本日はCyberagent Ventures にてインドリサーチを行っている河野優人さんへのインタビューを行わせていただきました。
優人さんは普段からインドに関する情報発信を行われており、私たちも多くを学ばさせていただいます。
突然のお願いにも関わらず、快く引き受けてくださりありがとうございました!
今回インタビューさせていただいた河野優人さんのご紹介です。
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河野優人(23)
早稲田大学卒業後、在学中から働いていたCyberagent Venturesにてインド投資リサーチ業務を担当。
趣味:読書(SF小説・未来予測系・海外ビジネス系)・フットサル・漫画・お酒
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それでは早速インタビューへ移りたいと思います。
今回は盛りだくさんで6つのご質問をさせていただきました。
①インドへ興味を持ち始めたキッカケ
②インドへ行く前と後の変化
③現地と日本のスタートアップの環境の違い
④現地で感じるトレンド
⑤今後のインドスタートアップの可能性
⑥日本からインドへのチャンス
⑦インドから見る日本スタートアップの改善点
では早速行ってみたいと思います!
①まず始めに優人さんがインドに興味を持ち始めたキッカケはなんですか?
背景から話すと、僕は大学3年生になるまで居酒屋アルバイトと飲み会と漫画喫茶の毎日でまさに意識低い系の大学生でした。
大学3年生になり、就活でよくある「大学生活でがんばったことはなんですか?」という質問に対してなにも答えられなかったことをきっかけに1年間の休学を決めました。
行き先にインドを選んだ理由は2つあります。1つ目はレバレッジが効くと思ったからです。
これから中国に匹敵するペースで経済成長するはずだと分かっているのに、劣悪な生活環境のイメージ等から日本人はインドに行きたがらないのでこれはチャンスだ!就活で有利になりそう!と思いました。2つ目は大学の成績が悪くてアメリカに交換留学できなかったからです(笑)
②インドに行く前と実際に現地で仕事をしている今を比較して1番変化したことはなんですか?
1番変わったのは「目線の高さ」です。
インドに来る前は大企業に就職して、日本で一般的に言われる成功のレールにいかに乗るかを考えていました。
しかし、インド現地でチャレンジする日本人起業家たちや、インド人起業家、ベンチャーキャピタリストたちと話す中で、自分も人生で成し遂げる成果の最大化を目指してチャレンジしていきたいと思いました。
また、GoogleやMicrosoftの現CEOやソフトバンクの後継者といわれるニケシュアローラ氏に代表されるようにインドからは世界屈指の人材が輩出されています。
同世代では、ソフトバンクらから約250億円を調達するインド最大の格安ホテルポータルOyo Roomsを創業した現在22歳のRitesh Agarwalがいます。
彼らのような優秀でハングリーなインド人たちと近くで働き、生活するチャンスを提供してくださったサイバーエージェント・ベンチャーズにはすごく感謝しており、成果で恩返ししたいと思っています。
インドに行く前とあまり変わっていないのは、たまにお酒を飲み過ぎてしまうところです。
以前インドで飲み過ぎて倒れて、頭を手術したことがあり、その時は死ぬかと思いました(笑)
③現地で感じたインドのスタートアップと、日本のスタートアップの環境の違いについて教えてください。
-まずは事業をしている人の違いについてお聞きしたいです。
インドの起業家の72%以上は35歳以下といわれ、特にバンガロールの起業家の平均年齢は28.5歳と世界のスタートアップ都市の中で最も若いです。
インド工科大学(IIT)の学生たちを中心に学生起業や新卒1000万円以上のオファーを蹴って卒業後すぐに起業するといったことも増えています。
ただ、インドのスタートアップの競争環境は世界的にも非常に厳しく、1つのマーケットセグメントに10社以上、多い分野では50社以上がしのぎを削ります。
そのため実際に資金調達し、事業を成長させているのは少なくとも1~2年以上の事業経験を積んだ創業者がほとんどですね。
-資金調達環境の違いについてはどうですか?
