高校時代の仲間や大学で出会った新たな仲間と新しいエンターテインメントを生み出したい!”劇”ではなく”激”をする集団、あの手この手であなたを楽しませます。

プロジェクト本文

・はじめに

 はじめまして、「アナグマの脱却座」マネージャーの山岸遼です。この度、小山栄華を中心とする劇団「アナグマの脱却座」を旗揚げすることとなりました。

 

 主宰の小山は高校時代、とある大会で最優秀個人演技賞を受賞するほどの演技力の持ち主でマネージャーである僕も高校時代は一緒に舞台に立ちました。今回、彼が劇団を立ち上げるとのことで興味を持ち、協力した次第です。

 この劇団には他にも、近畿高等学校演劇協会の優秀創作脚本賞選考会にて、17作品の中から一番である近畿最優秀作品賞を受賞した、田宮優月が在籍しており、今回の脚本も彼女が担当しております。

 最後に今回の脚本と最優秀作品賞の脚本を開示しているので見てみて下さい。

 (写真:右が小山で、左が山岸です。)

・公演概要


日時……2019 1/5(土) 1/6(日)

場所……イカロスの森(兵庫県神戸市灘区岸地道1-8-10

演目……「の箱舟」(脚本:田宮優月)










・資金の使用用途

稽古場・公演場所等費用・・・約12万

保険費用・・・約5万

大道具・小道具・・・約2万

広報等費用・・・約3万

諸経費・・・約8万

合計:約30万

集まった資金は上記の費用に使わせていただきます。



・リターンについて

学生コース

500円:パンフレットに名前を載せる

1000円:お礼メール・パンフレットに名前を載せる

※学生のみのコースとなります。ご了承ください。

チケットなしコース

3000円:感謝状・パンフレットに名前を載せる

10000円:台本(製本された)・感謝状・パンフレットに名前を載せる

30000円:DVD(旗揚げ公演のもの)・台本(製本された)・感謝状・パンフレットに名前を載せる

チケットありコース

5000円:チケット・感謝状・パンフレットに名前を載せる

10000円:チケット・台本(製本された)・感謝状・パンフレットに名前を載せる

30000円:チケット・DVD(旗揚げ公演のもの)・台本(製本された)・感謝状・パンフレットに名前を載せる

50000円:チケット・劇団Tシャツ・DVD(旗揚げ公演のもの)・台本(製本された)・感謝状・パンフレットに名前を載せる

※TシャツのサイズはSMLがございます。支援の際に、ご希望のサイズを備考欄にご記入ください。

※チケットの在庫数は合計200枚になります。
 

・おわりに(主宰:小山栄華より)

 今回、劇団を立ち上げようと思ったのは、真剣に演劇というモノに取り組んでいる若者たちと共に成長していきたいということが主なところです。また、大学生になり、以前よりも多くの人と繋がることができたので、その関係を生かして『固定概念』に囚われない、僕たちだからこそ作り上げることのできる『劇』ではなく『激』を、あなたに楽しんでもらいたいと思っています。それには皆さんの協力が必要です。集まった資金は公演の運営費用に使わせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

 

旗揚げ公演作品「の箱舟」作:田宮優月

 

骨董品のように存在する烏丸、大上、猫田、白鷺、ビー、レオ、巳好。

しばらくして、舞台の上に夜鷹がやってくる。

 

夜鷹 本日はアナグマの脱却座、第一回公演「の箱舟」にお越しいただき、誠にありがとうございます。開演に先立ちまして、皆様にお願いがございます。

ケータイ電話、スマートフォン、その他音のなる電子機器は電源からお切りください。マナーモードにされていても、バイブレーションの振動音が他のお客様にご迷惑となりますので、電源からお切り頂くよう、ご協力よろしく御願いいたします。

公演時間は六〇分を予定しております。その間、休憩はございません。もし気分や体調の優れない方がいらっしゃいましたら、その都度、お近くの係員までお知らせください。

 

十七時を告げる鐘が鳴る。

 

夜鷹 あ、雨。

 

鐘が鳴り終わる。

 

大上 この中に一人、裏切り者がいる。

烏丸 ……は?

大上 いや、イエス・キリストって案外かっこいいこと言うなぁ。俺、見くびってたわ。

烏丸 どうしたんだよ、急に。

大上 世界史の雑談でそういう話になったからさ。

烏丸 あぁ……

大上 なぁ烏丸、イエス・キリストはどこで十字架に架けられたか知ってるか? 知らねぇだろ。

大上・烏丸 ゴルゴダの丘。

大上 ん?

烏丸 ゴルゴダの丘。

大上 な、なんで知ってんだお前。

烏丸 一般教養の範囲でしょ。

大上 一般的じゃねぇよ!

烏丸 俺の中では一般的なの。

大上 お前はなんだかんだで頭いいから嫌いだ!

烏丸 褒めてくれてありがとう。

大上 褒めてねーし!

烏丸 あ、そ。

大上 けっ、冷たいの。もっと相手してくれても良いじゃんかよ。なぁ?(夜鷹に)

夜鷹 そうだね。

大上 ほらー、冷たいって言われてるぞー、烏丸ー。

烏丸 こいつ、うざいって思うよな。(夜鷹に)

夜鷹 うーん、少し?

烏丸 ほらー、うざいって思われてるぞー、大上ぃ。

巳好 仲良しね。

大上 いやぁ、それほどでもぉ。

烏丸 デレデレすんな。

大上 イライラすんなって。

大上 やー、でもさ。俺、絶対イエスみたいなことできねぇわ。

烏丸 はぁ?

大上 だって、自分のこと裏切ってるやつが一人いるってわかってるのに冷静に飯食うんだぜ? すごくね?

巳好 ユダのこと?

大上 そうそう、裏切り者のユダ。

烏丸 金の代わりにイエスのこと売ったんだろ。

大上 酷い話だよなぁ。

烏丸 関心するのが、冷静に飯食ったってところなのが、大上らしいけど。

大上 いやだってそーじゃん! 俺なら絶対に裏切り者のことその場で名指しして晒し者にしてみんなでフルボッコだぜ? 飯なんて食ってられねえって。

烏丸 お前みたいなのが神の子じゃなくてよかったよ。

大上 俺が神の子だったらそもそもキリスト教とかできてねぇな。

烏丸 その自覚はあるんだな。

大上 俺も白鷺みたいな人格者だったら神の子になれたかもなぁ。

烏丸 ねえよ。

大上 でも案外俺、第二のメシアになれるんじゃねぇか……?

烏丸 ……

巳好 ……

夜鷹 ……

大上 いやあ、そんなに見つめられたら照れるなぁ、はっはっは。

烏丸 お前の心臓は剛毛なんだな。

大上 お?

巳好 褒めてるのよ。

大上 おぉー!

巳好 バカね。

烏丸 バカだな。

夜鷹 バカだね。

大上 あ、烏丸だったらどう?

烏丸 何が。

大上 もしさ、自分の弟子の中に裏切り者がいたとして、それを黙って許せる?

烏丸 無理。

大上 ほらぁ、やっぱりそうじゃん。人間なんてそんなもんだって。

烏丸 だって俺人間だもん。

大上 まぁ、そうか。

烏丸 みんなそうだと思うよ。よほどの人格者かホラ吹きでも無い限りおんなじ答えだって。ね。(夜鷹に)

夜鷹 うん。

大上 お前も無理?

夜鷹 うん。

烏丸 ほら。巳好は?

巳好 許せないかな。

烏丸 ほら。ここにいる人間はみんな人格者でもなんでも無いから無理だってさ。

大上 ま、俺が無理なことをそうそう簡単に人間ができるわけもねぇか!

