シェア=国際保健協力市民の会で日本に住む外国人に関する医療電話相談を担当している廣野です。
昨年9~10月に挑戦しましたクラウドファンディングでご支援くださいました皆さまに心から御礼申し上げます。
今回は、ご協力を得て実施することができた母子保健に関する通訳派遣の調整や相談対応について、報告致します。
母子保健にかかわる通訳ニーズ
シェアは、事前調査を含めると2015年から日本に住む外国人を対象とした母子保健に関わる活動を続けています。母子保健関連の通訳派遣依頼は年々増えていて、2019年では、結核やHIVに関する通訳派遣を除き、全体の78%が妊娠・出産や幼い子どもに関わる通訳派遣でした。
具体的には、先天性の複雑な疾患やそれに関わる治療、手術などに関する説明の際の通訳依頼が特に多くなっています。両親共にまったく日本語がわからず、予防接種や各健診などの丁寧な説明が必要になるケースへの派遣もあります。日本で出産したとしても、その後、一時的に帰国をすることもあり、予防接種を正確にフォローすることが必要になることなども、通訳を入れての説明が必要になる背景としてあるようです。
また、事情があってシングル・マザーとして出産を迎えることになり、日本に留まるのか、帰国をするのかの意志の確認、そして、その選択に伴う支援体制の検討をする際の通訳依頼もあります。
多くのケースで、それまでは、翻訳アプリを使ったり、家族や知人などが通訳者として関わっていました。しかし、内容によって高い正確性が求められる、また、当事者が構わないと言っていても、個人のプライバシーへの配慮が必要と考えて、中立なシェアへの派遣依頼になるという事情もあります。いずれも、母子の今後の生活や健康にかかわる大切な場面において、通訳のニーズがあることがわかります。
今のところ、これまでも連携があった保健所や病院からの通訳派遣依頼が多いのですが、今後は、これまでに依頼のなかった保健医療機関とも繋がって通訳派遣をすることで、母子、保健医療機関側共に、正確な理解ができている状況をつくり、安心して妊娠や出産、病気の治療などに繋げることに協力ができればと思います。
相談から見える保健医療従事者の思い
母子保健にかかわる相談で圧倒的に多いのは、先にも述べた通訳派遣に関する相談です。
そして、通訳派遣以外も、「妊娠したら仕事が続けられなくなり、就労の在留資格を維持することができないかもしれないがどうしたらよいか」、「両親の在留資格が不安定で、自治体から予防接種の補助が受けられないので困っている」、「超過滞在になってしまったが、母子手帳はもらえるのか」などの相談が、当事者や当事者にかかわる医療ソーシャルワーカー、保健師、また、シェアと母子保健分野で一緒に活動しているネパール人女性普及員などから寄せられています。
外国人の場合、在留資格の維持は生活の多くの側面で、大変切実な課題です。子どもについても同じことが言えますが、一方で、子どもの福祉の観点から、例えば、超過滞在であったとしても、母子手帳をもらうことは可能ですし、在留資格の有無よりも「居住の実態(実際にその自治体に住んでいること)」に重きが置かれ、予防接種を含め多くの母子保健サービスを受けることは可能です。しかし、それが広く知られていないこともあり、保健所が限定的なサービス提供に留まっている実態があります。行政が、母子保健分野でサービス提供を抑制すると、早い段階で妊娠、出産やその後の発達の異常に気づけない、感染症のリスクになる、など負の連鎖に繋がります。
シェアでは、特に地域の保健師に対して、相談対応を通じて、早い段階でかかわることこそ、地域が外国人母子の健康を守ることになること、後々の社会的なコストの節約に直結することを伝えています。
幸いなのは、シェアに相談をする保健医療従事者は「この母子を何とか支援したい!」と考え、その手立てを知るためにシェアに連絡をしてくれていることです。これからもこうした外国人母子を支える保健医療従事者の熱い思いにも応えられるよう、シェアは取り組みを続けてまいります。
廣野 富美子
シェア=国際保健協力市民の会
在日外国人支援事業担当
社会福祉士