インドでは2014年後半から2015年にかけてスタートアップブームとなり、2015年1年間で$7~9B(約8000億円~1兆円)の投資が行われました。
しかし、2015年の第4四半期に多額の資金調達をしたスタートアップから事業停止や倒産するものが出たため、現在の資金調達環境は落ち着きをみせています。投資家はこれまでユーザー数や総流通額といった指標に目を向けていましたが、現在はユニットエコノミクスやリテンション率といったビジネスの健全性を判断材料としてより重視していますね。
インドでは主にSequoia Capital、Tiger Global Management、Accel PartnersのようなUS系VCとNexus Venture PartnersやBlume Venturesのようなインド系VCが活発に投資活動を行なっています。
近年ソフトバンクやAlibaba、Naspersのような外資系企業や日系・中国系VCも続々と参入しています。
また、インド政府はStartup Indiaという政策を掲げ、初年度250億ルピー、今後4年間で1,000億ルピー(約1,600億円)のファンドオブファンズ設立や信用保証制度の整備による銀行融資の促進などのアクションプランを発表し、インドスタートアップの資金調達環境のさらなる改善に取り組んでいます。
こういった政府の後押しもインドのスタートアップエコシステムの活性化に大きな影響を及ぼしていますね。
④現地で感じる最新トレンドについて教えてください。
マクロトレンドについては以前こちらの記事で言及しましたので、今回はもう少しミクロなトレンドの変化についてお話します。
これまでインドスタートアップはECommerceとその周辺分野のPaymentやLogistics、そしてオンデマンドサービスを中心に発展してきました。
FlipkartやSnapdeal、MakemytripやOla Cabといったインドを代表するスタートアップもこれらの領域から生まれています。ECommerceの発展により人々はより安価で品質の高い商品を便利に購買できるようになり、オンデマンドサービスの発展により、タクシー配車やデリバリーなどの便利なサービスをいつでも好きな時に利用できるようになりました。
そして現地で感じる最新のトレンドとしては2点あります。
1点目はスタートアップが取り組むマーケット領域の多様化です。
Healthcare領域では病院・医師検索サービスと病院向けSaaSアプリケーションを提供するPractoだけでなく、遠隔医療や訪問医療、医薬品デリバリー等のサービスが生まれています。
FinTch領域では、モバイルウォレットのPaytm、ペイメントゲートウェイのPayUだけでなく、LendingやInsuranceにも多くのスタートアップが生まれています。
さらに結婚式や車・バイク領域、ファッション、ビューティー、インテリアなど日本でリクルートが取り組んでいるようなライフイベントにフォーカスしたスタートアップが続々と誕生しています。
2点目は既存ビジネスへのテクノロジーの浸透です。
先ほどあげたPractoはSaaSアプリケーションを病院に導入し、病院のIT化を推し進めてます。また、Ezetapは小売店にモバイルPOSシステムを提供し、Paytmから資金調達したLoginextは物流効率化のためのSaaSアプリケーションを提供しています。
これら以外にも農業、建設、不動産、製造業など多くの分野にIT化を促すサービスが誕生していますね。
⑤現状を踏まえてこれからのインドスタートアップの可能性についてどう思いますか?
‐カテゴリーについて
日本やアメリカのような先進国と異なり、インドはほぼ全ての既存分野が未成熟で多くの課題が残されています。
そのため、基本的に全ての分野にチャンスがあると考えていますが、その中でも特に注目しているのは解決すべき課題が大きい分野です。
例えば、金融分野では銀行口座やクレジットカード、デビットカードを持っていないため、買い物や資産管理に不便さを抱えている人々が多くいます。
また、修理や結婚式のためにまとまったお金が必要になったり、車や家などの大きな買い物をする際に銀行借入やローンを組むことができない人々、病気や事故にあった際に保険に加入しておらず、自己負担ができない人々も多く残されています。
FinTechスタートアップは、人々の生活に大きく関わるこれらの課題の解決に取り組んでおり、大きな注目が集まっています。
さらに、教育分野では地方に住んでいるためにレベルの高い学校教育やスキルトレーニングを受けたくても受けることのできない人々がいたり、医療分野では病院や医師のレベルのばらつきから最適な医療を受けられない人々や、地方に住んでおり足腰が悪いために病院まで行くことのできない人々が多く残されているなど切実な課題が存在しています。
こういった日本やアメリカでは過去30年間で解決されてきた人々の生活に大きく関わる問題が、インドではまだまだ解決されていません。
それらの大きな問題をテクノロジーを活用して解決することで、世界を大きく変えるスタートアップがインドから生まれるだろうと思っています。
‐アジアやアメリカ、ヨーロッパなど世界との関係はどうですか?
