第73回全日本吹奏楽コンクール・第38回全日本マーチングコンテスト
W(ダブル)金賞受賞インタビュー
全日本吹奏楽コンクール 大会の台裏 ― 部員52名でつかんだ栄光 ―
全国大会出場校の多くは百人規模の部員を抱え、厳しいオーディションを経て選抜される。しかし、活水はわずか52名。中学生5名、初心者3名を含む編成だ。楽譜を読むところから始めた部員も舞台に立ち、全員で音を作り上げた。
「初心者が全国の舞台に立てるなんて、他校ではありえないこと。だからこそ誇れると思います」
と彼女たちは胸を張る。
「最初は不安ばかりでした。本当に全国大会に行けるのかどうかも分からないくらいで…」
九州大会では満足のいく演奏ができず、その悔しさをバネに全国へ挑んだ。そこから練習の空気は一変した。
「九州大会後、しだいに、みんなの息が合ってきたんです」
吹奏楽部Ⅲ年生副部長の一瀬さんと音楽リーダーの堤さんにお話をきいた。
左:Ⅲ年吹奏楽部副部長 一瀬さん
右:Ⅲ年音楽リーダー 堤さん
「自分たちの“音”を作り上げる」― 吹奏楽部の挑戦 ―
全国大会金賞受賞の裏には「自分たちの曲を作り上げる」という地道な積み重ねがあった。
セクションごとの少人数練習では、一音一音に徹底的にこだわり、美しい演奏を目指した。さらに、10分・15分刻みで練習計画を立て、同じメロディーを担当するメンバー同士で音を合わせる。誰とどこを合わせるのかを細かく決めて取り組んだ。
「本当に細かい作業の繰り返しでした」
課題曲を一人ずつ全員の前で演奏する試みも行った。少人数だからこそ、一人ひとりの技術が全体の完成度に直結する。緊張の中で披露し合うことで、個々の力を磨き、全体の響きを高めていった。
今年のチームにはもう一つの特徴があった。学年を超えた意見交換だ。
「Ⅲ年生が指示して行うこともありますが、下級生にも『どう思う?』と問いかけ、学年に区別なく意見を言い合えた。それが強みになったと思います」
演奏を作り上げる過程では、曲の雰囲気やイメージをめぐっての議論も重ねられた。自由曲の中間部 ― ゆったりとした場面―では「切なく」、「希望をもって」など様々な意見が飛び交い、なかなかまとまらなかった。最終的に杉町先生が示した「チャペルで祈りを捧げるイメージ」という言葉に全員が共感し、方向性が定まった。音楽を「作り上げる」とは、こうして一つのイメージを共有し、全員で響きを形にしていくことなのだ。
全国の演奏を聴き比べると、学校ごとに個性がある。力強さを前面に出すバンドもあれば、繊細で上品な響きを追求するバンドもある。活水は女子校であり、指揮者も女性という、全国大会出場校で唯一の存在。その特性を生かし、「上品さ」「女性らしさ」を音で表現することを目標に掲げた。
「全国大会で、審査員の講評に『上品で、しなやかなサウンド』と書いていただけたんです。自分たちが目指した音を、審査員に伝えることができたのが本当に嬉しかったです」
自分たちの理想の音を決め、仲間とともに磨き上げた響き。それが全国大会の舞台で評価され、金賞という最高の形で実を結んだ。
――「これ以上ないぐらいの喜びでした」
「最後の演奏は本当に楽しかった」― 一体感が生んだ全国金賞 ―
全国大会当日の朝には、Ⅲ年生がホテルの一室に集まり、15分ほど“気合い入れ”を行った。
「当日の流れを確認して、“最後までⅢ年生が引っ張って必ず良い演奏をしよう”と全員で意思を確かめました」
短い時間ながらも、イメージの統一と気持ちの結束が、舞台での演奏に大きな力を与えた。全国大会本番は、九州大会までとは違う気持ちで演奏ができた。 「全国はもう“いける、いける、いける”っていう期待を込めて演奏できました。本番の勢いと先生とも一緒になれた感じがして、決めどころを全員で共有していたので、審査員にしっかり届けようという気持ちで演奏できました」
