島に残る自然井戸の中でも、アマガーと呼ばれる井戸は最も原初的な形態を残している。漢字で書けば天川。役場から北西にすこし行ったところにある辻の一角に草が生えている空き地があり、その一部が凹んでいてちいさな穴が開いている。そこがアマガーの洞穴の入口だ。かつては桶を持った女性たちが列をつくって順番を待っているような賑わいのある場所だったに違いないが、今は使われていないので一種の遺跡でもある。井戸のそばにある大岩は島の古い神さまを祀る場所であり、岩の足元には石の香炉が置かれている。
アマガーの洞穴の断面の形状はまるで蟻の巣のようだ。地表から三メートルほど下った小さな窪地に洞穴の開口部があり、そこから斜めに下っていく狭い洞穴の斜度は、平均すれば二五度ないし三〇度くらいだろうか。地表からの深さはおよそ十四、五メートルで、入口から斜距離にして二五メートルほど下った最奥部に湧水がある。
(略)
アマガーの前を何度か行き来しては思いあぐねていた。だが結局、洞穴の入口を眺めながら逡巡したあとで、窪地を下りていった。草の間から地盤を粗く削ってつくった石段が認められたので、足で探りながら進んでいった。
洞穴の入口で立ち止まって内部をうかがうと、穴はひとがひとり入るのがやっとの狭さであり、内部は暗いが、傾斜は想像していたよりも緩やかに思われた。足元には岩肌を荒々しく階段状に刻んであって、その先は闇の中に消えている。
手を合わせて井戸の神さまに許しを乞い、深呼吸してから洞穴を降りていった。