NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワークが、豊島区に在住しさまざまなご事情で生活に余裕がない子どもがいる世帯へ、進学に関係することになら使途を限定せず返済も不要の給付金「WAKUWAKU応援給付金」を贈るプロジェクトをスタート。その原資を集めるための寄付キャンペーンを展開中だ。
今回は、こども食堂の啓発・発展を中心に、子どもの貧困問題の解消へ取り組んでいる湯浅誠さん(社会活動家。東京大学先端科学技術研究センター特任教授。全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長)をお迎えし、WAKUWAKUネットワーク理事長・栗林知絵子と対談していただいた。
■地域の中でお金を集めて社会課題を解決する
——今回「WAKUWAKU応援給付金」を贈るためのキャンペーンがスタートしていますが、改めて動機をお聞かせください。
栗林:これまでプレーパークや子ども食堂などWAKUWAKUの実践を通じてさまざまな人と繋がってきて、そのおかげでいくつもの社会課題の解決に取り組んできました。ただ、そうであっても、やはり「お金」だけはどうにもならないなとも痛感していました。たとえば「冷蔵庫が壊れて困った」という声があがったら呼び掛けるとすぐ集まるなど、物品なら地域で集めて渡すことが出来る。
でも、それだとどうしても選択肢は限られてしまう。そこで、なんとかサポートしたいと考えたことがきっかけです。
一番最初は4年前、WAKUWAKUのボランティアの方の呼びかけでチャリティーカレーパーティを開催し、その収益を贈る形をとっていたところ、その活動を聞いた『株式会社カタログハウス』さんが2年間のお約束で年間200万円を原資としてご寄付くださり、そうして「WAKUWAKU応援給付金」が本格的にスタート。2017年・2018年の2年間で110世帯へ届けることができました。
そのお約束の期間が終了し、それでも継続してほしいという声はたくさん聞かれたことを踏まえ、ある意味で初心に返り、また今度は豊島区だけでなく広く子どもの社会課題解決に関心のある人たちと繋がることで、みんなの力でこの給付金を成立出来ないかと考えたんです。
——今回の「WAKUWAKU応援給付金」について最初に伺った時、どのようにお感じになられましたか?
湯浅さん:素晴らしい取り組みだと思います。一般的には、家族ではない人たちに手を差し伸べることはすごく勇気のいることだと考えます。自分も、誰もが家族の壁を乗り越えて、地域に住む子どもについて「我がこと」として考えてくれたらと思っているので。
——こういった取り組みは、NPOのような民間で実施するのではなく、あくまで公的な枠組みでおこなうべきだという意見もあります。湯浅さんご自身は、「全国こども食堂支援センター・むすびえ」の活動などで積極的に民間企業との協働に取り組んでおられるように伺えるのですが、この社会問題解決の主体を「民間」あるいは「公的」どちらに置くのかについてお考えはありますか?