インドは1980年代頃からアメリカのアウトソース先としてIT産業が発展してきました。また、インドからアメリカへの留学生やアメリカで働くインド人もとても多く、アメリカで経験を積んでからインドに戻り、起業する人が増えています。
GoogleやFacebookをはじめとするシリコンバレーのトップ企業での経験をインドに持ち帰るため、インドのトップスタートアップでは世界でも最先端のスキルや組織論が活用されています。
また、インドの英会話者比率は10~15%程度といわれていますが、若年層のそれはもっと高く彼らは英語で海外の最新情報を取得し、英語で会話します。情報レベルは想像以上に高いですね。
⑥日本からインドへのチャンスについて教えてください
インドで成功する日本企業は正直まだまだ少ないです。現在インドで成功している企業として有名なのは、スズキやホンダなどの自動車・バイク企業や日立などの電機メーカー、そしてユニ・チャームやマンダムなどの消費財メーカーと数えられる程度です。
インドでは日本ブランドは通用しないといわれていますが、確かに東南アジアや中国、台湾と比べるとそのとおりだと感じています。
それでは日本のスタートアップにはチャンスがないかというと、そんなことはないのではないかいうのが僕の個人的な考えです。たしかにインドでは日本ブランドが通用しにくく、文化や価値観も大きく異なるため、日本人が取り組むべき領域は限られますし、難易度は非常に高いです。
ただ、日本人に優位性のあるマーケット領域で日本人に優位性のあるナレッジ、スキルを活かし、優秀なインド人とタッグを組んでチャレンジする事ができれば十分に可能性があると考えています。
日本人に優位性のあるマーケット領域としては、アメリカで福利厚生サービスを提供するAnyperkがよい例ですね。また、KPIを設定して、それに対して愚直に改善を繰り返していく事業推進力はインド人が苦手としていることもあり、日本人に優位性があるのではないかと思っています。
⑥インドから見る日本のスタートアップエコシステムで改善できる点はありますか?
前提として、インドのスタートアップエコシステムは日本から学ぶべきことが多くあると感じています。時間通りに仕事を推し進める実行力や、ユーザーの気持ちを理解してより良いプロダクトやサービスを提供しようというマインドを日本人は持っており、これらはインドが日本から学ぶべき点だと思います。
その一方で、日本のスタートアップエコシステムがインドから学ぶべきことは、チャレンジ精神と目線の高さです。インド工科大学(IIT)を卒業し、高待遇のオファーを蹴って起業する人材が多くいるように、インドではトップ人材がリスクをとって起業します。
また、国内外で活躍するインド人たちをロールモデルとし、世界で成功することを目指す目線の高さは学ぶべき点です。日本人が目線をあげるためには、日本人で世界で成功するロールモデルが必要だと思います。また、成功とまでいかずとも海外のスタートアップで働く日本人を増やし、その経験を日本のスタートアップエコシステムに還元することも大きな価値があると考えています。
インドではシリコンバレーより安価に英語とプログラミングを学ぶことができ、同時に世界トップレベルの経済成長の熱を味わえます。
僕自身バンガロールに居住していることもあり、インドで英語やプログラミングを学びたい方、現地のスタートアップでインターンをしたい方の相談にのらせて頂いています。また、バンガロールのスタートアップツアーも構想中ですので、このあたり興味ある方はいつでもFacebookかTwitterからご連絡ください!
優人さんお忙しい中ご協力いただきありがとうございました!
優人さんのお話しは、目から鱗の内容で私たちも何回も読み込んでしまいました。
実際に現地で働いている優人さんでしかわからない情報が盛りだくさんで、さらにインドをもっと知りたいと思いました。
注目されている、大規模資金調達や市場の大きさなど明るい部分の他にも、指摘されているバブルの側面や、インフラ環境の面など、見るべき要素はたくさんあるため1つでも多くを吸収し持ち帰りたいと思います。
改めて、優人さん今回は本当にありがとうございました!!