オレたちひょうきん族で一世風靡した懺悔の神様のブッチー武者は2014年~認知症に因む舞台「生きる」を全国各地で25回公演してきました。
この度同じ認知症に因む介護の問題を扱いますが、子供たち小学生中学生にも理解してもらうため新作の芝居「あ・い・で・すアンソニー」を公演することになりました。
「懺悔の神様」が、12年かけて認知症の舞台を続けてきた理由
はじめまして。ブッチー武者と申します。1952年、長野県東御市生まれ。
1983年から『オレたちひょうきん族』の「ひょうきん懺悔室」で「懺悔の神様」を務め、多くの方に顔を覚えていただきました。
現在は個人事務所BMCエンタープライズを率い、劇団ZANGEの代表として舞台のプロデュース・演出・出演を続けています。新宿では「女無BAR」というお店も営んでいます。
テレビで笑いを届けてきた私が、なぜ認知症と介護をテーマにした舞台を続けているのか。きっかけは、友人のお母さんが認知症になったことでした。
「ボケ」という言葉から、私はもっと穏やかなものを想像していました。けれど実際にお会いして、これは大変なことだと思い知らされました。
認知症になると時系列が消えていきます。子どもの頃の記憶はまるで今のことのように鮮やかなのに、目の前にいる大人になった我が子の顔がその記憶と結びつかず、「あなたは誰?」となってしまう。
とても不思議で、とても切ない世界でした。
その頃、私は2006年に京都で起きたある事件を知りました。
認知症のお母さんを介護していた息子さんが、徘徊の付き添いで仕事を失い、生活に行き詰まり、母と二人で命を絶とうとして、自分だけが生き残ってしまった。
裁判では弁護側も検察側も、傍聴席も涙し、裁判長は「お母さんのためにも幸せに生きてください」と語りかけたといいます。
私はこの裁判を風化させてはいけないと思いました。
そして2014年、俳優座劇場でこの事件をもとにした舞台『生きる』を初演し、以来12年、東京、埼玉、千葉、神奈川、長野、沖縄など全国で25回にわたって演じてきました。

大人だけでなく、今こそ子どもたちに届けたい
『生きる』は、どちらかといえば大人の世界を描いた作品でした。けれど公演を重ねるうちに、強く思うようになったのです。
これは大人だけの問題ではない。今、子どもたちにこそきちんと伝えなければいけない、と。
人間は誰でも年を重ね、最後にはこうなっていく。その現実を、まだ考え方が純粋な子どもたちに芝居として真正面からぶつけてみたい。それを受け取った子どもたちがどう感じ、どう判断し、将来どう生きていくのか。その種をまきたいのです。
そこで出会ったのが、認知症を30年にわたって診てきた専門医・小林博子さんの絵本『とかげのアンソニー』(星和書店)でした。
私はこの絵本を基に、人間が人間を演じる約1時間半の舞台に作り替えることにしました。
演出家や脚本家とは、絵本がいちばん大切にしているものを損なわず、子どもが感動し、大人が観ても「いい作品だ」と思える作品にしよう、と話し合いを重ねています。
それが舞台『あ・い・で・すアンソニー』です。
大人は「汚い部分は子どもに見せたくない」と考えがちです。でも、認知症になれば徘徊もあれば、きれいごとでは済まない場面もある。
子どもたちはそれもちゃんと知らなければならない。知った上で「みんなで助け合おう」という心をつくる。
この原点は、いじめの問題ともつながっています。
『あ・い・で・すアンソニー』が、子どもたちにとってその原点になればと願っています。
ヤングケアラーの子どもたちと、その隣にいる子どもたち
今、核家族が増え、おじいちゃんやおばあちゃんと暮らした経験のない子どもも少なくありません。
一方で、家族の中に認知症や障がいのある人がいて、子どもなりに親を助けようと頑張っている子どもたちがいます。いわゆるヤングケアラーです。
彼らは「これからおじいちゃんの面倒を見に行かなきゃ」とは、なかなか口に出せません。友だちとの付き合いが悪くなり、だんだん輪から外され、差別されていく。これがヤングケアラーが抱える大きな問題です。

