「国内最大級」と言われる竜巻が9月5日に静岡県牧之原市や吉田町を襲ってから、今日で1カ月になります。空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”は被害の拡大を受け、看護師ら5名を被災地に派遣し、支援を行いました。現地入りしたメンバーの1人が、能登半島地震で被災した石川県珠洲市に現在も駐在し支援を続けている橋本笙子です。災害支援で豊富な経験を持つ橋本が、今回の竜巻被害や支援活動の様子や、見えてきた課題を振り返りました。地震とは全く違う「竜巻」での被災日本では大規模な竜巻の発生はこれまで多くなく、地震や台風などに比べると、警戒すべき災害としてあまり認識されてきませんでした。ただ今回の竜巻で大きな被害が出たことで、地震などとは違う竜巻特有の被害状況が浮き彫りになりました。竜巻が大きな被害をもたらすのは主にその通り道で、被災地域は非常に局所的になります。被災した家とまったく被害を受けていない家が道路を1本挟んだところにあるなど、「被災した生活」と「通常の生活」が同時期にすぐそばで存在するという点が、周辺地域一帯が被災する地震などとは異なる特徴です。人によってまったく受けた損害が異なるため、住民感情も複雑で、つらいものがあります。「なぜうちだけがこんな目に」と思うのも無理のないこと。こうした被災者の方の心を安らげるために私たち支援者ができることは、とにかく気持ちに寄り添うこと、丁寧にコミュニケーションをとることしかありません。出来る限りのことをしましたが、それでも「もっと丁寧に対応するべきだった」と後悔したこともありました。住宅被害に乏しい支援、その理由は?また今回の被害では、被災住宅への公的支援の問題が明確になりました。今回の竜巻で、2,000棟近くの家屋が被害を受けましたが、実は公的支援が限られます。竜巻で屋根が損傷したケースが多いのですが、屋根の被害だけでは、罹災証明書に記載される被害の程度は「準半壊」以下。公的支援が限られるため自主再建を中心に生活を再建することを考えなければなりません。しかし、屋根が壊れた状態で日常生活を続けるのは困難ですし、雨が吹き込めば家全体が傷んでしまいます。この問題は以前から存在していたのですが、今回、それが多くの方の生活再建に影響を及ぼすこととなってしまいました。改善が急がれる制度上の課題です。「つながりは力」実感した支援活動こうした課題の一方で、支援の中で感じた手応えもありました。その筆頭が、官民で連携しての活動です。牧之原市では、私たちが現地入りしてすぐに災害対策本部会議に加えていただき、協力して活動することができました。私は、災害支援は官民両方の力を生かすことが重要だと考えています。行政の大きな支援から零れ落ちてしまう人たちを拾い上げるような活動は、民間だからこそできること。行政とピースウィンズでできることが異なるからこそ、協力し合うことで包括的な支援につなげられます。行政でなくても、自分たちでできない支援は他にできる人を探す。そうやって、「支援者の限界を支援の限界にしない」ことが必要だと感じています。これまでピースウィンズ、ARROWSの活動では、巨大地震などの大規模災害での緊急支援が目立っていたと思います。しかし、今回のような災害の現場でも私たちにできることがある、ということが今回実感できました。風水害の発生が増えているこの日本で、必要な支援を必要な場所に届けられるよう、「つながりの力」をこれからも育てていきます。復旧から生活再建へ、支援のフェーズ移行と今後の連携ARROWSは発災直後から約2週間にわたり、現地でのニーズ調査、戸別訪問、そしてボランティアセンターの運営サポートといった緊急性の高い活動に尽力しました。現在は現地での直接支援から、自治体や社会福祉協議会といった現地の体制と密に連絡を取り合う支援のかたちへと移行しています。被災地では、被害のあった建物の修復や仮設住宅への入居が開始されます。私たちは引き続き、被災地が抱える「新たな課題」や「支援の隙間」に関するご相談に、これまでの知見と全国のネットワークを活かし、適切な情報提供や専門的なアドバイスで支援させていただきます。皆さまからの温かいご支援で、現地の支援に駆けつけることができ、今後の支援を柔軟に展開することのできる体制を整えることができました。引き続き、静岡県の復興を見守り、必要とされる場面に対応してまいります。