 

間。

 

烏丸 うん。お前はそのまま大きくなって社会に出れば良いと思うよ。

巳好 いつか痛い目を見ると思うけど。

烏丸 いや、意外とこういうタイプが根強く生き残るんだよ。

巳好 あぁ……

大上 いやあ、それにしても白鷺とか遅いな。

烏丸 ほらね?

大上 今日ってなんか学校である日だっけ。

烏丸 なんかって?

大上 生徒会のなんか。

烏丸 さあ。

大上 なんだっけ。生徒総会?

烏丸 それは年に一回あるやつ。

大上 え、まじ?

烏丸 まじ。

大上 どんなの?

巳好 体育館に全校生徒集められて、各部活のお金の話をする会。

烏丸 そして部活に入ってない俺らにはなんの関係もない会。

大上 へー。

大上 じゃあ普通に生徒会の会議?

烏丸 とかじゃないの。

大上 へぇ。なんの話するんだろうな。

烏丸 さあ?

夜鷹 今朝の騒ぎのこと、とか。

烏丸 あぁ。

大上 ああいうことも生徒会が話し合うことなのか?

烏丸 普通の学校がどうかは知らないけど、うちはな。

大上 生徒会が絶対的権力だからか。

烏丸 白鷺が生徒会に入ってから、らしいけどね。

巳好 へぇ。

烏丸 俺たちが入学するまでは、そもそも生徒会が表に出て喋る機会すらなかったらしいよ。聞いた話だけど。

大上 へー。じゃあやっぱり白鷺ってすげぇえんだな。

烏丸 ま、その分反感も沢山買ってるけどね。

大上 でも信者もいるじゃん。

烏丸 そうだね。信者が圧倒的多数だけど、少なからずアンチもいる。

巳好 でも、アンチは人気者の証拠、でしょ?

烏丸 そうそう。

大上 じゃあやっぱり白鷺ってすげぇえんじゃん!

二人 ……

大上 え、俺なんか間違ってる?

巳好 ううん。

烏丸 何も間違ってないよ。

大上 じゃあなんだよ!

烏丸 お前は純粋だなぁ。

巳好 そのまま大きくなるのよ。

大上 は?

 

間。

 

大上 で、結局白鷺は?

烏丸 多分今日は会議。

巳好 まあ、今日夕食当番だからそんなに遅くならないと思うけど。

大上 そっか。

烏丸 何か用事でも?

大上 白鷺だったらどうするのかなって聞きたかっただけ。

 

大上、部屋から出て行く。

 

 

巳好 大上が聖書に興味持つって、なんか意外ね。

烏丸 授業ちゃんと聞いてたことが意外だよ。

巳好 まぁ。

烏丸 部屋、戻る?(夜鷹に)

夜鷹 ううん。僕はここにいるよ。

烏丸 そうか。

烏丸 巳好、どうする?

巳好 まだ五時過ぎでしょ?

烏丸 うん。

巳好 一回部屋戻る。

烏丸 そうか。

烏丸 じゃあ。(夜鷹に)

巳好 また夕食で。

 

烏丸、巳好、部屋から出て行く。

 

夜鷹 うん。

 

夜鷹、聖書を数ページめくる。

紙の擦れる音が、部屋のなかでやけに耳に触る。

 

夜鷹 洪水になる前は、ノアが箱舟に入るその日まで、人々は食べたり飲んだり、めとったり嫁いだりしていた。そして、洪水が襲ってきて一人残らずさらうまで、何も気が付かなかった。

白鷺 マタイによる福音書、第二十四章。

夜鷹 覚えてるの。すごいね。

白鷺 わたしは始めである、終わりである、わたしをおいて神はない。

白鷺 だれか、わたしに並ぶ者がいるなら、声をあげ、発言し、わたしと競ってみよ。わたしがとこしえの民としるしを定めた日から、来るべきことにいたるまでを告げてみよ。

白鷺 恐るな、おびえるな。すでにわたしはあなたに聞かせ、告げてきたではないか。わたしをおいて神があろうか、岩があろうか。私はそれを知らない。

夜鷹 ……

白鷺 イザヤ書、第四十四章、六節から八節。僕の好きな聖書の箇所だよ。ただいま。

夜鷹 おかえり、白鷺くん。

白鷺 他のみんなは?

夜鷹 大上くんと烏丸くんと巳好は上だよ。

白鷺 そっか。

夜鷹 生徒会?

白鷺 そう。緊急会議。

夜鷹 大変だね。

白鷺 そんなことないさ。みんながきちんと意見を言ってくれるから予定よりも早く終わったし。

夜鷹 猫田さん?

白鷺 と、レオ。

夜鷹 うん。

白鷺 もう少ししたら二人も帰って来ると思うけど。

 

沈黙。

 

白鷺 キリスト教、好き?

夜鷹 ?

白鷺 いつもそれ、読んでるだろ。

夜鷹 あぁ。

白鷺 好き?

夜鷹 ……面白いと、思う、

白鷺 価値観が?

夜鷹 世界観が。

白鷺 はは。一応、この現実と同じ世界なんだけどな。

夜鷹 僕たちは水の上を歩けないし、石をパンに変えられないよ。

白鷺 それはそうだ。

白鷺 僕は好きなんだ。

夜鷹 キリスト教?

白鷺 そう。

白鷺 進むべき道や、人間としてどうあるべきかがわかる。イエスや、聖書の人物が起こした奇跡は信じられないものが多いけど、それでも彼らは、当時の人たちにとったら英雄だったんだ。

夜鷹 白鷺くんは、クリスチャンなの?

白鷺 どうだろう。洗礼は受けてないし、独学でしか学んだことはないけど。

白鷺 僕はイエス・キリストのように生きたい。

夜鷹 ……

白鷺 なんてね。

白鷺 聖書は読み物として面白いと思うよ。

夜鷹 あ。

白鷺 うん?

夜鷹 最後の晩餐。

白鷺 が、どうしたの?

夜鷹 大上くんが、白鷺くん程の人格者なら、イエスみたいにその場で裏切り者を責めないかもって、言ってたけど。

白鷺 どんなイメージなんだよ、僕。

夜鷹 さあ。

白鷺 どうだろうね。

夜鷹 白鷺くんでも、無理?

白鷺 いいや、そうじゃなくて。

白鷺 今の僕が……イエスがそうしたっていうことを知っている僕がその立場になったら、きっと理性を保てるんだと思う。けど、何も知らない僕がその立場になったら、

夜鷹 怒り狂う?

白鷺 かは、わからないけど。冷静ではいられないだろうね。

夜鷹 そっか。

白鷺 そうだよ。

白鷺 僕も一応、普通の人間だからね。

夜鷹 普通の人間。

猫田 何言ってるのよ。白鷺くんは人間なんて汚らわしい存在じゃないんだから!

レオ そうだそうだ!

白鷺 おかえり、猫田。

猫田 ただいま、ダーリン。

白鷺 僕の名前は白鷺だ。

猫田 もう、釣れないんだからぁ。

白鷺 おかえり、レオ。

レオ おう! ただいま!

夜鷹 おかえりなさい。

猫田 なんで先に帰っちゃうのよ、待っててって言ったじゃん。

白鷺 ごめんごめん。傘持って行ってなかったからさ。雨が強くなる前に帰ろうと思って。

猫田 もう、言ってくれたら入れてあげたのにぃ。

白鷺 それは悪いよ。

レオ 猫田ちゃん、俺のことは入れてくれないんだぜ?

白鷺 それは日頃の行いじゃないかな?

レオ は? 俺めっちゃ紳士だし!

猫田 あんたのそういう押し付けがましいところが嫌なのよ。

白鷺 ほら。

レオ えぇ、そんなこと言わないでくれよハニー。

猫田 気持ちるいし、私はあんたのハニーじゃない。

白鷺 僕も君のダーリンじゃないんだけどなぁ。

猫田 え、なんて?

