『泡沫少女』メイキング日記
2/9 オーディション。
△事前打ち合わせの様子
緊張感。
支配する空気はそれで間違いない。なんせここはオーディションの現場。
監督と役者の真剣勝負の場、しかもお互いにとって初対面かつ一発勝負の場、なのだ。
役に応募した理由、課題演技、ダンス、そのひと通りを終えて最後にもう一度監督と役者が互いに感じたことを聞き、応える。
オーディションは終始そんな流れで進む。
でも不思議なのが、ピリッとしたとか、ピーンと空気が張り詰めたとか、そういった空気でもない。
やってくる役者は当然緊張している。なにより、西端監督が緊張している。
でもなんというか、緊張の角が丸い。
「オーディションをやるのも初めてだし、どんな質問をしたらいいのか。役者の能力を引き出すために、どう振る舞えばいいのか」
監督はオーディション前にそんなことを言っていた。
初めての100%自分主導で進める映画制作。
しかもこの場だけで10人以上のクリエイターがスタッフとして集まっている。
たくさんの人を巻き込みながら進む、大きなプロジェクトなのだ。
きっと不安もたくさんあるんだろう。
ただ、そこはやっぱりプロだった。
最初の質疑応答は監督も役者も緊張気味。
でも、役者は課題演技に入るとスッと自分の世界に入っていく。
そして監督もまた、その役者の姿を見て目が変わる。
勝負師の目となる。
お互いがお互いの役に徹する。
文字にすればプロフェッショナルな空間。
しかも、極上なプロフェッショナル。
最初、緊張の角が丸いのは西端監督の人柄によるんだろうと、ありがちな形で片付けようとしていた。
たしかにそれもあると思う。
でも、何組か立ち会って感じるようになってきた。
それまで、オーディションとは「お互いの能力をぶつけ合うもの」と思っていた。
でもどうやら、それは違った。
お互いを理解し合おうとする場、なんだ。
だから緊張感はぶつかり合うけど、お互い削り合うことはしない。
プロ同士がリスペクトを持って対峙する場。
だから生まれる丸い緊張感。
清々しいこの空気こそオーディションの本質、醍醐味なのかもしれない。
さあ、いよいよ映画づくりが始まった。
(取材:大竹一平)(イラスト:山中千尋)