静岡県竜巻災害 の付いた活動報告
静岡県にて、国内では最大級と推定される竜巻が発生してから1週間以上が経過し、迎えた3連休。各地から災害ボランティアが集結し、要望に応じて被災した家の掃除や片づけ、瓦礫の撤去など復旧作業が急ピッチで進められています。空飛ぶ捜索医療団"ARROWS"の緊急支援チームは、被害が大きかった地区のなかでおもに支援の手が比較的少なかった吉田町の支援に尽力。9日に現地入りして以降、自治体や社会福祉協議会(社協)と連携し、被害状況の把握とニーズ調査などの活動とともに、支援者側の体制構築や運営などのサポートを行っています。災害ボランティアセンターの開設と運営をサポート運営を担う社協のスタッフと一緒に吉田町の災害ボランティアセンターの設営を手伝う災害の復旧で大きな役割を果たすのが、専門職も含めた災害ボランティアの存在です。災害ボランティアセンターの開設準備では、ボランティアの人たちがスムーズに活動できるように、センター内のレイアウトなども工夫しながら設営をサポート。また、さまざまな活動は現場こそ分かれますが、各チームの情報はそれぞれの活動に関連してくるため、指揮系統やスムーズな情報共有の体制と仕組みづくりも重要になってきます。制度も含めた大きな支援を動かす自治体や地元の官民の支援団体が、縦割りではなく、シームレスにつながっていくことが被災者を救うことにつながります。石川県珠洲市をはじめ、数多くの被災地を支援してきた橋本は、災害支援における支援者側の体制構築の重要性について次のように語ります。「同じ災害というのは、ひとつもありません。災害の規模だけではなく、被災者もそれを支援する側も地域・地区によって事情は異なり、抱える課題もさまざまです。こうしたそれぞれの状況をきちんと把握しながら、どのように必要な支援を必要とする人に、スピード感を持って届けていくかを考えていかなければなりません。外部の支援団体として考慮しなければならないのは、いずれは地元の地域・地区が自分たちで再生していく力を持たなければならないこと。被災者同様、支援者や支援体制を支えていくことも、災害支援ではとても重要になってきます。」竜巻で屋根や壁が破壊され、散乱した瓦礫や使えなくなった家財等の集積所。こうした災害ごみの運び出しや運搬もボランティアが担うボランティアセンターが効率的に機能し、迅速に被災者の支援を行うことは、1日でも早く被災地が復旧・復興するためには欠かせない活動になります。今回の支援では、こうしたボランティアセンターの運営サポートも重要なミッションのひとつとして取り組みました。“できない”ではなく、“できること”を考える一方、被災者からのニーズ調査では、被災した家屋の掃除(ごみの搬出)や片づけ(荷物の運びだし)、瓦礫の撤去、解体や修復など、業者やボランティアが必要とする作業のニーズを確認するほか、公的支援を受けるために必要な情報を提供し、適切な窓口につなげる活動を行っています。この聞き取り調査のなかで、空飛ぶ捜索医療団が大切にしているのは、行政やほかの支援団体が対応することができないことでも、被災者に困りごとがあれば“何ができるか”考えること。「猫を保護してもらえないか」という相談事もそのひとつです。あるご家族が、家主がお亡くなりになり、不在となった親戚の猫の面倒を見ていましたが、その家が被災。さらにご自身の家も被災して世話をするのが難しくなったため「一時的にでも保護してもらえないか」と相談があったといいます。今回、行政ではペット支援を行っていなかったため、空飛ぶ捜索医療団は町内にある保護猫カフェに連絡。吹きさらしの状態だった家から無事猫を保護してもらいました。被災して以来、どこにも相談できず、なんとかしなければと思いながらも余裕がなく、ずっと悩んでいたといいます。私たち自身ができなければ、それに対応してくれるところを探してつなげることも支援のカタチのひとつです。医療や物資、避難所支援など、災害支援の活動は、大きな支援ばかりが注目されますが、被災者にとっては、こうした個人的な悩みも大きな負担になっています。支援としては、保護猫団体につないだ、という小さな活動です。それでも被災された方の不安をひとつでも解消し、困難な復旧や生活再建に前向きに取り組んでもらうことは、私たち民間団体だからこそできる、大切な、大きな支援だと考えています。