白鷺 ううんなぁんにも。

レオ あーあ。俺が白鷺だったら女の子といっぱい遊ぶのになあ。

猫田 その考えがある時点で無理よ。

レオ だって、この名門私立高校の生徒会長様だぜ? 頭が良い上に話も上手! さらにこの美形! 天は俺に三物を与えた!

猫田 あんたには与えられてないわよ。

レオ 俺にも与えて欲しかった。

猫田 神様は不平等なのよ。

レオ 全くだ。

猫田 え、でも白鷺くんは神様なのに不平等じゃない。

レオ おっとぉ。

猫田 ってことは、もしかして、白鷺くんこそ本当の神様なんじゃないかしら……

レオ 猫田ちゃん、ここ、大丈夫?(頭を指差しながら)

白鷺 あはは。ねぇ?(夜鷹に)

夜鷹 えぇ、僕?

猫田 で。私がいない間に何を楽しそうに話してたの?

白鷺 普通の雑談だよ。ね?

夜鷹 ……うん。

猫田 ふうん。

レオ あ、白鷺。今朝のあの鳩の死体だけどさ、やっぱ誰も見てないって、犯人。

白鷺 あぁ。

猫田 ほんと、趣味悪いわよね、あれ。

レオ わざわざ人が見えるところに捨てなくてもなぁ。

夜鷹 それが、目的なんじゃないかな。

白鷺 なるほど。

レオ それって?

夜鷹 人の目に死体をさらすこと。

レオ なんでわざわざそんなことする必要があるんだ?

白鷺 レオは殺人犯の気持ちがわかる?

レオ え、いや、わかんねぇ、けど。

白鷺 それと一緒だよ。

レオ ……あ?

猫田 「なんで」あんな鳩の死体を校門の目の前に置いたかなんて、私たちにはわからなくて当然でしょ。

白鷺 だって僕たちは正常な人間だからね。

猫田 そんなサイコパスの言動の理由なんて、私たちの想像力じゃ補えないの。

レオ  じゃあ、俺たち何もできないじゃん。

猫田 そうよ。犯人を探し出しても、それでどうこうできる訳じゃない。

白鷺 探したところで、そこからは大人の仕事になるわけだから。

レオ  ……じゃあ、今日の会議の意味って、

猫田 あるに決まってるでしょう? 生徒への呼びかけとか、注意喚起の仕方は重要なんだから。

白鷺 そういうのは大人よりも、同じ目線の僕たちがやった方が効果があるからね。

猫田 全く。もうちょっと考えてから言葉を喋りなさいよ。

レオ  お前らって、頭良いんだな。

猫田 何を今更。

レオ やっぱり生徒会入ってよかったぁ。

猫田 気持ち悪。

夜鷹 でも、殺されたのが鳩っていうところがまた不気味だね。

猫田 そうね。

レオ なんで?

猫田 鳩は平和の象徴って言うでしょ?

レオ ああ。

白鷺 それに、聖書の中でも鳩は結構重要な動物だからね。

レオ そうなのか?

白鷺 あぁ。ノアの箱舟って知ってる?

レオ あの、洪水になって船の中に人間も動物もぜーんぶ放り込まれるやつだろ。

猫田 随分とざっくりね。

白鷺 ざっくりでも知ってるだけ優秀だよ。

レオ ヘヘっ、褒められた。

猫田 バカにされてるのよ。

レオ え?

白鷺 その、洪水の終わりを示すのも鳩だからね。

レオ へー。

猫田 オリーブを咥えて帰って来るのよね。

白鷺 よく知ってるね。

レオ これもバカにしてるのか?

猫田 これは褒めてるのよ。

レオ わっかんねー!

白鷺 あ、レオ。そろそろ着替えてこいよ。いつまでもそのままだとさすがに風邪引くぞ。

レオ  大丈夫! バカは風邪ひかないから!

白鷺 猫田に風邪がうつるかもな。

レオ おっけー着替えて来る!

 

レオ、部屋から出て行く。

 

白鷺 ちゃんとタオルで体ふけよー。

白鷺 聞いてるのかなぁ、あいつ。

猫田 どうだろう。

白鷺 結構、気にしてそうだけど。

猫田 何を?

白鷺 鳩のこと。

猫田 それは私たちもでしょ。

白鷺 まあ、そうなんんだけど。俺たちの気にしてるとは、ちょっと違うんだよな。

猫田 動物の本能?

白鷺 まあ、そんな感じ。

猫田 心配?

白鷺 レオが?

猫田 うん。

白鷺 まあね。

白鷺 もっとみんなのこと、大事にしないとって思うよ。

猫田 そっか。

猫田 ねぇ。

白鷺 なに?

猫田 意見箱、取り外す?

白鷺 どうしたの、急に。

猫田 だって、あんなこと書いた紙入れられたらさ。気にするでしょ?

白鷺 当たり前だろ。

猫田 だったら、外しちゃおうよ。

白鷺 嫌だ。

猫田 ……

白鷺 俺はあの学校で羨望を集める人間じゃないと駄目なんだ。皆から憧れられる存在じゃないとだめなんだ。

猫田 ねぇ、そんなに気負わなくてもさ。あんなこと思ってるの、ごく一部の人だろうし。白鷺くんが上から目線だとか。そんなの、生徒会長なんだから当たり前だし。神様みたいに気取ってるとか、

白鷺 ごく一部の人が大半の人になるのは明日かもしれない。

白鷺 もし俺が何か人の信用を失うようなことをしていたと噂になれば、一瞬でそれは広まるんだ。そんな悠長にしていられないよ。

猫田 そうだけど。

白鷺 俺は、みんなに慕われるべき人間なんだから。

白鷺 そうじゃない人間がいるなんて、おかしいんだよ。だから、そうじゃなくす為に俺は今まで以上に完璧になるんだ。

猫田 ……そっか。

大上 お、白鷺じゃん。おかえり。

白鷺 ……

猫田 ……

大上 おおー、猫田もおかえり。どうしたー、二人とも暗い顔して。なんかあった?

白鷺 なんでもないよ。

大上 そっかあ。

 

沈黙。

 

大上 なあ、やっぱりなんかあったのか?(夜鷹に)

夜鷹 少し。

大上 ったく痴話喧嘩かよ。

夜鷹 そういうのじゃないと思うけど。

大上 え?

白鷺 そう言えば大上。

大上 お?

白鷺 キリスト教に興味があるんだって?

大上 おー! 興味があるっていうか今日授業で話きいてさぁ!

白鷺 良かったら僕の部屋にキリスト教についての文献がいくつかあるから、読んでみない?

大上 お? まぁよくわかんねぇけど良いや。白鷺の部屋、なんだかんだ入ったこと無かったし。めっちゃ本とかありそうだよな。

白鷺 そんな、普通の部屋だよ。

 

白鷺、部屋から出て行く。

 

大上 よっしゃー張り切ってエロ本さーがそっと。

 

大上、部屋から出て行く。

 

猫田 心配くらい、させてくれても良いのに。

夜鷹 ……

猫田 そう思わない?

夜鷹 僕にはわからないよ。

猫田 私、そんなに頼りないかな。

猫田 でも、みんながいなくなると私にきつく当たったりするし。なんでなんだろう。

夜鷹 信頼、されてるんじゃないの?

夜鷹 猫田さんのこと、信頼してるから、そうやってきつく当たっちゃううんじゃないかな、白鷺くんは。

猫田 ……あんたは人を慰めるのが上手ね。女にモテるわよ。

夜鷹 ……

猫田 この無言に耐えられる人間じゃないと無理か。

 

しばらくの間。

 

猫田 ねぇ、あんたは白鷺くんのことどう思う?

