●ご挨拶

はじめまして。NPO法人POSSEの「外国人労働サポートセンター」https://foreignworkersupport.wixsite.com/mysite) の岩橋誠と申します。POSSEは2006年に発足したNPOで、大学生や大学院生が中心となって「過労死」や「ブラック企業」、「ブラックバイト」といった労働問題の解決に取り組んでいます。さらに、昨年(2019年)4月には、「外国人労働サポートセンター」という外国人労働者が英語で労働相談できる専用窓口を立ち上げ、本格的に外国人の労働問題・生活問題に取り組み始めました。

外国人労働サポートセンターで、外国人労働者の支援に取り組むメンバー

「外国人労働サポートセンター」は、東京と仙台の学生20人ほどが集まって、ボランティアとして、増え続ける外国人労働者に対する権利侵害(給料未払い、不当解雇、パスポートの取り上げ、労災事故、過労死、強制帰国など)の問題に取り組んでいます。今回、皆さんにお願いしたいのは、パスポートを会社に奪われたフィリピン人労働者によるパスポート返還を求める裁判に対するご支援です。今回の事案は、外国人労働者からパスポートを奪うことで、劣悪な労働条件でも転職することを阻むといういわば「強制労働」に近いケースであり、今後増え続ける外国人労働者が日本で安心して働けるための規制をつくるための足がかりとなる重要な裁判です。

※2020年1月16日(木曜日)、横浜地方裁判所に提訴しました。



●パスポート、大学の卒業証明書、大学の成績証明書を会社に奪われたフィリピン人労働者


「会社は私のパスポートを早く返してほしい。このままでは転職ができず生活に困ってしまう。」来日3年目の30歳代のフィリピン人女性・ブレンダさん(仮名)はこう話します。

契約書を読むブレンダさん

ブレンダさんは、フィリピンの大学を卒業後の2017年4月に日本語学校の留学生として来日し、2019年3月に学校を卒業しました。ブレンダさんが卒業後の働き口を探していたところ、神奈川県横浜市にある行政書士事務所「アドバンスコンサル」(代表者:小峰隆広氏)を紹介されて、2019年5月から働くことになりました。英語とタガログ語を話すことができるブレンダさんは、通訳や翻訳の仕事を任されました。

行政書士や社会保険労務士という国の資格を持った専門家が運営している会社であることから、ブレンダさんは信頼して働き始めましたが、実際の仕事量は当初ブレンダさんが想定していたものよりも多く、その上、会社の許可がなければ自由に休むことも辞めることもできないと知らされ、ブレンダさんは徐々に不安になりました。さらに、給料日に確認すると手取りがわずか10万円と生活できない水準であったため、ブレンダさんは「辞めて、別の企業で働きたい」と思うようになりました。

ただ、ブレンダさんの気がかりだったのは、パスポートや大学の成績証明書を会社が保管していたことです。これらの書類は、自身の身分を証明するために必要であるだけでなく、次の転職先を探す際に外国人にとっては必要不可欠な書類です。アドバンスコンサルを退職する前に、これらを返してもらう必要がありました。

ブレンダさんは会社に「パスポートを返してくれませんか」と申し出ましたが、会社は「パスポートは会社が預かっているから。そういう決まりになっているから」と答えて、返還を明確に拒否しました。ブレンダさんの記憶では「(返すと)逃げちゃうでしょ」とも言われたとのことです。途方に暮れたブレンダさんは、7月にメールで「辞めます」と伝え、会社に行くのをやめました。

●Posseに相談。しかし、会社は「パスポートは返還しない」

実はブレンダさんは入社時に「パスポートの管理に関する契約書」という書類にサインを求められました。ブレンダさんは在留資格の更新手続きに必要だと考え、この書類にサインしてパスポートなどを会社に預けることに合意しましたが、在留資格の更新手続きが終わっても、会社はパスポートを返還しませんでした。

その上、この文書はすべて日本語で書かれていて、難しい法律用語が使われていました。そのため、日本語が母語でないブレンダさんにとってその内容をすべて理解するのは不可能でした。むしろ、会社側もブレンダさんが内容をしっかり理解できないように、英語やタガログ語といったブレンダさんが理解できる言語での契約書を「あえて」作成しなかったのだと考えられます。

この「契約書」は、形式こそブレンダさんと会社が合意していますが、実際にはブレンダさんの自由を限りなく奪うものでした。

Aさんと会社が結んだ「パスポートの管理に関する契約書」(一部)
●第一条(パスポートの管理)「労働者は、本契約締結日からパスポートを会社に預けるものとし、使用する場合には会社の許可を必要とし、使用後はすぐに会社に再び預けるものとする。」
●第二条(管理方法):「パスポートの管理方法はすべて会社が決定するものとする。」
●第三条(保管期限):「パスポートの保管期限はすべて会社が決定するものとする。」
●第五条(退職後のパスポートの管理):「・・・パスポートは退職後も会社が管理する。」
●第六条(パスポートの返還):「パスポートは・・・会社の許可がない限り、返還しない。パスポートの返還は、会社の指定する日時及び時間、場所にて行うものとする。」