この舞台は、当事者の子どもに「あなたは一人じゃない」と伝えると同時に、周りの子どもたちに「こういうことがあるんだよ。そんなときはみんなで助け合おうよ」と気づいてもらうための作品です。
そして舞台は、介護に悩む親子や家族、いつか親の介護に直面する大人たちのためのものでもあります。
「おじいちゃんはそういう病気なんだ」と知っているだけで、子どもが抱えなくて済む悲しみがあります。この舞台は、その追体験の場にもなるはずです。
子ども、先生、教育委員会、そして地域のみなさんへ
まず観ていただきたいのは、子どもたちと、その保護者や学校の先生方です。
私は教育委員会にも働きかけ、ぜひご覧いただきたいと思っています。
道徳という時間はなくなりましたが、本当のこと、倫理的なことを子どもたちに徹底して伝えていけば、この国はもっと豊かになる。
SNSの中で一人で遊ぶのではなく、人と人の心がつながる絆を、子どもたちに手渡したいのです。
そして、このテーマに少しでも興味を持ってくださった方に観ていただきたい。観た方が、まだ関心のない人たちへのインフルエンサーになって「人ごとじゃないんだよ」と地域で伝えてくださる。
専門家の数は限られ、専門家だけではもう支えきれません。
一般の人たちが、認知症や介護、障がいのある人たちをみんなで見守る世界ができれば、孤独死もきっと減っていく。この舞台はそのためのひとつのツールです。
なぜ舞台なのか。舞台はビジュアルと言葉が融合して、まっすぐ相手に届きます。そして芝居では、お客さんも役者と一緒なのです。
役者はお客さんの反応を受けてさらに力を発揮し、お互いの気持ちが通じ合う。モニター越しの一方通行では得られない、ライブだけのインパクトがあります。

舞台の詳細
舞台『あ・い・で・すアンソニー』
日時:2026年11月3日(火・祝)
会場:小田原三の丸ホール(神奈川県小田原市本町1-7-50)
原作:絵本『とかげのアンソニー』(小林博子・作/星和書店)
上演時間:約1時間30分(予定)
<あらすじ>
認知症のお母さんと二人で暮らすアンソニー。家族にも隣近所にも見放されたと感じ、たった一人で介護に追われる彼の前に、ある日、謎の魔法使いが現れます。差し出されたのは「7日後にすべてを終わらせる」毒薬。残された6日間、アンソニーは「世界一やさしい息子」になろうと決意しますが、母は自分を忘れ、泥棒呼ばわりし、心はすり減っていく。「ごめんなさい」と「ありがとう」をめぐる、家族の物語です。
当日は特別サポーターとして、元日本テレビアナウンサーの町亞聖さんによるヤングケアラーをテーマにしたミニ講演も予定しています。
キャストのご紹介
芳本美代子(主役・アンソニー)
1969年、山口県生まれ。1985年『白いバスケット・シューズ』でアイドル歌手としてデビュー、愛称は「ミッチョン」。1990年、ミュージカル『阿国』でゴールデン・アロー賞演劇新人賞を受賞し、以来ドラマ・舞台で活躍。2023年からは大阪芸術大学短期大学部の教授として後進の育成にもあたっています。純粋で清潔感のある人柄を、子どもたちにまっすぐぶつけてもらいたいと私が選んだ主役です。

磯村みどり(お母さん役)
1940年生まれ。1955年に映画『美しき母』でデビューし、小林千登勢さん、日野麻子さんとともに二代目「NHK三人娘」として一時代を築きました。『駅前旅館』『座頭市血煙り街道』など出演作多数。80歳を超えてなお現役の大御所女優が、認知症のお母さんを演じます。子どもたちがこの姿をどう受け止めるか、いちばん楽しみにしている場面です。

寿三美(アンソニーの妹役)
1979年、東京都生まれ。歌手・吉幾三さんの次女で、女優としてドラマ『坊ちゃん教授の事件簿』などに出演しています。
ブッチー武者(おじいちゃん役)
『生きる』では息子役でしたが、今回はおじいちゃん役。年齢を重ねた今だからこそ、リアルな芝居ができると思っています。

町亞聖(特別サポーター/ミニ講演)
1971年、埼玉県生まれ。元日本テレビアナウンサー。高校3年のときに母がくも膜下出血で倒れ、18歳から10年にわたり介護を担った、ヤングケアラーの当事者です。著書に『十八歳からの十年介護』。現在はフリーアナウンサーとして、各地でヤングケアラーや介護をテーマに講演を続けています。
最後に
いただいたご支援は、この舞台を学校や地域に届けるためのDVD制作費、プロジェクターや舞台装置などの制作費、キャスティング費用に大切に使わせていただきます。子どもから大人まで、みんなの心がつながる世界をつくるために。『あ・い・で・すアンソニー』を、どうか一緒に育ててください。






コメント
もっと見る