湯浅さん:そこは二者択一ではないんですね。公的なサービスは「全員」のお金を使うので、どれだけ一部の人がある社会課題を「これを解決するためにお金を使うべきだ」と訴えても、より多くの人の賛同を得られない限り、執行機関たる公的機関は動けない。
だからこそ、多くの人の納得を得るために企業を含む民間へ広く呼び掛け、支援の裾野を広げることが必要です。そのことが、多くの人の賛同を得ることにつながり、ひいては公的機関がお金を出しやすい環境に繋がっていくのではないかと考えています。
栗林:私も豊島区を中心に活動をしていて、地元の中小企業の方にご支援いただき、また意識的に巻き込むようにしています。それらの社長さんとお話していると、やはり自分たちの町を自分たちで良くしたいという強い思いを感じます。
湯浅さん:こども食堂はそういった地元の企業や、それこそ事業者としての農家やお寺など、一般に中小零細ともいわれる企業が積極的に運営を支援しているところが多いです。
一方で、大企業となると逆にそれが難しいんですね。特定のこども食堂を支援すると「どうしてあそことは組むのに、こちらとは組まないのか」と社内で聞かれてしまう。だから、そういった時のカウンターパートを務めることが「むすびえ」の役割のひとつです。直近ではカゴメ株式会社さんと全国のこども食堂へ野菜ジュースを寄付するキャンペーンをおこないましたが(https://musubie.org/news/1260/)、さまざまなアクターがさまざまなやりやすい形で地域課題に取り組むことが、世間一般の理解を広げていくことになるのだと思います。
そこは事業規模の大小ではないんですね。とはいえ、企業協働は地域の中小企業の方が圧倒的に進んでいると思います。
栗林:私たちがこども食堂をスタートした当時も、区役所など行政の方は見学に来ましたが、公平性に欠けるし力になれないと言われました。それは当然の理屈だと思いますし、だからこそ地域住民や地元企業などを巻き込みながら民間の力でやってきました。やってきた中でこども食堂は全国に増え、それを支援する公的なメニューもだんだん増えてきて、現在は東京都が率先してこども食堂への補助金制度を作るなど、社会が民間の力で変化していく過程を実感しています。
■官民の異文化交流の最中で
——複数のステークスホルダーを巻き込みながら活動を続けるお二人ですが、その中で特に心に留めていることをお聞かせ下さい。
栗林:試行錯誤中ですね。今現在、豊島子どもWAKUWAKUネットワークで運営する支援の現場には外国にルーツを持つ子どもやその親がとても増えていて、その多文化交流としての関わり方については日々学びの最中ですね。
一方で、前述した私たち「NPO」と「民間企業」、そして行政が連携して社会課題に取り組むことが増えてきて、それらの文化がまるで違うセクター同士の「多文化交流」もまた学びの途中でもあります。
お互いどのように尊重し合い、一緒にプロジェクトをやっていくのか。湯浅さんはそういった官民の異文化交流の最前線に関わられていと思うのですが、どのようにお考えですか?
湯浅さん:今でこそ、品川区が「子ども食堂の支援としあわせ食卓事業で、子どもたちの心の笑顔をつくりたい」というガバメントクラウドファンディングでお金を集めるという変化がありますが(https://www.furusato-tax.jp/gcf/608)、行政というのは通常は集まった税金で何らかの事業をおこなう。それで何十年と運営を続けてきたのだから、放っておけば自分達のやり慣れたやり方や人間関係で物事は進んでいくわけです。
当然、その変化は遅い。
しかし、今につながる「こども食堂」の活動は、たとえば「町会」のような既存の枠組みの外から出てきた活動なのです。今まではこういった慈善の活動についても、市役所は自治体連合会へ組み、その自治体連合会は傘下にいる自治会長たちが仕切り、その周りに役員達がいて、それらの人が核となって自治体をまわしてきました。そういった発想から、何十年もやってきたわけです。
その枠外から「こども食堂」はポーンと現れたわけで、最初は「なんだこいつは?」と反発もされました。
現在までのこども食堂の活動、特にここ5〜6年の積み重ねがあって、反発していた既存の枠組みの人々の中から「やっぱり自治会としてもコミットするべきだよな」とか「そういえば地域資源資源としてお寺が拠点として使えるよな」など、受け入れ始め、自分達でもこども食堂の担い手となりつつある人が増えてきています。
最初は「怪しいよそ者」に過ぎなかったとこから、速い変化で既存の枠組み本体を揺るがし始め、物事を実現させるルールの多様さが認められてきました。
