸野 修子SYUKO IDONO
井戸野茶園四代目 / 京都宇治茶 井戸乃井 代表

1970年7月5日、京都府南山城村にて、代々茶農家を営む家に長女として生まれる。豊かな自然に囲まれた茶畑の中で育つ一方で、一度は家業を離れ、住宅業界で働きながら、3人の子どもを育てるという多忙な日々を送ります。
その中でも地域との関わりを大切にし、南山城村の特産品を活かした商品開発イベントの企画や、手仕事・ものづくりをテーマにした地域コミュニティの立ち上げにも携わるなど、地域に根ざした「人とモノ」をつなぐ活動を続けてきました。
家族が守り続けてきた茶畑にあらためて目を向けたとき、「この風景を、味を、文化を、次の世代に残していくために、自分ができることがあるのではないか」と感じ始める。住宅業界で培った力や人とのつながり、そして子育てや地域活動を通して得た視点をもとに、「お茶」という伝統的な分野に、新たな息吹を吹き込むことを人生の使命とするようになります。
現在は、京都 宇治茶 井戸乃井の代表として、小規模農家が茶業を続けていける仕組みづくりや、古い製茶機械を活用した「体験型の小さな茶工場」の立ち上げなど、新しい取り組みを次々と始動しています。
また、宇治茶の持つ魅力を国内外に伝えるべく、海外にも積極的に進出し、お茶の可能性を世界へと広げる活動にも力を入れている。
「お茶をただ“作る”のではなく、“つなぐ”。」それが、私が人生をかけて目指す、次の時代の茶文化のかたちです。
茶工場で 父と
● 人とのつながりから生まれる、新しい資金調達のかたち
今回、クラウドファンディングという方法で支援を募ることに決めたのは、この挑戦に共感してくださる方々と一緒に、南山城村のお茶の未来をつくっていきたいという想いが何よりの思いです。
今、南山城村のお茶は、生産者の減少や市場の変化など、さまざまな課題に直面しています。けれど、この土地で育まれるお茶を、ここでしか生まれない大地の力と、人の営みがぎゅっと詰まっていると、私は信じています。
だからこそ、そうした「お茶の背景にある物語」を届けるために、まずは一歩目として、この小さな茶工場を皆さんと一緒に立ち上げたいのです。クラウドファンディングという仕組みは、「この想いに共感してくれる人たちの輪」で成り立つ、とても人間らしい資金調達のかたち。お茶を通して人と人がつながるように、このプロジェクトもまた、人のつながりから生まれていくものであってほしいと願っています。
● 自分自身への挑戦でもあります
こうして公に想いを語り、支援をお願いすることは、普段は茶畑で静かにお茶づくりと向き合っている私にとって、とても勇気のいることです。
けれど今、茶農家に向き合う中で、「このままじゃ、何も変わらない。だからこそ、一歩を踏み出さなければならない」という、自分自身への強い問いかけです。
クラウドファンディングに挑戦するということは、農家としての新しいあり方に挑むことでもあり、自分自身を信じるための第一歩でもあります。すべてが今の自分には大きな挑戦ですが、この一歩を踏み出すことで、茶業の未来にも、自分自身の未来にも、必要だと感じています。
茶畑に興味を持つ方たちと茶刈り
⚫製茶機械の購入・修理・導入費(部品・工事費含む)
⚫リターン品の製造・包装・発送コスト
支援金はすべて製茶機械の購入とリターン品発送のために使わせていただきます。
①マイ茶畑ひと畝オーナー権利(1年間)
茶畑ひと畝を1年間個人の茶園としてオーナー契約いただける特別な権利です。
栽培期間中農薬不使用 【オーナ特典】
・生産量の目安 1畝あたり年間約1kg(一煎用ティーパック約350個分)
・収穫した茶葉は製茶後、一煎用ティーパックに袋詰めしてお渡し

