2016/04/06 20:15

訪ねてきました!
いっぱい、聞いてきました!

 最近の数十年は、サーカス器具の制作に情熱を燃やし、

「使う人が陥りやすいミスを見越した安全性まで追求する」ものづくり…
なぜ、そこまで安全にこだわるのか?なぜ、そこまでの可能性を考え付くのか?

エルニーとリリ。おしどり夫妻は、いまから60年近く前に、人々の想像を超える、目も眩む技を次々に披露し続けたサーカス一族、伝説の「Diable Blanc」の継承者でした。

 現在も「The Walk」という、アメリカツインタワーの間をワイヤーで渡ったフィリップ・プチが有名ですが、まさにその映画に登場するフィリップの師匠こそ、今回、私が会ったリリのお父さんです。

フィリップ・プチがノートルダムの鐘楼の間を綱渡りするより遥か前、Diable Blancは別の聖堂で同じことをやっていました。
エルニー自身、高さ30メートルの棒の上でショウをやったり、10メートル以上の綱の上を、命綱なしで、自転車の上にまた自転車、トライアングルという技をやったり…

まさに、生きるサーカスの証しのような人々のアトリエでした。

 私たちはまず、このアトリエで作られ、フランス国立サーカス学校でも使用されている空中芸トラス(写真)を購入することにし、このトラスから学び、日本での器具制作の第一歩にすることにしました。
日本で考えつく、あらゆる種類の沢山の会社とコンタクトをとり話をした結果、この進め方が、今後パートナーシップを組むだろう日本の会社や職人さんにとって、最も受け入れられやすく、スムーズだとわかったからです。

この器具が日本についた段階で、フランスの専門家が組み立て、まず、地元の設営部隊に細かな説明と研修をしてもらいます。
設営部隊の育成の始まりです。

同時に、器具制作に携わる可能性のある会社の方にも見に来てもらいます。

第二段階では、ぜひエルニーに日本に来てほしい。
昨日、エネルギッシュすぎる彼の説明を4時間聞きながら、器具制作について学ぶには彼をおいて他にないと思い始めていました。

 フランスのサーカス関係者に言えば、一様に「うーん、彼は高いだろう!」
という。
もっと安く頼め人はいくらでもいるよ、と。

わかるけど、もちろんまだ、他の可能性を閉じることはないけれど、一番心を動かされたのは、どこまでも、考えても考えても足りないほど、アーティストと観客の、ひいてはサーカス自体のためを思う心。

 私たちが購入するトラスは6箇所固定です。なぜか?

普通の4箇所固定では、一本ワイヤーがやられたら、ひとたまりなく崩れます。

 設営にしても同じ。
横方向のワイヤーを利用して持ち上げることで、安全性、安定性が格段にあがります。
万が一、ビスを止め忘れても崩れ落ちないディテールなど。

 まさに、使うひとのことを寝ても起きても、考えている。

情熱。
それ以上に、訴えるものがあるでしょうか?

 伝説の「Diable Blanc」、そして制作技術の飽くなき探求者、エルニー。

日本に来てくれるんだろうか?と口に出す前にエルニーは大きな声で言いました。

 「一つだけ、絶対的な条件がある。妻と一緒じゃなきゃ、どこにも行かない。ノン、ノン、それだけは、譲ることは考えられないね!」

もちろん、来る時は、一緒に来てもらいたいですよ。

 若いころ、綱の上のエルニーの自転車を、後ろから押し出す役だったという、リリ。

 サーカスは、やっぱり、あらゆることにストーリーがあるんだな。

エルニーと田中未知子