夜鷹 イエス様、みたいな人。

猫田 イエス様。

夜鷹 そう、イエス様。

猫田 やっぱり、そうよね。

夜鷹 ……

猫田 白鷺くんは世界一かっこよくて優しくて、私たちの王子様みたいな人なのよね。今はちょっとナイーブになってるだけ。うん。私がしっかり支えてあげないと。

ビー イエス様、ねぇ。

夜鷹 あ、ビーくん。おかえり。

ビー そこで神様、って言わないお前はやっぱ嫌いじゃねぇよ。

ビー あれ、猫田じゃん。大好きな白鷺くんの隣にいなくていいのかぁ?

猫田 ……

ビー あー、あれか。痴話喧嘩でもしたのか。ったくよぉ、生徒会長と副会長がナァニやってんだろーなって話だよ。なぁ?(夜鷹に)

夜鷹 ……

ビー あれ、お前何読んでんの? それ。

夜鷹 聖書。

ビー へー。お前ってそんな宗教とかにハマるタイプだっけ?

夜鷹 読み物として読んでるだけだよ。

ビー 何だそれ。変なの。

夜鷹 面白いよ。読む?

ビー いいや。遠慮しとく。

夜鷹 そっか。

ビー で? 結局朝の鳩殺しの犯人はわかったんですか? 生徒会副会長さん。

猫田 あんたに答える義務はない。

ビー そうかい。ま、そもそも俺らの学校の前に置かれてたのだって、たまたまかもしれねぇしな。たまたま殺した場所があそこだっただけかもしれない。

猫田 たまたまであんな綺麗な置き方になるわけないでしょう?

ビー 綺麗?

猫田 え?

ビー へぇ、猫田はあの鳩の死体見て、綺麗だって思ったんだぁ。

猫田 そういうことじゃないわよ。私は置き方の規則性の話をしてるの。人の揚げ足を取らないで。

ビー 俺は綺麗だと思ったんだけどなぁ、あの死体。解剖する時みたいに、綺麗に皮膚が割かれててさあ。抵抗とか、しなかったのかな。先に麻酔を打ってから殺したとか? だとしたら、殺した人は相当な芸術家気質なのかもしれないよな。

猫田 それを私に言ってどうしたいわけ?

ビー あ、ごめんごめん。俺、独り言が大きくって。気にしないで。

猫田 ……帰る。

ビー 帰るってどこに。お前のお家はここだぜ?

猫田 部屋に戻るの。

レオ おい何してんだよ。

ビー ああ、久しぶり、レオ。

レオ 猫田ちゃんになんかしたのか?

ビー いいや何にも。

レオ ……

ビー そんな獲物を見るみたいな目で見るなって。

レオ 猫田ちゃん、何もされてない?

猫田 ……

レオ 部屋に戻ろう。

猫田 ……

レオ お前、マジで次猫田ちゃんと二人で居たら殺す。

 

猫田、レオ、部屋から出て行く。

 

ビー おっかないねぇ。

夜鷹 そうだね。

ビー そもそも二人じゃないのに。

夜鷹 うん。

ビー てかお前、いつ見てもここにいるよな。部屋、戻らねぇの?

夜鷹 僕はここが落ち着くから。

ビー へぇ。変なの。一人になりたいとか思わないわけ?

夜鷹 ここに誰も居ない時もあるよ。

ビー あー。

 

ビー、しばらく考える。

 

ビー 俺にはよくわかんねぇや。

夜鷹 僕にもビー君のことはよくわからないよ。

ビー でも俺、お前のことは嫌いじゃねぇぜ。

夜鷹 僕もだよ。

ビー お前は納豆みたいだな。

夜鷹 貶してる?

ビー 褒めてるんだよ。

夜鷹 えぇ……

ビー ま、普段はこうやって話してたら邪魔がはいるから、

白鷺 帰ってきてたんだね、ビー。

ビー ほらな?

白鷺 おかえり。雨、結構降ってたけど。

ビー あいにく俺には、傘を貸してくれる可愛い女の子の一人や二人いるんでね。

白鷺 そっか。

ビー おう。

白鷺 君は、何も知らないよね?

ビー なんのこと?

白鷺 今朝の鳩のこと。

ビー 知らねぇよ。ってか、逆に俺が聞きたいんだけど。なんで俺、そんなに疑われてんの?

白鷺 それは日頃の行いじゃないかな。実際に君がやってなくても、君なら実行した人を知ってるかもしれない。

ビー 残念ながら知らないよ。

白鷺 そうか。

ビー そもそも、やった奴がうちの生徒とは限らないんだろ?

白鷺 寧ろそうじゃないことを僕たちは願ってるんだけどね。

ビー 名門高校の名前に泥が付いちまうもんな。

白鷺 うちの生徒の中にあんなことをする奴はいない、って言い切れれば良いんだけどね。君みたいな生徒もうちにはいるから。

ビー へぇ。生徒会長様はそうやって人を差別するんだ。

白鷺 差別じゃない、区別だ。

ビー 物は言いようだな。

白鷺 世の中そんなものだよ。頭がいい人が生き残るんだ。

ビー バカな奴はどうなるんだ?

白鷺 頭のいい人の手駒になって、そのうち捨てられるんだよ。

ビー おっかないね。

白鷺 本当に何も知らないんだな?

ビー 知らねえよ。

白鷺 意見箱に心当たりは?

ビー はあ?

白鷺 ……そうか。無いなら良いんだ。きついことを言ってしまって悪かった。

ビー はぁ。

白鷺 本当に何も知らないなら良いんだ。

ビー いや、意見箱? のことはまじで何のことかさっぱりなんだけど。

白鷺 だったら良いんだ。

ビー ……

白鷺 猫田とレオは?(夜鷹に)

夜鷹 上に行ったよ。

白鷺 そうか。

白鷺 じゃあ、僕は夕食の準備をして来るから。

夜鷹 ありがとう。

白鷺 今日は僕の当番だからね。まあ、朝届いてたものを温めたり焼いたりするだけだけど。

白鷺 ビー。

ビー なんだよ。

白鷺 疑ったりして悪かったな。

ビー それは良いけどさぁ、生徒会長さん。

ビー そうやってなんでもかんでも自分の思い通りになるって思ってると、痛い目あうぜ?

白鷺 君に指図される筋合いは無いよ。

ビー 俺が珍しくお前に助言してるんだ。聞いて損はないと思うぞ。

白鷺 お前に俺の何がわかるんだよ。

ビー 何もわからないよ。

ビー 何もわからないから、俺は俺の価値観でお前を評価してるだけだ。

白鷺 随分と上から目線だな。

ビー 自分に自信しか持ってないような人間が、動物殺したり、わざわざ意見箱にお前の悪口書いた紙いれたりする人間のことが理解できるか?

白鷺 意見箱のことは何も知らないんじゃないのか?

ビー 何も知らないよ。

白鷺 じゃあなんでそのことを

ビー ただのカンだって。お前が俺のせいにしそうなことを根拠もなく言ってみただけ。

白鷺 やっぱり俺はお前が嫌いだよ。

ビー 俺だってお前が嫌いだ。

白鷺 何もしないでいつも遊んでるだけのくせに、自分は何でも知ってますって顔して飄々と生きて。暇つぶしの一環で俺みたいな優秀な人間のことをからかうんだろ。

ビー あぁそうだよ。俺は何もしないし何もしようとしてない。それでもある程度の人間がそばにいてくれるからな。

ビー お前みたいに必死こいて良い子ぶらなくても、俺の周りには人がいるんだ。だって俺は、

白鷺 慕われるべき人間だから。

ビー そう。

白鷺 お前は何を知ってるんだ。

ビー 知ってることだけだよ。

白鷺 気持ち悪い。

ビー なんとでも言ってくれ。

白鷺 じゃあ、これ以上、俺の学校生活を荒らさないでくれるかな。

 

白鷺、部屋から出て行く。

 

ビー そう言われても、本当に俺は何にもしてないんだけど。なぁ?

