〔ご挨拶〕

 初めまして。プロジェクトの企画者の京都造形芸術大学4年生 穐ヨシ七奈と申します。
この度、2016年4月29日〜5月8日にかけて京都三条のARTZONE(アートゾーン)ギャラリーにて開催した展覧会「STRIVE AGAINST FATE -宿命に抵抗する」(http://artzone.jp/?p=2391)のカタログを、2017年1月に発行することになりました。


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社会的な空間において「衣服」はそれを纏う人の
アイデンティティーの形成に深く関わり、
「わたし」を成り立たせる重要な存在となる。

肉体の凹凸を消し、身体的な性差の表象をなくす
BALMUNG(バルムング)の衣服は、
人のもつ「着る」という意識を大胆に変えるだろう。

私たちは幾重にも折り重なった構造の中で生まれ、
その中で育まれた社会のほんの一欠片である。

たった一人では、さまざまな制約から脱することはかなわない。
BALMUNGの衣服は、そんな社会と闘うための戦闘服だ。

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 本展覧会はテーマに「現代ファッションと性(ジェンダー)」をあげています。副題の《宿命》とは人間の《性別》を指しており、宿命とも言える自身の性別に衣服を用いてどのように抵抗していけるか。また、性別によって左右される人生・生き様に、どのようにして自由を与えられるか、などを示唆した展示内容でした。


 現代ファッションの一例として、企画者もスタッフを務める『BALMUNG(バルムング)』(http://www.balmung.jp/)に作品をお借りしました。BALMUNGの衣服は身体をすっぽりと覆うほどにサイズが大きく、また華美な装飾や幾重にも折り重なったディティールなどが特徴的です。そんなBALMUNGの衣服はまるで「繭(まゆ)」のようである、と考えました。この繭のような衣服は、社会から自分を守ってくれるようであり、同時に社会に対して挑戦的にも思えます。そんなBALMUNGの衣服は、本展覧会のテーマに非常に合致しました。


 会期中には、京都女子大学教授で社会学・ファッション研究家である成実弘至 教授による「現代ファッションと性のゆくえ」をテーマとした講義、BALMUNGデザイナーのHACHI(城下龍一)によるトークイベントを行いました。
 また、展覧会は「Fashionsnap.com(http://www.fashionsnap.com/news/2016-04-05/balmung-exhibition-kyoto/)」や関西地方誌『Leaf』、京都新聞などに取り上げられました。

 
〔カタログ制作の目的〕

 BALMUNGの主な活動拠点は東京になります。京都であったためにご来場頂けなかった方に、展覧会の様子をお伝えできるイメージ写真を10数ページにわたって収録します。また、展示会場の様子を撮影した映像を、会場に流れるアバンギャルドなBGMとともにDVD-ROMに収録して添付します。会期中に行った成実弘至 教授による講義「現代ファッションと性のゆくえ」は、講義内容を要約し収録。BALMUNGデザイナー HACHIによるトークイベントは、文字起こしをして総収録いたします。(動画はトークイベントの一部です)

 BALMUNGの独創的な世界がどのようにして生まれているか、制作秘話を文字で読めるまたとない機会です。そして、企画者による「衣服をアート作品として用いる展覧会」の制作に至るまでも、お話しさせて頂いています。

 



 展覧会をもとに企画者の穐ヨシ七奈による、現代ファッション(今回はBALMUNGを用いて)がどのように現代人の性(ジェンダー)の意識に働きかけるかを仮定・検証した論考を収録します。この論考によってブランドの社会的な価値付けを行うこと、また現代ファッションやハイブランドの多角的な見方を読者に与えることを目的としています。
 また、性(ジェンダー)を現代ファッションから捉えなおすことが可能であることを立証し、ジェンダー論の新たな説き方を提案します。論考内ではBALMUNGを「ジェンダーレスファッション(男女の性差をなくすファッション)」として捉え、BALMUNGの新しい価値を証明しています。

 


 デザイナーのHACHI(城下龍一)によるトークイベントは、約1時間半にわたり、ブランドを設立した2006年から2016年までの10年間の変遷についておおまかに説明した後、「現代」という時代を、ブランドとしてではなくHACHI自身の観点より語りました。
 「そのコンテンツがさまざまに遊べるようになって、そこから初めてファッションに落とし込まれる」

 アーミーやカモフラージュ柄などの衣服に対してのデザイナーのコメントです。衣服を制作する際に、どのようにして都市やインターネットカルチャーからアイデアを発掘しているかなども語り、来場者からの質問に答えるなど、ブランドだけでなくデザイナーまでをも解体する唯一無二の機会でした。

