プロジェクト立ち上げの背景

「せめて、自分で家族に電話をかけられるようにしてほしい」
私たちのもとには、視覚に障害のある方や、そのご家族から、スマートフォンや電話についてさまざまなご相談が寄せられます。
その中でも多いのが、「電話」に関する切実な声です。

「一人暮らしの母が、自分から電話をかけられなくなりました」
視力が低下し、長年使ってきた携帯電話のボタンの位置も分からなくなってきた。電話が鳴っても、どこを押せばよいのか分からない。離れて暮らす家族が一番心配しているのは、何かあったときに本人から助けを求められないことです。
「視力を失った母に、もう一度自分で電話を使ってほしい」

病気の進行で視力を失い、それまで使えていたスマートフォンを一人では操作できなくなった。家族が望んでいるのは、たくさんの機能を使いこなすことではありません。
まずは「電話をかける」「電話に出る」。
それだけでも、自分の力でできるようになってほしいという願いです。
「誰からの電話か分からないまま出てしまう父が心配です」

画面に表示された相手の名前を見ることができず、営業電話や知らない番号にも応答してしまう。かといって、「電話に出ないように」と言えば、家族からの大切な連絡まで受けられなくなります。
誰からの電話なのかを「声」で知り、安心して電話に出られる方法が必要です。
VoiceOverやTalkBackの操作が難しい方にも、使える方法を。

私たちは、VoiceOverやTalkBackを高く評価しています。画面を見ることが難しい人に、情報を得ることや文字を入力すること、家族や社会とつながることを可能にしてきた、優れたアクセシビリティ機能です。
実際にこれらを使いこなし、仕事や日常生活に活用している視覚障害者も大勢おられます。そのための操作訓練や支援も、今後ますます重要になると考えています。
しかし、機能が優れていることと、すべての当事者が使いこなせることは、別の問題ではないでしょうか。
VoiceOverやTalkBackの操作には、多くのジェスチャーを覚え、次々に流れる合成音声を聞き分け、必要な項目が読み上げられた瞬間に操作する力が求められます。アプリごとに異なる画面構成や、突然表示される通知、広告、確認画面にも対応しなければなりません。
ご高齢のかたや中途失明のかたの中には、聴力の低下、音声情報を処理する負担、手指の動かしにくさ、記憶力や注意力の変化などを抱えているかたもいます。努力や訓練だけでは乗り越えることが難しい場合もあります。
そのようなかたに、同じ操作方法の練習だけを求め続けてよいのでしょうか。使いこなせないことを本人の努力不足とするのではなく、その人の特性に合った別の入口を用意することも、必要ではないかと私たちは考えました。
使いこなせるかたには、VoiceOverやTalkBackを。
複雑な操作が難しいかたには、指一本と音声で使える分かりやすい操作を。
それでも困ったときには、家族や支援者、人による遠隔援護につながる仕組みを。
コエンゴは、VoiceOverやTalkBackを置き換えるためのものではありません。それらを十分に使いこなすことが難しい方にも、スマートフォンを使い続けられるようにするためのアプリです。
展示会での様子
人がスマホに合わせるのではなく、スマホを人に合わせたい。
難しい操作を覚えてもらうことを前提にするのではなく、見えなくても、指一本と声で使えるスマートフォンをつくれないか。
それが、全盲の方のためのスマートフォンアプリ「コエンゴ」の出発点です。
画面を指でなぞれば、そこにある機能を声で知らせる。使いたいものが見つかれば、長押しする。家族や大切な人へ、自分から電話をかける。電話がかかってきたら、誰からなのかを声で知る。
私たちが目指しているのは、多機能なスマートフォンではありません。必要なときに、自分の力で人とつながることができるスマートフォンです。

このプロジェクトで実現したいこと
① まず、安心して電話できる
安心連絡先の画面
家族や友人など、よく電話する相手を最大20名まで登録します。画面を見なくても、音声を聞きながら相手を選び、簡単な操作で電話をかけられるようにします。
電話がかかってきたときも、相手の名前を音声で知らせ、簡単な操作で電話に出たり、切ったりできる仕組みを目指します。
② 現在時刻やスマホのバッテリー残量は、音声で確認できる
毎回、画面の中から表示されている箇所を探して音声で確認するのではなく、画面の上部を1本指で長押しするだけで、時刻・バッテリー残量がアナウンスされます。
③ 知りたいことは、AIに声で聞く
ジェミニの友の画面
「明日の天気は?」
「〇〇について教えて」
「この言葉はどういう意味?」
文字を入力したり、検索結果の画面を読み進めたりしなくても、AIに声で質問し、声で答えを聞ける環境を整えます。
スマートフォンを「操作する機械」から、話しかければ答えてくれる身近な道具へ変えていきたいと考えています。
④ スマートフォンのカメラを「目」の代わりに

今回、特に開発したい機能のひとつが、カメラとAIを使った支援です。
・届いた郵便物や書類を読んでもらう
・周囲の状況を説明してもらう
といったことを、スマートフォンのカメラを使って確認できるようにします。
カメラを向けて、声で尋ねる。そして、声で答えが返ってくる。スマートフォンのカメラを、「見るためのカメラ」から「知るためのカメラ」へ。
視覚障害のある方の日常生活を支える、新しい「目」として活用したいと考えています。
⑤ AIで分からないときは、人につながる