夜鷹 そうだね。

ビー もっと気楽に生きれば良いのに。

夜鷹 それ、白鷺くんに言ってみたら?

ビー 今度は俺の死体が校門の前に綺麗に並べられることになるよ。

夜鷹 笑えないユーモアだね。

ビー 全くだ。

ビー 全員から慕われるべき人間、って何なんだろうな。

夜鷹 ……

ビー 誰にだって人間との合う合わないはある。それなのに、あの学校の奴ら全員が白鷺を慕うなんて、無理だろ。

夜鷹 ビーくんがいる時点で、ね。

ビー 俺が退学にでもなれば少しは可能性があるかもな。

夜鷹 どうだろう。

ビー それかあいつが神になるか、だな。

ビー ま、無理な話か。

夜鷹 ……

ビー 何かあったか?

夜鷹 なんで?

ビー 今日のお前はよく喋る。

夜鷹 人と二人の時はよく喋るよ。

ビー 今の話をしているんじゃない。

夜鷹 そう。君はいつも僕たちのことを見てるんだね。神様みたいに。

 

沈黙

 

ビー 言ってくれないんだな。

夜鷹 ……

ビー お前のそういうところ、嫌いじゃないけど。

夜鷹 僕も君のそういうところ、嫌いじゃないよ。

ビー 何がしたいんだ?

夜鷹 何もしたいわけじゃないよ。

夜鷹 僕はただ、皆に人間らしい生活を送ってほしいだけだ。

ビー お前も結構、言うよな。

夜鷹 何を?

ビー いろんなことを。他のやつらは、お前のことを優しいだけのやつだって勘違いしてるよ。

夜鷹 脳ある鷹は爪を隠すからね。

ビー ……なんの脳?

夜鷹 僕にもよくわからない。

ビー なんだ、それ。

 

しばらくの沈黙。

 

烏丸 お、ビーじゃん。久しぶり。

ビー うわ。

烏丸 ちょっと、人を見るなり第一声がうわって何?

ビー 本能的な恐怖。

烏丸 はぁ?

巳好 ビーは烏丸が苦手よね。

ビー お前のことも苦手だよ。

巳好 そう。

ビー ほらそういうところ。

烏丸 どういうところだよ。

ビー からかっても冷静に返して来るところが。

烏丸 単なるいじめっ子の意見じゃん。

ビー 折角久々のこいつと二人っきりの時間を楽しく過ごしてたのにさ。(夜鷹に絡む)

烏丸 俺だって巳好と楽しく二人で過ごしてたんだけど?(巳好に絡もうとすると手を払いのけられる)

烏丸 あいた。

ビー 勝手にやってろ。

烏丸 うん、勝手にやっとくよ。

ビー 部屋に戻る。

夜鷹 うん、また夕食で。

ビー あぁ、俺思ったんだけどさ。

ビー 俺からしたら、お前の方がよっぽど神様みたいだよ。

 

ビー、部屋から出て行く。

 

烏丸 なんだ、あれ。

巳好 さあ?

烏丸 白鷺たちは?

夜鷹 帰って来たよ。

烏丸 そう。

夜鷹 どうかしたの?

烏丸 いや、別に用事は無いんだけど。

巳好 貴方が一人で寂しがってるんじゃないかって、烏丸が。

烏丸 言ってないって。

夜鷹 仲良しだね。

烏丸 まあな。

巳好 白鷺がいたら、今朝のことどうだったのか聞きたかったんだけど。

夜鷹 そう。

夜鷹 心配しなくても、大丈夫だよ。

烏丸 何が?

夜鷹 ううん。何も。

大上 白鷺ぃ! あれ、白鷺は?

夜鷹 ご飯当番。

大上 あぁ、なんだぁ、よかったぁあ。

烏丸 どうしたの?

大上 あいつの部屋でイエス・キリストの話聞いてたら、俺、いつの間にか寝ちゃってて、起きたら白鷺がいなくってさぁ、なんかすげぇ怖かった。

烏丸 なんの話してるの。

大上 キリスト教だよ。

烏丸 そう言うことじゃないよ。

巳好 そのうち日曜日に礼拝しそうな勢いね。

烏丸 大上はすぐに飽きるよ。

大上 うん。俺なんかが、あんな神聖なものに足を踏み入れちゃいけないなって思った。

烏丸 こうして大上が大人になって行くんだ。

巳好 宗教はバカを大人にしてくれるのね。

烏丸 宗教というか白鷺というか。

大上 でも俺、あいつがあんなにキリスト教信仰してるの知らなかった。

烏丸 あぁ、そういえば。

巳好 知ってた?(夜鷹に)

夜鷹 ううん。

烏丸 日本じゃ宗教を信仰してること自体、公に出ない文化だから知らなくても当たり前だんけどな。

大上 あんなに好きなのに、それを今まで俺たちは知らなかったんだなぁ。

巳好 それがどうかした?

大上 思ってたより、俺たちのつながりって薄いんだな。

烏丸 そりゃな。ここで共同生活は送ってるけど、白鷺の周りにはいつもレオと猫田がいるし、俺たちは俺たちでこうやって四人でいることが多いし。

大上 折角一緒に住んでるのになあ。

烏丸 この距離感でうまくいってるんだから、良いんじゃねえの?

大上 そうだけどさあ。俺、ビーとか全然話したことないし。

烏丸 なに。話したいの?

大上 話してみたい!

レオ やめとけよ。

大上 なんでお前に止められないといけないんだよ。

レオ 不愉快になるだけだぜ、あいつと話しても。

大上 そんなの話してみなきゃわかんねーじゃん。

レオ じゃあ勝手にすれば?

大上 ああ勝手にするさ。

烏丸 すぐ喧嘩する。

レオ・大上 喧嘩じゃない!

烏丸 似た者同士、仲良くすれば良いのに。

レオ・大上 こいつと一緒にするな!

烏丸 はいはい。

レオ・大上 おい!

烏丸 猫田も、こいつら二人、結構仲良くなれると思うよね?

レオ 猫田ちゃんに話しかけんじゃねぇ!

猫田 黙って。

レオ うんわかった! 俺黙るね!

大上 犬かよ。

烏丸 犬じゃん。

巳好 犬ね。

夜鷹 犬だね。

猫田 白鷺くんは?

大上 ご飯の準備してくれてるって。

レオ お前は猫田ちゃんと喋んな!

猫田 黙って。

レオ うん! わかった! 俺もう喋らないね!

 

間。

 

猫田 ビーは?

夜鷹 部屋に戻ったよ。

猫田 そう。

夜鷹 大丈夫?

猫田 ええ。ありがとう。

大上 おい、猫田が白鷺以外に笑顔で御礼言ってるぞ。

烏丸 明日槍でも降るかもね。

猫田 失礼ね。

レオ そーだそーだ!

巳好 どうやってしつけたの? それ。

猫田 そんな下品な表現しないでくれる?

巳好 そんなつもりは無かったんだけど。

猫田 私は不快になったのよ。

レオ そーだそーだ!

 

烏丸と大上がレオに耳打ちする。

 

レオ うん! わかった! 俺白鷺のこと手伝って来るね!

 

レオ、大上、烏丸、部屋から出て行く。

 

静寂。

 

猫田 貴方が羨ましい。

巳好 どしたの、急に。

猫田 なんでも素直に自分の意見が言えるでしょ。

巳好 猫田さんだって、いつも自分の思いを素直に伝えてるじゃん。

猫田 あぁ。あれは、違うじゃん。

巳好 違うんだ。

猫田 うん、あれはね、テンションあがちゃってるもん、私。

巳好 そうなの?

猫田 だいぶ。

巳好 そっか。

猫田 白鷺くんが、好きで好きで、どうしたらいいかわからなくて、いつもああなっちゃうの、私。

巳好 だめなの?