台風15号にともなう竜巻被害の発生から1週間が過ぎましたが、被災者の蓄積される疲労が懸念されるなか、空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”の緊急支援チームは、引き続き支援者側の運営や体制構築もサポートしながら、おもに“見えない”ニーズを掘り起こす調査活動に尽力。1日でも早い復旧の実現を目指すとともに、少しでも被災者の心労を取り除くためにできる支援を続けています。災害支援のプロとして被災者と支援者を両方を支えていく今回の竜巻災害は、その通り道となった場所が集中的に被害を受ける局地的な災害であること、また住家被害は1,685棟にものぼりますが、そのうち1,518棟は「一部破損」と報告されています。住家被害のおよそ9割を占めるこの「一部破損」は、屋根や壁、ガラス窓などの破損がほとんど。特に問題となっているのは屋根や壁の破損で、雨が降れば屋内への水漏れにつながり、対策を行なわないとカビなどが生じる原因にもなり、1日でも早い行動が求められています。これまで数多くの災害支援を経験し、現在も能登半地震で被災した石川県珠洲市にて発災直後からその後の復旧・復興を支える橋本は、今回の支援の難しさについて、次のように語ります。「国や自治体による支援は、被害の規模がひとつの判断基準となることが多く、今回の規模では動きにくいという現実もあります。外部支援団体ができることにも限りがあります。しかし、現実的に多くの被災者がいます。被災者を誰ひとり取りこぼさずに助けるためには、地元の支援が連携して被災者に手を差し伸べ、迅速に支援にあたる体制を構築することがとても重要になります」(橋本)自治体でもこうした自然災害への対策は講じられていますが、実践経験は少なく、また人員も限られていることから、支援者支援も必要な状況です。災害支援は緊急時だけでなく、その後の復旧・復興支援も求められます。そのためにも、自治体を中心に地元の支援体制がシームレスに連携し、継続的に被災者を支えていく体制構築が必要になってくるのです。空飛ぶ捜索医療団はこうした自治体が支援者の運営や体制構築をサポートしていくとともに、社会福祉協議会などと連携しながら、被災者と支援を迅速につなぐために、被災地域で支援制度の周知や困りごとなどのニーズ調査を担当。支援者・被災者の両面から被災地を支える支援活動を続けています。災害という“事象”ではなく、“人”にフォーカスする一部被災者からは「うちなんて被害は小さいほうだから……」「隣の家に被害を出してしまって申し訳なくて……」と、支援を受けることを遠慮したり、消極的な人が少なくありません。地域一帯が被災したのではなく、被害を受けたのは町のなかでも一部で、周辺はこれまでと変わらない日常があるという状況も、被災者を複雑な思いや立場にさせてしまっているのかもしれません。また、被災者によっては、やり場のない怒りや悲しみ、不安で、心を落ち着かせて話ができる状況ではない方もいます。支援する側としては、少しでも助けになりたいと思い行動しますが、被災者からすれば、突然やってきて、いろいろと状況を聞かれても、不信感が先行してしまうのも仕方がありません。しかし、話を聞かなければ、必要な支援につなげることができません。「必ずしも最初からスムーズにコミュニケーションがとれるわけではありません。それでもメンバー全員、被災者に寄り添い丁寧に話しかけながら、少しずつお話を聞きだすことを心がけています。私たちが大切にしなければいけないのは、災害という“事象”ではなく、“人”にフォーカスすること。その人の生活や暮らしをイメージして、本質的な支援を考察する。『私たちに何ができるのか?』。支援する側として、私自身も日々、学んでいるような気がします」「来てくれてありがとう」。宮内看護師は、ある被災者への聞き取り調査の最後に何度もお礼を述べながら涙を流すその背中に、そっと手を添えたといいます。被災者の状況は一律ではなく、個々人によって状況は異なります。誰ひとり取りこぼさないために、一人ひとりに寄り添う支援を、これからも続けていきます。







