2019/11/13 08:01

quazero – カゼロウ

今沢カゲロウ ルワンダ滞在目撃録2


雨季真っ只中のルワンダは気まぐれなリズムで雨が降る。ほとんど終日しとしとと降ることもあれば、ザッと降って上がってを一日のうちに何度も繰り返すこともある。

この日の午前中、目の前が真っ白になる程の降雨があった。トタン屋根は方々に音を響かせ打ち合わせのない共演をはじめる。跳ね返る飛沫は風の流れを可視化してくれ、この日は渦を巻くような吹き方ばかりだった。


午後一番で学校校庭での演奏のアポイントが入っていたため、普段の生活ではあまり気にしない空模様にそわそわしていた。

きっとカゲロウさん着陸時もタイミング良く晴れたから大丈夫だろう、と彼の天気運に密かに期待しながら。

そして、やはり期待を裏切らなかった。

「やー、大丈夫でしたねー」とカラッとした声で現れる。


この日は学芸発表会で、子供達が練習した催しを親御さんに披露する日だ。
小学校1年生から6年生。
家庭の事情で数年学校を抜けたり、経済的な状況で学校に行けなくなってしまったり、ということがあるため 6歳から15歳くらいまでの子が通っている。

日本からの特別ゲストとして特設の席に案内していただいた。


子供達のパフォーマンスを見守る


ドラムのパフォーマンスを聞きながら、膝でリズムを取っている。ただドラムと同じように拍を刻むのではなく、何かを数えながら打っているように見えた。

座ったまま姿勢を変えず、ピンっと張った革から弾ける音の粒を目で捉えているようだった。


生徒の発表がひと段落すると、本日のスペシャルゲストとして校長先生から紹介を受ける。
子供達の眼差しは、興味と怪訝と好奇心と不審などがあれこれ入り混じったようなものだった。
それは、校長先生以外の先生の眼差しも同じだった。

この人はこれから何をするんだろう、、、喧騒のさなかに一瞬の静寂が訪れた。


校長先生からの紹介中 子供達の眼差しの数々


それをザッと切り裂いたのは彼のヴォイス・パーカッション。

ベースを持ちながらも全く弾かず、南インドの古典リズムにインスパイアされたタ行やカ行メインの早口フレーズ(コナッコル)が散りばめられる。

ムという顔をしていた子供達がどわぁっと一気に盛り上がった。手を叩いて喜ぶ子や、隣の子の肩を叩いて、ねぇ!あれ!と目を見合わせる子、きゃっきゃと声をあげる子など、一瞬で場の空気が変わった。


笑い声で空気が揺れる


そんなことを気にも止めない様子でひたすら全力でパフォーマンスをする。

お客さんが盛り上がっていようがいまいが関係ないんじゃないかと感じさせる彼の姿は、ただただ表現が溢れている。
いちいち小さな反応に惑わされることは無いのだろう、豪速で過ぎ抜けてカラッとした顔でまた別のところに現れる。

朝の雨飛沫の渦はこのシーンの予知だったのだろうか。


1970年代ルワンダの切手に蝉が登場  今はあまり鳴き声を耳にしない





「みんなコナッコル(ヴォイス・パーカッション)が好きなんですね〜」と演奏後の移動中にぽろりと。

盛り上がりのうちに幕を閉じた今沢色に満ちた一連のパフォーマンスだったが「音楽が好きなんですね〜」や「ベースが好きなんですね〜」や「楽器が好きなんですね〜」ではない発言が、彼をますますベーシストからぼやけさせる。
確かにベーシストさんなんだが、ベーシストということばでは表しきれない何かがある。

ルワンダ側で様々なアポイントを取る際に、最も的確に彼を描写できる文言を編み出せず歯痒い思いをしていた。何者なんだろうか。

それは今も模索している。



翌日、挨拶をしに学校に立ち寄ると校長先生自らベースを弾くモノマネをして迎えてくれた。

「もう、あのあと大変だったんだから!子供たちも先生も親御さんもみーんなベース演奏の真似して!来てくれて本当にありがとうね!ああいう将来の道もあるって示せてよかったわ」


フォトショップやイラストレーターを自在に使いこなすルワンダ人にどこで勉強したのか聞くとYouTube、中国語がペラペラなルワンダ人にどこで勉強したのかを聞くとYouTube、
インターネットの恩恵により学びへのアクセスは容易になっている中でもなお、直接の体験のインパクトは色褪せない。

YouTubeで演奏を見るのと、生で見るのでは大違いなのは明らかで、特に彼のスタイルはその違いが如実すぎる。

しばらくしたらまた子供達に会いに行ってみよう。


明日もベース一本アンプ一台を携え、mind-blowingの旅は続く


(文・写真:masako kato)