猫田 いつも余計なことまで言っちゃう。

猫田 ごめんね、いつもきつく当たっちゃって。

巳好 いいよ。

猫田 気にしてる?

巳好 少し。

猫田 今更、巳好と仲が良いってみんなに知られるの、恥ずかしくて。

巳好 始めのはもっとすごかったもんね。

猫田 うん。巳好には敵わないってわかってたから。

巳好 大型犬に吠える小型犬の心情?

猫田 悔しいけど、そんな感じだった。

巳好 私はそんな小型犬が懐いてくれた大型犬の気分。

猫田 巳好はシベリアン・ハスキーっぽい。

巳好 猫田さんはバーマンみたい。

猫田 バーマン?

巳好 毛がふさふさで、顔の中心と耳だけ黒くて、目が青い猫。

猫田 猫じゃん。

巳好 だって、猫じゃん。

猫田 そうじゃないじゃん。

巳好 君はねー、なんだろう。(夜鷹に向かって)

猫田 ラブラドール・レトリーバー。

夜鷹 えぇ。

巳好 あぁ。ぽいね。

猫田 だよね。

巳好 白鷺はオオカミっぽいよね。

猫田 えぇ、白鷺くんはもっと優雅だよ。

巳好 表ではね。

猫田 まあ。

巳好 私はそのオオカミ部分を猫田さんから聞いたことしかないけど。

猫田 知ってるの、私たち二人くらいだよね(夜鷹に)

夜鷹 うーん。

巳好 あなたは本当にずっとここにいるのね。

夜鷹 うん。

巳好 背景の一部みたいで、たまに忘れそうになる。

夜鷹 それが僕の本望だよ。

猫田 影が薄いって言われてるんだよ?

夜鷹 うん。それで良い。

猫田 変な子。

巳好 みんなと仲が良いのは、良いことだけど。

夜鷹 うん。楽しいよ、毎日、いろんな人からいろんな人のことを聞くのは。

猫田 その言い方怖いわ。

巳好 なんだかんだ、一番ここの人間関係わかってそうだもんね。

猫田 私なら嫌になりそう。

夜鷹 みんな、良い人だよ。

猫田 こういう子、なんだよね。

巳好 何が?

猫田 白鷺くんが気にいる子は。

巳好 気に入られてるの?(夜鷹に)

夜鷹 僕に聞かれても。

猫田 気に入ってなきゃ、二人きりで喋らないよ、白鷺くんは。

巳好 じゃあ猫田さんも気に入られてるじゃん。

猫田 まあね。

巳好 あんまり話したことないなあ。

猫田 だって巳好、いつも烏丸と大上といるじゃん。

巳好 うん。楽しいよ、大上。

猫田 レオよりバカっぽいよね。

巳好 レオくんは忠犬じゃん。

猫田 うん。

巳好 大上はね、何も知らない子犬だから。

猫田 あー、そう考えるとすごい愛着わく。

巳好 もはや母性の対象。

猫田 女の部分引き出されちゃってるじゃん。

巳好 その言い方なんか卑猥。

猫田 でも、巳好には烏丸がいるじゃん。

巳好 烏丸はそういうのじゃないよ。

猫田 じゃあどういうの?

巳好 いるだけで満足。

猫田 それ、私の白鷺くんへの思いよりも重症じゃない?

巳好 好意、とかじゃないんだよ。

猫田 いや、好意じゃん。好きじゃん。

巳好 私の中では明確に違うの。

猫田 へぇ。

巳好 私、タバコ吸う人って好きじゃないのね。

猫田 うん。

巳好 でも、烏丸だったらなんとも思わない。

巳好 寧ろ、あの綺麗な手でロングを持って窓に寄りかかってるのが絵になるなあって思う。

猫田 それ、好きだからなんでも許しちゃうとかじゃなくて?

巳好 じゃなくて。

巳好 烏丸が、そこに存在してくれてることが重要なの。彼がそこにいて、人間的な生活を送ってくれているだけで、私は落ち着く。

猫田 重症じゃん。ねえ?(夜鷹に)

夜鷹 僕も共感できるよ。

猫田 え。

夜鷹 僕は烏丸くん、だけじゃないけど。皆が毎日、此処で共同生活を送って、学校に行って、また帰ってきてっていう生活をしてくれていると、すごく落ち着く。

夜鷹 みんなが喧嘩したり、恋したり、好きなもののこと喋ったり、言い合いをしたり、怒ったり、食べたり、寝たり、勉強したり、好きなことをしたりしてる姿を見ると、僕は此処に来て本当によかったって思う。

猫田 だからいつもここにいるんだね。

夜鷹 うん。

巳好 三年目の謎がやっと解決した気分。

猫田 もう三年かあ。

巳好 まだ三年、って感じもするけど。

猫田 私は、卒業までになんとしてでも白鷺くんを手に入れたい。

巳好 女豹のようね。

猫田 ネコ科だからね。

巳好 どこ行くの?

猫田 獲物を狩りに。

 

猫田、部屋から出て行く。

 

巳好 ……は?

夜鷹 トイレじゃない?

巳好 ……あぁ。

夜鷹 巳好と二人きりになるのは、久しぶりだね。

巳好 そうね。

夜鷹 いつもだと、烏丸がいるから。

巳好 私はいてくれる方が安心する。

夜鷹 そんなこというの、巳好くらいだよ。

巳好 ええ。

巳好 だってあなた、怖いもの。神様みたいで。

夜鷹 蛇なのに。

巳好 名前だけでしょう。

夜鷹 僕は名前だけじゃない。

巳好 どういうこと?

夜鷹 ……

 

沈黙。

 

巳好 なんで、いつも聖書なんて読んでるの?

夜鷹 落ち着くからだよ。

巳好 変なの。

夜鷹 なんで、いつも烏丸くんといるの?

巳好 落ち着くからよ。

夜鷹 そういうことだよ。

巳好 どういうことよ。

夜鷹 巳好は、烏丸のことが好きなの?

巳好 さっき猫田さんと話してたこと、聞いてなかったの?

夜鷹 聞いてたけど、本心じゃないような気がして。

巳好 本心だよ。

夜鷹 そう。

巳好 ……まあ、他にも理由はあるけど。

巳好 あの人は、絶対に私のことを好きにならないって思うから。

夜鷹 いつも一緒にいるのに?

巳好 ええ。

夜鷹 そういう冗談だって烏丸くんは言うのに?

巳好 それでも。

夜鷹 そっか。

巳好 咲いた花は、いつかは必ず枯れるでしょう?

夜鷹 うん。

巳好 でも、咲かない花は枯れない。蕾のまま、しぼんでいくだけ。

夜鷹 乙女だね。

巳好 当たり前じゃない。

巳好 だって私、普通の人間だもの。

夜鷹 僕も。

巳好 皆そうだよ。

夜鷹 特別な人間なんて、いないんだ。

巳好 そうね。

夜鷹 白鷺くんだって、同じだ。

巳好 あいつが一番人間らしいと思うけど。

夜鷹 僕もだよ。

夜鷹 みんなの前でいい顔をしたがって、人よりも上に立ちたがる。だから一部の人間に怒ったり、喚いたり、罪をなすりつけたり。

巳好 さすが。

夜鷹 何が?

巳好 ずっとここにいるだけあるね。

夜鷹 ここだけが、僕の居場所だからね。

巳好 寝る時くらいは、自分の部屋に帰ってほしいけど。

夜鷹 善処するよ。

巳好 はいはい。

巳好 遅いね、みんな。

夜鷹 そうかな。

巳好 様子、見てくる。

 

巳好、部屋から出て行く。

夜鷹、聖書を手に取り、開き癖のついたページを開き、頭上に掲げる。

 

夜鷹 あなたたちはわたしを知り、信じ、理解するであろう。わたしこそ主、わたしの前に神は造られず、わたしの後にも存在しないことを。わたし、わたしが主である。わたしのほかに救い主はない。

 

夜鷹、部屋から出て行く。

 

烏丸 あれ?