驚くべきことに、この「契約書」では、会社はブレンダさんのパスポートを退職後も一生管理し続けると決められています。さらに別の「契約書」では、会社の許可がなければブレンダさんは退職することすらできないと規定されていました。これでは、ブレンダさんは一生涯、アドバンスコンサルにパスポートを預けたまま、まさしく「強制労働」させられることになってしまいます。

ブレンダさんは会社に行かなくなった後にフェイスブックページを通じてPOSSEを見つけ、相談に訪れました。そして、POSSEが連携している労働組合「総合サポートユニオン(http://sougou-u.jp/)」に加入して、会社に団体交渉の申し入れを行いましたが、会社側はまともに話し合おうとしませんでした。

会社側はパスポートの返還を拒否し続け、さらに2019年6月分と7月分の賃金約17万円の支払いも拒否しています。外国人労働者が新たに就職先を探す際には、パスポートや卒業証明書のコピーを提出することが決められています。ブレンダさんはそれらの書類が手元にないため転職ができず、生活に困窮しています。「何のために日本に来たのかわからない」と話しています。


●パスポートの返還と賃金の支払い、補償を求める訴訟を提起

ブレンダさんは、POSSEの支援を受けて、2020年1月16日、アドバンスコンサルの代表者である小峰氏を訴える民事訴訟を、横浜地方裁判所に提起しました。Bさんが訴訟で求めているのは次の3つの点です。

1)パスポート、卒業証明書、成績証明書などの返還

2)未払い賃金や交通費、約17万円(2019年6月と7月分)

3)パスポートを奪われたことで生じた精神的被害に対する補償

4)パスポートを奪われたことで、働けなくなった期間に対する補償

5)パスポートの再発行にかかった手数料

ちなみに、この行政書士事務所は、別の労働者からもパスポートを奪い、かつその労働者が加盟した労働組合の話し合いにも応じないことで、神奈川県労働委員会から命令を受けています(2019年09月05日 アドバンスコンサル行政書士事務所不当労働行為救済申立事件の命令について)。つまり、この行政書士ははじめから意図的に、劣悪な労働条件でも働き続けさせるために、労働者全員からパスポートを奪っているのだと考えられます。国家資格を持った「専門家」が、このような深刻な人権侵害を行っていることは許されるものではありません。

●パスポートを奪うことを禁止しない日本の法律

しかし、最大の問題点は、会社が従業員のパスポートを保管することを日本の法律が禁止していないことです。そのため、低賃金で外国人を酷使しようとする「ブラック企業」がパスポートさえ奪ってしまえば、一生涯働かせることができてしまうのです。その上、仮にパスポートを奪ったとしても何の罰則もないので、会社はやりたい放題です。

国連やILO(国際労働機関)は、明確に労働者のパスポートを雇い主が管理してはいけないと規定していますが、日本では普遍的にパスポートの会社管理を禁止する法律はありません。そのため、退職してすでに半年以上が経ちますが、ブレンダさんのパスポートは会社が管理したままで、行政も動くことができません。


●このプロジェクトで達成したいこと

今回のプロジェクトで達成したいことは、以下の3点です。

1)会社に対する責任の追求と、ブレンダさんの受けた被害に対する補償

確かにパスポートは再発行できますが、再発行にかかった費用やそもそもBさんが働けなかった期間に対する補償を会社に追求することで、パスポートを奪うという究極の人権侵害に対して、会社がきちんと責任を取るよう要求します。

2)同様の被害に遭っている外国人労働者を支援すること

ブレンダさんは「同じような被害に遭っている外国人労働者のためにも、ちゃんと会社に責任を取らせたい」と言います。しかし、外国人労働者が会社に異議申し立てを行うのは、容易ではありません。

日本語でのコミュニケーションが難しく、かつ日本の法律や制度に詳しくなければ、そもそも「何が違法か」を知ることも難しくなります。また、「おかしい」と思ったとしても、外国語で相談できる窓口は多くありません。さらに、実際に裁判を起こすためには費用が必要ですが、借金をして来日している外国人労働者が数百万円を超えることもある裁判費用を負担することは困難です。

今回の裁判では、まさにご支援いただくことで裁判を継続することができるようになります。そして、この裁判をみた外国人労働者からの新たな相談につなげることが重要だと考えています。

3)パスポートの会社管理を禁止する法律の制定に向けた取り組み

「パスポートを奪って辞めさせない」という手法は、この行政書士事務所だけでなく、全国の技能実習生を雇う企業や、留学生の通う日本語学校などで横行しています。例えば、2017年の調査では、技能実習生を雇う全国少なくとも104の企業がパスポートは「本人管理ではない」(会社などが預かっている)と回答しています(公益財団法人国際研修協力機構 2017年度 技能実習生の労働条件等に係る自主点検実施結果の取りまとめ)。

日本で外国人労働者が安心して働けるようにするために、パスポートの会社管理を一律に禁止する法律制定を求め、オンライン署名活動を始め、様々なキャンペーン活動を行います。

●外国人労働者の権利を守るための活動に関心のあるボランティアを募集中です!

