2019/05/17 11:52

北の国に
小さな出版社がありました。

よいしょ よいしょ
ふうふうふう と息を切らせて

白髪頭の猫背の
社長さんがリュックを背負ってときどき

東京にも出てきました
東京にも小さな小さな支社があったのでした。

本が売れると社長さんは
にこにこ笑って(本当にうれしそうな顔で

ありがとうございます!(本当にありがたい大きな声で
本屋さんやお客さんにお礼を言いました。

ありがとうございます!(何度も聞きたい良い声なんです

でも
本はあまり売れません。

なぜかというと、
ありがとうございます!(売れるとあんなに喜ぶのに

なかなか売れない本ばかり
作るからです。

わるい本だからですか?

いいえ。
わたしは、この小さな出版社から出る
本を幾冊か見せてもらって、びっくり、たまげました。

とても、いい本ばかりです。
装丁もどれも、とてもすばらしい!

「いい本ばかりじゃないですか!」とわたしが言うと
「はい。いい本ばかりでしょう?」とにこにこ顔の社長さん。

「はい。売れていい本ばかりです!」とわたし。
「でも、売れません」としょんぼり顔の社長さん。

「売れないのに、なぜ作るのですか?」とわたし。
「好きだからですよ。」にこにこ顔にもどった社長さん。

売れるのが大好きなのに
売れない本ばかりだす社長さん。
理由は「すきだから」それだけの社長さん。

大好きより、好きだから
をとる、社長さん。
(うーん、いみしんだ。)

「わたしもここで、新しい詩集を出したいな」とぽろりとことばが
出てしまったわたし。

「是非、出してください!」とにこにこ顔の社長さん。
「詩はあるけれど、先立つものがね…ちょっと待ってね。」

そんなこんなの……やりとりが
ありまして、の矢先でした。
ぷっつり。音信が途絶えたある日のこと。

「ぼくは、にゅういんしています。にども、たおれました」
「いろいろ、たいへんじゃないですか。」
「いろいろ、たいへんです。でも、がんばります。」

それから、やっと退院できたという、社長さん。
「げんこうは、できましたか?みやおさん」
「はい。げんこうは、ほぼできているのですが…」
そんなこんなの、やりとりがあって・・・(中略)

「あのね、社長さん」
「なんですか、宮尾さん」

「わたし、ふつうにだすのじゃなくて、たのしいことをしたい。
だれかひとりが(とくにしじんが)、ふうふうくろうするのじゃなくて、だれもが、
すこしずつくろうして、だれもが(しじんもが)、すこしずつうれしいような。
あたらしいほうほうで、だしたい。」

「そんなにうまく、いくのでしょうか」
「いくかもしれない、いかないかもしれない」

「だいじょうぶですか」
「だいじょうぶかもしれない、だいじょうぶじゃないかもしれない」

「冒険ですね」
「はい。詩は冒険です」
・・・・
「いい本を、だしましょう」
「いい本に、してください」

じつは、そんなやりとりがあってはじまった
詩集出版プロジェクトです。

そして、
「宮尾さん、今どんな気持ち?」
「太平洋ひとりぼっち、じゃない気持ち」
みなさんの、あたたかいご支援や応援のおかげで、今日まで
たどりつき、明日という最終日を迎えております。

みなさま、ご協力ほんとに
ありがとうございます!(社長さんのうれしい声が聞けますように!

そうそう、北の国の小さな出版社さんは
どんな本を出しているのか、どんな売れなくて
社長さんのだいすきな
いい本を出しているのかうっかり
言い忘れました。

「どんな本ですか。」
「文学の本です。」と社長さん。

とくに
詩の本とか、詩の読み方の本とか…
つまりは詩集や評論の本ですね。
詩集も売れませんが、文芸評論はもっと売れません。

そんな売れない本ばかりを、売れるのが大好きな(笑)社長さんが
二度も倒れて、入院しながら、北の国の出版社で出し続けているのです。

あ、カラスの本も出していました!
マリアカラスの写真集です、これも素晴らしいです。

「すきだから」というひとつの理由で。すてきじゃないですか?
わたしの明日の詩集も、この小さな明日の出版社から、みなさんのおかげで
出せそうです。ありがとうございます!!

あと、ちょっぴりで目標額にも達します。少しでも近づくと、
うれしいです。よろしくお願い致します。

ひさしぶりに、お会いした社長さんは、前には突いてなかった杖を
突いていました。

北の国に、本が売れるたびに、
「ありがとうございます!」の誰よりも大きくていい声が出せる
売れるのがだいすきなのに、売れない本ばかり出す、杖をついた社長さんがいる
小さな出版社があります。売れないけれど、いい本ばかりです。

売れなくても出すのは「すきだから」

そんな北の国でがんばっている小さな出版社の、
社長さんの退院祝いと「すきだから」祝いを兼ねて、
みなさんに頂いた応援を彼への応援に変えられることが、わたしのいちばんの宝です。

ありがとうございます!

そうそう、わたしも「つえの木」という目出度い詩を書いていました。それを、活動報告のさいごに載せさせて頂きますね。
ほんとうに、わたしには身にあまる、たくさんのご支援、応援、ありがとうございました。
こころより、感謝です。

宮尾節子拝