烏丸 誰もいないじゃん。

 

烏丸、いつも夜鷹がいる位置においてある聖書に気がつく。

 

烏丸 うわ、文字ちっさ。

 

しばらく、聖書をめくったり読んでみたりするが、飽きて元の位置に聖書を戻す。

それから手持ち無沙汰になり、床に寝転がる。

 

ビー ……何してんの?

烏丸 瞑想。

ビー はあ?

烏丸 思いを巡らしてた。

ビー 何に。

烏丸 巳好に。

ビー うわ。

烏丸 俺はこう見えてナイーブなんだ。

ビー 知りたくもない情報をありがとう。

烏丸 なあ。

ビー あ?

烏丸 お前って、モテるよな。

ビー おうおうどうした急に。

烏丸 巳好ってさ、俺のこと好きだと思う?

ビー は?

 

間。

 

ビー え、お前らってそういう関係じゃ、

烏丸 ないよ。

ビー それはそれは。

烏丸 一緒にいるけどさ。よくわかんなくて。

ビー そんなもんだろ、女なんて。

烏丸 こっちが距離を詰めようと思ったら、向こうが離れて行くし。じゃあって思って距離離そうとしたら、向こうが距離詰めてくるし。

ビー 恋の駆け引きじゃねーの?

烏丸 そういう感じじゃないんだよなぁ。

ビー じゃあどういう感じだよ。

烏丸 なんていうんだろう。

烏丸 信仰されてる感じ?

ビー ……

烏丸 いや、ほんとにそんな感じなんだって。

ビー お前はまともなやつかと思ってた俺がバカだったよ。

烏丸 俺はまともだ。

ビー まともなやつが女子に信仰されてる感じがするとか言うかよ。お前は神か!

烏丸 そのツッコミ、なかなかハイセンスだな。

ビー あぁどうも。

烏丸 ビーは無いか? 女子に信仰される感じ

ビー ねーよ。

烏丸 そうか……

ビー ま、一つ俺からアドバイスできるとすればだな。

ビー お前がどう思ってるか、じゃねーの、巳好のこと。

烏丸 なんかお前、男子高校生っぽいな。

ビー お前がその会話振ってきたんだろ。

烏丸 いや、まさかこんなに乗ってくれとは思わなかった。

ビー そうかよ。

 

ビー、部屋から出て行く。

烏丸、先ほどと同じ姿勢で寝転がる。

しばらくの沈黙。

 

巳好 そんなとこで何してるの?

烏丸 考えてる。

巳好 はあ?

烏丸 皆は?

巳好 キッチンでわちゃわちゃしてた。

烏丸 仲良しだなぁ。

巳好 本当に。

巳好 何考えてるの?

烏丸 俺の気持ち。

巳好 はあ?

 

烏丸は先ほどの姿勢から動かないまま。

巳好、しばらくは窓を見つめていたが、時間が経つと自然と視線が烏丸へと移る。

しかしそれに烏丸は気がついていない。

 

巳好 このままずっと、ここにいたい。

烏丸 無理だよ。

巳好 わかってるよ。

烏丸 居心地は良いけどな。

巳好 自分らしくいれるし。

烏丸 それもこれも、夜鷹のおかげだ。

巳好 久しぶりに聞いたなぁ、その名前。

烏丸 あいつ、嫌がるから。

巳好 すごい名前だよね。

烏丸 夜鷹がいつもここにいてくれるから、俺たちは俺たちらしく生きていけるんだよ。

巳好 守り神みたいね。

烏丸 本当に。

巳好 ビーもそうやって、聞き耳立てるのやめたら良いのに。

ビー お前らがそうやっていちゃついてる雰囲気だしてるからだろ。こっちは気ぃ使ってんだ。感謝しろよ。

烏丸 お前……

ビー なんだよ。

烏丸 さっき出て行ったばっかりじゃあ

ビー うるせえなつっこむな! 俺は腹が減ってるからここで待ってるだけだよ! 飯が食いてぇの!

巳好 まるで亭主関白ね。

ビー ほっとけ。

ビー どんだけ夕食の準備に時間かかってるんだよ。

巳好 レオくんが手伝いに行ったから。

ビー ……あー。

烏丸 納得した?

ビー した。

烏丸 あいつだけ当番ないもんな。

巳好 大上より無能ってなかな無いよね。

ビー 忠犬なのにな。

烏丸 番犬じゃなくて?

ビー じゃあどっちもだ。

烏丸 案外てきとうだな、お前。

ビー 俺は元々そういう人間だよ。

烏丸 へえ。仲良くなれそうだ。

ビー 俺はお前が苦手だ。

烏丸 あぁそうかい。

巳好 あれ、どうしたの大上。

大上 レオにブチギレる白鷺が怖すぎた。

ビー 尻尾巻いて逃げてきたわけだ。

大上 そんな負け犬みたいな言い方するなよぉ。

猫田 あんなに怒ってる白鷺くん久しぶりに見たわ……

巳好 おかえり。長い狩りだったね。

猫田 ふん。

烏丸 狩り?

巳好 そう、狩り。

猫田 も、もう! そこに食いつかなくても良いでしょう!

ビー 照れてる。

大上 え、照れてる。

ビー・大上 いがぁあい。

烏丸 お前らが息合うのが意外だよ。

ビー こんなバカと一緒にするな。

烏丸 はいはい。

猫田 あれ?

猫田 あの子、どこ行ったの?

巳好 さあ? トイレとかじゃない?

猫田 そっか。

ビー なんか変なかんじだな。

烏丸 何が?

ビー こんなメンバーで会話があることが。

烏丸 ああ。

大上 いつもは完全にわかれてるもんな。

猫田 夕食の時も、ほとんどみんな仲良い人としか喋らないし。

巳好 変な感じ。

烏丸 どう? 大上。ビーと話せて。

大上 思ってたより普通でなんか失望した。

ビー は?

大上 こう、もっとカリスマ性溢れる人間かと思ってたんだよなぁ。白鷺とよく喧嘩してるし。でもなんか、普通のツンデレだなって思った。

ビー バカにしてんのか?

巳好 褒められてるのよ。

ビー いや絶対違うだろ!

大上 褒めてるんだぜ!

ビー やめろよ! 上から目線で話すな!

猫田 白鷺くんと同じこと言ってる……

ビー だから一緒にするな!

白鷺 賑やかだね。

猫田 あ、白鷺くぅん。

ビー すげぇ猫なで声だな。

巳好 猫だからね。

ビー あぁ。

白鷺 あれ? 一人足りない。

烏丸 あぁ、夜鷹が。

白鷺 待っておこうか。

 

白鷺、ビーを見つめる。

 

ビー なんだよ。

白鷺 本当に何も知らないのか?

ビー しつこいな。

白鷺 気づいてることでもなんでも良いんだ。

ビー どうした? 急に下手に出て。

白鷺 僕はこれ以上、自分の体裁のことで悩みたくない。

ビー それとこれと、どんな関係があるんだよ。

白鷺 意見箱に入れられてた僕の悪口。お前がさっき俺に言ったこととほとんど一緒なんだよ。

ビー それ、さっきも聞いた。

白鷺 だから、改めて確認してるんだよ。

ビー へー。

ビー お前が上から目線だって?

白鷺 ……

ビー 全校生徒を牛耳った、神にでもなったつもりなのかって?

白鷺 ……

ビー そんな器、お前にはないくせにって?

猫田 やっぱりあんたが、

ビー 別に、良いんじゃねぇの?

白鷺 は?