栗林さんの現場こそ、そんなぶつかり合いの先端にいるのではないかと思います。
■地域の理論を乗り越えて
湯浅さん:「こども食堂」というテーマを考えてみると、それは「地域の論理」に留まってないし、それに従って進んではいません。
「地域の論理」というのは、その担い手がこの地域のためにどれだけ汗をかいてきたか・貢献してきたかで評価されるということ。たとえば民生委員や健全育成員、保護司など、行政が作った役割を何十年も引き受けた方が「地域で汗をかいた」といえ、それなりに評価され、地域の中心的な担い手になっていくという論理です。
その論理からすると、何の委員もやったことがない方が「こども食堂」などを立ち上げ、市民活動の担い手としてポッと出てくると、最初はどうしても反発から入ってしまいます。それはもう仕方がない。別に悪気があるわけではないのです。
栗林:この前、豊島区行政の方や他の市民活動団体と一緒に「これからの豊島」を考える「豊島みんなの円卓会議」という場を開催し、ざっくばらんに意見交換をしたのですが、それぞれの垣根を感じない和やかな空気で行えたんです。第二回開催を呼び掛けているところなのですが、内心「もう来てくれないんじゃないか」とハラハラしていたところ「ぜひ参加します!」と手を上げてくださって安心しました。こんなふうに、新しい形の可能性が広がっていければと考えています。
湯浅さん:京都市が「未来まちづくり100人委員会」というものを開催したのが、ひとつのモデルケースになるかなと思います。(https://www.city.kyoto.lg.jp/sogo/page/0000042757.html)京都市のこれからを考える時、100年続く町屋さんもいれば、学生さんもいる。いろいろな立場がいる人は当然で、だからこそそういう人達が100人集まって街のビジョンを考えていこうとする委員会です。
「豊島みんなの円卓会議」も今始まったばかりの試みということなので、2〜3年後のような長い目で目指していけたらいいですよね。
栗林:今自分の活動は主に子ども支援が中心ですが、でももちろん困っているのは子どもだけではなく、そもそも親の困窮が原因にありますし、祖父母も困窮しているケースもあります。また豊島区はホームレスの方もいます。
それぞれの社会的な立場を越えて「困っている人」という一括りとして、さまざまな問題を包摂していけたらと、多くの人が考えていると思います。
今おこなっているフードパントリーの活動ももっと広げていく予定なのですが、そこには最終的にはホームレス支援の団体との連携協働を、解決のゴールとしたいと考えています。
湯浅さん:いいんじゃないですか。なんか区長みたい(笑)
■社会課題に関わるチケットとして
——困っている世帯へ直接お渡しすること以上に、集めること自体で地域を繋ごうと考える「WAKUWAKU応援給付金」へ改めてエールをいただけないでしょうか?
湯浅さん:「WAKUWAKU応援給付金」については素晴らしい取り組みで、注文すべきことはありません。頑張ってほしい。自分も寄付します。
栗林:はい、応援してください(笑) ※あとでご寄付いただきました。
湯浅さん:今回は地域を含め一般の方を中心に集めようとしているようですが、たとえば企業も巻き込んで今後広げようとするなら、「マッチャー」を獲得してマッチング寄付の形を組んだらいいと思います。たとえば自分達で100万集めてみせるから、企業の皆さんも100万集めて寄付してね、というような。そういった「あんたたちがんばるなら俺たちも頑張る」といった仲間作りというのはありだなと考えています。
栗林:今回の給付金にご支援いただいた方にいわれたのですが、こども食堂などの現場の活動には参加できないけれど、困ってるなら金銭の形で応援しようと。それは地域の問題を考える機会に参加するチケットを買うようなものだね、とおっしゃられたんです。
チケットを持つ人が多くなればなるほど、豊島区は困っている子どもたちのことを置き去りにすることなく応援している街なのだ、ということになる。
子ども食堂だって、「場を提供する人」「作る人」「食材提供する人」「寄付する人」がいる。結局、街全体でみんなが参加する活動になりつつあると思うんです。
今回の「WAKUWAKU応援給付金」のプロジェクトを成功させた上で、給付金のみならず「地域の中でお金がない」「助けてと言えない」という状況について、もっと積極的な形で解決する方法を考えていきたいです。複数の立場や文化へその課題をちゃんと伝えて、みんなの力で『地域でこの子を大切に育てる』という分かりやすい形を作っていくことに繋げていきたいと思います。
——湯浅さん、栗林さん、ありがとうございました!