 

 京都女子大学で教授を務める成実弘至 氏の講義「現代ファッションと性のゆくえ」では、ジェンダーとセクシュアリティの歴史をなぞることに始まり、LGBTを含めた性の広汎性をご説明いただきました。
 そして、性の歴史を踏まえた上で服飾論から、「なぜ男性はスカートを履かないのか?」といった問いを受講者に与え、服飾の歴史からジェンダーを読み解いていきます。
 着用者にとってコスチューム化した衣服、またコスプレをする人の心理についても触れ、衣服が自身の欲望をどのように解放するかについて学術的な視点から語っていただきました。
 最後に受講者からの質問を受け付け、「成実先生はジェンダーと衣服の関わりや、コスプレをする人を研究されている最中で、自身も女装をしてみたいと感じたことはありますか?」などの《読み手・受け手》からしか飛び出さない斬新なものもありました。

 

 


 SQ-54の田川とも子(http://www.sq-54.com/)による展評では、BALMUNGというブランド名の解体に始まり、テーマである「現代ファッションと性(ジェンダー)」の観点より、ファストファッションなどの気軽に購入できる衣服とBALMUNGなどのハイブランドの差異を指摘。続いて自身の衣服の捉え方を用いてBALMUNGの作品を「防護服」と結論付けます。
 メインとなる展示会場の薄暗さや温度感(寒さ)、鉄パイプの危険性とBALMUNGの衣服との兼ね合いなど、一つ一つのあつらえについて解説。最後に、展覧会を通してBALMUNGの作品は「インターネット時代の繭(コクーン)」であるといった結論を導き出しています。

 

 会場内で行ったアンケート調査にて、訪れた10代〜20代のほとんどは「そもそもジェンダーという概念を知らなかった」「衣服と性をつなげて考えたことはなかった」とコメントしました。成実弘至 氏や鷲田清一 氏などの著書には、「衣服とジェンダーを切り離して考えることはできない」と再三書かれていますが、実際に衣服に触れる若者にその声は届いていません。
 カタログの装丁デザインは、BALMUNGやNIIMI(ニイミ)などの最新東京ファッションのwebを手がけるNECOZE氏(http://necozedesign.com/)に手掛けていただきます。普段本やカタログに親しみのない人でも手に取りやすく、幅広い人に支持されるもの作りに努めたいと思います。

 このカタログは、BALMUNGをジェンダーという概念から分析した、今までにない書籍であることと、ブランドのファンと同世代の企画者が編著を務めていることの、若者の可能性が一つになったものです。そのなかに収録される論考・展評・イベントの書き起こしは若者に希薄化する衣服への意識を再考させる手段になると考えています。

 

〔カタログ収録内容〕

・ご挨拶
・BALMUNGデザイナーHACHIご挨拶
・もくじ
・BALMUNGデザイナー解説/編著者兼キュレーター紹介
・展覧会様子(1F全体図、2F全体図、展示作品、イベント)
・アンケート結果グラフ
・論文内資料写真/参考文献/用語解説
・成実弘至 教授による講義「現代ファッションと性のゆくえ」の要約
・BALMUNGデザイナーHACHI トークイベント書き起こし
・田川とも子による展評
・編著者論考「わたしとあなたのメタモルフォーゼ(仮)」
・来場者コメント書き起こし
・謝辞

総ページ(~50p予定)

ソフトカバー B6 or A5サイズ
主に縦書き(単色・カラー)
定価 800円〜1200円
※展覧会の様子を撮影したイメージDVD-ROMが付属します

発刊予定 2017年1月上旬

 
〔集まった資金の利用法〕

・装丁デザイナーへの謝礼金
・校正、校閲、編集の依頼金
・文字組み、レイアウトデザイナーへの謝礼金
・印刷費
・配送費
・DVD-ROM作成費

 
〔最後に〕 

 無事発刊できました際には、関西・関東を中心とした小規模の書店、アパレルのショップ、オンラインでの販売を予定しております。
 より親しみやすいよう、論文ではお話しするように思想を書かせて頂きました。現代ファッションの奥深さ、そして己の身にある性別という身近な問題を捉え直す機会になればと思っております。
 なぜお洋服が好きなのか、私たちはいまどのようにしてお洋服を選択しているのか。今一度、カタログを手に取った方がそれらを改めて考えるきっかけになると嬉しいです。お洋服が好きな方、同世代の方に届きますように。
 みなさま何卒、よろしくお願いいたします。

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