ビー お前が自分が人よりも上に立つ立場の人間だと思うなら、思えば良い。自分が神だと思うなら思えば良い。

ビー さっきも似たようなこと言ったけど、俺からしたら頭のおかしい人間だけどな、そんなこと思ってるやつ。でも俺にはそれをやめろという権利はねぇよ。

白鷺 ……

ビー って、俺は思うけど。

白鷺 そう。

ビー もっと俺に言うことがあるんじゃねぇの?

白鷺 調子にのるな。

ビー つれないねぇ。

 

しばらくの沈黙。

 

巳好 雨、止まないね。

烏丸 あぁ。

 

沈黙。

 

夜鷹 あれ、もうみんな揃ってるの?

白鷺 あぁ。

夜鷹 ごめんね、遅くなって。

大上 大丈夫だよ。

レオ 俺が悪いんだし。

白鷺 まあ。

レオ 否定してくれよ!

猫田 無理なことを言わないで。

烏丸 お腹すいた。

巳好 お腹すいた。

レオ ごめんってばぁ。

大上 はらへったー!

レオ うるせぇ!

大上 はぁ?

烏丸 今のは理不尽だろ。

巳好 ちゃんとしつけないと。

猫田 そうだよねえ。

レオ 猫田ちゃぁん!

白鷺 暴れるな。

レオ はい。

烏丸 やっぱり忠犬だわ。

ビー な? 言っただろ?

夜鷹 冷めないうちに、早く食べちゃおう。

猫田 そうだね。

巳好 あ、飲み物、

烏丸 俺、あとでとってくるよ。

大上 俺のもー。

烏丸 はいはい。

夜鷹 全員、席についた?

白鷺 あぁ。

夜鷹 それじゃあ、始めようか。

 

六時を告げる鐘が鳴る。

 

巳・猫     あなたがたを罪に陥らないように守り、

巳・猫・烏・ビ また

烏・ビ     喜びにあふれて非のうちどころの

烏・ビ・レ・大 無い者として、

レ・大     栄光に輝くみまえに立たせることのできる方、

白鷺      私たちの救い主である唯一の神に、私たちの

七人      主イエス・キリスト

白鷺      を通して。

ビー      栄光、

烏丸      威厳、

巳好      力、

白鷺      権威が

猫田      永遠の

大上      昔から、

レオ      今も、

巳好      永遠にいつまでもありますように、

七人      アーメン

 

鐘が鳴り終わる。

と、骨董品のように動かなくなる七人。

 

夜鷹 この中に一人、裏切り者がいる。

 

年季の入った骨董品のように、いつまでも動かない七人。

夜鷹がその中で一人、微笑んでいる。

 

 

近畿最優秀作品賞「カムパネラを待ちながら」作:田宮優月

 

 ジョバンニと鈴木が向き合っており、マリヴロン(以下マリー)はその様子を見ている。

 

鈴木    ジョバンニさん、このゴミのかたまりは何ですか?

ジョバンニ ゴミじゃありません。羽です。

鈴木    この、よくわからないゴミ……ガラクタのかたまりが?

ジョバンニ はい。

鈴木    先生にはよく解らないわ、ジョバンニさん。

ジョバンニ 芸術とは、よく解らないものだと母が言っていました。

鈴木    そう、そうね。確かにピカソだかなんだか知らないけれど、よく解らない抽象的な絵を描いて評価されている人もいます。でもね、それは基礎ができている人達がやるからこその「芸術」であって、ただの小学生の貴方がマネることなんて到底できないんです。わかりますか?

ジョバンニ 先生、私にはよく解りません。

鈴木    貴方のような小学生が、ゴミ……ガラクタを集めて引っ付けて「これは芸術です。羽です」と言ったところで、それはただのゴミでしかない、ということです。

ジョバンニ 自由な発想で作品を作ってくださいって先生、言いましたよね。

鈴木    ええ、そうです。確かに先生は一学期の終わりの日、皆さんに「夏休みの作品としてふさわしい、自由な作品を作ってください」と言いました。

ジョバンニ 私は自由な作品を作ったつもりです。

鈴木    ……そうですね、ジョバンニさん。確かにこれは、先生の言い方が悪かったのかもしれません。その点においては、先生はジョバンニさんに謝らなければいけませんね。

ジョバンニ いえ。

鈴木    先生は、夏休みという自由で大きな時間を使って、このような作品を作ってほしかったのです。

ジョバンニ これはなんですか?

鈴木    『割りばしで作った僕の家』海野さんの作品です。これを見て、ジョバンニさん。どう思いますか?

ジョバンニ とても良くできていると思います。

鈴木    そうですね。では、これは?

ジョバンニ ……私にはこんなの、作れません。

鈴木    そうですね。これは、白鳥さんが作った作品です。正確には、白鳥さんと白鳥さんのお父さんが、ですね。

ジョバンニ そうですか。

鈴木    先生は、皆にこういう作品を作ってもらいたかったのです。

ジョバンニ これらと、私の作品とで、どう違うのですか?

鈴木    ジョバンニさん。

ジョバンニ はい。

鈴木    貴方はこのガラクタ……作品を作る時に、お母さんやお父さんに相談したり、何を作ろうか、その作り方を本で調べたりしましたか?

ジョバンニ してません。

鈴木    先生は、自由な作品を作ってくださいと言った後に、こうも言ったはずです。お家の人やお姉さんお兄さん等に手伝ってもらって、家族で楽しく作品を作るととても良いものができるはずです、と。

ジョバンニ はい、言いました。でも、うちはお父さんはいないし、兄弟もいません。母は毎日私のために朝早くから夜遅くまで働いてくれていて、私の工作の手伝いなんてしている暇がありませんでした。

鈴木    ちょっと相談をするとかも?

ジョバンニ 疲れている母に悪いです。

鈴木    そうですか……。でもねジョバンニさん。この作品は、学校祭の展示品になるものです。それに煙草の箱が使われているのは、ちょっと、いや、かなりいけないことなのです。

ジョバンニ そうなんですか?

鈴木    ええ。もしかしたら、先生が怒られてしまうかもしれない。

ジョバンニ 私のせいで、ですか?

鈴木    そういうことになってしまいますね。でも、先生はジョバンニさんを悪者にしたくはありません。

ジョバンニ はい。

鈴木    だから、先生はちょっと考えてみました。

ジョバンニ ……?

鈴木    今日の放課後、このガラクタ……作品を、先生と一緒に作り直しましょう、ジョバンニさん。

ジョバンニ 作り直すんですか。

鈴木    ええ。ダンボールに、沢山の色紙を張って、カラフルで綺麗な羽にするんです。

ジョバンニ そうして、私の羽は、ほとんど先生の手によって、作り替えられてしまったのです。

鈴木    ジョバンニさん、これで親御さんに見せられる、綺麗な羽ができましたね。

ジョバンニ 私は、人に作ってもらった羽なんか、母に見せたくありませんでした。私は、たとえ見た目が悪くても、自分で作った羽を見てもらいたかった。母が私のことを思って、寒い日でも、わざわざ外で吸ってくれる煙草の箱を、使いたかった。

鈴木    このゴミは、先生が処分しておきますからね。

ジョバンニ でも、小学三年生の私には、そんなこと、大人に向かって言えませんでした。私が一生懸命に作った羽は、先生に一度も「作品」ときちんと呼ばれることなく、残飯の臭いが酷いゴミ箱に捨てられてしまいました。私は、今でも自分で作った、ガラクタで出来た羽を、心の中で大事にしています。

 

マリー、拍手をする。

 

カムパネルラを待ちながら.docx

全文が気になる方はこちらをご覧ください。

 

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    活動報告

    40000円集まりました!

    2018/11/19 14:55

    アナグマの脱却座です!遅くなりましたが初日に40000円集まりました。支援ありがとうございます。締め切りまでまだまだ日数があります。支援のほどよろしくお願いいたします。

このプロジェクトの問題報告やご取材はこちらよりお問い合わせください