その結果、演奏中に自然と一体感が生まれた。九州大会までは感じられなかった「心が一つになる瞬間」が、全国の舞台では確かにあったのだ。
「最後の演奏は本当に楽しかったです」
「楽しかった」
その言葉が繰り返されるほど、彼女たちは音楽を心から楽しみ、その楽しさが聴衆にも伝わった。
「九州大会までは、何としても全国に行きたいと思っていました。でも、全国大会に向けては“絶対金賞”って思っていました。失うものはない、やるだけでしたから」
プレッシャーに押しつぶされそうだった九州大会を乗り越え、全国の舞台で全力で楽しみ、仲間と一体となった演奏。その瞬間が、金賞という最高の結果を引き寄せた。
――「音楽って不思議。楽しんでいるからこそ、聴いている人にも伝わるんです」
「場数と感謝が力になる」― 全国金賞の舞台裏 ―
全国大会直前であっても、活水吹奏楽部は数々のイベントに出演した。外から見れば「大変ではないか」と思えるが、彼女たちにとってはそれが日常だった。
「杉町先生が演奏依頼を全部受けてくださっているのは、私たちの成長のため。経験が多くできるのはありがたいです」
人前で演奏する場数を踏むことで緊張はしだいに薄れ、演奏そのものを楽しめるようになった。全国大会でも観客を前にしてリラックスでき、普段通りの力を発揮できたのは、この積み重ねがあったからだ。
「イベントは息抜きにもなります。練習ばかりだと煮詰まってしまうけど、イベントで演奏すると逆にリフレッシュできるんです」
楽しさをそのまま本番に持ち込めたことが、結果につながった。
一方で、実際に、金賞の発表を聞いた瞬間は「えっ、私たちが?」と驚きが先に立ち、実感がわかなかったという。達成感は時間をかけて心に広がり、やがて「自分たちの努力が高く評価されたのだ」と静かな喜びに変わった。その背景には、歴代の先輩たちの積み重ねがある。
「1年生の頃から、先輩たちが徹底的に育ててくれた。その支えがあったからこそ、今回の金賞につながった」
先輩たちから「私たちの夢を叶えてくれてありがとう」と声をかけられた、その時の喜びは何にも代えがたいものだった。遠征に同行してくれた先輩、LINEで寄せられた温かい言葉―― その一つひとつが心にしみた。家族の存在も大きかった。寮生活を送りながらも、遠方からイベントに駆けつけてくれる家族の姿に支えられた。
「毎回、大会から帰るときに、保護者さんが横断幕を作って待っていてくださるんです。“金賞おめでとう”って書かれた横断幕を見ながら帰るのが、本当に嬉しくて」
感謝の気持ちはつくろうとして生まれるものではない。彼女たちのうちから自然と湧き上がり、言葉になった。イベントで培った本番への強さと、仲間・先輩・家族への感謝。その両方が結びついて、全国金賞という最高の結果を引き寄せた。
――「緊張せず、ただ楽しく演奏できた。それが一番の力になった」
「ダブル金賞」への道 ― マーチングへの挑戦 ―
全日本吹奏楽コンクールで金賞を獲得したのは10月19日。そのわずか1か月後、11月23日には全日本マーチングコンテストが控えていた。短期間での切り替えは容易ではない。
「でも、時間がなさすぎて、すぐに変わらざるを得なかったんです(笑)」
吹奏楽とマーチングを同時に練習する日もあり、頭が“ぐちゃぐちゃ”になるほどだった。練習スケジュールは生徒自身が決めていた。
「結構、大変でした。Ⅱ年生のマーチングリーダーの世古さんといっしょに、話し合いながら吹奏楽とマーチングの練習のバランスを考えました」
試行錯誤の中で自分たちのやり方を見つけていった。
「動きと音を一体に」― マーチングでつかんだ金賞 ―
吹奏楽では「音を作り上げる」ことが中心になるが、マーチングでは音と動きの両方が求められる。
「見た目はやっぱり動きなので、一歩の出し方から角度までそろえることが大事になります」