POSSEは大学生や大学院生、社会人のボランティアが中心となって、外国人労働者の権利を守る活動に日々取り組んでいます。寄せられた相談に対応するだけでなく、そもそも相談すらできないくらい困っている人たちにアプローチするために、街頭で相談を呼びかけるチラシ配布や、労働条件についてのアンケート調査活動といったアウトリーチにも取り組んでいます。また、より構造的に外国人労働問題を把握するためのボランティアメンバーの勉強会などを実施しています。ボランティアに関心のある方はぜひ「NPO法人POSSE 外国人労働サポートセンター」(https://foreignworkersupport.wixsite.com/mysite)までご連絡ください。


相談対応の様子

●使途

1.訴訟費用

・弁護士費用、原告・弁護団・証人の交通費

・印刷費
など

2.相談・アウトリーチ活動に関する費用
・WEBサイト制作費
・デザイン費用
・イベント開催費
・広報費
・調査・研究費
・翻訳費
・事務員人件費
など

3.手数料
・GoodMorning掲載手数料
・GoodMorning決済利用手数


●弁護士のコメント


指宿昭一弁護士(暁法律事務所、外国人労働者弁護団代表)

 外国人労働者からパスポートを取り上げて働かせることは強制労働にあたり、絶対に許されないことですが、多くの外国人労働者が被害にあっています。そして、現在の日本では、パスポートの保管行為を禁止し、被害者を救済する制度がほとんどありません(技能実習生についてだけ制度があります。)。
 この裁判は、使用者による外国人労働者のパスポートの取り上げ、保管が許されないことを明らかにし、また、これを禁止し、被害者を救済する制度を作っていくために重要な意義を有しています。ぜひ、ご支援をお願いします。


明石順平弁護士(弁護士法人鳳法律事務所、ブラック企業被害対策弁護団)

パスポートを取り上げられ、転職不可能な状態にされて働かされる外国人労働者の方がたくさんいます。
本件はその問題を世に問うものです。


●メディア情報

POSSE外国人労働サポートセンターの活動が、様々なメディアで紹介されています。

2019/11/5
東京新聞:外国人旅券職場で管理 帰国も転職も阻む「不当契約」 横浜の行政書士事務所

2019/11/4

東京新聞:外国従業員の旅券取り上げ 横浜の行政書士、返還拒む

2019/9/23
東京新聞:<ひと ゆめ みらい>侵害された権利の回復図る 世田谷区で外国人労働者の相談窓口設立・岩橋誠さん(29)

2019/8/9
日本経済新聞: 賃金未払い介護施設に勧告 留学生をボランティア名目

2019/8/7

産経新聞:賃金未払い介護施設に勧告 留学生をボランティア名目 川崎北労働基準監督

2019/8/6
読売新聞:留学生の労働超過 偽装…「ボランティア」扱い 川崎の介護施設
NHK:介護施設が外国人留学生に賃金未払い 超過分「ボランティア」
沖縄タイムス:留学生賃金未払い介護施設に勧告 川崎、ボランティア名目

2019/7/12
NHK:【留学生30万人時代】“働く”留学生 私たちはどう支える?

2019/7/9

テレビ東京 ゆうがたサテライト:「外国人労働者150万人時代 過酷な環境 新たな実態も…」

2019/7/7

Buzzfeed:"夢の国"だと信じた日本で見せた悔し涙。留学生の彼女に学校は「事実無根」

2019/7/5
Blogos: 「夢の国・日本はウソだった」 介護施設でタダ働きの末、帰国を強制されたフィリピン人女性留学生が日本語学校を提訴

2019/6/27
NHK クローズアップ現代+:留学生が“学べない” 30万人計画の陰で

2019/6/26

livedoor News:比の留学生が都内の日本語学校を提訴へ 労働改善要求に帰国強制
時事通信社:フィリピン留学生、日本語学校を提訴=「労働改善要求で強制帰国」-東京地裁
弁護士ドットコムニュース:「日本を夢のような国だと誘い込まないで」フィリピン人留学生、日本語学校提訴


●みなさまへのお願い


外国人が職場で差別され、権利が侵害されたとしても、声を上げるのは日本人以上に大変です。自身の被害を日本語で相談するのは非常にハードルが高く、適切な相談窓口を見つけられずに泣き寝入りしている外国人がたくさんいます。

日本で真の共生社会を築いていくためには、誰もが安心して働くことができる社会を目指すことが必要です。私たちはこの訴訟を通じて、外国人の働き方全体に一石を投じたいと思っています。

大きなムーブメントを作っていくために、今回みなさまから頂いたご支援は、外国人労働者向けの相談窓口の設置・維持、ホームページの作成、相談にかかる諸費用(交通費、資料印刷代など)、啓発のためのイベント開催費といった活動に充てさせていただきます。


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