コロナ禍で、わたしの日常生活から様々なものが研ぎ澄まされてきたような気がする。もちろん、仕事にはかなり影響が出ている。わたしたちBiSHにとってライブは大切な活動の一つであるし、それができないのは活動が止まっているようで不安になる。
お客さんがいるライブが当然だったのに、無観客ライブを配信したり、自宅からリモートで中継をしたり、これまで当たり前だったことが変化している。ライブ会場に足を運ばなくても多くの人が自宅で楽しめる配信ライブのメリットも感じているが、生身の人と人とが直接対面するライブハウスでしか味わえないものが確かにあったのだなと、あらためて実感する気持ちもある。
会社勤めをしているわたしの父親もテレワークだ。「今までの会議は無駄だったなー」と言っていたのが印象的だった。コロナ禍で今までの無駄だった時間が浮き彫りになり、より効率化が著しくなったのではないか。世の中で誰もが時間を割くことに対し「これ、必要ある? 意味ある?」と疑問を呈しているようだ。面倒なもの、効率の悪いものはどんどん無駄なものとして時代に沿って形を変えていく。
わたしはそんな“無駄な時間”がなくなるのが少し寂しい。会社まで足を運び同じ部屋に集まって会議をするのは、家でパソコンさえあればできる画面上の会議と比べれば効率の悪いことかもしれない。でも会議室まで行く道のりで同僚と世間話をしたり、会議が終わった流れで一緒にお昼ゴハンを食べたり、それらは一見無駄かもしれないが、わたしはそんな時間がなくなってしまうのが惜しいのだ。
家で視聴する配信ライブもいいけど、ライブ会場までチケットを握りしめて自分の足で向かう道のりも含め、“無駄な時間”も大切なライブをより楽しむための時間だったのかもしれない。
“無駄な時間”といえば、いま考えるとあの時間はなんだったんだろうと思い出すことがある。BiSHがセカンド・アルバム『FAKE METAL JACKET』を出したころの話だ。BiSHの振り付けのほとんどはメンバーのアイナが担当してくれているが、このアルバムに収録されている「ALL YOU NEED IS LOVE」という曲の最後のサビの振り付けはメンバー全員で考えることになった。
深夜にスタジオに入って夜通しみんなでいろんな案をあれこれと出しあったが、どれもそんなにピンとこなかった。外はだんだんと明るくなり、もう何が正解なのかわからなくなっているころ、プロデューサーの渡辺さんがスタジオに様子を見に来てくれた。わたしたちはそのときの自分たちの出せる精いっぱいの振り付けを披露すると、渡辺さんはなんか違うんだよなあという顔をしていたが、披露したわたしたちも同じような気持ちだった。
煮詰まっていたわたしたちは、とりあえず円になって渡辺さんが差し入れに買ってきてくれたコンビニのシュークリームやらをみんなで食べることにした。そのときのわたしたちは疲れていた上に振り付けも決まっていなかったけれど、切羽詰まった状況というよりは文化祭の準備をクラスでしているようなわくわく感もあって、わたしはなんとなく楽しかった。
夜通し考えてしっくりくるものが思いつかなかったわけだし、これ以上考えてもいいものは出てこないだろうなという雰囲気が漂っていたが、結局シュークリームを食べ終わった後、渡辺さんも交えて一緒に振り付けを考えることになった。みんなずっと起きていてナチュラルハイだったこともあり、振り付けを考えるというよりは、渡辺さんも含め全員ただふざけて踊っていた。
そんななか、これはどうだ? と渡辺さんが出した振り付け案は、みんなで肩を組んでとにかく左右に飛んで移動するというものだった。こんな簡単な振り付けなら夜通し考えていたわたしたちの時間を返してくれと思ったが、これが妙にしっくりきてしまった。わたしは思わず笑ってしまった。みんなも結局これかと笑っていた気がする。
きっとそのとき、その場にいた全員がこれまでの時間はなんだったんだろうという気持ちだったと思うが、こういう時間こそがそのころのわたしたちには一番必要だったのかもしれない。一つの課題に対してみんなで、ああでもない、こうでもないと明け方まで話し合ったり、疲れた顔で笑い合ったり。当時のわたしはそんなこと考えずにただ眠たかったけれど。
でもあのとき食べたコンビニのシュークリームはなんだかすごく美味しくて、あとから思うと幸せな時間だったなと思う。一見なんの生産性もなくて、効率の悪いような時間が、いま思うと人との関わりの中ではとても貴重だった。
コロナの影響下にある今、同じ場所で誰かと同じ空気を吸って過ごす。そこでしか得られないものの大切さをひしひしと感じる。
効率や、生産性が重要視されている世の中だからこそ愛すべき無駄時間。平穏な世の中が戻っても面倒なものだと省くばかりではなくもっと大切にしていきたい。
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