各パートの小さなまとまり(スカード)をⅢ年生がリードし、全体はマーチングリーダーの世古さんが見ていた。九州大会までの反省を踏まえ、Ⅲ年生も一緒になって意見を出そうと、世古さんとⅢ年生との初めてのミーティングで、ようやく一つのチームとしてスタートできる手ごたえを感じた。
大きな分岐点となったのは、全国大会直前の遠征中だった。厳しい指導を受け、精華女子高校との合同練習では圧倒され、悔しさに泣きながら本音をぶつけ合った。
「ここまで本気でやってるのに、 なんでこんなうまくいかないのかって、泣きながら話して、そこからやっぱり、Ⅲ年生のまとまりとしては、今までで一番まとまったのかな」
翌日の練習では、Ⅲ年生もしっかりとチームを引っ張ろうと心に決め、チームの士気が上がっていった。
「気持ちだけで演技が変わるのかと思うかもしれませんが、本当に変わるんです」
と振り返る。
ただ、当日の演技を終えた時点では「不安が残った感じでした」という。吹奏楽のときよりも不安が大きかったのは、「ダブル金賞」という重圧があったからかもしれない。それでも、彼女たちには「音楽で勝負する」という強みがあった。吹奏楽とマーチングの両方を経験しているからこそ、音の美しさを追求できる。全国大会に向けては音楽の強弱やイメージを全身を使う振り付けで統一し、バラードの中間部では「動きよりも音楽で魅せる」と決めていた。 「審査員の心を音楽でつかむために、そこは絶対こだわろうと思っていました」
結果、マーチングに専念する学校や、吹奏楽と両立する学校など、全国の強豪校が集う中で、36校中14校に与えられた金賞を獲得。活水は吹奏楽とマーチングの両立という厳しい挑戦の末に、「ダブル金賞」という快挙を成し遂げた。
――「最後の一日がなければ、ダブル金賞はなかったかもしれない」
「全員で勝ち取った金賞」― 部長の声がつないだ団結 ―
一瀬さんと堤さんは口をそろえて「全員で勝ち取った金賞だった」と語る。
中学1年から高校Ⅲ年まで、誰もが意見を出し合える雰囲気があり、思いがけない視点を中学生が示すこともあった。自由に意見を言える環境が、演奏の厚みを生んだ。その中心にいたのが部長・大坪さんの存在だ。吹奏楽でもマーチングでも、積極的に声をかけ続けた。「目線を上げて」「笑顔で」――そんな短い言葉が、練習中に何度も響いた。ちょっとした声かけが部員たちを我に返らせ、士気を高めた。
「大坪さんが、本当にみんなのやる気を引き出してくれた。後輩もついていこうと思えたのは、彼女のおかげです」
技術だけではなく、全員の協力と部長のリーダーシップが結びついて生まれた金賞。
「Ⅲ年生だけでなく、中1から高Ⅲまで全員で協力してとれた金賞でした」
――その言葉には、学年を超えた絆と誇りが込められている。
そして、次なる舞台は定期演奏会。全国金賞の余韻を胸に、彼女たちはまた新しい挑戦へと歩みを進めている。
――「全員で作り上げる音楽」その精神は、次の舞台でも輝き続ける。
左:Ⅲ年吹奏楽部部長 大坪さん
右:Ⅱ年マーチングリーダー 世古さん
インタビューを終えて
全国大会で 「楽しめた」 って、どういうこと?!
アメリカのハーバード大学には、「幼児が遊ぶように学べ!」という言葉があります。幼児は、何かに役立つから遊ぶのではありません。ただ「楽しいから」夢中になります。その姿勢こそが、学びにおいて最も大切なことだという意味です。
ワクワクする気持ちは、人の力を最大限に引き出します。全国大会という大きな舞台では、強いプレッシャーがかかります。それでも、その状況を「楽しかった」と言えるのは、本当にすごいことだと思います。
一見すると意味がないように思えることでも、あなた自身がワクワクすることを大切にしてみてください。そして、その気持ちを大事にしながら続けてみることです。明確な目的なんてなくてもいい。ただ楽しむ。そのような日々の積み重ねが「自分らしさ」を引き出し、あなたが“あなたらしく輝くための扉”を開いてくれるかもしれません。
活水中学校・高等学校教諭 古田 雄介