AIは急速に進化しています。しかし、すべてのことを正確に判断できるわけではありません。
たとえば、
「この書類のどこに名前を書けばいいのか」「この薬の袋には何と書いてあるのか」
「目の前の状況を、もっと詳しく確認したい」
そんな、人の判断や確実な確認が必要な場面があります。
AIだけですべてを解決しようとは考えていません。当協会がこれまで取り組んできた「遠隔援護」と組み合わせます。遠隔援護では、離れた場所にいる支援者がスマートフォンのカメラ映像を確認し、利用者に必要な情報を音声で伝えます。
AIでできることはAIに。AIでは難しいことは、人に。AIと人、それぞれの得意なことを組み合わせることで、より安心して使えるスマートフォンを実現します。
プロジェクトリーダー紹介
代表理事 谷水 明広
今回のプロジェクトを率いるのは、一般社団法人日本視覚障害者遠隔援護協会 代表理事の谷水明広です。
谷水は1980年に三菱電機株式会社へ入社し、テレビ・映像機器を中心に、設計開発、製品企画、新規事業開発に長年携わってきました。
デジタルテレビの高機能化に伴い、視覚障害のある方にとって操作が難しくなっている現状を知ったことをきっかけに、アクセシビリティ向上に取り組み、「しゃべるテレビ」の開発を推進。視覚障害当事者に試作機を使ってもらい、その声を製品に反映する「利用者参加型のものづくり」を実践しました。
その活動は炊飯器やIHクッキングヒーターなどにも広がり、三菱電機のユニバーサルデザイン「らく楽アシスト」の普及にも尽力。メーカーの枠を越えた音声読み上げテレビの普及活動は、IAUDアウォード2013 事業戦略部門 金賞を受賞しました。
2019年の退職後も、代表理事として活動を続けています。
谷水が一貫して大切にしてきたのは、技術をつくるだけでなく、必要とする人の声を聞き、本当に使える形で届けること。この想いが、今回のプロジェクトの原点です。
現在の準備状況
【現在の準備状況】
現在、コエンゴのプロトタイプを作成し、2026年8月21日・22日に開催された日本ライトハウス展に参考出品しました。会場では、実際の当事者の方々に触れていただき、多くのご意見をいただきました。
その中で、新たな改善点や操作上の配慮不足、これまで気づかなかったアイデアなど、今後の開発に生かすべき課題が具体的に見えてきました。一方で、「見なくても使えるスマートフォン環境をつくる」というコエンゴのコンセプト自体には高い評価をいただきました。
現在は、こうした当事者の声を反映しながら仕様を見直し、実用化に向けてアプリ開発を本格化させるために下記の体制で準備を進めています。
プロジェクト主体:一般社団法人日本視覚障害者遠隔援護協会
端末・サービス提供:株式会社リモートアシスト
アプリ開発:株式会社ArchAnalyze

リターンについて
今回のクラウドファンディングでは、物をお返しするだけでなく、「コエンゴが生まれ成長していく過程を一緒に見守り、時にはご意見をいただくこと」を大切にしたいと考えています。
ご支援いただいた方には、
開発の進捗をお伝えする活動報告
実際にコエンゴが動く様子をご覧いただくオンライン体験会
などを予定しています。
コエンゴ搭載端末の提供を含む62,800円コースおよび100,000円コースについては、株式会社リモートアシストが提供するエルビーフォンに、コエンゴアプリをキッティングした状態でお届けいたします。この端末は、視覚障害のあるご家族や知人などに譲渡いただくことが可能ですが、実際のご利用には月額利用料3,980円が必要となります。
金額の大小にかかわらず、このプロジェクトに参加していただくことそのものが、私たちにとって大きな力になります。
スケジュール
2026年9月下旬 クラウドファンディング開始
株式会社ArchAnalyzeへ開発発注
2026年11月20日 クラウドファンディング終了予定
2026年11月中旬 第一次開発完了・視覚障害当事者による検証開始
2027年2月 視覚障害当事者による検証結果に基づく修正完了
2027年4月 日常生活用具候補品として申請開始
最後に

私たちはこれまで、遠隔援護を通じて、「人の目」で視覚障害者の暮らしを支えてきました。これからは、そこにスマートフォンとAIの力を加えます。
テクノロジーでできることは、テクノロジーで。人にしかできないことは、人の力で。
新しい技術が次々と生まれる時代だからこそ、その便利さから取り残される人をつくりたくありません。
「今の操作方法が合わないから、スマートフォンを諦める」のではなく、「見えなくても、スマートフォンで人や社会とつながっていける。」
「そんなスマートフォンを、一人でも多くの方に届けたい。」
そして、その第一歩を「電話ができる」という、ごく当たり前の安心から始めたいと思っています。この開発には、皆さまの力が必要です。
見えなくても、安心して使えるスマートフォンを。
コエンゴを本当に使える形にするため、皆さまのご支援をお願いいたします。