②ドリップパック2種のお茶:50個セット (ファミリーセット)
宇治茶の主産地、京都府唯一の村・南山城村産の煎茶を気軽に楽しんでいただけるドリップパックのセットです。 ドリップパックなので淹れやすく、本格的な宇治茶の香りと味わいを楽しめます。 家族の団欒に、会社の休憩時間に、朝の一杯に。お茶をお楽しみください。
《内容》
[自然栽培] 京都宇治茶ほうじ茶 3g 25個
※原材料及び添加物等の食品表示はお届け商品のラベルに表記されます。 商品開封前には必ずお届けのリターンに貼付されたラベルや注意書きをご確認ください

そのほかにも、井戸井茶園と南山城村を楽しめるリターンをご準備しております。
リターン品にも入っている、父のかぶせ茶・和紅茶の取り組みについて、動画をご覧ください。
このクラウドファンディングの募集期間が終わり次第、順次実施していきます。実施は茶葉の生産状況を見ながら、開始する予定です。茶工場建設の様子は、インスタグラムなどで随時お知らせさせていただきますので、ぜひフォローいただければと思います。

私は、宇治の茶農家として、ただ「お茶」を未来に残したいのではありません。この土地で育まれてきた風景や、そこで生きる人の営みも次の世代に手渡したいのです。
それは決して、私ひとりのための挑戦ではありません。この地域で、どれほど厳しい状況にあっても、まっすぐにお茶づくりに向き合っている茶農家たち。
だから私は、このプロジェクトを通して、「南山城村の宇治茶には、こんなにも情熱をもってお茶をつくっている人たちがいる」ということを、全国へ、そして世界へと伝えたい。
この土地の味と心を守ることは、未来への希望をつなぐこと。そしてその希望の灯を、絶やさぬように守り続けるのが、私の使命だと感じています。
この小さな一歩が、新たな文化を生み出すことを、私は心から願っています。
小さな茶工場を作り、茶農家のシングルオリジンのお茶を届ける。
あなたのご支援・ご参加が、この茶畑の未来を変える一歩になります。どうぞ、よろしくお願いいたします。
井戸野 修子


最新の活動報告
もっと見る
たくさんのご支援ありがとうございました!
2025/12/01 18:33この度は、たくさんの方々に応援とご支援を頂き、私たちの挑戦は無事に終えることができました。心より感謝申し上げます。皆様のおかげで目標金額の476%を達成することができました。ありがとうございます!南山城村の小さな茶農家の挑戦に、これほど多くの方が力を貸してくださったことに胸がいっぱいです。今回のクラウドファンディングは終了となりましたが、私たちの挑戦はここからが本番です。これからも、井戸乃井の活動をより身近に感じていただけるように、Instagramで随時発信していきます。ぜひInstagramをフォローしていただき、この先の変化と成長を見守っていただけたら幸いです。▼Instagramはこちらhttps://www.instagram.com/idonoi.kyoto/?hl=ja もっと見る残り2時間となりました!
2025/11/30 22:15ここまで歩んでこられたのは、応援してくださった皆さまのおかげです。ページを見てくださった方、メッセージを送ってくださった方、シェアや応援コメントで支えてくださった方、その一つひとつの想いが、井戸乃井にとって大きな力になりました。気づけば、挑戦の期間は残り2時間。最後の瞬間まで、走り切りたいと思っています!南山城村の自然を未来へつなげるために。小さなロットでもお茶づくりができる環境を整えていくために。この挑戦をたくさんの方が応援してくださいました。もし少しでも、井戸乃井の取り組みを応援したいと思ってくださっている方がいらっしゃいましたら、どうかこのラスト2時間に、お力添えいただけましたら幸いです。最後までどうぞよろしくお願いいたします。 もっと見る
300%達成!!ありがとうございます!
2025/11/30 21:22クラファン終了、2時間前!ネクストゴールに到達しました!!!ありがとうございます!このあと22時から最後のfacebookライブ行います!https://www.facebook.com/share/1BaBQE4vwB/?mibextid=LQQJ4dお友だち登録後、ライブでみられます!ぜひ遊びに来てください!クラファン事務局 もっと見る















コメント
もっと見る